ストーリーモードに書かれているストーリーをまとめたページです。
ネタバレ含みますので、純粋に攻略を愉しみたい人は見ないほうがいいです。

第一幕 第二幕 第三幕



第三幕


黄泉路開放という脅威は去り、

つかの間の平和を迎えた京に

覇王は切り札となる一手を

下した!


プロローグ


昼間の暑さが嘘のように静まり、肌寒い風が吹き始めた宵の口。
赤く染まった空を縁側で眺めるアズサの姿があった。

アズサ「あーお腹空いた。早くカイ帰ってこないかな。」

影狼への定期報告のため、カイは宿を留守にしていた。

アズサ「もうそろそろ帰ってくるはずだから、新撰組の屯所に行くとすれ違いになりそうだしなぁ。」

気が緩んでいたのは確かだった。
覇王の突然の出現により、それまでの生活が一変した。

名立たる英霊との戦い、住み慣れた大江戸を発ち、京での生活。
手探りながらも、少ない情報を元にここまで来た。
だが、少ない情報さえもなくなってしまった今は、ただ待つことしかできなかった。
京を恐怖に焔れるかと思われた黄泉路も、多くの術者によりその後開くことなく安定していた。
時間は掛かるかもしれないが、黄泉路の入り口に社を立て、人が近づけぬよう隔離することで一応解決を迎えるだろう。

このまま終わるはずが無い。
そう思いながら平和な日が続くことで、アズサは安堵しきっていた。
そんな折であった、アズサがさらわれたのは・・・。
カイ不在の中、元影狼である五鬼将の手によって覇王の下へ連れ去られたのだった。
カイもまた五鬼将の長であるシンに打ちのめされ、覇王に遠く及ばないことを痛感させられていた。
そんな折、シンは更なる戦いを欲する故、一時は組した覇王に敵対する旨をカイへと告げる。
こうして五鬼将は影狼の心強い味方となった。
その後は、影狼と五鬼将により、姿を消した覇王の者たちを捜索する日々が続いた。

手掛かりが得られないまま数日が過ぎ去った頃、
大江戸幕府を巡る倒幕と攘夷の動きにより時代が大きく変わろうとしていた。
そんな中、新撰組もまた大きな流れに飲み込まれ始めていた。

土方「沖田、新撰組を代表としてカイの力になってやれ。幕府のことは近藤さんと俺達に任せてな。」

安倍清明により京を黄泉路へと繋がれそうになった時は、
新撰組も全力で覇王に対抗できたが、
いまは覇王に対して人を割く余裕などなかった。
そのため苦肉の策として、沖田をカイに預けたのだった。
沖田「そういう訳でカイさん、僕も手伝わせてもらいます。アズサさんは必ず助けましょうね。」

心強い中を得たカイだったが、一向に覇王の行方が分からず痺れを切らしていた。
カイ「どうして覇王は姿を消したままなんだ。アズサをさらって満足したって言うのか?」
キサラギ「焦ってるね。カイ。」
その声の主は影狼四人衆筆頭であるキサラギであった。
カイ「キサラギさん!大江戸に残っていたはずじゃ?」
キサラギ「様子を見ながらトラジたちの後に出発したのさ。大江戸はシドウの爺さんと新しく影狼に入った奴らが頑張ってるよ。」
こうして京に影狼の精鋭である四人衆全員が揃ったのだった。
キサラギ「そうだ。カイが欲しがっている情報も仕入れてきたよ。覇王の行方をね。」

カイが心待ちにしていた情報は、京中を捜索していた五鬼将やトラジではなく、大江戸から着いたばかりのキサラギによってもたらされたのだった。

キサラギ「覇王の奴らは京にはいない。京から東に行った街道の外れに潜んでるよ。」

アズサを手中に収めた覇王は、安倍清明の失敗により警戒されている京を離れていたのだった。
こうして手掛かりを得たカイは、すぐに身支度を整え、覇王の潜沈先へと急ぐのであった。

1人目 (鎧武者)


カイと沖田は、キサラギに教えられた場所で街道から道を外れ、覇王の潜伏先を探した。
キサラギたち影狼四人衆は京に残ってもらった。
今回の覇王の動きが陽動ではないとも限らないからだ。
最初は五鬼将に京の警護を頼み、影狼四人衆はカイたちに同行するつもりだったが、いつのまにか五鬼将はその姿を隠してしまったのだ。
キサラギ「またシンの気紛れだね。シンはカイに覇王の加担はもうしないって約束したんだろう。
約束だけは守る男だから、今回はまた敵になることは無いよ。」
こうして影狼四人衆は覇王を警戒するため、京に残ることとなった。

