ここは、全ての人が「アビリティ」と呼ばれる ”特殊能力”を持っている、もう一つの現代 |
さらに「精霊」と呼ばれる存在と「科学」が共存し その中で人々が平穏に日常を送っている。 |
この物語は、そんな世界にある桜ヶ浦学園に通う 可憐な少女たちのお話である…。 |
美春「やばい~、遅刻遅刻ぅ~。ほら、柚木も急いでー」 |
器用にパンをくわえたまま、そう言って 朝から走っている少女が一人…。 |
柚木「もう、今日は、大事な、”アビロン”の、クラス選抜の、日だって、いうのに 美春に、合わせると、いつも、こうなんだ、から・・・」 |
と、パンを加えた少女と一緒に走っている、もう一人の少女が、 息も切れ切れに呆れ気味に呟いた。 |
”アビロン”とは、「アビリティアスロン」の略であり 各々が持つアビリティを駆使して競い合う この世界独自のスポーツ競技のことである。 |
美春「ふぅ…、なんとか間に合った、かな?」 |
柚木「そう…みたい…ね」 |
結構余裕そうな美春とは対象的に、柚木は息も切れ切れに答えた。 |
すると、そんな会話をしている2人の前に 校門の影から一人の少女が現れた。 |
美春「あれ?きみは、確か同じクラスの…」 |
少女「…え~っと、その…あの…」 |
美春・柚木「???」 |
少女「ごめんなさい!!」 |
そういうと、美春のカバンを 奪って走っていってしまった。 |
いきなりのことで、 全く反応できなかった美春。 |
美春「えええぇぇぇぇぇぇ!?」 |
こうして、少女たちのどたばたな1日が始まったのであった・・・。 |
【Chapter1 宮野 優々】 美春 「優々ちゃん、ちょっと、待ってよ~」 優々 「ひ~ん、ごめんなさい~」 何故か謝りながら走って逃げ続ける優々と呼ばれた少女。 運動には自信のあった美春だが、優々には中々追いつけそうに無かった。 途中で柚木がついてきていないことに気づいたが、柚木だとついてくるのはキツイと思った美春は、そのまま優々を追うことに専念した。 そして、校舎裏へと入ったところで、優々が急に立ち止まり美春の方を向いた。 美春 「っとっとと」 少しつんのめりながらも美春も止まる。 すると、 優々 「ほ、本当にごめんなさい。これ、お返しします」 と言って、あっさりとカバンを美春に返した。 美春 「あ、ありがとう」 よくわからないうちに自分のカバンを受け取り、なぜかお礼を言ってしまう。しかし、優々が次に発した言葉でさらに事態が飲み込めなくなる美春。 優々 「ごめんなさいのついでなのですが・・・私とアビロンで勝負してください」 美春 「えっ? ええぇっ!?」 そうして、美春が事態を飲み込めていないうちに戦いが始まった・・・ |
【Chapter2 五木 彩】 優々を追って駆け出す美春。 それに少し遅れて柚木も駆け出そうとするが、一瞬クラッとしてしまい、こけそうになる。 柚木 「あれ?」 戸惑いながらもなんとか踏ん張り、再び駆け出そうとしたところにクラスメイトの彩が、弱々しい足取りでふらふらと目の前に現れ座り込んでしまった。 柚木 「だ、大丈夫!?」 目の前の体調が悪そうな彩に駆け寄る。 近寄った時に、柚木は少し違和感を覚えたが、彩に注意がいっていたため、特に気にはしなかった。 柚木 「どうしたの?」 彩 「あぁ・・・持病のしゃくが・・・、すみませんが、保健室まで連れて行ってもらえますか?」 柚木 「ええ、わかったわ」 美春のことも心配だが、目の前の彩をそのままにしておくわけにもいかず保健室へ連れて行くことにした。 しかし、柚木もまだ学校に慣れていないので保健室の場所に自信がなくとりあえず、彩の誘導に従って移動する。 そして、中庭にさしかかったあたりで、柚木はまたクラッときて、こけそうになる。が、なんとか踏ん張ってこけずに済む。 彩 「なかなか、いいバランス感覚をお持ちですね」 彩の声が、少し離れた場所から聞こえる。そして、彩が傍にいないことに気づく。 声のした方向を見てみると、中庭の少し離れたところに彩が立っていた。が、その周りからはうっすらと白い霧が立ち込めていた。 柚木 「なるほど、そういうことね」 彩 「すみません、こうしないといけなかったので」 柚木はこれから何が始まるかを理解した。 そして、戦いが始まった・・・ |
