2009カノアプロジェクト(ブラジル・セアラ州アラカチ市)

今年(2009年)10月から来年の2月まで、ゼミの学生3人がブラジル・セアラ州のカノアケブラーダの漁村にボランティア活動をしにいく予定です。


CRIというNGO団体を通じて準備したプロジェクト案を下に掲載します。

プロジェクト概要

(1) 課題(ニーズ)― 2009年3月実施の事前調査でわかったこと
 当事業の対象となるブラジル北東部の漁村、エステーバン村には300人程の住民が生活している。わずか30年ほど前までは、伝統的な漁法での漁と家庭消費を満たす程度の農業、近くの森で採れる木の実の採取だけで生活をしていた村であるが、村のすぐ隣りに大きな観光地が生まれてからは、狩漁採集生活から貨幣経済へと急激に移行し、水道や電気も整備されるようになった。
 インフラが整って一見向上したかに見える村の生活であるが、漁業を始め伝統的な生活のあり方が失われつつあり、観光業の構造的最底辺に追いやられてわずかな現金収入のために酷使され、漁で得た魚も買い叩かれて貧しい生活を強いられている。大人の間ではアルコール中毒が蔓延し、村の子供たちは観光客との接点の中で犯罪に巻き込まれるケースが多い。たやすく入手できるようになったアルコールや麻薬に手を出す青少年も多く、売春まがいの行為で観光客から金を得る少女たちも出てきている。ストリートクライムと呼ばれる犯罪や麻薬、売買春はブラジルの抱える深刻な社会問題であるが、上に述べたような農・漁村部での「開発が生む影の側面」の結果だとも言える。
 当事業の計画立案にあたっては、今年3月に、当団体のスタッフ2名(代表およびサンパウロ支部のボランティアスタッフ)と15名の大学生(当事業で派遣予定の学生3名を含む)とで現地を訪れて7日間滞在し、現地の青少年グループとの共同作業ワークキャンプを実施し、村の必要としている課題について話し合った。(ワークキャンプの内容は、昨年、当団体が国際ボランティア貯金寄付金をえて現地に建設したコミュニティセンターを拠点に教育玩具や保育園の家具を作る作業であった)
 昨年生まれたばかりの現地青年グループは、コミュニティセンターで開かれる青少年対象の音楽教室や木工教室を中心になって運営しているが、グループへの参加者は特定化していて村の多くの青年を巻き込むことができていない。しかし、ワークキャンプ中は普段距離を置いていた青年たちも多く活動に参加し、村の自立に向けて若者がしなければいけないこと、学ばなければいけないことについての活発な議論が行なわれた。
 初等教育もまともに終えていない村の青年たちの多くが、どうすれば尊厳のある生活を守り、かつ充分な現金収入をえることができるようになるのか。また、青少年を犯罪、麻薬、売春の誘惑から守るにはどうしたらよいのか。そういったテーマについて話し合ううち、現在存在する青年グループを活性化することが大切であるとの結論に達した。そのためには、スポーツや音楽などの文化活動を振興することの他に、村が伝統的に守ってきた漁業の技術(特に漁船の修理・建築技術)の継承や、祖父母の世代までは活発だった(家庭での消費をまかなう程度の)農業の再生を行なうべきであるとも話し合われた。また、伝統的に早婚・早産であった村で、観光客との接点において少女が低年齢で独身の母親となるケースがとても多いため、未来設計をもった新しい家族像を描けるようになること、そのために必要な知識とコミュニケーション能力を身につけることが必要であるという点も話し合われた。

(2) 事業の目的(期待される効果)
 この事業の目的は、ブラジル北東部沿岸の漁村(エステーバン村)に日本人の若者を3人派遣することで、同年代の立場からの関わり(ピアエデュケーションのアプローチ)から地域の青年グループとともに漁業分野、農業分野、性教育分野の活動を実施し、また当団体の代表を派遣してファミリーライフ/キャリア教育を実施することにある。その結果、昨年生まれたばかりの村の青年グループの活動が活発になり、その活動に多くの青少年の参加が促され、それらの青少年の中から漁業や農業に関するリーダーが生まれ、村の将来を担うリーダーが育成されることが期待される。また、観光地と隣接している村が、麻薬や売春などのストリートクライムの誘惑から青少年や子供たちを守れるようになることも中長期の効果として期待される。