街道から木々を抜けた先に奇妙な鳥居があった。
鳥居自体が奇妙と言うわけではなかったが、街道を外れた場所にある不自然さと鳥居を取り巻く気配に違和感を感じたのだ。

カイ「なんでこんな場所に鳥居が?覇王に関係でも・・・。」

そう呟きながらカイは鳥居に近付いた。

鎧武者「グオォォォ。」

カイが鳥居に近付いたことに反応してか、突然鳥居の下から鎧武者が姿を現した。

カイ「不用意に近付きすぎたか。沖田さん、あいつを斬って走り抜けますよ。」


2人目 (無情なる者 妖狐)


鎧武者「・・・。」

カイは鎧武者に駆け寄り一振りで切り払うと、そのまま鳥居を走り抜けた。
沖田もその後に続いたが、背後では先ほどの鎧武者が再び姿を現し、その数を増やしていた。
沖田「あそこで立ち止まっていたらあの鎧武者の群れに囲まれていたみたいだね。」
鎧武者の群れはカイたちを見失い、敵を欲して街道の方角へ進み始めた。
カイ「くっ街道に行かせる訳にはいかない・・だけど、いまはアズサの方が・・・。」
沖田「大丈夫ですよ。きっと近藤さんやキサラギさんたちが何とかしてくれますから。
私たちは覇王とアズサさんの捜素に専念しましょう。」
沖田の言葉を信じたカイは後ろ髪を引かれる思いで先を急いだ。

鳥居の奥は山道に繋がっていた。
その山道を進んだ先から人声が聞こえてきた。

妖狐「あんた何者?私はカイが来るって言うから楽しみにしてたのに。」
セム「ここにノキアがいるはずだ。居場所さえ聞けばすぐに立ち去る。」
妖狐「知らないわよ。もっと奥でも探してみたら?無事に帰れる保証は無いけどね。」

妖狐の口元に不敵な笑みを浮かべた時、カイと沖田は妖狐のいる場所へ辿り着いた。

妖狐「やっと来たね。待っていたわよ。残念だったわねあの娘に逃げられて。」
カイ「逃げられたんじゃない。お前たちが連れ去ったんだ。」
妖狐「ふふふ、苛立ってるわね。前回はあの娘を連れて行くことが目的だったけど、今のあなたはもうただの邪魔者なのよね。」

さっきまで妖狐と話していた男は、まだその場に立っていた。
カイはその男が味方かどうか見極めようと視線を送るが、その男は妖狐の背後にある山道を見つめていた。
カイの視線が自分に向いていないことに気づいた妖狐は、先ほどの男に言葉を送った。
妖狐「早く行かないでいいのかい?今頃あの女は・・・。」
セム「うるさい、今すぐ行くさ。そこのお前。」
男はカイを指差した。
セム「人を超える力は多用するな。あれは人には操りきれない力だ。」
そう言い放つと、男は山道の奥へと駆け上がっていった。

妖狐「やっと邪魔者はいなくなったよ。もう1人良い男がいるけど、そこの男はあんたの連れなんだよね?」
妖狐は沖田を指差し、カイに問いかけた。
カイ「沖田さん。手出し無用でお願いします。この妖狐は俺が・・・。」
妖狐「いい覚悟だね。それじゃその覚悟を後悔にかえてあげるよ。」


3人目 (斉藤一 背信の剣士)


妖狐を退けたカイは、山道を駆け上っていた。
途中、大きな崖により道が途絶えていたが、橋を探すため大きく迂回しながら先を急いだ。
やがて山道の先に崖を渡すための橋がが見えてきた。
だが、橋と同時に行く手を遮る門が姿を現した。

カイ「くっ、他に橋は・・・。」
斉藤「ここ以外に向こうに渡る橋は無い。」
沖田「・・・斉藤さん。」

カイの問いに答え、姿を現したのは新撰組隊士である斎藤一であった。

沖田「なぜ斉藤さんがここに?」
斉藤「こちらに付いた。答えはこれでいいか?」

まだ出合って間もないが、カイにとっても斉藤は信頼に当たる心強い味方であった。
ともに戦ってきた沖田にとっては、カイよりも大きな衝撃を受けているだろう。

斉藤「一度お前と本気で斬り合いたかった・・・。」
そう言うと斉藤は刀を抜きながら沖田の下へと歩み寄った。
カイ「沖田さん。ここは戻って別の方法を探しましょう。」
斉藤「戻ったところで崖を渡ることなどできまい。空でも飛ばぬかぎりな。」

