EUの廃棄物処理

作成:野瀬光弘(5月25日)


●ドイツ

1.廃棄物に関する法律の流れ

(1)循環経済・廃棄物方制定以前の状況

①廃棄物除去法(1972年制定)

 昭和40年代には急速な経済発展のもとで廃棄物が急増するとともに、有害廃棄物の不法投棄が各地で深刻な社会問題となっていた。それまで廃棄物処理の施策はすべて州に権限があり、州ごとに異なった廃棄物処理システムが作られていたが、州によっては埋立地不足や廃棄物による汚染が深刻な環境問題となっていた。こうして、連邦として廃棄物処理に関する法制度を整備する必要性が高まり、昭和46年に廃棄物除去法が連邦議会に提出され、47年に連邦法として初めて廃棄物除去法が制定された。


②廃棄物の回避及び管理法(1986年改正)

 昭和50年代になり、フランス沿いの国境に広がるシュバルツ・バルト(黒い森)における深刻な酸性雨による樹木の立ち枯れ等を契機に、国民の環境に対する関心が急速に高まり、焼却・埋立をベースとした従来の廃棄物処理に対する問題視が強まった。こうした世論を受けて、昭和60年にごみの発生抑制と再利用を盛り込んだ法律の改正案を連邦議会に提出し、61年に「廃棄物の回避及び管理法」として改正された。


(2)循環経済廃棄物法の制定

①経緯

 平成4年に連邦環境省は、現行法の改正案として「循環経済の促進及び廃棄物の環境に適合した処分の確保に関する法律」(循環経済廃棄物法)の草案を公表した。この草案では、循環型経済の構築を目的に汚染者(発生者)負担原則を採用し、「回避-素材的利用-エネルギー的利用-処分」という廃棄物処理の優先順位を明確に示した。

 主な要点は以下のとおりである。

・使用済製品廃棄物に対する生産者責任(生産物責任)の適用

・生産及び生産方式の開発段階における廃棄物の回避と利用

・素材利用(マテリアルリサイクル)をエネルギー利用に対し優先

 この草案は各界からの意見を考慮して何度か修正され、紆余曲折を経てようやく平成610月に公布、810月に施行された。


②廃棄物の定義

 循環経済廃棄物法の制定による最も重要な変化として廃棄物の定義があげられる。廃棄物除去法では「主観的な捨てる意志」を基準として定義していたのに対して、循環経済廃棄物法では「客観的に捨てなければならない」とする基準からも廃棄物を定義可能にした点が注目される。

 図1(省略に示したように、廃棄物は利用廃棄物と処分廃棄物に大きく分けられるが、以下の側面で重要な意味を持っている。

・廃棄物の発生者または占有者の廃棄物に対する責任のあり方が変化する。

・処分廃棄物となることで証明手続きの義務が生じる場合がある。

EUの近接原理によって処分廃棄物は処分場所が制限され、越境に規制がかかる。利用廃棄物についてはEU内では規制されない。

・国境をまたがる廃棄物の移動において、利用廃棄物と処分廃棄物では運搬に関する深刻手続きが異なる。


2.廃棄物データの管理

(1)手続の概要

 ドイツでは、循環経済廃棄物法の43条及び46条に従い、要特別管理廃棄物についてマニフェストの添付等、証明手続の適用が定められている。証明手続は事前証明とマニフェストによる事後監視証明の2つに分けられる。

①事前証明手続き

 要特別監視廃棄物または要監視廃棄物を排出する事業者が廃棄物の運搬・処理・処分における環境負荷の低減、環境汚染の防止を目的に、適切な処理・処分ルートを確保するために実施する。事業者は定型の書類に必要事項を記入して管轄当局に提出し、承認を得なければならない。管轄当局の審査は30日以内に結果を通知しなければならず、この期限に遅れた場合は自動的に承認されたとみなされる。


