持続可能な社会

作成:野瀬光弘(5月19日)


 「持続可能な」といった場合、環境、経済、社会、文化という
4つの要素があると考えられている。環境とは資源・エネルギーのことを示し、バイオマスのような循環可能な利用が望ましいといえる。経済は地域における活性化やその循環的な仕組みを示す。社会とは医療や教育といった人間の再生産を担う仕組みのことであり、文化とは地域で受け継がれてきた伝統的な行事のことで、いずれもその持続性が問われている。


1.議論の背景

 持続可能な社会に関する議論は主に環境分野で進んできた経緯がある。昭和47年、ローマクラブが発表した『成長の限界』と題した研究レポートは、「成長一辺倒の世界はやがて破局を迎える」と警告を発し、大量生産、大量消費のライフスタイルに猛進していた欧米諸国に衝撃を与えた(図1・・・省略)。同レポートは、世界人口、工業化、汚染、食糧生産、資源の消耗などの点で、成長が不変のまま続けば、今後100年の間に地球上での成長は限界に達し、その結果、最も起こる見込みの強い結末は、人口と工業力の、突然の制御不可能な減退である、と世界中の人々に警鐘を鳴らした。

 同じ昭和476月には、ストックホルム(スウェーデン)で「かけがえのない地球」をテーマに「国連人間環境会議」が開かれた。会議では、26項目の原則からなる「人間環境宣言」および109の勧告からなる「世界環境行動計画」が宣言された。「人間環境宣言」の前文では、共通の信念として、天然資源の保護、再生可能な資源を生み出す地球の能力の維持と回復・向上、野生生物とその生息地の保護、有害物質の排出等の停止、海洋保全の徹底、生活条件の向上、途上国の環境保護支援、都市計画上の配慮、環境教育、環境技術の研究と開発等を列挙している

 さらに、同じ年にはユネスコ総会での「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)採択(11月)や「国連環境計画」設立(12月)が続いた。その後も、昭和50年に「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」、昭和52年に「国連砂漠化防止条約」、昭和60年に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が採択された


2.持続可能な発展論

 日本の提案により、昭和59年に「環境と開発に関する世界委員会」が国連の中に設置された。この委員会は、委員長を務めた元ノルウェー首相の名前をとって、「ブルントラント委員会とも呼ばれ、設置以来、世界各国で会合を催して討議を重ねた。昭和62年には委員会報告書「われら共有の未来」が発表された。ここでいう持続可能な発展とは「将来世代の要求を満たしつつ、現在の世代を満足させるような発展」と定義している。

 鍵となる2つの概念として、「技術・社会的組織の状態によって規定され、現在および将来世代の欲求を満たせるだけの環境の能力の限界」と「最優先されるべき世界の貧困層の不可欠なニーズ」を言及している。前者は、地球の自然資源を将来の世代のために保全する発展、地球の収容能力を超えない発展、すなわち、世代間の公平性を重視する概念といえる。後者は、南北、都市と農村間の公平、すなわち同時代の異なる地域間の公平を重視する概念であると解釈されている

 報告書には、持続可能な発展の概念から将来される環境と開発の政策にとって不可欠な課題として以下の点が論じられている。

①成長の回復

 持続可能な発展を実現するには、最も基本的な欲求すら満たされない貧困状態の中で生活している膨大な人々の問題に取り組まなければならない。貧困の改善に効果のある最小限の成長率を確保するため、第三世界の成長を回復させることが重要である。


②成長の質の変更

 持続的な発展を行うには、成長の内容を変えて省資源、省エネルギー型にするとともに、それによって得られる利益を公平に分配しなければならない。


③基本的な人間の欲求の満足

 人間の欲求と願望を満たすことは生産活動の目標であり、持続的な発展の概念においてもそれが中心的役割を果たしている。雇用機会の確保とともに栄養失調状態の解消が基本的な欲求といえる。


④人口の伸びの持続的レベルでの確保

 自然生態系の生産能力に見合ったレベルで人口が安定すれば、持続可能な発展はより容易に追求できる。


⑤資源基盤の保護と強化

 工業国の高い消費レベルを改め、途上国の消費量を増加させて最低限の生活水準を保ち、予想される人口増加に対処する。


⑥技術の方向転換

 途上国の技術革新能力を高めれば、途上国は持続的な発展に向けて効果的な挑戦を行うことができる。加えて環境的要素に配慮した技術開発に方向を変えることが重要となる。


⑦環境と経済を考慮に入れた意志決定

 持続的な発展のための戦略を通しての共通テーマは、経済と環境を考慮に入れた意志決定の必要性である。この2つを統合するためには、あらゆるレベルでの取り組みと目的を改め、制度的な枠組みを変更することが求められる。


参考文献・ホームページ
(1)内藤正明・加藤三郎(1998)岩波講座地球環境学10 持続可能な社会システム.岩波書店,228p
(2)日本地域社会研究所(2004)サスティナブル経営―みんなが生き続けるシステムと戦略―.コミュニティ・ブックス,332p
(3)深井慈子(2005)持続可能な世界論.ナカニシヤ出版,285p
最終更新:2006年05月19日 18:40