PCB処理技術
作成:野瀬光弘(5月18日)
ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、絶縁性、不燃性に優れており、高圧トランスや高圧コンデンサなど幅広く使用されてきたが、昭和43年に発生したカネミ油症事件等をきっかけに生体・環境への影響が明らかになり、昭和47年に製造が中止された(表1)。しかし、保管が長期にわたっているため紛失などによる環境汚染が懸念されている。
こうした状況を受けて、「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(以下、PCB特別措置法とする)が平成13年7月15日に施行され、PCB廃棄物を保管する事業者は15年以内(平成28年まで)に適正に処理することが義務づけられた。
表1 PCB問題の経緯
年 |
出来事等 |
昭和4 |
米国スワン社(後にモンサント社に合併)生産開始 |
昭和29 |
国内生産開始(鐘渕化学工業) |
昭和43 |
カネミ油症事件発生によりPCBの毒性が社会問題化 |
昭和49 |
「化学物質の審査及び製造に関する法律」の交付・施行。PCBの製造、輸入、使用の原則禁止 |
昭和62~平成元 |
鐘渕化学工業高砂事業所において液状PCB約5,500トンを高温焼却 |
平成4 |
廃棄物処理法により特別管理廃棄物に指定 |
平成13 |
POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)が調印 PCB特別措置法公布・施行(保管の届出、処理の義務化等) |
資料:愛知県環境部ホームページを一部改変。
図1(省略)に示したように、PCBはベンゼン環が2つつながったビフェニル骨格の水素(H)が塩素(Cl)で置換されたものの総称である。置換塩素の数と位置によって計算上は209種の異性体が存在する。
PCBは工業原料として以下の特性を持っている。
①不燃性で加熱・冷却しても性質が変わらない
②絶縁性、電気的特性に優れている
③化学的に安定で、酸・アルカリに侵されない
④水に溶けないが有機溶媒によく溶ける
⑤粘着性に優れている
このうち③の安定性や脂肪への溶解性は、いつまでも環境中に残留し、④の脂溶性のため水中のプランクトンなどの微生物に取り込まれ、食物連鎖により生体濃縮されていく。表2に示したように、PCBには様々な毒性があり、皮膚障害や内臓障害、ホルモン異常などを起こします。人体への影響としては、ダイオキシン類と同様に「塩素ざそう」と呼ばれるニキビ様の吹き出し物、色素沈着と呼ばれる皮膚や粘膜の色の変化、手足のしびれ、黄疸、月経異常などのホルモン異常などがある。
PCB特別措置法に基づいて、PCB廃棄物を保管する事業者から都道府県等に対して届出された、平成16年3月31日現在の保管・使用状況は下記の表に示した。
表2 PCB廃棄物の保管状況
廃棄物の種類 |
保管事業所数 |
保管量 |
高圧トランス |
2,688 |
18,687台 |
高圧コンデンサ |
45,533 |
250,739台 |
低圧トランス |
427 |
35,949台 |
低圧コンデンサ |
3,520 |
1,836,705台 |
柱上トランス |
153 |
2,146,581台 |
安定器 |
12,358 |
5,551,983個 |
PCB |
206 |
53トン |
PCBを含む油 |
1,060 |
176,489トン |
感圧複写紙 |
416 |
668トン |
ウエス |
886 |
225トン |
汚泥 |
179 |
15,411トン |
その他の機器等 |
1,819 |
114,915台 |
資料:環境省のホームページ
表3 PCB使用製品の使用状況
製品の種類 |
使用事業所数 |
使用量 |
高圧トランス |
943 |
3,449台 |
高圧コンデンサ |
8,167 |
27,983台 |
低圧トランス |
84 |
2,679台 |
低圧コンデンサ |
284 |
40,097台 |
柱上トランス |
7 |
1,764,699台 |
安定器 |
1,828 |
485,261個 |
PCB |
20 |
48kg |
PCBを含む油 |
16 |
165kg |
その他の機器等 |
520 |
3,708台 |
資料:環境省のホームページ
平成15年に定められたポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画では、高圧トランス、柱上トランス、高圧コンデンサ等はPCB特別措置法に基づいて定められたの処理期限である平成28年7月までの発生量、保管量、処分量並びに中間の年度である平成20年度末までの処理量を見込んでいる。
廃PCB等の処理技術は廃棄物処理法において以下の方法が定められている。
PCBとアルカリ剤等を50~320℃、常圧で混合し、化学反応によりPCBの塩素を水素と置換してビフェニル等に分解される(図2・・・省略)。