ダイオキシン類対策


作成:野瀬光弘(5月16日)


1.特性

 ダイオキシンとは、ポリ塩化ジベンゾジオキシン(PCDD)の通称で、これにポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)を加えて「ダイオキシン類」と呼ばれている。その化学構造は、図1(省略に示したようにベンゼン環2つを酸素で結合したもので、異性体はベンゼン環についた塩素の位置及び数によってPCDD75種、PCDF135種存在する。このうち、2,3,7,8の位置に塩素が付いた四塩素化合物(2,3,7,8-TCDD)は最も毒性が高いことが知られている。ダイオキシン類は、熱、酸、アルカリ等に安定であり、生物による分解も非常に遅い。また、水への溶解性は低く、親油性を持っているので、一度生成すると安定して人体内への残留性が高い。

 かつてベトナム戦争では枯葉剤が散布され、不純物としてダイオキシンが含まれていたために先天性疾患を持つ子どもが多く生まれたと指摘されている。また、昭和51年にはイタリア・ミラノ近郊のセベソにある農薬工場で爆発事故が起こり、ダイオキシン類120kgが飛散したおかげで、周辺地域のニワトリ、ウサギ、ネコ等が死亡したり、奇形児の出生率が高くなったと報告されている。


2.毒性

 ダイオキシン類の毒性は、構造特異性の急性致死毒性、生物種による感受性の大きな差、催奇形性と発がん姓によって特徴づけられる。

①一般毒性

 急性毒性試験の結果から致死毒性は種差が非常に大きく現れることがわかっている。半数致死濃度は感受性の最も高い雄モルモットで600ngkg、感受性が最も低いとされる雌ハムスターで5,000,000ngkgで、毒性の発現は雌雄差があり、雌の方に毒性が強く現れる傾向がある。

 ヒトや実験動物に観察される兆候と症状には、体重減少、胸腺萎縮、肝臓代謝障害、心筋障害、性ホルモンや甲状腺ホルモン代謝並びにコレステロ-ル等脂質代謝への影響、皮膚症状として塩素ざそう(クロロアクネ…ウクライナのユーシェンコ大統領の顔に症状が出たとされる)、学習能力の低下をはじめ中枢神経症状などがある。


②発ガン性

 実験動物を使用した長期試験では、ラット、マウス、ハムスタ-などの動物で2,3,7,8-TCDDの発がん性が示されている。ラットとマウスの肝臓、肺と皮膚の二段階発がんモデルでは、ダイオキシン類の促進作用が認められています。この作用には上皮成長因子受容体及びエストロジェン受容体との相互作用の関与が示唆されている。

 ダイオキシン類の疫学デ-タは、職業暴露者や事故の被災者及びベトナム戦争の枯れ葉剤作戦の退役軍人に関する各種の調査がベースとなっている。その結果から、高濃度暴露を受けた人の集団において特に部位を特定せずに広範な部位にがんを発生させる可能性を持つ物質であることが示されている。しかし、これらの疫学デ-タにおける暴露の評価には不確実な点が多い。


③生殖毒性

 実験動物に対する2,3,7,8-TCDDの毒性は、母体よりも胚や胎児の段階で強く現れる。代表的な催奇形性としてマウスにおける口蓋裂、水腎症がある。ダイオキシン類は妊娠率の低下、出生仔の低体重及び姓周期に影響を与えるとされ、ラットを用いた3世代実験では、その影響は第0世代では、100ng/kg/日で、第1、第2世代では10ngkg/日でみられている。

 人による生殖・発生への影響の観察は、事故等によりダイオキシン類の暴露を受けた集団等で行われている。ダイオキシン類と同様の毒性を持つPCDFの影響を調べた台湾油症の研究によると、子どもの成長の遅延、行動上の問題、知力の不足等が認められており、また生殖機能への影響も報告されている。バックグランドレベルの暴露を受けている集団でも母乳中のダイオキシン類濃度と子どもの甲状腺ホルモンや免疫機能の異常との関連、ダイオキシン類の摂取量と低体重児との関連などが示唆されている。


3.排出量

 ダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)は、「ダイオキシン対策推進基本指針」と「ダイオキシン類対策特別措置法」に定められた「「我が国における事業活動に伴い排出されるダイオキシン類の量を削減するための計画」によって、毎年整備することとなっている。

 平成9年からの排出インベントリーの結果、以下の表1と図2(省略に示したように、年々減少しており、平成16年はピーク時の20分の1以下にまで至った。ダイオキシン類の排出量の削減目標は、平成176月に変更された「削減計画」によると、「平成22年において、平成15年の推計排出量に比して15%減の315343g-TEQとする」と定めている。

 表1 ダイオキシン類の排出総量の推移(g-TEQ

平成9

10

11

12

13

14

15

16

ダイオキシン類

7,6808,135

3,6954,151

2,8743,208

2,3942,528

1,8992,014

941

967

372400

341363

資料:環境省(2005


4.ダイオキシン類対策技術

 ダイオキシン類の排出場所は廃棄物焼却施設に集中していることから、以下では焼却炉周辺での対策技術を紹介する。

(1)焼却炉における生成抑制

①燃焼法

 大きさが不均一で不均質(特に発熱量)なごみを燃焼する場合、一定速度で炉に投入しても投入量ごとに局所的には燃焼状態は安定的ではない。そこで、投入前のごみのサイズ、ごみ質などを揃えると同時に、触媒物質となりやすい金属、例えばビニール電線、電気製品や金属製品、電池などを除くことも重要である。これらはごみの一次燃焼(主目的は殺菌、減容)を完全に行うことに効果があるが、一次燃焼で生じた灰と未燃炭素とで生成する。そこで発生した燃焼ガスを完全に燃焼させる、二次燃焼が重要となる。そのためには以下の「3T」が重要であるとされている。

