廃棄物会計
作成:野瀬光弘(5月15日)
廃棄物会計は、おもに市町村の廃棄物処理・リサイクル費用を具体的に把握するための仕組みで、可能な限り個々の品目ごとに、処理・リサイクル費用を比較可能な形で把握しようという点が特徴的である。旧来、廃棄物の処理費用は総額でしか把握されておらず、市民が排出したごみ1kg当たり、あるいはペットボトル1本当たりといった形で把握することはできなかった。こうした点を改善するために、平成14年から「容器包装リサイクル法の改正を求めるごみ研究会」が中心となって、廃棄物会計のフォーマットが作成されている。平成12年度から15年度にかけて毎年公表された報告書は、少しずつ改訂が加えられている。
納税者に説明責任を果たす意味で、ごみの処理やリサイクルに関する以下の2つの施策を契機に廃棄物会計が注目されるようになった。
一般廃棄物の排出量に応じて一般家庭や事業者にごみ処理手数料の一部を負担させる施策で、排出抑制や新規施設整備のための財源を確保する目的で「有料化」が導入される場合もある。ごみの有料化を行う自治体は、少なくとも詳細な廃棄物処理経費を公開するとともに、有料化による歳入の使途を明らかにして、市民の理解と協力を得るようにすることが求められる。
平成13年に公表された拡大生産者責任に関するOECDのガイダンス・マニュアルによると、「従来製品価格に含まれていなかった製品のライフサイクルにわたる環境コストを製品価格に反映させるための手段」と述べられている。従来、廃棄物処理費は市町村の税金でまかなってきたが、費用は製品価格に反映されていない。この点を是正して、「廃棄費用」が大きい製品は製品価格が高くなるようにしようというのが拡大生産者責任の本質といえる。
ここからはからは平成15年度の廃棄物会計マニュアルを用いて、ごみ処理・リサイクルに関するコスト計算の流れを紹介する。図1(省略)のように、ごみ処理・リサイクル事業費は決算書に示される。その中には、年度を超えて使用する設備や施設の購入費や建設費も含まれるが、これらは「費用」ではなく「資産」に置き換わるものとして除外し、代わりに減価償却費を算入する。その他の非貨幣項目としては、減価償却費を非貨幣項目として取り上げた。費用は直接費・間接費・減価償却費の3つに分け、ワークシートでは振り分けが困難な間接費を部門別に簡易に計算するため、「間接比率」が算定される。
決算書の清掃事業に関する事業費から、「間接費」「直接費」「設備投資」の3つの費用を抜き出す。ここでいう間接費は管理人件費や広報費など、直接費は作業員人件費、燃料代、補修費、委託費、組合負担金など、設備投資はにごみ処理施設の建設や、通常のメンテナンスとは異なる施設の基幹改造、車両の購入などとなっている。表1には全国都市清掃会議の「原価計算手引き」に基づいて費目の考え方を示した。
表1 費目の考え方(例)
費目 |
考え方 |
|
人件費 |
現業作業員人件費 |
各部門の直接費へ |
管理職員人件費 |
間接費へ |
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物件費(燃料費) |
収集車両燃料費 |
収集運搬部門の直接費へ |
処理施設燃料費 |
中間処理部門の直接費へ |
|
物件費(消耗品費) |
本庁舎での事務用消耗品費 |
間接費へ |
施設での事務用消耗品費 |
中間処理部門の直接費へ |
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施設補修・点検費等 |
通常の定期点検費 |
中間処理部門の直接費へ |
ダイオキシン対策工事等の基幹工事 |
資産として計上し、中間処理部門の減価償却費として算定 |
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施設解体費 |
耐用年数が終わって解体する場合は中間処理部門の直接費へ。移設の場合は資本的支出として減価償却の対象となります。 |
|
委託料や組合負担金 |
該当する部門の直接費へ。減価償却費は委託費等の中に含まれると考える。 |
資料:びん再使用ネットワーク(2005)
設備投資費も含め、以下の式を使って過去投資した資産の減価償却費を算出する。なお建設費・購入費総額には国庫補助金を含め、残存簿価は初期値として10%を使用する。
減価償却費=〔(建設費・購入費総額)×(100%-残存簿価割合%)〕/耐用年数
設備投資を除き、減価償却費を加えたごみ処理・資源化費用総額を計算するが、これらはすべてエクセルのワークシート上で進める。
香川県綾歌町では、事業者による拡大生産者責任を推進するためには、市町村によるごみ処理費用の負担を明らかにする必要があると考え、県職員の協力を得て廃棄物会計の作成に取り組んだ。以下では処理単価を推計した結果を紹介する。
平成14年度の綾歌町のごみ処理費用総額(施設整備費相当額を含む)は1億877万円で、人口1人当たりでは9,450万円、1トン当たりの単価では約4万8,000円を必要としている。なお、ごみの種類別にみると、総処理費用の半分以上が「可燃ごみ」処理費用で占められている。
ごみ処理費用を1トン当たりの単価でみると、最も高いのは県外への輸送費などを要する「電池」の約16万4,000円/トンで、比重が小さくてかさばる「ペットボトル」の約14万3,000円/トンが続いている。一方、処理単価の低いのは「新聞・広告」の約8,150円/トン、「雑誌」の約11,700円、「牛乳パック」の約18,400円/トンなどといった紙製の資源ごみが上位を占める。
柏市では、ごみの収集・処理経費を毎年算出し、ホームページに公開している。平成15年度は収集コスト16,672円/トン、処理コスト23,429円/トンにのぼる。処理コストのうちプラスチックは63,956円/トンと高く、全体の水準を押し上げている。廃棄物会計を適用した原価計算は下記の表2のようになる。
ごみに関してはすべて直営で、収集と中間処理を担当する部署が分かれているため、明確に原価が計算できる。資源化費については、人件費は市職員の経費で管理職は含まれていない。市の公表したコストと比べると、収集はやや高く、処理はやや低く見積もられている。
表2 ごみと資源物の原価計算
区分 |
合計(円) |
処理量(トン) |
円/トン |
円/人 |
ごみ収集費 |
1,161,279,172 |
62,343 |
18,627 |
3,546 |
中間処理費 |
1,728,167,494 |
85,195 |
20,285 |
5,276 |
資源化費 |
1,002,223,984 |
36,306 |
27,605 |
3,060 |
合計 |
3,891,670,650 |
139,516 |
27,894 |
11,882 |
資料:容器包装リサイクル法の改正を求めるごみ研究会(2003)
山形県では、廃棄物等の3R(リデュース、リユース、リサイクル)に積極的に取り組み、ゼロエミッション型の地域社会づくりを進め、環境への負荷の少ない循環型社会を構築することを目的に、「「山形県循環型社会形成推進計画~ごみゼロやまがた推進プラン~」を進めている。国では平成17~18年にかけて「市町村における一般廃棄物会計基準等検討調査」が行われており、市町村における廃棄物の処理に要する費用(収入・支出額)の実態を踏まえて、処理費用の算定方法などについて標準化を図るため、一般廃棄物処理会計基準が策定されようとしている。
こうした流れを受けて、県では市町村職員、専門家などから構成する研究会を設置して、実情にあった廃棄物会計の標準化とその普及方法等について検討を行い、標準的なマニュアルを作成し、県内全市町村での導入を図るとしている。