その言葉にカイは一瞬、崖に辿り着いた場所に力強い足跡があったことを思い出した。
足跡は崖の先の山道に向かっていたような・・・。

沖田「カイさん。少し待っていてください。僕が斉藤さんと戦って、ここを通してもらいます。」
カイが考えを巡らしているいる間に沖田は覚悟を決めていた。
新撰組最強と謳われた2人の戦いが始まった。


4人目 (伊東甲子太郎 信念の徒)


新撰組最強同士の戦いは素人目では退屈な戦いであった。
居合いを得意とする斎藤。
一瞬の間に3度突きを放つ三段突きを可能にした沖田。
2人はお互いの得意とする技をかわし、一撃で戦いを決めるためわずかな動きで牽制を続けた。
その結果牽制の応酬は続き、素人目には1度も刀を振るわない退屈な戦いに見えるのだった。

永遠に続くと思われたその戦いは、突然斎藤の一言により終了した。

斎藤「やはり強いな、沖田。先に進むがいい。」
刀を鞘に収め、斎藤は門への道を開けた。
沖田「斎藤さん。・・・なんで?」
斎藤「今回の任務が覇王の内偵だった。ただそれだけだ。」

斎藤は新撰組を裏切ったわけではなかった。
近藤の命の下、覇王の内情を探るのが任務だったのだ。

沖田「それなら最初から驚かさないでくださいよ。斎藤さんはこの後どうするんですか?」
斎藤「京に戻る。伊東甲子太郎の裏切りも報告しないといけないからな。」
沖田「え!伊東さんが裏切り。それは本当なんですか?」
斎藤「伊東甲子太郎。新撰組を裏切って覇王に付いた。それでいいんだよな?」
沖田の質問に対し、斎藤は門の先にいる男へ問いかけた。

伊東「いいですよ。貴方の覇王様への裏切りはすでに報告してありますしね。」
頭脳明晰、剣術においても道場主になるほどの腕前を持っていた。
そのため新撰組参謀としての地位を得ていたのにも関わらず、覇王に味方するとは・・・。

斎藤「沖田。裏切り者の相手、頼まれてくれるか?俺は覇王が動き出したことを近藤さんに伝えに行く。」
沖田「いいですよ。伊東さんなら、斎藤さんよりも戦いやすそうですしね。」
伊東「言ってくれるな。それではその自信、我が剣にて失わせて見せよう。」
伊東はそう言うと静かに刀を抜き、沖田に向き合った。

沖田「カイさんは先に行ってください。ここは僕だけで十分ですから。」
伊東「さらに味方を先に行かせるか。それは自惚れというものだぞ、沖田。」
沖田「自惚れてなんかいませんよ。あなたをここで足止めするための覚悟です。無傷で倒せるとは思っていませんから。」

カイ「沖田さん。すまない。」
沖田の覚悟を無駄にしないためにカイは門を通り抜け、橋を駆け抜けていった。

沖田「それでは伊東さん。何を企んで覇王に付いたかわからないですけど、ここでその野望もおしまいです。」


5人目 (鬼人 ノキア)


カイは先を急いで山道を駆け上がっていた。
辺りは木々が生い茂り、遠くの視界を遮っていた。
それでも歩みを遅らせることなく駆けていくと、突然視界が開けた場所に出た。

カイ「なに?」

突き刺さるような殺気を感じたカイは咄嗟に刀を抜き、殺気の方向を薙ぎ払った。
ガギン。
金属を打ち据えたような音と衝撃がカイの腕に伝わる。

カイ「何者?その姿は・・・理力具現。それにあの角は・・・。」
セム「・・・鬼人さ。」

突然背後から妖狐の前で出会った男が現れた。

カイ「鬼人?どういうことなんだ。」
セム「お前が言った理力具現。その力は鬼人が持つ力なんだよ。ノキアの力は暴走してるがな。」
カイ「理力具現。人の潜在能力を解放させる業だと聞いていたが、違うということなのか?」
セム「本来は鬼人のみがその血をたぎらせ、すべての力を解放させる業。普通の人間ができる業じゃないのさ。」

カイは男がノキアと呼んだ女から目を話さずに、男の話に耳を傾けた。

セム「お前たちが覇王の血と呼んでいるもの。元を辿ればそれは鬼人と同じ血なのさ。だが、今の覇王が鬼人というわけじゃない。昔、鬼人の血を欲した何者かが己の力として獲りこんだという話だ。」