②事後監視手続き

 マニフェスト管理システムのことで、事前の証明手続で確保されたルート通りに廃棄物が運搬され、適正に処理されたかを監視するために行われる。州の監視当局はマニフェストの戻り票を事前証明手続きと照合し、一致しているかどうかを確認する。


(2)証明手続のシステム化

 事業者は、要特別監視廃棄物のマニフェスト票一式を発生するごとに0.77ユーロを州当局に支払う。図2(省略に示したように、要特別監視廃棄物の処理または処分を行った事業者は、州の廃棄物処理・処分施設監視当局にマニフェストを送付し、廃棄物処理・処分施設監視当局は排出業者にマニフェストを転送する。排出事業者は州の監視当局にマニフェストを転送することで流れは完結する。

 バイエルン州を除く15州では、共同でマニフェスト情報を共有する情報システムを開発し、試験的に運用している。このシステムによって、州を超えた要特別監視廃棄物の移動を監視することが可能となる。なお、マニフェストに関する詳細な情報はホームページに掲載されている


(3)電子マニフェスト管理システム

 情報システムは導入されているものの、紙ベースのマニフェストを利用していることには変わりはない。そこで、ノルトラインヴェストファーレン州が中心になって、マニフェストを電子化し、ペーパーレスで廃棄物管理を行う新たな情報システムを開発する動きがある。情報システムはEUDINと名付けられ、平成13年に同州の大手企業が参加して試験的に実施された。その後、ベルギー、オランダ、オーストリアからもプロジェクトに参加する州が加わった。

 EUDIN導入によるメリットは以下のとおりとされる。

①行政機関及び廃棄物管理費用の削減

②行政機関及び事業者にとって必要勝適切なデータの検索利用が可能

③マニフェストの転送ミスの削減

④データ上における廃棄物の消失がない


 図
3(省略のように、情報システムはEDIFACT(金融・通商・貿易のための国際的な電子データ交換の標準)とXML(インターネット対応の構造化文書データの記述言語で必要な文書の一部を厳密な取り決めの下で簡潔に加工する等の利便性がある)をベースに開発された。新たにシステムを導入する事業者だけではなく、すでに社内で廃棄物管理システムを構築している事業者には、開発されたデータ・コンバータが無料で配布される。このイターフェースによって既存のシステムを作りかえることなくマニフェストに参加できる。


3.廃棄物関連のデータ

(1)排出量

 ドイツでは、廃棄物の総量と内訳は大きく4つに分けて経年的な推移がホームページに公開されていた。平成1215年にかけて総量は少しずつ減っており、主に建設・解体廃棄物の寄与が大きい。


(2)処理

 都市ごみについて処理内訳をみると、平成1215年にかけて焼却は20%台前半でほぼ横ばいだった一方で、リサイクルは5158%へ増加、埋立2719%へと減少傾向を示した。日本に比べると、リサイクルの比率が圧倒的に高く、焼却が少ないという特徴がある。この背景には、平成5年に制定された「都市廃棄物処理のための技術規則(TASi)」の影響が考えられる。同規則では、平成17年以降は最終埋立処分前に、すべての廃棄物は熱処理を経て減容化、無害化されなければならず、未処理の都市ごみは埋立処分ができなくなる。そのため、廃棄物の処理におけるリサイクルの比率が高まってきたといえる。


●イギリスにおける都市廃棄物の処理


1.都市廃棄物の現状

(1)排出量

 イギリスは、平成13年時点での廃棄物産出量が44,020万トンと見積もられている。地方自治体またはその廃棄物に関連した機能を代行する業者が管理する廃棄物を都市廃棄物といい、その大部分(イングランドで89%)は、家庭廃棄物であるが、その他に街路、公園又は公共の庭園、地方自治体の事務所、そして地方自治体とゴミ回収の協定を結んだ一部の店舗及び小規模な工業団地から生じた廃棄物等が含まれる。

