週刊循環経済新聞(2007年9月24日)
木材情報288 マテリアル利用のこだわりと地域ネットワーク


 廃材の安定確保のために、従来の延長線ではなく新たな営業改革をすすめる例が目立ち始めている。チップ業者のA社は長年マテリアル利用向けのチップ生産を事業の柱とし、製品の品質の高さにこだわり、排出元の製造業者やハウスメーカーの理解を得てきた。通常業者と比べて1ランク下の廃材・チップでも独自の選別ノウハウでマテリアル向けの品質レベルに上げることができる。産廃だけでなく一廃の業・施設許可も取得し、コンプライアンスの面でも信頼されてきた。
 新規参入を含めて同業他社との競争が厳しくなり、周囲でダンピング営業がエスカレートしても、既存顧客の廃木材が他社に流れることはなかった。CSRを満たすため、事業者のなかには少々コスト高でもサーマル以上にマテリアル利用を求めるところも少なくない。
 ただし、リサイクル率を向上させたい事業者は、A社がマテリアル用チップを生産するために求める高い排出基準の緩和を求めていた。従来だと品質の良くない木くずをA社に搬出することができないからだ。そこで、A社は1年半前から燃料チップの生産も開始し、取引先からの廃木材をほぼ全量受け入れられる体制を整えた。
 大切なのは燃料チップの生産を始めても、事業の軸足を従来のマテリアルチップに置き続けている点だ。燃料の方が製造原価が下がるが、A社はあくまでも従来事業のプラスアルファとして捉えていない。そのぶれのない事業姿勢と顧客ニーズへの対応が、さらに事業者からの信頼を厚くするのに役立っている。
 それでも、さらに調達能力を高めるために、地場の建廃中間処理施設への営業も徹底している。単にチップの確保に走るだけでなく、木くず以外の廃棄物情報の収集にも力を入れ、中間処理業者に排出事業者や木材以外の2次廃棄物の搬出先を紹介している。ギブアンドテイクを貫き続け、地場の処理業者有志と一種のネットワークが構築されつつある。


※マテリアルリサイクルは大企業が担い手なので、コンプライアンスには神経質になるケースが多いと考えられます。中小・零細業者は薄利多売になりがちで、品質を意識するほど余裕がないといえます。


週刊循環経済新聞(2007年9月17日)
木材情報287 既存業者の廃材調達力が上がらない


 北関東のA社社長は3~4年前から「小規模な破砕施設が近くにたくさんできている。5トン未満なのに(処理能力の)10倍もの木くずを集めている」と語っていた。
 少なからずの既存の有力業者が木くずの確保で苦戦している。その1つの要因が木くずの分散流通と言われる。関東の場合、埼玉、茨城などで小規模施設が林立している。そこに東京湾岸などで新たな大型施設も数多く設置し、分散流通が加速するようになった。
 新規の大小の破砕業者は、すべてがチップ専業者ではない。しかし、木くずは解体、新築、修繕・模様替えのほとんどの工事で発生するため、分別排出が徹底されていなければ、様々な施設に持ち込まれやすい。特に新築系以外の廃棄物は、大手ゼネコンやハウスメーカーが実質的な元請でも、現場の施工業者が排出・処理を管理しているケースも少なくない。
 建廃の排出量は全体として、新築が減り、解体と修繕・模様替えが増える傾向にある。木くずもその例外ではなく、大手建設業だけを顧客にしていると廃材調達力は上がらない。

 

※不思議なことに、統計上は新築と除去建築物数は比例していて、最近両方とも減ってきています。住宅が長寿命化すると、木くずが集まりにくい事態がさらに深刻になるかもしれません。


週刊循環経済新聞(2007年9月3日)
木材情報286 “売り手市場時代”の課題


 大型バイオマス発電施設の相次ぐ稼働率などを背景に、木質燃料チップは「買い手市場」から「売り手市場」へと移行が決定的になった、と言われて久しい。原材料である木くずの質に関係なく燃料チップ化される傾向にマテリアルリサイクルが押され、パーティクルボードメーカーなどは材不足に悩まされている。製紙工場の場合は、木質燃料チップと製紙原料、両方のユーザーであるので、微妙なバランスの上に乗る形となっている。
 パーティクルボードメーカーのなかには、広域的に集荷担当者が木質チップ業各社を訪ね、材の振り向けを依頼する動きも見られる。原料の木質チップの入荷が思わしくないと、精算の一時停止もあり得るので、まさに綱渡り状態の自転車操業を余儀なくされる状況だ。また、関東方面から供給されていた原料チップも、大型バイオマス発電施設の稼働により、先細り傾向に。今後は、原料の木材チップの買値をボードメーカーがどこまで引き上げられるかによって、入荷量が左右されそうだ。
 木質チップ業者にとっては、待望の「売り手市場時代」の到来であるはずが、需給バランスの均衡点を遙かに越える現状では、逆に需要の大きさが常に不安材料となる。
 古材チップ業者の月間入荷量だけを見ると、極端な数字の落ち込みはないものの、業界では「明らかに入荷物の質が悪くなっている」との声が共通して聞かれる。木くずの奪い合いが激化するなか、供給すべき絶対量を確保するため、従来なら積極的に取り扱っていなかったような質の悪い木くずも受け入れているためだ。
 一方、製紙原料用の製品チップを生産する業者の間では「従来にも増して苦労して原料木くずを確保しているのに、製品の売却条件は旧態依然のまま」との不満も。製紙原料用チップは、納品時の検査で一定量が「歩引き」される。需要家は、水分やダスト分を全体から差し引いた量に対して買値をつける。つまり、チップ業者にとっては、手間隙かけて生産した製品が売る段で常に「目減り」することになる。
 今後、「売り手市場」が「本物」となるには、これらの課題の見直しも必要になってくる。

 

※以前にも書いたように、木材チップには一般的な市場がなく、価格と質のバランスについて明確な基準や指標がないので「本物の市場」をどう成立させるか難しいところです。業者間のコミュニケーションや一定の情報公開が大切でしょう。

最終更新:2007年09月25日 18:53