【Chapter3 清水 美緒】 優々 「ご、ごめんね、本当にごめんね」 美春 「うぅん、全然気にしてないから大丈夫だよ~」 なんだかんだで勝負を終えて、一緒に教室に帰ってきた美春と優々。教室に向かう間、優々に事情を聞こうとしたが、実は、優々もよくわからないらしい。 教室に入り自席に着くと、今度は美緒が話しかけてきた。 美緒 「あ、美春ちゃん、ちょっと悪いんやけど、ちょっとしたテストにつきあってくれへんかな?」 美春 「え? わたし??」 と美春がちょっと戸惑っていると、 美緒 「美春ちゃんのアビリティやったら、周りのもん壊さんで済むやろうと思ってな」 美春 「う~ん・・・」 美緒 「終わったら、学食でクリームパン1個おごるさかい。な、この通り頼むわ」 美春 「本当!? じゃあ、手伝う手伝うー」 と、あっさりと釣られてしまう美春。 美緒 「教室やとさすがに危ないさかい、体育館へ行こか」 美春 「らじゃ~」 体育館へと移動してきた二人。 美緒 「ちょっと待っててな、今準備するさかい」 少しして、準備が終わった美緒のその手に出来ていたモノはどうみても"ちょっとしたテスト"では、済みそうにないものだった。 美緒 「かんにんやで、結構強力やから全力で防御してなー」 と言って、攻撃態勢にうつる。 美春 「ちょ、ちょっと~!?」 と止める間もなく戦いが始まった・・・ |
【Chapter4 諸星 舞】 戦いが終わった後、本当に体調が悪くなった彩をちゃんと保健室につれていってから、教室に戻って来た柚木。 その際、美緒と一緒に教室から出て行く美春をみかけ、声をかけようかと思ったが、なんだか楽しそうな雰囲気だったので、後でも大丈夫か、と思い教室に入る柚木。 教室を見渡してみるも、全員いるわけでもなく、先生の姿も見えない。 自席に戻り、ちょうど近くにいた美津に聞いてみた。 聞いた話を要約すると、 ・先生方が緊急会議とかで今日のアビロン予選は延期、教室で各自"適当"に自習とのこと。 ・何人かの生徒は何か指示を受けていたということ。 ・指示の内容は、他の人には言ってはダメらしいこと。 ・逆に、何も指示を受けていない生徒もいるとのこと。 ということになっているらしい。 美津にお礼を言って、席で落ち着こうとすると入れ替わりにいつからいたのか、舞が声をかけてきた。 舞 「柚木さん、愛華様がお呼びですので、一緒に来て頂いてもよろしいでしょうか」 大体の事情を知った柚木には、すぐにまたアビロンをすることがわかった。さっき聞いた情報から、何かしら学園側の意図があるのだろうということで素直についていく柚木。 しかし、連れてこられた場所に愛華の姿はなかった。そしてようやく気づく、自分の本当の相手が誰なのかを・・・。 柚木 「もう、回りくどいんだから~。ちゃっちゃとはじめましょうか」 舞 「そうしていただけると、助かります」 そして、戦いが始まった・・・ |
【Chapter5 月見里 愛華】 結局、美緒の全力全開をお見舞いされた美春だったが、約束通りクリームパンはおごってもらえたので、何気に満足していた。 途中で用があるからと美緒とはわかれて、一人で教室に戻ってくる。が、教室の中は相変わらず人もまばらで、柚木の姿も見当たらない。 そのうち戻ってくるだろうと、特に気にすることなく席に着こうとしたところ、美津に声をかけられる。 美津 「美春ちゃん、さっき柚木ちゃんが探してたでござるよ」 美春 「あ、本当? 柚木、何か言ってた?」 美津 「うん、もし見かけたら中庭の方に来てって、伝えて欲しいと頼まれていたでござるよ」 それを聞いた美春は、何の疑いもなく美津にありがとうと言って、教室を出て行く。しかし、中庭にいたのは柚木ではなく愛華だった。 美春 「あれ? 愛華ちゃん、柚木みなかった?」 愛華 「残念でしたわね、ここには柚木さんはおりませんわ」 その言葉をきいてようやく事態を飲み込んだ美春。 美春 「う・・・、今日はなんだかそんな日なんだね・・・」 愛華 「ホホホ、覚悟も出来たところで、いきますわよ」 若干諦めた感じの美春をよそに、愛華は、どこから取り出したのかはわからないが金属の塊を変形させていく。 そして戦いが始まった・・・ |