(3) 行政機関、他のNGO等の活動状況
 エステーバン村で保育・学童保育の活動を運営するNGO「クリアンサス・デ・ルス(光の子どもたち)」は、神奈川県出身の日本人スタッフ(鈴木真由美さん)が中心に活動する団体である。鈴木さんは、当団体のボランティアとして1998年よりブラジルでボランティアをした人で、サンパウロの活動地で1年間働いたあと、1999年よりエステーバン村で活動をしている。2005年までは当団体のスタッフとして働き、それ以降は自身の立ち上げたNGOを通じて活動している。2007年度、2008年度には、当団体の委託を受けて、コミュニティセンター建設と幼児教育者養成コースの国際ボランティア貯金助成事業を実施し、2009年度にも同助成事業で木工の工房を通じた職業訓練活動をコーディネートしている。今回の事業でも、アドバイザーとしての協力をいただくことになっている。
 当団体が昨年建設したコミュニティセンターを運営するのは、村の住民協会と、昨年立ち上がった村の青年グループである。エステーバン村住民協会は、30年ほど前に隣村の観光化が急激に進んだ当時、観光業者にエステーバン村を乗っ取られそうになったことをきっかけに生れたもので、村を特別政府保護地域として政府に認定させるなどの実績がある。コミュニティセンターの開設を機に昨年生まれた青年グループには、13歳から20歳までの青年13人が参加して演劇や音楽、木工の授業を受けるなどしているが、100人ほどいる同年齢の村の青年の大半は参加していないのが現状である。
エステーバン村があるのはアラカチ市の一画である。アラカチ市はファミリーヘルス・プログラムと保健指導員の制度を持っていて、隣村の保健ポストに医師や看護婦を派遣したり、貧しい家庭に保健指導員を派遣して訪問指導をさせたりしている。
 当該地域はセアラ州の州都フォルタレーザから186kmの場所に位置し、州都にはユニセフの北東ブラジル担当事務所がある。ユニセフは「初期の子ども時代」の改善と、青少年の健全育成を目指して州や市の政府へのアドボカシーやトレーニングをしている。今回のプロジェクトでは、ユニセフの協力をえてアラカチ市との連絡を深め、前述のファミリーヘルス・プログラムの医師や看護婦、保健指導員の協力を取り付けて村の青年へ向けたファミリーライフ/キャリア教育を実施することを目指している。

プロジェクト実施計画

(1) 事業の内容と実施方法
 本事業では、ブラジル北東部沿岸の漁村(エステーバン村)に日本人の若者を3人、6ヶ月間にわたって派遣することで、同年代の立場からの関わり(ピアエデュケーションのアプローチ)から地域の青年グループとともに村の青少年をターゲットとした活動を多角的に実施する。派遣する若者は、東海大学チャレンジセンターのプロジェクトとして当団体と協力して一連のマルチカルチャー・キャンプを企画している学生ボランティアスタッフで、当プロジェクトの立案のために今年3月に実施した現地事前調査にも参加したメンバーである。
現地の青年グループと一緒に実施する活動は、以下の①~③の活動である。
① 漁業分野(漁業とエコツーリズムの両立を目指す講習)
② 農業分野(保育園に緑黄野菜を提供する菜園作りと、村を砂害から守る果樹の植樹)
③ 性教育分野(ピア・カウンセリング―同年代同士の相互相談―スタイルの語りの会と、専門家を呼んだワークショップの開催)
このうち③の項目については、当団体の代表を現地に1週間派遣して、現地の市の保健局およびセアラ州の州都に事務所を置くUNICEFの協力をえてワークショップを開催する。それぞれの項目の活動内容については、以下のように計画している。

① 漁業分野
 学校をドロップアウトしていたり、すでに中学校を卒業している15~19歳の青少年を対象に伝統的な漁船を作る技術を伝える講習会を開催する。古くからこの村では伝統的な技術で漁船を作ってきたが、近年その技術を継承する青年がほとんどいなくなってしまった。そこで、この活動では、青年たちが2ヶ月かけて実際に漁船を1台作り、年齢によっては漁船の修理・修繕の仕方を学ぶ講習を実施することで、漁船を作る技術を継承してもらうことを目的とする。10月から始めて、12月半ばに始まる観光シーズンまでには仕上げるようにし、漁業に使うとともに、青年グループの企画・実施するエコツーリズム用にも使用できるようにして、村を訪れる観光客を対象に、観光業者に搾取されない形で村の青年が現金収入を得られる道を開くことに努める。
 そのためには、まず漁船を作成するための屋根を備えた作業場所を作り、月曜日から金曜日までの終日の午前中、漁船を作る技術を持った村のリーダーの一人を講師として迎えて作業を続ける。漁船が完成してからは、漁師を目指す青年たちが先輩の漁師と漁にでかけるために使用できるようにするとともに、エコツーリズムでも活用できるように青年グループが管理、運営する。

