雛苺と金糸雀が帰り、マスターの家はようやく静かになった。台所では蒼星石が夕食の用意をしている。

マスター「晩御飯なに?」
蒼星石「出来てからのお楽しみ。今日のは新作なんだよ」

新作料理と聞きマスターの期待は高まる。蒼星石の料理の上手さは折り紙つきだ。
ああ、毎日おいしいご飯が食べられるのっていいなあ……感慨にふけって完成を待つ。

蒼「出来ましたよ」
マ「どれ、どんな……」

ねじの切れた人形のように、動きを止めるマスター。食卓の上に並べられていたものは、およそ食物とは見分けがつかない。酸味のきいた異臭を放ち、形はグズグズ。
肉か魚かはかろうじて区別できるが、どのような調理法を用いたのかは見当もつかない。全ては茶色がかったクリーム色で塗りつぶされていた。

マ「あの、これは」
蒼「美味しそうでしょ?マスターの好きな乳酸菌をたっぷり使ってみたんだ。
  これはサンマのヤクルト煮。酸っぱい臭いがたまらないよね。こっちはチンゲン菜と鶏肉のヤクルトひたし。
  これはヨーグルトの炊き込みごはん……」
マ「え!?ちょっと、ヤクルトとかヨーグルトって、どういう」
蒼「ケフィアのほうが良かった?でもこっちのほうがL・カゼイ・シロタ株が豊富に……」
マ「ち、違う!俺何かした?」

マスターは焦る。頭が混乱しそうだ。一方蒼星石はずっと笑顔を絶やさない。

蒼「マスターの好きな人の好物じゃないですか」
マ「好きな人って」
蒼「違うんですか?昼間、あんなに水銀燈と見つめあっていたのに」

笑顔の中に殺気がこもる。昼間のことを怒っているのか……。水銀燈の色仕掛けに落ちそうになったことを後悔した。

マ「違う、誤解だ。俺が好きなのは水銀燈じゃなくて」
蒼「なくて?」
マ「……目の前にいる人です」
蒼「だれですか?」
マ「う……蒼星石です」
蒼「僕のことが?」
マ「蒼星石のことが好きです……もう勘弁してよ」

笑顔から殺気が消えた。緊急事態のためこれ以上なく鋭敏になっていたマスターの感覚は、敏感にそれを捉える。
安心してため息をつく。

蒼「マスター?あれは水銀燈のいつもの手なんだからね。ホイホイ引っかかっちゃダメだよ」
マ「ハイ……」
蒼「……あまり僕を不安にさせないで……。水銀燈のほうが魅力的なのは分かってるけど……」
マ「そんなことはない!俺にとっては蒼星石のほうがずっと魅力的だ」

蒼星石は嬉しそうに笑う。

蒼「ふふ、ありがとう。マスターの気持ちはよくわかったよ」
マ「じゃあ……」
蒼「これ食べたら許してあげる」
マ「え、そんな」
蒼「……食べたくない?そっか、やっぱり僕の乳酸菌より、水銀燈の乳酸菌のほうがいいんだ……」
マ「誰の乳酸菌って問題じゃ」

蒼星石は下を向いて肩を震わせてる。やばい、泣いてしまうぞこれは。

マ「……食べます、喜んで」
蒼「本当?良かった!」

パッと顔をあげる。泣いてないじゃないかチクショウ。しかし口から出た言葉は取り戻せない。

蒼「さあ召し上がれマスター。見た目と味はアレだけど栄養はたっぷりだから♪」
マ「いただきます……」

マスターの戦いはこれからだ……








翌日、マスターは快便だった。


                              「後日談」完