男の話は信じがたいものだった。
目の前の女が暴走していなければ、シンに出会っていなければ、鬼人の血による理力具現ですら信じられなかっただろう。

ノキア「・・・おしゃべりな男ね。」
それまで無言でカイと男の隙を伺っていたノキアがはじめて言葉を発した。
ノキア「ねぇ、セム。私と戦うためにここまで来たんでしょ。お喋りしてないで早く来たらどう?」

セムと呼ばれた男は腰の小刀を手に取り構えた。
だが、その間に割り込むようにカイが立ち塞がる。

セム「ノキアの相手はおれがする。それともここで理力具現を行い力を使い切るか?」

カイは妖狐の前でセムが言った言葉を思い出していた。
「人を超える力は多用するな。あれは人には操りきれない力だ。」

カイ「すまない。色々と教えてくれてありがとう。お互い大切な人を助けて、また再会したいな。」
カイはセムにそう告げると刀をしまい先を急いだ。
セム「あの男も大切な人の為に戦ってるんだな。それじゃおれもノキアを連れて再会するとしよう。」


6人目 (森蘭丸 覇王への忠誠)


「ここまでよく来れましたね。」

その声の主は京で一度刀を交えた森蘭丸であった。
森蘭丸は山道を抜けた先に現れた館の前に立っていた。

蘭丸「以前は現世に戻ったばかりで体が馴染まず遅れを取りました。あれから十分時間がありましたからね。今回は万全な状態でお相手してあげることができますよ。」

織田信長の家臣として名を馳せた剣客、森蘭丸。
その森蘭丸が再びカイの前に立ちはだかった。

カイ「アズサはどこだ!」
蘭丸「この先であなたがやって来るのを待ってるよ。・・・たぶんね。」

ほんの一瞬だった。
蘭丸がアズサの名を聞いて嫌悪の表情を見せたのは。

カイ「元気なんだな?」
蘭丸「認めたくは無いけど、あの人もあのお方にとって大切な存在だからね。あなたが期待している状態じゃないかもしれないけどね。」

回りくどい言葉にカイは苛立ちを感じ始めていた。
同時に蘭丸にもアズサの話題を話すたびに嫌悪の表情が広がっていった。
その表情はすでに最初のように隠そうとはしていなかった。

蘭丸「それよりもあのお方のような覇王という存在、あなたはどう思う?」
カイ「・・・なにが言いたい?」
蘭丸「あなたのような剣客にとって、刀を振るう場所を用意してくれる存在は必要だと思うか聞いてるんだよ。」
カイ「これからの時代に乱世は必要ない。」
蘭丸「それじゃ覇王という存在は?」
カイ「必要ないな。」

カイから期待通りの言葉を聞き出した蘭丸は静かな笑みを浮かべた。

蘭丸「それじゃ私を倒せたら、あのお方たちの前で己の無力さを実感するといいよ。まぁ通しはしないけどね。」

意味深な言葉を残し、蘭丸とカイの戦いは始まった。


最終決戦! (覇王 アズサ)


カイ「アズサ!」

森蘭丸を退けたカイは山の上に建てられた館に入り、アズサを探した。
いくつ目かの襖を開けたとき、カイはアズサを見つけた。

カイ「アズサ、無事だったか。よかった。」
カイの手がアズサの肩に触れ様としたその時、それまで黙っていたアズサが声を発した。

アズサ「敵陣の中なのにそんなに無防備で良いの?」
カイ「え?」

未だに背中を向けていたアズサが、突然振り返りカイに斬りかかった。
カイ「っつ。」
カイは寸での所で手を引いたが、浅い切り傷を負った。
アズサとカイは距離を置くように飛び跳ねた。

アズサ「ふふふ。いきなり私に斬られるとは思わなかった?」
カイ「・・・アズサ。なにかされたのか?」
アズサ「何もされてないわ。ただ正しい姿になっただけ。・・・覇王にね。」
カイ「なっ!」
アズサの言葉を聞いたカイは目の前が一瞬暗くなった気がした。

アズサ「正しくは私も覇王の血を受け継ぐ者だったの。今までは同じ時代に2人の覇王が目覚めるなんてことなかったから、誰ももう1人覇王がいるなんて
考えなかったけどね。」
そう言うとアズサは、カイがシンの助力によって体得した理力具現と同じような力に身を包んだ。

