週刊循環経済新聞(2007年6月25日)
木材情報278 無策だと自由競争がエスカレート

 

 今と比べてバイオマス発電施設が多く立地していなかった数年前まで、木材チップは広域移動していた。首都圏の場合、チップは東北や関西にも持ち込まれていた。
 最近は首都圏から近い北関東や東海、北陸、南東北のエンドユーザーが充実し、圏内にもバイオマス発電施設が開設した。原油高による運輸原価の高騰も相まって、チップ業界や処理業界はできるだけ近距離のユーザーに搬出したいとの意向が強まっている。
 取引先の商社やユーザーとの関係もあり、一概にはいえないが、広域移動の距離は縮まる機運にある。コスト重視で遠距離ではない発電施設に直納するケースもある。
 大都市圏から離れた発電施設の中には、稼働率が5割に及ばないところもある。木くず破砕の中間処理を併設していても供給が鈍い例など、地域によっては供給不足がはっきりし始めている。
 大都市の搬送圏内に立地するユーザーの場合、品薄感はあるものの、今のところ際立ったひっ迫感は出ていない。ただし、関東地方でまだ大型発電施設の設置が控えており、チップ業界などは将来的に需給バランスを崩さないよう、今のうちに対策を講じる必要がある。
 東日本の某地域はユーザーへのチップ供給不足に加えて、木くず破砕施設が数多く建ったために、材確保のコスト競争がエスカレートしている。原価割れとしか考えられない料金提示も出ており、無秩序な自由競争は単に会社の体力を弱めていく。
 激しい競争に危機感を持った同地域の各業者は、業界団体を通じて話し合いの場所を持とうとしている。大都市圏も含めて、他の地域でも数年先の流通ビジョンを描いて、現段階から競争のあり方を検討するのが望ましい。

 

※情報の偏りがあると、過当競争によって業者間の消耗戦が起こってしまいます。だからといって、「話し合い」をすると内容次第で談合やカルテルと受け取られかねず、本当に悩ましいところです。


週刊循環経済新聞(2007年6月18日)
木材情報277 競争と協調のバランスで事業営む


 これまで当連載で様々な角度から取り上げてきたように、建設系や流通パレットなど廃材から得られた木材チップは、数値的には供給不足の状況にある。
 月間のチップ消費能力が2,000~1.5万トン程度の大型バイオマス発電施設が全国各地に設置され、未だに未着工の計画がいくつかある。既設分も含めた燃料分野の圧倒的な受け皿と引き取り価格で多少の優位性を見出せる製紙、パーティクルボードなど素材分野の受け入れ枠も底固い。
 一見するとチップ業者は廃材の確保、ユーザーはチップの確保で競争が厳しくなっているようなムードで、実際に安定確保に危機感を抱く関係者は多い。木材リサイクルの課題は廃材やチップの確保にあり、チップ施設以降の流通はスムーズに流れているようだが、最近の事情は必ずしもそうではない。
 非大都市圏は元々排出量が少ないのに加えて、建設業も一部の拠点都市を除くと不振で、各業者とも安定・高ロットの木くずを確保できるケースが少ない。ある程度までは調達競争もエスカレートするが、地域全体の排出量も把握しやすい。単に材を奪い合うだけでは、互いの経営体力を弱める結果になる。
 そのため、業界団体を通じて、競争ではなく協調路線で秩序を保とうとする動きもある。特定のユーザーに偏ってチップを供給するのではなく、それぞれ一定量を納めることで、何とか需要家の理解を得ようとする取組みだ。一方で、間伐材など未利用材のチップ化に活路を求めて、研究・検討を重ねる。
 大都市圏は小型の破砕施設が多く建ったことで、木くずの分散流通が問題視されていた。有力業者の処理施設も新設などが相次ぎ、木材に限らず建廃全体で調達競争が起こっている。しかし、元の排出量が多いため、エンドユーザーに至る木材の供給は必ずしも滞っていない。逆に発電施設の休止などで、一時的かもしれないが、チップや廃材が流れない例もあった。
 これから木材リサイクルは、競争と協調のバランスの下で事業展開していくことになりそうだ。そんな中で、個々の建廃処理業者は木材リサイクルの事業形態を再点検するところが増えている。

 

※かつて国内の木材流通を調べたとき、業者同士の関係がルートを決めているケースが意外に多くありました。木材チップでも相対取引が一定のシェアを占めているうちは避けられないと思われます。


