表1 アスベストの主な用途
セメント製品 |
平板、波板、パイプ |
屋根材および下見板 |
石綿ボード |
摩擦材 |
ブレーキライニング、クラッチフェイシング、エレベータや列車の制動部分 |
耐熱性製品 |
ボイラー被覆、ジョイトシート、パッキング |
電気絶縁、保温、耐酸製品 |
石綿紙、フェルト、保温板、タイル |
紡織製品 |
石綿糸、石綿布 |
その他 |
プラスチック強化材、ストーブの芯 |
アスベストは鉱物の一種で、有毒な成分が含まれているわけではなく、通常の石や土と変わらない。完全に固定化された状態で使用することができれば、アスベストはたいへん有益な性質を持つ物質といえる。しかし、アスベスト製品製造工場や、アスベストを使用している建築物等を、解体、改造または補修し、アスベスト繊維が飛散した場合、健康に深刻な問題が起こる。飛散したアスベスト繊維は目に見えないくらい細い繊維のため、気付かず体内に吸い込んでしまう可能性があり、吸い込まれたアスベスト繊維は肺の中に入り組織に刺さる。そのことが原因となり、石綿肺、肺がん、中皮腫などを発症する恐れがある。これらの病気の特徴は20~40年前後の潜伏期があり、この間検査をしても所見がないので、自分でも覚えていないくらい小さな子どもの頃にアスベストを吸入し、大人になってから発症することもある。表2にはアスベストによって引き起こされる主な病気を示した。
表2 アスベストによる病気
病名 |
症状等 |
悪性中皮種 |
・肺や心臓を取り囲む胸膜や心膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜に発生する悪性の腫瘍 ・非常に進行が早く、7割は診断されてから2年以内に亡くなる ・曝露から多くは20~50年後に発症 |
肺がん |
・肺胞内に取り込まれたアスベスト繊維の物理的刺激により発症する ・曝露から多くは15~40年後に発症 ・曝露と喫煙の両者がそろえば発症リスクが相乗的に高くなる |
アスベスト肺 |
・吸入されたアスベストが細気管支や肺胞に刺激を与え、炎症を起し、次第に肺胞の線維化を来たし、肺機能障害を起こす ・職業上アスベスト粉じんを通例10 年以上吸入した労働者に起こる ・高濃度のアスベスト飛散環境(吹付けアスベスト除去、石綿紡績業等)でのリスクであり一般環境下での発症例の報告はない |
なお、日本では、最初のアスベスト肺のケースは昭和12年に、アスベスト曝露による肺がんは35年に、中皮腫は48年に報告されている。それ以来、アスベスト関連疾患は、アスベスト製品製造工場だけでなく、造船、港湾、自動車製品工場、建設現場その他において報告されている。
表3 アスベストへの制度的対策
名称 |
内容 |
石綿障害予防規則 |
・アスベスト取扱作業において、アスベストに関する専門的な技能講習を修了した作業主任者の設置を義務付ける ・技能講習の実施による作業主任者の確保に努める |
大気汚染防止法 |
・規制の対象となる建築物の規模要件の撤廃等 ・アスベストを使用しているプラント等の工作物についても、解体等の作業に伴う規制の対象に追加 |
廃棄物処理法 |
・高度な技術により無害化処理を行う者について環境大臣が認定する制度を新設する ・アスベスト廃棄物処理施設(溶融施設、破砕施設等)を所得税・法人税の特別償却の対象施設として追加する |
労働基準法 |
・業務上疾病と認定(労災で治療可能) |
資料:首相官邸「アスベスト問題に係る総合対策」
アスベストが長期にわたり使用されてきた結果、多数の健康被害が発生してきている一方で、その健康被害は20年から40年という長い潜伏期間の後に表面化してくるものであり、アスベストと健康被害の因果関係が特定し難いという特殊性がある。そのような特殊性によりアスベストによる健康被害者であって労災補償による救済の対象とならない人を対象としている。事業者、国及び地方公共団体が費用を負担し、アスベストによる健康被害を受けた者及びその遺族に対して、医療費等を支給するための措置を講ずることにより救済するため、「石綿による健康被害の救済に関する法律」が成立、平成18年3月27日に施行された。法律の概要は下記の表4に示した。
表4 石綿による健康被害の救済に関する法律概要
区分 |
内容 |
受給者要件 |
石綿の吸入により指定疾病にかかった旨の認定を受けたもので、認定は受給者の自己申請により、(独)環境再生保全機構(以下機構)が実施。 |
対象となる疾病 |
中皮腫,気管支又は肺のガン,石綿に起因する指定疾病 |
救済給付の種類 |
・医療費(自己負担分) ・療養手当 ・葬祭料 ・救済給付調整金 ・本法の施行前に指定疾病に起因して死亡した者の遺族に対する特別遺族弔慰金、特別葬祭料 |
