ジョジョの奇妙な聖杯戦争
さらば小次郎~吉良家の食卓は今~
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匿名ユーザー
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「でも一体なんで鼻なんかなくしちまったんだ?」
書店に山積みされた、『鼻をなくしたぞうさん』というタイトルの本を見て、吉良吉影は呟いた。その呟きは、傍らに佇んでいたキャスターに向けられたようだった。
だが、キャスターの返答は、吉良にしてみれば実に要領を得ない答えだった。
「ゾウ・・・とはなんですか?」
キョトン、とした、ローブを脱いだキャスターの邪気のない表情を見て、吉良は、はあ、とため息を一つ吐いてから、同じく児童書に分類されていた『なんでもどうぶつずかん』を引き出した。
ゾウのページは、半分も捲らずに見つけることができた。吉良は、そのページをキャスターの顔の前で、開いて見せた。
「いいか? これが象だ。鼻が長い。耳もでかい。体もでかい。足もでかい。つまり胃袋もでかい。だから、こいつはたくさん草を食べなくちゃならない。だが、見ての通りこいつの足は、獲物を取るのに適していない。
だからこいつは鼻で食べ物を手に入れるんだ。そんな大事な鼻を、どうしてなくしちまったんだ、と私は言っているんだ。分かったか?」
「・・・どんな事態が起きれば、こんな長い鼻がなくなってしまうのでしょうね?」
「疑問文に疑問文で返すなと言っているだろうが!・・・しかし、まあ。それもそうだな・・・なんでなくなったんだろうな」
「買ってしまいますか?」
髪をかき上げて、吉良は周囲を眺めた。そこにいたのはみんな、女子供物好きな老人。
「・・・やめよう。私がこんな本をもってレジに行くのは様にならない。帰ろう。夢二の画集も買ったし、今日はもうサイフの風通しがよくなってしまったからな」
そのまま、二人は包みを持って書店を出た。既に、太陽は地平線にかかっていた。
ふと、してやられたかのように、吉良は呟いた。
「・・・しまった。結末だけでも読んでおけばよかったな。・・・くそ、気になるな。後で小次郎に買ってきてもらおうか」
「私が買ってきましょうか?」
キャスターの提案に、しかし吉良は首を横に振った。
「いや、いい。どうせ財布は空なんだ・・・なあ、キャスター」
「なんでしょうか?」
「今日はみんな集まるまで、夕食は待とう。みんなで食べたいわけじゃない。材料を買いすぎたからだ。これを食べきるには、人数が必要だからな」
「…ええ、そうしましょう。みんなで食べましょう」
優しい眼差しで見つめるキャスターに、吉良は少し遠い目で呟いた。
「…すぐに帰ってくるだろうか」
「帰ってきますよ、きっと」
「そうだな、帰ってきてから夕食にしよう・・・」
そのまま歩みを進めた吉良に対し、キャスターは一言付け加えようとして、やめた。どうでもいい話だ。半分以上が、食事を取れる体じゃないなんてことは。
そして、キャスターは思う。今日だけは、あのお邪魔虫でしかない小次郎も、早く帰ってくればいいのに、と。
今日だけは死なないでほしい、と。
to be continued
書店に山積みされた、『鼻をなくしたぞうさん』というタイトルの本を見て、吉良吉影は呟いた。その呟きは、傍らに佇んでいたキャスターに向けられたようだった。
だが、キャスターの返答は、吉良にしてみれば実に要領を得ない答えだった。
「ゾウ・・・とはなんですか?」
キョトン、とした、ローブを脱いだキャスターの邪気のない表情を見て、吉良は、はあ、とため息を一つ吐いてから、同じく児童書に分類されていた『なんでもどうぶつずかん』を引き出した。
ゾウのページは、半分も捲らずに見つけることができた。吉良は、そのページをキャスターの顔の前で、開いて見せた。
「いいか? これが象だ。鼻が長い。耳もでかい。体もでかい。足もでかい。つまり胃袋もでかい。だから、こいつはたくさん草を食べなくちゃならない。だが、見ての通りこいつの足は、獲物を取るのに適していない。
だからこいつは鼻で食べ物を手に入れるんだ。そんな大事な鼻を、どうしてなくしちまったんだ、と私は言っているんだ。分かったか?」
「・・・どんな事態が起きれば、こんな長い鼻がなくなってしまうのでしょうね?」
「疑問文に疑問文で返すなと言っているだろうが!・・・しかし、まあ。それもそうだな・・・なんでなくなったんだろうな」
「買ってしまいますか?」
髪をかき上げて、吉良は周囲を眺めた。そこにいたのはみんな、女子供物好きな老人。
「・・・やめよう。私がこんな本をもってレジに行くのは様にならない。帰ろう。夢二の画集も買ったし、今日はもうサイフの風通しがよくなってしまったからな」
そのまま、二人は包みを持って書店を出た。既に、太陽は地平線にかかっていた。
ふと、してやられたかのように、吉良は呟いた。
「・・・しまった。結末だけでも読んでおけばよかったな。・・・くそ、気になるな。後で小次郎に買ってきてもらおうか」
「私が買ってきましょうか?」
キャスターの提案に、しかし吉良は首を横に振った。
「いや、いい。どうせ財布は空なんだ・・・なあ、キャスター」
「なんでしょうか?」
「今日はみんな集まるまで、夕食は待とう。みんなで食べたいわけじゃない。材料を買いすぎたからだ。これを食べきるには、人数が必要だからな」
「…ええ、そうしましょう。みんなで食べましょう」
優しい眼差しで見つめるキャスターに、吉良は少し遠い目で呟いた。
「…すぐに帰ってくるだろうか」
「帰ってきますよ、きっと」
「そうだな、帰ってきてから夕食にしよう・・・」
そのまま歩みを進めた吉良に対し、キャスターは一言付け加えようとして、やめた。どうでもいい話だ。半分以上が、食事を取れる体じゃないなんてことは。
そして、キャスターは思う。今日だけは、あのお邪魔虫でしかない小次郎も、早く帰ってくればいいのに、と。
今日だけは死なないでほしい、と。
to be continued