マニフェスト
作成:野瀬光弘(5月10日)
産業廃棄物管理票制度(通称マニフェスト制度)は、排出事業者が産業廃棄物の処分を委託するにあたって、産業廃棄物の種類・量・性状などの情報を処理業者に正確に伝えること、排出事業者自らが廃棄物の流れを把握し、管理を進めることで不適正処理を防止することなどを目的に導入された。なお、ここでいうマニフェストとは元来「積荷目録」を意味する英語で、制度の中では管理票に相当する。
表1に示すように、当初は行政指導にとどまっていたが、廃棄物処理法の改正によって運用が義務づけられるようになり、その内容も整備されている。
表1 マニフェスト制度に関する経緯
時期 |
内容 |
平成2年4月 |
厚生省(当時)の通知により全国統一のマニフェストの使用が始まった。 |
平成5年4月 |
平成3年の廃棄物処理法改正によって、特別管理産業廃棄物を対象にマニフェストの使用が義務づけられた。 |
平成10年12月 |
平成9年の廃棄物処理法改正によって、すべての産業廃棄物を対象にマニフェストの使用が義務づけられた。 電子マニフェストの運用が開始された。 |
平成13年4月 |
平成12年の廃棄物処理法改正によって、E票が追加され、排出事業者は最終処分の終了確認を義務づけられた。 |
資料:全国産業廃棄物連合会(2004)
マニフェストは、産業廃棄物が最終処分業者に直接運搬される場合に用いられる「直行用マニフェスト」と、最終処分業者に搬入されるまでに中間処理などで積み替えが行われる場合に用いられる「積み替え用マニフェスト」の2種類がある。表2に示すように、直行用は7枚、積み替え用は8枚つづりの複写式となっており、処理の各段階で管理票が返送・保存されることで、処理の過程を追跡することができる。各票は5年間の保存が義務づけられている。
表2 マニフェストの構成
区分 |
管理票 |
用途 |
直行用マニフェスト |
A票 |
排出事業者の控え |
B1票 |
運搬業者の控え |
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B2票 |
運搬業者から排出事業者に返送され、運搬終了を確認 |
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C1票 |
処分業者の保存用 |
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C2票 |
処分業者から運搬業者に返送され、処分終了を確認 |
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D票 |
処分業者から排出事業者に返送され、処分終了を確認 |
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E票 |
処分業者から排出事業者に返送され、最終処分終了を確認 |
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積み替え用マニフェスト |
A票 |
排出事業者の控え |
B2票 |
第1区間の運搬業者から排出事業者に返送され、第1区間の運搬終了を確認 |
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B4票 |
第2区間の運搬業者から排出事業者に返送され、第2区間の運搬終了を確認 |
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B6票 |
第3区間の運搬業者から排出事業者に返送され、第3区間の運搬終了を確認 |
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C1票 |
処分業者の保存用 |
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C2票 |
処分業者から運搬業者に返送され、処分終了を確認 |
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D票 |
処分業者から排出事業者に返送され、処分終了を確認 |
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E票 |
処分業者から排出事業者に返送され、最終処分終了を確認 |
資料:全国産業廃棄物連合会(2004)
マニフェストは、各県の産業廃棄物協会から排出事業者が購入し、交付する必要がある。最終処分業者から排出事業者に返送され、最終処分終了を確認するためのE票は、交付から180日以内に排出事業者に返送しなければならない。
処理の過程で中間業者が1社入った場合は2次マニフェストの発行が必要となり、同様に中間処理業者が入るたびに新たなマニフェストを発行する。2次マニフェスト以降は、中間処理業者が書き起こす必要があり、排出事業者名や1次マニフェスト交付番号を転記することで管理される。このようにして、中間処理業者は排出事業者の役割も果たすこととなる。排出事業者から最終処分業者に至るマニフェストの模式的な流れは図1(図は省略)に示した。
制度の運用状況が良好であれば適切な廃棄物処理につながるが、現実には下記に示したような課題があげられる。
①行政による状況把握の困難性
