フェロシルト問題について


作成:足立將之(
126日)

修正:野瀬光弘(512日)


1.フェロシルトの概要

(1)フェロシルトとは

フェロシルトは、酸化チタン国内生産の50%近くを占めるトップメーカーである石原産業が開発した土壌埋戻材のことを示す。白色塗料や化粧品など幅広い用途がある酸化チタンの製造過程で出る副産物(汚泥)を処理して生産される。石膏、鉄で約6割を占め、チタン、マンガンなどのほかの重金属も含んでいる。赤茶色で見かけ上は粘土そっくりの形状をしている。


(2)産廃からリサイクル製品に

もともと酸化チタン製造時にできる廃液の絞りかすは、産業廃棄物として財団法人三重県環境保全事業団が運営する最終処分場に埋め立てていた。しかし、処分場費用がトン当たり8,400円かかり、さらに平成14年からは県がトン当たり1,000円の産廃税を課す計画が進められていた。石原産業はリストラや土地の切り売りなどで経営危機を切り抜けてきたが、最終処分品を減らし経費を削減することは大きな課題となっていた。

そこで、酸化チタン製造時にできる廃液の絞りかすを販売可能な商品として生産することに至った。その結果、従来アイアンクレイとして処分していた廃棄物は減少し、酸化チタンの製造コストも低減した。

なかでも土壌埋戻材はフェロシルトと命名して商標登録し、平成13年に販売を開始し、15年には三重県リサイクル製品利用推進条例に基づくリサイクル製品に認定された。表1に示した問題の経緯をみると、すでに平成15年にはフェロシルトに含まれる放射線量が問題になっており、174月には生産中止に追い込まれている。

 なお、石原産業は昭和4851年の間、フェロシルトの原料となった産業廃棄物のアイアンクレイ計約38万トンを三重県四日市市内に投棄していたことが四日市市の調査で明らかになった。投棄場所は水田跡地や池、砂利採取跡の海岸など、時期は有害物質を含む汚泥を管理型の最終処分場で処理するよう義務付けた昭和52年の廃棄物処理法改正前だが、市では土壌や水質の環境調査をする方針を打ち出した。


1 フェロシルト問題経緯

年月

事由

138

159

1612

174月中旬

1766

1769

171012

17115

17118

フェロシルトの販売開始

三重県がフェロシルトをリサイクル製品として認定

フェロシルトに含まれる放射線量が問題となる(住民からの指摘に基づく)

三重県が石原産業四日市工場に立入調査をするも、フェロシルトの放射線量に問題はなかった。

フェロシルトの生産中止

石原産業㈱から県へ認定の取り下げ願い提出(県は同日付けで受理6月し、認定製品リストから削除)

岐阜県が、「フェロシルト使用地で、土壌環境基準を超過する六価クロムが検出された」と発表

石原産業が、「三重県認定の方法とは違うやり方でフェロシルトを製造していた」ことを発表

三重県が、石原産業を「廃棄物処理法」違反の疑いで刑事告発

三重県警が、石原産業本社と四日市工場を家宅捜索

資料:杉本裕明(2005)を改変。


2.フェロシルトの有害性

(1)放射能

 チタン廃棄物であるフェロシルトにはチタン鉱石由来のウラン、トリウムが含まれており放射能を持っている。三重県、石原産業の調査によれば放射能のレベルは人体に影響が出るようなレベルではなく問題がないとしている。一方で、愛知県のダイオキシン・処分場問題愛知ネットワークという団体が大学に依頼した調査によればフェロシルトにはトリウムが通常のレベルとは桁違いのレベルで含まれている。1箇所に大量に使えば、法令で定められた年間の線量限度を超えてしまう場合もあるとしている。

 チタン廃棄物をリサイクル製品としてではなく産廃として処分する場合は、チタン鉱石問題に関する対応方針に基づき、放射線測定や搬送中の飛散防止等の注意が払われている。


(2)六価クロム

 平成175月末、岐阜県内の施工現場において埋め立てられたフェロシルトの中から発ガン性が高い物質である六価クロムが基準値を超え検出される箇所が発見された。当初石原産業は製品そのものの中に六価クロムはまったく含まれていないとしていたが、三重県が設置したフェロシルト問題検討委員会の要請に基づいて行なった試作試験の結果、環境基準の2倍が検出され、さらに原料の廃液に大量の六価クロムが含まれていることがわかった。フェロシルトに含まれる六価クロムは、以下の示すように本来の目的である製造工程自体が生成原因であることを解析している

①クロムやマンガンなどの含有

 チタン原料は主として海岸の砂鉄を含む鉱物が使われているが、産出場所によってクロムやマンガンの含量が異なり、チタン鉱物には本来クロムがクロム鉄鉱の形で微量(数十ppm~数千ppm)存在している。


②チタン原料の硫酸加熱抽出

 硫酸法では、チタン原料鉱石は粉砕され、約300℃に加熱された濃硫酸で抽出される。熱濃硫酸で抽出されたイルメナイトは、酸化チタンが硫酸塩となり、鉄成分は硫酸第一鉄となる。チタン鉱物にはマンガン酸化物も含まれる(~2%)が、この熱硫酸抽出工程で酸化力の強い過マンガン酸イオンが生成し、これがイルメナイト中の三価クロムを酸化して六価クロムを発生させる。