② 農業分野
 青年グループの中に農業委員会を作り、コミュニティセンターに隣接した土地に菜園を開いて保育園の給食で使う緑黄野菜を育て、また村の要所に果樹を植樹して果樹林(果樹並木)を育てることで、村を砂害から守り、かつ観光客のブギーカーなどに対して村の境界をはっきりさせることに役立てる。村の保育園に通う子どもたちの多くは栄養失調の診断を受けており、その背景には緑黄野菜の不足する食事の取り方に問題がある。村の幼稚園では給食を出しているので、そこで食習慣を改善することは可能であるが、この地域では緑黄野菜が高価であるために給食で充分に使うことができていない。
 菜園については、鶏や犬、ロバなどの外敵から野菜を守るため、棚を作りその上で野菜を栽培する土地の伝統的な方法を再生する。村の青年グループは、既に木工の工房を開いているので、そこの教室でこのための棚(たな)を作成してもらい、青年グループの中に農業委員会を作り、水やりなどの世話を分担して行う。青年以外の年齢の子ども達にも手伝ってもらうことで植物を育てることの喜びを学んでもらう。
果樹の植林については、青少年グループの農業委員会で果樹園の育て方(植える場所や面倒の見方)について研究しながら育てていく。苗木は現地で購入するが、それを植林するとともに新しい苗木も研究しながら自分たちで育てていくようにする。そうして育った苗木は、後々各家庭に配って植えてもらう。

③ 性教育分野
 観光地に隣接した村で生きることで「性」について混乱している村の青年たちを対象に、ピア・カウンセリング(同年代同士の相互相談)スタイルの「性と恋愛、結婚、子育て」などに関する「語りの会」を定期的に(およそ週に1度のペースで)開催し、その中で生まれた疑問に答えられるような専門家を呼んだワークショップも開催する。
「性」はこの村の青年たちにとってオープンに語ることが困難なテーマであるが、当団体の大学生スタッフが中心になって同年代同士で語り合う「語りの会」を開くことで、青年グループの中にその問題に取り組む姿勢を醸成する。12月には、性教育を専門分野とする当団体の代表を現地に派遣し、市の保健局のスタッフやUNICEFの専門家の協力もえてワークショップを実施する。「語りの会」は、ワークショップの事前準備としての村の青年の性の現状と問題点について把握する意味合いももたせる。必要に応じてアンケート調査も実施する。

(2) 実施体制
 本事業は、当団体の大学生ボランティア3人が中心になって実施するが、現地では現地NGO(クリアンサス・デ・ルス)の役員で当団体の委託を受けて様々なプロジェクトをコーディネートしている鈴木真由美さんの支援と指導を受ける。すべての活動は、現地の青年グループのメンバーと一緒に実施する。

(3) 実施場所
(添付の地図参照)

(4) 当事者の事業への参加
① 計画段階での参加
 前述(現状の課題の項)のように、当事業の計画立案にあたっては、今年3月に、当団体のスタッフ2名(代表およびサンパウロ支部のボランティアスタッフ)と15名の大学生(当事業で派遣予定の学生3名を含む)とで現地を訪れて7日間滞在し、現地の青少年グループとの共同作業ワークキャンプの中で、村の必要としている課題について話し合った。事前調査では、現地の村民、特に青年グループの中心的メンバーおよびその他の青年たちとの話し合いを中心に、セアラ州にあるユニセフ事務所の職員およびフォルタレーザ大学の医学部・心理学部の教授陣や、JICAサンパウロ事務所から漁村まで来てくれた職員との意見交換も行なった。

② 実施段階での参加
 事業の実施計画で述べたように、当事業は、すべて現地の青年グループとの協働で実施する。青年グループに常に参加しているメンバーは現状で13人と少ないが、この事業を通じて参加メンバーを増やし、村の若者の多くの力を集める継続的な活動に育てることが事業のそもそもの目標である。

③ 申請事業終了後の活動
項目(7)「助成対象期間後の計画」参照

(5)実施予定期日
2009年10月~2010年3月

(6) 実施日程
① 漁業分野の活動
2009年10月初旬  作業所の準備および材料の購入
2009年10月中旬  船の作製開始
2009年12月中旬  船の完成
2009年12月~2010年2月  完成した船を使った漁業、エコトゥーリズムの実施
2010年3月 事業の反省会開催

② 農業分野の活動
2009年10月初旬 菜園用の棚の材料購入・作製
2009年11月初旬 菜園の開始
2009年12月中旬 果樹の苗木購入・配布
2010年3月 事業の反省会開催

③ 性教育分野の活動
2009年10月初旬 「語りの会」の準備会議
2009年11月~2010年2月 週一回のミーティング(語りの会)開始
2009年12月中旬 小貫大輔の到着 ファミリーライフ/キャリア教育のワークショップ開催
2010年3月 事業の反省会開催

(7) 助成対象期間後の計画
 当事業は、青年グループの活性化のきっかけを作ろうというものであり、事業終了後の活動は当の青年グループが自ら実施していくことを前提としている。他方、現地には、当団体の現地事務を委託している現地団体があり、その役員(鈴木真由美さん)を通じて、事業終了後もこの青年グループ継続して支援していきたい。2010年8月には当団体代表と大学生15人程度で現地を再度訪問することを予定しており、青年グループとは息の長い交流を続け、支援していきたい。
最終更新:2009年07月17日 15:18
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