財源 |
救済給付の費用に充てるため、機構に「石綿健康被害救済基金」を設置 ●国 ・平成17年度補正予算により基金に拠出 ・基金創設時の事務費の全額及び平成19年度以降は事務費の1/2を負担 ●地方公共団体 ・国の基金への費用負担の1/4に相当する金額を平成18年度以降一定期間で基金に拠出 ●事業者 ①全事業者労働保険徴収システムを活用し徴収 ②石綿との関連が深い事業者から追加費用を徴収 |
特別遺族給付金の支給制度 |
石綿により発症する疾病、その他厚生労働省令で定める疾病により死亡した労働者等の遺族であって、時効により労災保険法に基づく遺族補償給付の支給を受ける権利が消滅した者が受給対象 |
資料:環境省のホームページ
経済産業省の調査によると、平成17年7月の時点で、アスベスト含有製品の製造企業など89社では健康被害により亡くなった従業員等は374人(中皮腫114人、じん肺154人など)、現在療養中の従業員等は88人で、合計462人となった。こうした被害状況を受けて、「石綿による健康被害の救済に関する法律」とは別に補償に乗り出した企業がある。
①株式会社クボタ
石綿含有製品を製造してきた企業としての社会的責任を明確にするという観点より、これまでのアスベスト製品の取扱状況を公表すること、アスベストによる健康被害を受けている従業員が93人いること、旧神崎工場周辺に居住していた3人の中皮腫患者に対し、見舞金を支払うことを決定し、今後発症される患者にも対応していくことなどを平成18年4月に発表した。表には支払金額と支払対象が示されており、規程の円滑な運用をはかるため「救済金運営協議会」を設置し、その運営方法について「救済金運営協議会運営要領」を定めた。
表5 旧神崎工場周辺の石綿疾病患者並びにご家族の皆様に対する救済金支払い規程
区分 |
内容 |
支払金額 |
最高額4,600万円、最低額2,500万円 |
支払対象 |
原則として、①~③の条件をすべて満たす者 ①法律による認定 下記いずれかに該当する者 ・「石綿による健康被害の救済に関する法律」によって指定疾病にかかった旨の認定を受けた者 ・同法の特別遺族弔慰金及び特別葬祭料の支給対象となられた方 ②職業歴 職業歴で過去に石綿を取り扱ったことがない者 ③距離と期間 下記いずれかに該当する者 ・旧神崎工場が石綿を使用していた昭和29年~平成7年の間に、原則として、同工場から1km以内の範囲に1年以上居住していた方 ・上記に該当しないが、昭和29年~平成7年の間に、原則として、同工場から1km以内の範囲に所在する職場、学校等に恒常的(1年以上の期間)に生活拠点を持っていた者 |
資料:株式会社クボタのホームページ
②ニチアス株式会社
特定化学物質等障害予防規則が制定された昭和47年以降は法令順守とともに、より厳しい自主基準を設定して、アスベストを管理してきた。また、工場境界線のアスベスト粉じん濃度は、平成元年に定められた大気汚染防止法の基準を、制定時以降大きく下回っていたことなどを述べている。工場におけるアスベスト疾患死亡者数61人おり、死亡者やアスベスト疾患を持って退職した者に、社内規程に基づき補償を行っている。また、工場周辺住民のアスベスト健康障害者およびその遺族に対して、1,500~3,000万円の救済金支払いを決めた。
アスベスト廃棄物の処理では、分別、飛散防止、表示が大きなポイントとなる。保管にあたっては、梱包等の飛散防止措置を講じ、容器には廃石綿等が入っていることを表示し、保管場所には、周囲に囲いを設け、廃石綿等の保管場所であることなどを表示した掲示板を設置する必要がある。
収集運搬ではアスベスト廃棄物を入れたプラスチック袋等の破損がないよう慎重に取り扱うとともに、飛散防止のために運搬車の荷台に覆いを覆うなどの措置が必要とされている。
飛散性アスベスト廃棄物(特別管理産業廃棄物)は中間処理では、溶融設備を用いておおむね1,500℃以上で溶融することにより無害化される。溶融された飛散性アスベストは、安定型産業廃棄物以外の廃棄物が混入、付着していなければ、安定型最終処分場での処分が可能となる。非飛散性アスベストは、通常の産業廃棄物に分類されるが、飛散を防止する理由から、破砕、切断等は禁止されている。ただし、運搬が原型のままでは著しく困難な場合、溶融処理を行うに当たり必要な場合、最終処分場における独自の受入れ条件(最大寸法等)に合致させる必要がある場合においては例外的に禁止対象から除かれる。
飛散性アスベスト廃棄物の最終処分に当たっては、飛散防止のため、耐水性の材料で二重梱包又は固形化を行ったうえで、管理型最終処分場内の一定の場所を定め、埋立処分する必要がある。