アズサ「覇王に目覚めたことで今まで以上に強くなれたわ。ねぇ以前のように稽古してくれない?でも本気で戦ってくれないと危ないからね。」

アズサはその口元に楽しそうな笑みを浮かべた。
だが、カイはアズサの剣先が震えていることに気づいていた。

アズサ「カイは覇王を倒すのよね。私を斬れるものなら斬ってみなさい!」
そう言うとアズサは再びカイに斬りかかってきた。
一瞬の迷いの後、カイは刀を抜きアズサの刀を受け止めた。

アズサ「良かった。抵抗しないで私に斬られちゃうのかと思った。」
カイ「アズサを助けに来たんだ。このまま斬られるわけにはいかないさ。」
アズサ「せっかく刀を抜いたんだから、最後まで私を楽しませてね。」

アズサを救う術がわからぬまま、カイは最も戦いたくない人に刀を向けるのだった。


エピローグ (1周目)


五鬼将の長であるシンとの修行により、潜在能力を開放する術を
身に付けたカイの刀は常人の目では追えないほどの速度でアズサを攻め続けた。
潜在能力を開放した理力具現に加え、二刀流のカイの太刀筋は
シンであってもすべてを見切ることなどできなかったというのに、
アズサは怯むことなく斬りかかってきた。
斬られることを恐れぬその様子は、何かに取り憑かれたようであった。

カイ「目を覚ませ、アズサー!」

カイの呼びかけに応じず、アズサは刀を振るった。
実力はわずかにカイが勝っていたが、アズサを傷付けることを
ためらう気持ちがカイの剣筋を徐々に鈍くさせていた。

アズサ「カイの実力はこんなものなの?初めてだよね。私がカイに勝てるなんて。」
カイ「黙れ!目を覚ますんだ。アズサ、力に飲み込まれるな!」
アズサ「飲み込まれてなんかいないよ。本当の私になっただけ。
だって、覇王の力は生まれたときから私のものだったんだから。」

口元に笑みを浮かべながらそう告げたアズサだったが
その目には涙が溜まっていた。

カイ (刀を交える前にも俺の知ってるアズサを感じた。
まだ完全に覇王の力に飲み込まれたわけじゃない。それなら…。)

アズサの涙を見て覚悟を決めたカイは、上から振り下ろすアズサの刀を
2本の刀を交差させて受け止め、全力で弾き飛ばした。
予想外の行動によりアズサは刀を手放し、一瞬の隙が生まれる。
その一瞬の隙を作ったカイは迷うことなく2本の刀を手放し、アズサを抱きしめた。

カイ「待たせてごめん。迎えに来たよ。さぁ目を覚ましてくれ。」
アズサ「あ…。」

カイの予想外の行動はアズサの意識に混乱を生み、
覇王の力を拒絶するアズサが正気を取り戻すチャンスとなった。

アズサ「カ、カイ…。」
カイ「いいぞ。アズサ、そのまま気持ちを落ち着かせるんだ。」
アズサ「…駄目、今のうちに私を斬って。」
カイ「諦めるな。どんな時も諦めないアズサはどこにいった!」
カイはさらに強くアズサを抱きしめた。

アズサ「…っ、ちょっと痛いよ。」

奇跡は起きた。
元々1つの存在であった覇王が、この大江戸の時代には2つ存在していた。
その1つがアズサであった。
これまでも時折見せた常人には無い力の発現。
それは覇王の力によるものだったが、
少なくともそれらの時点では力に飲み込まれることは無かった。
それは覇王の魂をわずかしか受け継いでいなかったためだった。
そのことが功を奏して奇跡へと繋がったのであった。
だが、わずかでも受け継いでいたことがもう1人の覇王に
狙われる原因となったのだった。

それまで赤く光っていた瞳が黒くなり、狂気に満ちた表情
から以前のアズサに戻った。
カイ「…良かった。」
アズサ「ありがとう。カイが諦めないで励ましてくれたから戻れたんだよ。」
ふたりは一瞬だけ緊張から開放されたが、アズサの一言で再び気を引き締めた。
アズサ「私は助かったけど、覇王はまだいるわ。」
カイ「そうだね。まだ終わっていないんだ。」

アズサとカイの瞳は覇王のいる奥の間を見据えるのであった。

最終決戦! (覇王 リュウ)