【Chapter6 加賀 美津】 ふぅー、やれやれといった感じで教室に戻ってくる柚木。 舞とは、愛華様のところへ戻るといって、その場で別れてきた。 教室を見渡してみるも、相変わらず美春の姿は見当たらない。 柚木 「ふぅ、今日はなんとなくそういう日なのかな」 と、誰かと同じことを呟きつつ自席に座る。 すると外から戻ってきた美津が、柚木を見つけて声をかけてきた。 美津 「柚木さ~ん、美春さんが柚木さんを探してたでござるよ~」 柚木 「あ、美春、今どこにいるかわかる?」 美津 「さっき、体育館の辺りで見かけたでござるよ~」 柚木 「なるほど、体育館ね・・・。ありがと、行ってみる」 とお礼を言って教室を出て行く柚木だが、100%その言葉を信用していたわけではなかった。 そして、体育館に到着すると、そこにいたのは美春ではなく美津だった。 柚木 「や~っぱりね、そんなことだろうと思ってたわ」 美津 「そうでござるか~、気づかれていたでござるか~」 柚木 「まぁね、今日はそういう日みたいだからね」 美津 「それなら話は早いでござるな~」 そして、美津の雰囲気が一瞬で変わる。 美津「では、いくぞっ!」 柚木「!?」 一瞬戸惑った柚木だったが、直ぐに思考を切り替えた。 そして戦いが始まった・・・ |
【Chapter7 羽川 未来】 美春 「うぅ~・・・愛華ちゃんも手加減無しだったなぁ・・・」 柚木 「ふぅ~・・・まさか、美津さんがあんな・・・」 教室に向かって、廊下の反対側からぶつぶつと言いながら歩いてくる2人。そして、教室の前について、2人がそれぞれに気づく。 美春 「あっ! 柚木ぃ~」 柚木 「美春、やっと会えたー」 数時間ぶりの再会を祝う2人。既に時計の針は、お昼休みの時間をさしていた。 美春 「柚木~、お昼にしよう~」 柚木 「じゃあ、学食にいこうかー」 美春 「さんせ~」 そして学食に向かって歩き出そうとした瞬間、 ?? 「あ、美春ちゃん」 と、突然背後から声をかけられ、ビクッとしてしまう美春。その反応に逆にビックリしたのは、声の主である未来だった。 未来 「ど、どうしたの・・・?」 美春 「ご、ごめんね。今日は、声をかけられるたびに大変なことばっかりだったから・・・」 未来 「あはは、なるほどね。それなら話は早いね。お昼休み終わったら、体育館にきてねー。それじゃ、またあとで~」 美春が何か言おうとする前に、用件だけ伝えて去って行った未来。涙目になりながら何かを訴えるように隣の柚木に顔を向ける美春。柚木は、同情のまなざしと共に黙って美春の肩に手を置く・・・。 柚木 「とりあえず、何か食べようか」 美春 「うぅ、そうだね・・・」 柚木 「午後も忙しくなりそうね・・・」 そして、お昼休みが終わり、未来に言われたとおり体育館へとやってきた美春。 未来 「わざわざごめんね~」 美春 「い、いえ、だ、大丈夫です」 なぜか、未来に話すときは敬語になってしまう美春。その理由は、この後の未来を見てなんとなくわかる事になる。 未来 「それじゃ、始めましょうかー」 美春 「よろしくお願いします!」 そして、戦いが始まった・・・ |
【Chapter8 紫苑路 弥生】 さすがに、若干疲れた様子で教室に戻ってきた美春。 自席に着くと、柚木が寄ってきた。 柚木 「お疲れ様、どうだった?」 美春 「んぅ~、未来ちゃんすごかったよ~。わたしもあんな羽が欲しいなぁ」 柚木 「へぇ~、私もみてみたいな」 美春 「あ、でも、攻撃はものすごかったから、さすがの柚木でも、あれはキツイんじゃないかなぁ~」 という感じで他愛も無い会話を続けていた。 午後は何事も無く時間が経過し、放課後にさしかかろうとしていた。 柚木がそろそろ帰ろうかと、美春に声をかけようとするが、美春が見当たらないことに気づく。 しかし、美春のかばんは、まだ置いてあったのですぐ戻ってくるかなと考えていた。 その頃美春は、体育館にいた。 そして、美春の前には弥生が立っていた。 弥生 「わざわざすまんのぅ」 美春 「弥生ちゃんが、最後の相手ってことかな」 弥生 「うむ、どうやらそのようじゃよ」 美春 「アビロンのクラス選抜は延期になったのに なんだか、それぞれでアビロンをしてるけど、弥生ちゃんも理由を知らないの?」 弥生 「わしもこうしろと、指示をされただけじゃからのぅ。 まぁ、学校側の何かしらの意図があるのじゃろぅ」 美春 「そっかー」 弥生 「それじゃ、そろそろ始めるとするかの」 そして、美春にとって今日一番キツく長い戦いが始まった・・・ |