週刊循環経済新聞(2007年6月11日)
木材情報276 予断許さない九州北部の需給
 

九州北部では、エネルギーサービスを手がけ、大型バイオマス発電の全国展開を図る、ファーストエスコ(東京・千代田)が、大分県日田市で木質バイオマス発電施設を2006年11月から本格稼働。国内最大規模クラスの同施設は、当初の発表によれば年間10万トンの木質バイオマスを利用する計画で、地域の関心も高まっていた。
 地域の業界筋の話では、これまでのところ一部で懸念されたような、古材市場のバランスが大きく崩れるような状況には至っていない。ただし今後、夏場へ向けての電力需要の増加に当たり、解体系木くずをどれだけ消費するかは未知数で、推移を見極める必要がありそうだ。
 九州北部地域の総体的な傾向としては、小規模な木くず破砕業者が増えており、じわじわと中間処理料金相場が下がっている。熊本県でも、過当競争により処理料が下落しており、1年前と比べると約2割目減りしているとの声も聞かれる。
 九州北部地域周辺で、燃料チップの需要家と競合するマテリアルリサイクルの需要家としては、太平工業(東京・中央)のパーティクルボード事業部のボード工場(北九州市若松区)、北九州市に比較的近い永大産業の山口・平生事務所(山口県平生町)のパーティクルボード工場など。
 太平工業のボード工場は、月間約5,000トンの木質チップを利用している。また、従来からの木質燃料チップのユーザーでは、箱崎ユーティリティ(福岡市東区)がボイラ施設を設置し、周辺の工場施設へ熱供給を行っており、1ヶ月当たり約3,000トンの燃料チップを活用している。
 一方、隣接する山口県では、バイオマスボイラや発電施設がひしめき合い、木質材の燃料利用が急速に高まっており、余波は北九州市まで及んでいる。現状でも月間2万5,000トン、将来的には3万トン以上の木質燃料需要が発生すると見られ、予断を許さない状況だ。

 

※大型の発電施設は、木質バイオマス以外にもRPFなどを原料にできるように設計しないと稼働率が下がってしまう危険性があります。北九州市にはエコタウンがありますし、廃棄物系の燃料を融通してもらうように前もって交渉しているかもしれません。


週刊循環経済新聞(2007年6月4日)
木材情報275 エタノール生産と木くず利用のゆくえ


 関西地域では近年、燃料チップの需要が新施設の稼働により、徐々に高まっている。兵庫パルプ工業はバイオマスボイラを2004年に導入、月間1万トン余りを利用している。ほか王子製紙の米子工場(鳥取県米子市)もバイオマスボイラ用に関西から燃料チップの調達を行っている。燃料系では、ほかに大王製紙の三島工場(愛媛県四国中央市)にも海上ルートで出荷されている。パーティクルボードメーカー大手の日本ノボパン工業(大阪府堺市)は、月間5,000トン以上の燃料チップを使う発電施設を建設中で、今秋にも本格稼働に入る。
 また、紀州製紙は原油高騰による燃料コストの上昇やCO2排出量削減などに対応するため、紀州工場(三重県紀南町)の重油ボイラをバイオマスボイラに転換。2009年2月の稼働を目指しており、月間約2,500トンの燃料チップを利用する計画だ。
 さらに今、木質チップ関連業界の耳目を集めているのがバイオエタノール・関西・ジャパン(以下BJK、大阪府堺市)の動向だ。1月に開所式を行い、本格稼働に入った同社は、大成建設、大栄環境、サッポロビール、東京ボード工業が株主に名を連ねる。京都議定書の目標達成に向け、CO2削減に関連して白羽の矢が立ったのがバイオエタノール。環境省の進める「エコ燃料実用化システム実証事業」では、大阪府の提案したバイオエタノール3%混合ガソリン(E3)の原料調達から生産・販売に至る事業案が採択。2007年度~2011年度にかけ進められる同事業で、バイオエタノール生産の中核となるのがBJK。
 同社の公表した当初計画によると、年間4~5万トンの廃木材から1,400キロリットルのバイオエタノールを生産する。数年内には、年間製造量を4,000キロリットルまで引き上げる--としている。つまり、単純に生産量から試算すると、次段階では年間11~14万トン(月間1万トン以上)の廃木材を原料利用することになる。これは、木くず利用量からすれば大型バイオマス発電施設に匹敵する規模。バイオエタノール生産は国策が絡んでおり、その意味で製紙やボードなどの需要を考え合わせた木質資源(林地残材などを含めた)コントロールが必要な時期に差し掛かっている。

 

※バイオエタノールは一定の需要が見込めるので生産を試みるのでしょうが、コストが輸入より安くなるかどうかわかりません。他に利用先のない原料をエタノールに加工する方が望ましいはずです。

 

最終更新:2007年07月31日 15:57