排出業者は、1年分のマニフェスト件数を年に1回都道府県に提出することを義務づけられている。しかし、行政側の担当人員が限られており、大量の情報管理に手間がかかって現況把握が困難な状況にある。
②マニフェストへの虚偽記載の問題
関係者が意図的にマニフェストに記載する情報を操作した場合、その不正が行われた時点を特定することが困難な面がある。例えば、収集運搬業者と最終処分業者の双方が確認したと口裏合わせをしてマニフェストに処理完了の記載をすれば、不適正処理は可能となる。また、処分業者によって実際には処理の受託をしていないにもかかわらず、処理完了を記載した架空のマニフェストの売買が広く行われている。
③マニフェスト不交付の問題
そもそも、マニフェストが交付されていなければ追跡調査は難しい。不法投棄が行われる場合には、マニフェストが交付されていないことが多いとされている。また、マニフェストに対する認識が低い排出事業者は、戻ってきたマニフェストを確認しない場合がある。
④建設系など混合廃棄物の分類の困難性
建設廃棄物など混合廃棄物の場合には、マニフェスト上で分類の記載が求められる19種類への分類が難しい。また、汚泥などの様々な成分を含む廃棄物でも、1つの枠で括ってしまうため、適正な処理・資源化に結びつかないという問題がある。
⑤積み替え保管施設などにおける廃棄物の混合時の問題
積み替え保管施設ではスペースが限られており、複数の排出事業者の廃棄物を混合して保管される場合が多い。このため、排出事業者の交付したマニフェストとの整合がとれなくなる。不適正処理があったとしても、排出事業者を特定できず責任を追及できない。
上記のような課題に対して、廃棄物処理法では平成12年の改正によって、管理票の不交付、虚偽記載、虚偽管理票交付、保管義務違反があった場合は50万円以下の罰金を課している。ところが、平成14年には住友林業株式会社によるマニフェスト不適正処理事件(許可を受けていない業者に産業廃棄物の処理を依頼し、産廃管理票も交付しなかった)、日本通運株式会社による廃棄物処理法違反事件(産業廃棄物の収集運搬を業者に委託した際、管理票に必要事項を記入しないなど)が起こった。事件を受けて、住友林業では取引している産業廃棄物事業者への調査を年に2回行うとともに、本社の安全環境部が全国の営業部・支店に対しても年に2回の調査を実施し、処理状況を監視している。日本通運も「マニフェスト管理システム」を構築し、一貫した管理を行うこととした。このシステムは、各支店が廃棄物の排出元として発行するマニフェストと、その廃棄物の処理を業者に委託した場合の相違点を確認する。
平成3年の廃棄物処理法改正により特別管理産業廃棄物の委託処理に限ってその使用が義務化された。しかし、この制度では廃棄物の流れがリアルタイムで追跡できない、伝票の偽造や焼却といった事件が後を絶たないなどの問題が起こってしまう。そこで、平成9年の「廃棄物処理法」改正によってすべての産業廃棄物の委託処理に対してマニフェストの使用を義務化されるとともに、電子マニフェストシステムがスタートした。
①排出事業者 → 情報処理センター
排出事業者は、廃棄物を引渡した日から3日以内に産業廃棄物の種類ごと、および行き先(処分事業場)ごとに一次マニフェスト情報を登録する。
②収集運搬業者 → 情報処理センター
収集運搬業者は、運搬が終了した日から3日間以内に、情報処理センターへ運搬が終了した旨を報告する。
③中間処理業者(処分受託者)→ 情報処理センター
中間処理業者は、中間処理が終了した日から3日間以内に、情報処理センターへ処分が終了した旨を報告する。④情報処理センター→ 排出事業者
情報処理センターは、運搬終了報告又は中間処理終了報告を受けた場合、排出事業者のパソコンに運搬または中間処理が終了した旨を通知する。
⑤中間処理業者(処分委託者)→ 情報処理センター
中間処理業者は、廃棄物を引渡した日から3日以内に産業廃棄物の種類ごとおよび行き先(処分事業場)ごとにマニフェスト情報を登録する。
⑥収集運搬業者 → 情報処理センター
収集運搬業者は、運搬が終了した日から3日間以内に、情報処理センターへ運搬が終了した旨を報告する。
⑦最終処分業者 → 情報処理センター
最終処分業者は、最終処分が終了した日から3日間以内に、情報処理センターへ最終処分が終了した旨を報告する。
⑧情報処理センター → 排出事業者,情報処理センター → 中間処理業者(処分委託者)
情報処理センターは、運搬終了報告または最終処分終了報告を受けた場合、中間処理業者のパソコンに運搬または最終処分が終了した旨を通知するとともに、排出事業者のパソコンに最終処分が終了した旨を通知する。
⑨情報処理センター → 排出事業者,情報処理センター → 中間処理業者(処分委託者)
情報処理センターは、排出事業者のマニフェスト登録日から90日(特別管理産業廃棄物の場合は60日)以内に運搬・中間処理終了が報告されない場合、または180日以内に最終処分が報告されない場合、その旨を排出事業者のパソコンに通知する。
情報処理センターは、マニフェスト情報を、登録または報告を受けた日から5年間保存する、都道府県・政令市よりマニフェスト情報の報告を求められた場合、その旨を都道府県・政令市に報告する義務がある。
JWNETでは、排出事業者が、収集運搬業者、処分業者に対してマニフェストを交付して、委託した廃棄物の最終処分までの移動を常に確認しながら処理していくことで、不法投棄の防止など、適正な移動管理