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口を開ける

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僕は口を開けようとする時、
物心ついて以来、まさに「くち」を開けていた。
食べるときも、話すときも、飲むときも、歌うときも、息も。

だけど、違ってた。
下あごの軸は、口よりずっと後ろにある。耳の裏あたり。
そこを支点にして、下あごをカパッと落としてみた。

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そしたら、開いた。
予想をはるかに超えて大きく開いた。

今まで僕が喉だと思っていたところは、舌の後ろ半分だった。
味わいが深くなった。
酒が染み渡る。

声帯と気管も開いた。
声帯は喉の上に向けるものではなくて、
まっすぐに口に向けて開くもんだった。
声が綺麗になった。

今までなんと力んでいたのかと思うと同時に、
数十年変わることのなかったイメージを、遥かに超えるこの世の豊かさを感じ、
これからが嬉しくなってきた。

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