1Temperature(炉内の燃焼ガス温度)

 燃焼温度が高いほどダイオキシンおよび前駆体を分解・無害化するのに有利であるため、炉内を850℃以上の高温に保つことが最も重要である。

2Time(発生ガスの炉内滞留時間)

 燃焼ガスは炉内の滞留時間が長いほど、ダイオキシンおよび前駆体を含んだガスは酸化されて、完全燃焼に近づくことになる(2秒以上の滞留時間が望ましい)。

3)Turbulence(炉内のガス攪拌)

 炉型と二次空気ノズルの活用により燃焼ガスの混合を十分行い、二次燃焼が不完全となる、ガスの偏流や局所的な低温域を作らないようにする。


②炉型式による対策

 焼却炉として従来から多くある炉型式としては火格子タイプで大型化の傾向にある。これは18時間あるいは16時間稼働する中・小型炉では、燃焼の立ち上げ、立ち下げ時にダイオキシンの発生する温度域を通ることから、ダイオキシンが発生しやすくなるため、炉を大型にし、24時間連続運転するためである。

 一方、中・小型炉で准連続式となる場合には流動床型炉が増えつつある。これは、立ち上げ、立ち下げ時に熱媒体である砂をごみの燃焼とは独立して加熱できるため、ダイオキシンの発生が抑制できる。

 また、これら既存の炉型式をもとに、炉から出た排ガス、灰を再び焼却炉に返して再燃焼させ、ダイオキシンを分解・無害化する、ダイオキシン対策特有の炉および燃焼法、あるいは炉内で乾留・ガス化する方法、灰の溶融まで燃焼を強める方法もある。これらを総合した新しい型式の炉として溶融ガス化炉も開発されている。


(2)排ガス中の有害成分除去

 ごみ焼却炉の排ガス温度は800900℃と高温であるので、そのままで集塵機に入ると壊れてしまう。そのため必ず冷却しなければならない。ところが、ダイオキシンは排ガス冷却過程の250600℃の温度域で再生成されやすい。焼却炉出口の廃熱ボイラー部や空気予熱器チューブは飛灰が堆積してダイオキシンが再生成する環境ができるため、煤塵が溜まりにくくすることが必要となる。

 焼却炉内で生成したダイオキシン前駆体は排ガス中に含まれ、300℃程度の冷却や集塵過程でダイオキシンが再合成される。しかし200℃以下であれば、再合成はほとんど起こらないことが知られている。

 ダイオキシンの沸点は400500℃、融点は150300℃程度であるため、排ガス温度が低温であるほどダイオキシンは微粒子ダストに付着した状態で存在しているとされている。したがって、ダイオキシンの除去には排ガスを約200℃まで急冷し、サブミクロン粒子を高効率で捕集できるバグフィルターが採用されている。

 ダイオキシン対策を考慮した新しい排ガス処理技術では以下の方式が提案されている。

①バグフィルターの入口で消石灰を吹き込み、ダイオキシン中の塩素をカルシウムと結合させ無害化する。

②活性炭を吹き込む、あるいは後段に活性コークス吸着塔を設け、吸着・除去する。

③触媒による分解。


(3)焼却灰の無害化処理

 灰は通常、埋立という形で最終処分されるが、中には重金属類やダイオキシン等が含まれるため、最終処分場における二次公害の防止対策を十分行わなければならない。さらに近年、全国的に最終処分場が逼迫していることから、焼却灰の減容率を高くすることが求められている。

 ダストは火格子下、廃熱ボイラー、ガス冷却室、空気予熱器、乾式有害ガス処理、集塵機から発生するが、このうち集塵機起源が最も多い。特に集塵機で捕集された煤塵(飛灰)は有害物質の濃度が高いため、特別管理一般廃棄物に指定されている。焼却灰の中間処理技術としては、従来からセメント固化、アスファルト固化、キレート固化が採用されているが、飛灰が特別管理一般廃棄物に指定されたことに伴い、焼結固化、溶融固化、薬剤処理、酸その他溶媒による安定化等が提案されている。このうち、焼結固化と溶融固化の方法は下記のとおりである。

①焼結固化法

 焼却灰を単独あるいはガラス質の添加剤を加えて造粒した後、ロータリーキルン等の焼結炉で融点以下あるいは液相を生ずる温度で処理し、焼き固める。

②溶融固化法

 焼却灰を融点以上の高温度に加熱して溶融状態とし、スラグとして回収する。

 灰それ自身は燃焼・発熱しないので補助熱源により高温に加熱し、溶融する。熱源別に分類すれば、以下の方式があげられる。

①燃料式:1)フィルム溶融炉、2)内部溶融炉、3)コークスベッド溶融炉

②電気式:1)電気アーク式、2)電気抵抗炉、3)プラズマ溶融炉

 焼却炉からの飛灰中には沸点の低い重金属や塩類が多量に含まれているため、それを高温で溶融処理した場合、その大部分はガス中に揮散する。溶融の際に発生する排ガスおよび排ガスに同伴されるダスト(二次飛灰)は、焼却炉の排ガス処理と同様にダイオキシン対策が必要となる。


参考文献・ホームページ

(1)http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/topic_inf/topic_daiokisin.html(横浜市衛生研究所)

(2)http://www.pref.okayama.jp/seikatsu/kanpo/dioxin.htm(岡山県環境保健センター)

(3)http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=6584(環境省「ダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)について」,平成171125日)

(4)http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/map/ippan14/frame.htm(特許庁「ダイオキシン類対策技術」)

最終更新:2006年05月16日 11:59