CSRについて
作成:野瀬光弘(5月8日)
追加:野瀬光弘(5月9日)
追加:鈴木靖文(5月15日)
近年、CSR(企業の社会的責任)への関心が高まってきている。この背景には、アメリカのエンロンによる粉飾決算、日本の雪印食品による牛肉偽装事件など、企業の不祥事が相次いだことによって、責任を持った行動が求められていることがあげられる。廃棄物業界でも、不適正処理の問題などが起こっており、排出事業者や地域住民に対して情報を公開し、説明責任を果たす必要が出てきた。ここからは、CSRを概略的に説明するとともに報告書の作成状況、評価の方法、廃棄物業界での取組みについて紹介する。
CSRとは、企業が事業を進めるにあたって、環境や資源・社会の制約と直面するようになり、そうした外部との良好な共存関係を作ろうとする自主的な動きである。こうした公共サービス的な考え方は、本来、公的な機関が担ってきたものであるが、そうしたサービスが十分に提供しきれない中で、民間企業にも責任を持って社会づくりを担ってもらう動きとなっている。
平成15年3月に、経済同友会により発表された「『市場の進化』と社会責任-経営企業の信頼構築と持続的な価値創造に向けて-」においては、以下のように、CSRの本質の考え方をコラムにまとめている。
CSRの本質
●CSRは企業と社会の持続的な相乗発展に資する
CSRは、社会の持続可能な発展とともに、企業の持続的な価値創造や競争力向上にも結び付く。その意味で、企業活動の経済的側面と社会・人間的側面は「主」と「従」の関係ではなく、両者は一体のものとして考えられている。
●CSRは事業の中核に位置付けるべき「投資」である
CSRは、事業の中核に位置付けるべき取り組みであり、企業の持続的発展に向けた「投資」である。
●CSRは自主的取り組みである
CSRは、コンプライアンス(法令・倫理等遵守)以上の自主的な取り組みである。
今日急速な広がりを見せているCSRは、企業と社会の相乗発展のメカニズムを築くことによって、企業の持続的な価値創造とより良い社会の実現をめざす取り組みである。その中心的キーワードは、「持続可能性」であり、経済・環境・社会のいずれも尊重するよう企業は求められている。
CSRへの投資は、企業経営そのものの見直しにもつながることから、企業の競争力を強化すると考えられている。経営の効率化やリスクマネジメントの強化により、投資家の高い評価を受け、社会的な信用を得ることにつながる。CSRの考え方を経営に取り入れると、短期的には費用がかさむことになるが、長期的には企業価値を高め、企業にとってプラスとなりうると解釈されている。こうした取り組みは、企業の規模や業種にかかわらず推進することで、市民とともに社会の一員として役割を果たすとにいえる。
近年、CSRが求められるようになった社会的な背景としては、以下の項目をあげることができる。
②企業活動の拡大とグローバル化
グローバル化によって企業は国外に工場を移転するなど活動範囲が国境を越えて広がるようになってきている。NGOなどからは、多国籍企業等の国際的な活動が拡大することにより、環境問題の深刻化を招くこともあるとの懸念から、何らかの規制が求められてきた。CSRはこうした要求に対する企業の自主的な取組としても位置づけられる。また、このような自主的な取り組みはISO14001に代表される環境マネジメントの普及に現れており、認証取得を取引や入札の条件とすることも関連した動きと考えられる。
③環境問題の深刻化
企業の生産活動にともなう環境破壊に対しては、世界的に厳しい眼が注がれるようになっている。国内では、昭和30年代から40年代にかけて公害問題が深刻化し、環境問題に対して国民は敏感になったことから、CSRに求められる要件の中で、環境を重視する傾向が強いとされる。廃棄物焼却施設に対するダイオキシンの規制強化も、環境問題への関心の高さを反映した結果といえる。
④情報化の進展
ここ数年の情報化の進展は目を見張るものがある。平成17年2月時点でインターネット人口は約7,000万人、携帯電話の契約数は18年3月末に約9,000万に達している。インターネットは全世界的に張り巡らされ、電子メールや掲示板を通じて、大量の情報が広範に伝達される。企業はこうした場を活用して自社の取組をアピールできる一方、例えば不祥事や事故などの不利益な情報も瞬時に伝達されてしまう。場合によっては、そうした情報が企業破綻にまで至るほど影響力が大きくなっており、CSRの面からその管理が課題となっている。
(1)「CSR報告書」の作成状況
