ガス化溶融炉
作成:野瀬光弘(5月16日)
ストーカー式、流動床式といった焼却炉では、空気を多く送り込むことによって、ごみを完全に燃焼させる方向で開発が進められてきた。これに対して、ごみをいったん還元状態で蒸し焼きにして燃焼ガスを発生させ、それを燃やす、ガス化溶融炉というタイプの焼却炉が最近多く開発され各地で導入されている。
従来からごみ焼却処理では廃棄物を減容化をしても重量ベースでは2割近い焼却残渣が残っていた。また、焼却残渣のうちの飛灰にはダイオキシン類や重金属類が比較的多く含まれていることから、特別管理一般廃棄物に指定されており、さらなる安定化・無害化が求められている。そこで、ダイオキシン対策として灰の溶融処理とスラグ化の実施が推奨されており、一般の焼却炉に灰溶融施設を付設するよりは、焼却プロセスの中で溶融処理ができるガス化溶融炉に注目が集まった。炉から排出されるものは、溶融スラグやメタルなどであり、基本的にすべてリサイクルが可能であるという点も、循環型社会をめざす方向性に合致しているという面もある。
各メーカーによって多様なガス化溶融炉が開発されており、エネルギー回収、資源回収の方法などに工夫が凝らされている。一方で、どのメーカーのものが優れているのか、一見してもわからない状況となっている。
わが国において開発・導入の進んでいるガス化溶融炉の方式は以下の4つに分類できる。
炉型シャフトの頂部から廃棄物、コークス、石灰石を投入する。図1(省略)に示したように、シャフト炉内は上部から乾燥帯、熱分解帯、燃焼、溶融帯に分かれており、頂部から投入された廃棄物は自重で下方へと沈んでいく。まず、廃棄物中の水分は、乾燥帯で炉内の熱により蒸気となって分離される。次に熱分解帯では廃棄物中の有機物は熱分解され、これによって生じた可燃性のガスは炉の上方から抜けていく。溶融帯では酸素が供給され、熱分解残さ中の固形炭素(チャー)が1,500℃程度の高温で燃焼される。これによってスラグとメタルは溶融され、炉底から排出される。
日本では新日鐵により製造され、昭和54年に岩手県に導入されて以来、一時期ブランクがあったものの、20年以上実用炉として稼働している。平成18年3月末時点で全国で24か所が稼働中、3か所が工事中となっている。
図2(省略)に示したように、廃棄物はまず破砕機にかけられ、150mm程度に細かく破砕される。細かくなった廃棄物は加熱管によって外部から熱を与えられた熱分解ドラムに投入され、450℃程度の温度で熱分解される。熱分解ドラムは熱を加えるとともにゆっくりと回転することでごみを撹拌する役割も担っている。ドラムは出口に向かって緩やかな傾斜がかけられており、ドラムの回転に伴い1~2時間の滞留時間を経て乾燥熱分解が行われる。ドラム内は酸素濃度が抑えられており、還元雰囲気の中で有機物はガス化される。ガス化された残さは金属類を回収し、チャーは熱分解ガスとともに溶融炉で高温燃焼し、底部からスラグを排出する。このときに、灰分を溶融するのに追加のエネルギーを必要としない。
通常の流動層焼却炉では流動層内で乾燥・ガス化・燃焼の段階を経て残存の可燃性ガスをさらにフリーボード部(再燃焼域)で完全に燃焼させる。流動層ガス化溶融炉では流動層を低酸素雰囲気に保ち、低い温度(600℃程度)にすることで、緩慢なガス化反応を起こさせ均質な可燃性ガスを発生させている。この熱分解に用いられる熱は廃棄物の部分燃焼によって得られた熱でまかなわれ、媒体である砂を通じて廃棄物に供給される。発生した可燃性ガスの大部分は溶融炉に送られ、二次燃焼室で同じく熱分解によって生じたタール分とチャーとともに、廃棄物中の無機分(灰分)を溶融する。このとき、溶融に追加的なエネルギーは必要としない。
もっとも多くのメーカーがこの方式を採用して開発を進めている。
ガス化溶融炉は多くの種類があるために、利点・問題点ともすべての型式の炉であてはまる話ではない。一般の焼却炉で燃焼した上で灰を溶融処理することに対して、次のようなメリットがある。
300~500℃の酸素希薄の還元雰囲気の中で熱分解を行うため、鉄などの金属を酸化していない状態で取り出すことができ、金属類の回収に対して有利である。
ガス化プロセス・燃焼プロセスを含めて空気比を小さくすることができるため、排ガスが従来に比べて少なくなり排ガス処理装置のコンパクト化をはかることができる。
ストーカ炉に比べて小型でも連続運転が可能となる。
灰溶融を併設する手法に比べて熱のロスが少ない。石炭や酸素ガスなどの投入が必要となるが、機種によっては、追加のエネルギー投入をせずに溶融が可能なように設計が行われているものもある。
一方で導入にあたって問題点もいくつか指摘されている。
高温で気化した飛灰が、排ガス処理に至る配管の途中で固化し、配管に付着してしまうことが問題とされている。取り除くために定期的にメンテナンスが必要となり、大きな費用負担が生じる点が指摘されている。
一般の焼却炉が最大900℃程度なのに対し、1,300℃近くの温度で処理が行われており、耐火物部分の補修の負担が大きくなっている。
高温で処理が行われているために、ボイラーの効率も高くできることが期待されていたが、設計上十分に回収ができていない。
理想的にはリサイクル可能な商品だとしても、溶融スラグ、セメント原料、焼成等による土木資材等の需要がわからない現状では、リサイクル可能とは言えない。
リサイクルの優先度から考えると、焼却処理はリユースやリサイクルできなかったものを安全に処理する最後の手法と位置づけられる。しかしガス化溶融炉では、燃焼ガスを発生する紙やプラスチックが含まれているほど望ましいこととなり、マテリアルリサイクル制度の推進に対して障害となる可能性もある。
④と⑤の問題は、焼却炉は自体で評価できるものではなく、社会システムの中での位置づけとして評価する必要があることを指摘している。
当初、新規技術であるために、複雑なごみに対応できるかわからないという不確定要素が大きいというデメリットがあったが、先進的に導入が行われた自治体や、多くの試験を積み重ねて、順次クリアされる方向にある。ただし、システム管理が複雑であり、また高温で運用するために損傷が激しいことから、コストはやや高めだと言われている。