③廃硫酸の中和・酸化工程

 熱濃硫酸抽出の際の不溶解成分がアイアンクレーと呼ばれ、産業廃棄物として処分されている。一方、溶解成分にはチタンが溶解抽出され、同時に多量の鉄は硫酸第一鉄の形で抽出される。この抽出物は、冷却・静置によって析出・結晶化し、製品として利用される。その濾液は濃縮後、加水分解され、酸化チタンが分離回収される。その過程で排出される廃硫酸がフェロシルトの原料となる。廃硫酸は、炭酸カルシウム+酸素、または消石灰(水酸化カルシウム)+酸素によって中和・酸化される。この中和・酸化工程自体がイルメナイトに含まれるクロム鉄鉱の三価クロムを酸化し、六価クロムを生成する。


(3)地下水汚染の可能性

 チタン鉱石はウラン、トリウムという放射性物質だけではなく、フッ素化合物、鉛、砒素などの重金属を含み、フェロシルトにもそれらが含まれている。フェロシルトが大量投棄は地下水汚染につながる。また、トリウムによるラドンガスは水に溶けやすく、地下水に溶け出すことも考えられる。中和不十分で硫酸第一鉄や硫酸トリウムなどがフェロシルトに残っていると、水にとけ出す可能性がある。


3.リサイクル認定審査プロセスの検証

(1)リサイクル製品認定制度

 リサイクル製品の利用を図るなかで、リサイクル産業の育成を図り、資源循環型社会の構築に寄与することを目的に、平成13327日に「三重県リサイクル製品利用推進条例」が制定され、同年101日から施行されている。リサイクル製品認定制度は、知事が、リサイクル製品の生産等をし、またはしようとする者の申請に基づき、以下の認定基準のいずれにも適合していることについて認定できる。また、認定リサイクル製品の生産者に対しては、毎年、認定基準に適合していることを報告する義務が課されている。なお、県は、実施する工事または物品の調達にあたって、認定リサイクル製品を優先的に使用または購入することとしている。


(2)安全性に関する審査プロセスの検証

 石原産業によって作成された申請書は、認定審査の過程において六価クロムの生成の予見性を失わせるためにクロムそのものの存在を隠し、クロムに関して問題のない計量証明書を添付するなど、周到に準備して作成された悪質なものであると考えられる。この申請書をもとに行う認定審査においては、六価クロムの生成および製品中への混入を予見することは難しく、したがって、この申請書をもとに行われた認定審査に過失があったと断定することはできない。

 しかしながら、チタン鉱石中に不純物としてクロム等の留意すべき金属類が含有されていることは、化学技術者にとって予見可能と考えられ、審査段階でチタン鉱石中のクロム含有量に関する資料の提出を求めれば、フェロシルトの原材料である使用済み硫酸にクロムが含まれる可能性は認識できたものと思われる。また、申請書に添付された「フェロシルトQC工程図」の中和酸化工程のpH管理目標値(pH8.1±0.2)も併せて検討すれば、フェロシルト自体に六価クロムが含まれることの予見性はゼロではなかった。


(3)今後の安全性等の審査に関する提言

 フェロシルトによる汚染原因の究明や安全性に関する審査の検証結果を踏まえ、今後のリサイクル製品の認定に当たっては下記の事項に配慮することが望ましい。

①不正製造等の早期発見など申請書の厳格な審査を行うためには、製造工程や製造施設等の詳細図面を申請書に添付させ、立入検査時に実地確認を行う。

②リサイクル製品の多くは、そのままでは廃棄物として処分される原材料を再生資源として利用しているので、審査に当たっては製品の廃棄物該当性について、性状、品質管理、市場性等の観点からあらかじめ検討する。

③申請段階で既に製造され、または販売されている製品については、申請者に使用実績(製造量、販売方法、使用方法、苦情の有無等)の提出を求め、必要な場合には使用現場の実地調査を行う。

④リサイクル製品は、基本的には製造物責任の考え方に基づき製造業者等の責任のもとで製造・販売されるものであるが、製品認定を行う県としても、製造ロットごとの製品サンプルを一定期間自社保管させるなど製造者の責任が徹底されるような措置を検討する。

⑤製品の安全性に関する品質管理計画(認定後の製品分析調査)については、その多くが年1回程度土壌環境基準項目等に関する溶出試験を行うこととしているが、原材料の種類や成分割合の変動幅が大きいことが考えられる製品については、調査回数の増加も検討する。

⑥既認定製品(133品目)についても、原材料の種類や使用用途等を考慮した優先順位をつけて、県自らが安全性を再検証し、その結果を公表することにより、認定製品に対する県民の信頼性を確保する。


4.フェロシルトの回収状況(三重県内分)

 石原産業が三重県に提出した計画によると、三重県内の施工場所7か所における回収必要量が約36万トンであり、平成1711 月に桑名市長島町地区で回収作業を開始して以来、下記の表2に示したように、18415日までに約6.1万トンが回収されている。現在までに、桑名市長島地区及び四日市市山田地区は撤去が完了した。

 表2 フェロシルト回収状況

地区名

回収必要量

回収量

回収開始

回収完了

いなべ市藤原地区

105,968

0

いなべ市大安地区

6,880

2,141

18. 2. 9

桑名市長島地区

8,400

6,273

17.11.17

18.1.13

四日市市垂坂地区

75,151

11,987

18. 1.16

四日市市山田地区

21,564

31,954

17.12.12

18.4. 7

亀山市辺法寺地区

131,423

0

津市榊原地区

11,362

8,315

18. 1.24

小計

360,748

60,670

資料:三重県環境森林部


<参考文献・ホームページ>
(1)杉本裕明(2005)石原産業のフェロシルト、リサイクル製品が実は産廃.いんだすと20(12) 「フェロシルト」をウィキ内検索
最終更新:2006年05月12日 15:18