平成17年4月1日に施行された「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律」(環境配慮促進法)のもとで、民間企業による環境報告書などの自主的な公表が努力義務に定められた。すでに、大規模な事業体では1990年代後半から環境報告書の公表を始めており、ヨーロッパのように持続的な発展と競争力強化の戦略としてCSRを位置づけているとの指摘もある。
民間企業における環境報告書公表の流れを受けて、事業者の作成したCSR報告書のデータベース化や調査が一部進められつつある。経済産業省の「環境報告書プラザ」、(財)財団法人地球・人間環境フォーラムの「環境報告書データベース」、(有)インフォワードの「エコほっとライン」などがあげられるが、以下では数量的なデータが整備された環境省の「環境にやさしい企業行動調査」の内容を紹介する。
平成16年度の調査による、環境報告書(CSR報告書や持続可能性報告書などを含む)の作成・公表状況を次の表に示した。年度ごとにサンプル数が異なるために実数では比較できないが、表1の比率をみると16年度は14、15年度に比べて明らかに作成している業者の比率が高まり、約60%にまで達した。来年は作成予定との業者も約10%あることから、今後も着実にCSR報告書の数は増えていくと考えられる。
表 1 報告書の作成・公表状況
(件)
年度 |
作成している |
来年は作成予定 |
作成していない |
その他 |
無回答 |
平成14年度 |
650 |
251 |
1,913 |
122 |
31 |
|
(21.9) |
(8.5) |
(64.5) |
(4.1) |
(1.0) |
平成15年度 |
743 |
238 |
1,659 |
|
42 |
|
(26.6) |
(8.5) |
(59.4) |
(4.0) |
(1.5) |
平成16年度 |
801 |
136 |
461 |
- |
1 |
|
(57.3) |
(9.7) |
(33.0) |
(-) |
(0.1) |
資料:http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/(環境省)
注:( )はサンプル数に占める比率(%)。「その他」は平成16年度の質問票で削除された。
環境報告書を公表している業者を対象に、社会・経済的な要素が含まれているかどうかを尋ねたところ、「記載している(平成14、15年は「可能な範囲で」が加わる)」と答えた業者が次第に増加していることがわかる(表2)。記載を検討中の業者が着実に減っていることから、今後とも社会・経済的な要素を含む報告書が公表されると考えられる。なお、ここでいう社会的な要素とは、人権、雇用、安全などのことを示している。
表 2 環境報告書への社会・経済的要素記載の意向
(件)
年度 |
記載している |
記載を検討中 |
記載せず |
無回答 |
平成14年度 |
167 |
297 |
125 |
12 |
|
(25.7) |
(45.7) |
(19.2) |
(1.8) |
平成15年度 |
254 |
302 |
63 |
16 |
|
(34.2) |
(40.6) |
(8.5) |
(2.2) |
平成16年度 |
399 |
248 |
147 |
7 |
|
(49.8) |
(31.0) |
(18.4) |
(0.9) |
資料:http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/(環境省)
注:()内は割合(%)。平成14、15年度は回答の一部を抽出しているので、比率の合計は100%にならない。
業者ごとに公表されている環境報告書の信頼性を高める手段としては、次の表3に示したように大きく分けて、内部審査と第三者機関による審査に分けられる。表をみると、平成15年度と比べて16年度は内部審査、第三者機関による審査を受けている業者は増えており、取り組みに熱心なことがうかがえる。その反面、「予定なし」と回答する業者が依然として約30%いることから、対応が二極化していると推察される。
表3 環境報告書の信頼性を高める手段
年度 |
内部審査を実施 |
第三者機関による審査 |
内部審査を検討中 |
第三者機関の審査を検討中 |
予定なし |
その他 |
平成14年度 |
- |
131 |
- |
190 |
- |
41 |
|
(-) |
(20.2) |
(-) |
(29.2) |
(-) |
(6.3) |
最終更新:2006年05月15日 18:31
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