 イギリス全体における都市廃棄物の総量は、平成15年の時点で3,500万トン、うち3,100万トンが家庭廃棄物である。平成32年には、都市廃棄物の排出量は2倍に増加し、その処理にさらに16億ポンドの支出が必要とされることが予想されている。その原因としては、家計所得の向上、生活スタイルの変化、包装された商品の増加等の経済的、社会的要因があげられている。


(2)処理の内訳

 平成8/9年から15/16年にかけて少しずつ都市廃棄物の総量は増えているが、処理の中では埋立が圧倒的に大きい。80%以上を占めていた埋立は次第に減少し、平成15/16年には72%まで低下した。代わりにリサイクルの比率は7%から19%にまで高まっている。なお、焼却は平成8/9年の時点ではエネルギー回収なしが比較的多かったが、15/16年にはほとんどなくなっている。同時に、約15万トンほど実績のあったRDFもわずか1万トン程度にまで少なくなっている。


2.地方自治体による廃棄物処理制度

(1)現行制度枠組みの確立-昭和49年公害規制法

 現行制度の枠組みが決まったのは、昭和49年公害規制法(Control of Pollution Act)である。同法は6109条附則2から成る法律で、第1部(第1条~第30条)「陸上廃棄物」が廃棄物に関する規定に当てられている。主な規定は、以下のとおりである。

①家庭廃棄物、商業廃棄物、産業廃棄物を管理廃棄物に指定する。

②カウンティは処理当局として、管理廃棄物の処理計画の準備を行う。

③家庭廃棄物はディストリクトが収集当局として無料で収集する。

④商業廃棄物及び産業廃棄物に関しては、廃棄物収集の要請に応じて、収集当局が有料で収集する。ただし課金が不適当な一部の商業廃棄物は例外とする。

⑤収集当局の収集した廃棄物の処理は、処理当局の責任とする。

 昭和49年法の規定では、処理当局は廃棄物処理を実際に担当する一方で、主に商業廃棄物、産業廃棄物及び特殊廃棄物の処理に当たる民間の廃棄物処理業者に対し許可を出す立場にあり、民間業界からは民間に対してのみ厳しい規則を適用する不公平な二重制度を生み出しているとの批判があった。処理当局が、欧州共同体の「廃棄物に関する理事会指令75/442/EEC」により、特定地域における廃棄物処理の管理にあたる機関に義務づけられた、廃棄物処理のための計画書の提出義務を遵守している例は少なかった。


(2)現行制度枠組みの大幅修正-
1990年環境保護法、1995年環境法及び「廃棄物枠組指令」

 廃棄物処理制度は、平成6年に施行された平成2年環境保護法(Environmental Protection Act)によって大きく改正された。平成2年法は9164条附則16からなり、第2部「陸上廃棄物」第29条~第78条が廃棄物処理の規定に当てられている。これによって昭和49年法の第1部はほとんど廃止された。

 主な規定は以下のとおりとなっている。

①カウンティを規制当局とする。

②規制当局は、従来の廃棄物処理許可に代わって廃棄物管理許可を発行し、許可を持たない者による廃棄物の一時保存、処置、処理を禁止する。

③廃棄物管理許可を発行するに際しては、発行の提案を健康安全局及び河川庁に付託し、特に河川庁の判断を重視するものとする。

④土地・施設において業務を行う許可保持者が、当該許可を返還するにあたっては、規制当局は当該土地・施設の検査を行い、許可保持者に資料提出を求めることができ、環境汚染または人体への悪影響があると判断した場合、返還を拒否することができる。

⑤廃棄物処理業務を直営している処理当局は、地方自治体廃棄物処理会社を設置し、廃棄物処理の直接業務を担当させる。以後、処理当局は上記の会社を含む廃棄物処理契約の相手を通じてのみ、管轄地域内の管理廃棄物の処理を手配する。