その男は山頂に建てられた館の一番奥にいた。
この場所に来るまでの間にアズサに男のことを聞いていたが、
カイは実際に自分の目で見るまで信じたくなかった。

カイ「まさか貴方が覇王だったなんて…坂本龍馬。」
覇王リュウ「それはこの体の以前の主の名だ。
アズサのおかげで坂本龍馬は消え去り、我が新しい主となった。」

これもアズサから聞いていた。
以前は覇王の意思と坂本龍馬が同じ体に同時に存在していた。
だが坂本龍馬という男の強靭な精神力により、覇王と言えども
その体を自由に操ることはできなかった。それどころか坂本龍馬の
意識がある時は、覇王は眠りについていたという。

だからこそ覇王は自らアズサの前に現れることができず、
配下の者にさまざまな命を下していたのだった。
そしてもう1人の覇王であるアズサを手中に収めたことで、
坂本龍馬の体を我が物とし、そしてアズサをも
覇王として覚醒させたのであった。

これほど回りくどい手段を必要としたのは、1つの時代に
覇王が2人いるという奇妙な状況から始まった。
不完全な覚醒により坂本龍馬の体を奪えず、
アズサの中には覇王の意志さえ存在しなかったのだ。

覇王リュウ「やっと本来の力を取り戻せた。
さっそく貴様たちで力試しをするとしよう。」
アズサ「カイ。この男の相手は私にやらせて。
もう覇王の力に飲み込まれないから。」

覇王の血に魅入られた2人による、
それぞれの生き方を掛けた戦いが始まった。


エピローグ (2周目)


○○「おれだけが特別なのか?…こんな力いらない。共に生きる友がいれば…。」
それは覇王の血が記憶していた記憶だろうか。
そこには1人の少年が立っていた。
辺りを見回すと小さな村のようだったが、人の気配はなかった。

数日前まで活気に溢れていた村が、少年の覇王としての覚醒を機に、
村の様子が一変した。
戦いを欲する者、狂気に取り憑かれる者、憎悪に怯え逃げ出す者。
そして覇王の力に導かれるように魑魅魍魎が集ってきたのだった。

○○「おれが何もしなくても人々は狂い、争いを生むと言うのならば、
俺の意思でこの世を地獄としよう。」

その後も覇王の血は何人もの人間の人生を犠牲に覚醒していった。
覇王が覚醒するたび、覇王に敵対する妖怪や術者、武士、鬼人が現れたのだった。
そしてこの大江戸の時代にも坂本龍馬として覇王の血は覚醒したのだった。
だが、それまで覇王として覚醒したのは一時代に1人であった。
同じ時に2人の覇王は存在しなかったのだ。
それがなぜこの大江戸の時代に、坂本龍馬とアズサに覇王の
血が宿り覚醒を果たしたのか…。

○○「肩を並べて生きていける友が欲しい…。」

多くの覇王が感じ、そして欲したもの。
その想いが大江戸の時代では坂本龍馬とアズサという
2人の覇王として目覚めた原因なのだろうか。
だがその原因は分かるはずもなかった。
覇王という存在自体が人の考えなど及ばない存在なのだから。

覇王リュウ「ぐはっ。この時代でも…おれの野望は叶わぬか…。」

覇王は倒れ、その体から禍々しい気配が消え去った。
坂本龍馬に宿り、覚醒を果たした覇王は再び眠りについたのだった。

カイ「いままでに覇王に相対した者たちと同じように、
覇王を滅することはできなかったか。
これでまたいつの時代か覇王が目覚めるのか?」

それまで黙っていたアズサが静かに口を開いた。

アズサ「まだ終わってない。この時代の覇王の血は完全に消えたわけじゃないから。」

その言葉にカイはアズサに宿った覇王の血を思い出した。

カイ「…アズサ。」
アズサ「さっきまで彼の言っていたこと理解できるんだ。
私にも覇王の記憶があるから。…彼は寂しいだけ。
人のぬくもりを忘れてしまったから。」

アズサは感じていた。
覇王によって甦らされた者たちが静かな眠りについたこと。
京に現れた黄泉路が再び闇に消えていったこと。
覇王との戦いは終わったのだ。

アズサ「それじゃ京に戻ろう。みんな心配してるだろうし。」
カイ「…そうだな。京にしばらく滞在して挨拶が済んだら、大江戸に戻らないとな。」


こうして大江戸に目覚めた覇王の1つの物語が幕を閉じた。
アズサの中で今も眠る覇王。
それはアズサを通して人の温もりを知り、共に生きる友の大切さを知るのだった。

大江戸幕府編 終結


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最終更新:2011年02月28日 22:09
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