⑥規制当局は所管地域における廃棄物処理の計画を策定する。

 この法律により、都市廃棄物の処理理に関して、計画策定、規制、収集は地方自治体が担当し続けることとなったが、実際の都市廃棄物処理業務は自治体の直営から離れ、民営化が促進される結果となった。


 平成
7719日、環境法(Environment Act)が成立し、廃棄物処理に関する規定はさらに改正されることになった。平成7年法は、5125条附則24から成る法律で、廃棄物管理に関しては、以下の規定を盛り込んでいる。

①規制当局の機能は、それぞれの所管地域におけるカウンティから両庁に移管される。

②イングランド及びウェールズにおいては国務大臣、スコットランドにおいてはスコットランド環境保護庁が、それぞれの所管地域における廃棄物の回収及び処理に関する戦略を策定する。

 その結果、全国的に統一された許可制度の利点が認められる一方で、規制権限の縮小により地方自治体レベルでの対応ができなくなったことへの批判もある。


3.地方自治体による廃棄物処理実務

(1)埋立

 平成15/16年度においてイギリスは、都市廃棄物の72%を埋立、19%をリサイクルまたはコンポストし、9%を焼却しているが、平成11年に比べるとリサイクルが増えた代わりに埋立の比率が減っている。人口が集中したイングランド南東部では、農地及び緑地帯を確保する必要もあって埋立地が不足し始めており、リサイクル等による資源の再利用も進展せず、また紙及び食品といったBMW が嫌気性分解を遂げる過程で発生するメタンの約70%が空気中に排出されていることが明らかになった。


(2)埋立からの脱却-埋立税

①埋立税の導入

 平成8年財政法(Finance Act 1996 c.8)第3部(第39条~第71条)及び同法を受けて制定された「埋立税規則(The Landfill Tax Regulations 1996)」(Statutory Instrument)によって施行された埋立税である。これは、埋立地で廃棄物処理を行う者(landfill site operator以下「埋立業者」)に対し、廃棄物量により税金を課すというものである。

 法律導入当初の課税額は、活性廃棄物については導入時において1トンにつき7ポンド、不活性廃棄物については1トンにつき2ポンドであったが、前者の額は漸次引き上げられ、平成15年財政法(Finance Act)の規定に基づき、平成174月現在は18ポンドとされているが、今後3ポンドずつ35ポンドまで引き上げる方針である。平成13/14年度における埋立税の徴収額は5210万ポンド(約913億円)、控除額は1億2470万ポンド(約226億円)であった。


②埋立税の問題点

 埋立税を逃れるための不法投棄が多発し、また税額控除の対象として登録されている団体の多くが、実際には廃棄物処理業者により設置され、その寄付の用途が不明瞭なこと、寄付金(約35,000万ポンド)の配分を決める管理機能を委任されたエントラスト社が、廃棄物処理業界の重役やコンサルタントによって運営されており、その適性が疑われていることなどが指摘されている。

 課税率の上昇は不法投棄を増やす結果になるだろうと予測されており、実際にイギリスからの不法な都市廃棄物輸出は増えつつある


参考文献・ホームページ
(1)田中勝(1996)日米欧の産業廃棄物処理.ぎょうせい,324p

(2)社会経済生産性本部(2002)循環型経済構築に係る内外制度及び経済への影響に関する調査報告書.219p

(3)http://www.asysnet.de/index.php?sp=1&id=1(アジスのホームページ…ドイツ語のみ)

(4)http://www.destatis.de/basis/e/umw/umwtab1.htm(ドイツ連邦統計局のホームページ)

(5)岡久慶(2004)イギリスにおける都市廃棄物埋立からの脱却-2003年廃棄物及び排出権取引法.外国の立法21967-104

(6)http://www.defra.gov.uk/environment/waste/index.htm(イギリス環境・食料・農村地域省)

(7)http://www.eco-online.org/contents/news_world/2005/0425w.shtml(エコロジーオンライン・エコニュース)

最終更新:2006年05月25日 18:23