翠「そう言えば蒼星石はどこに隠れてたんですか?」
 蒼「えっ、なんでそんな事を聞くのさ?」
 翠「せっかく頑張って隠れたのに翠星石が騒いだせいで見つかったなら申し訳ねえです。」
 蒼「気にしなくていいんだよ、どうせすぐに見つかりそうな場所だったし。」
 翠「本当ですか?気を使わなくてもいいんですよ。」
 蒼「本当だよ。その・・・クローゼットの中だから。」
 翠「また基本中の基本と言うか、蒼星石にしてはひねりの無い場所ですね。
   あれですか、裏を掻いた作戦ってやつですか?」
 蒼「ううん、本当はいい場所が無いか探してて入っただけなんだけど・・・」
 翠「けど?」
 蒼「なんか・・・マスターの匂いがするなあって思ったら、出られなくて、気付いたら時間で・・・」
 翠「へぇ・・・。」
 蒼「なんていうのかなあ、よく聞くけど寒い日になかなかあたたかい布団から出られない感じかもね。
   はは・・・最近はあんまり・・・だったから。あ、君と僕だけの秘密だからね!
   マスターにだって言っちゃ駄目だよ、いいね!!」
 翠「・・・分かりましたよ。」



 蒼「お待たせ。」

  着替え終わった翠星石が蒼星石と一緒に出てきた。

 マ「いえいえ、じゃあ他のみんなを探しに行こうか。」
 翠「ほら!時間が無いんですからキビキビ動けです!」

  やけに不機嫌な翠星石に急かされる。

 マ「そうは言うけどさ、翠星石を待ってたんだよ?」
 翠「黙れです!じゃあ手伝ってその分を挽回してやるからついて来いです!!」
 マ「はーい。」
 蒼「・・・・・・。」

  カリカリした翠星石に引き連れられる格好で隣の部屋を探す。
  ここで隠れられそうな場所というと、テーブルの下やカーテンの陰、後は家具で出来た死角あたりか。

 翠「あっ!!」
 蒼「どうしたの?」
 翠「これを見ろです。」
 マ「これは・・・黒い羽根だ。」

  翠星石が指差す先には黒い羽根が点々と落ちていた。

 翠「水銀燈はこの先ですね。こんな間抜けな理由で見つかるとは馬鹿な奴です。」

  翠星石が羽根を辿る。どうやらテーブルの下へと続いているようだが・・・。

 蒼「ねえマスター。」
 マ「んー?」
 蒼「いつもさ、彼女の羽根ってこんな風にぽろぽろ落ちてたっけ?」
 マ「無いよねえ。」

  それがかくれんぼの時だけ丁度こんな風に抜けたとも思わない。

 翠「あ!」
 マ「どうしたの?」

  抑えたような翠星石の叫び声。

 翠「こいつを見るです。」
 マ「洗濯カゴ・・・。」
 蒼「スズメじゃないんだからさ。」

  羽根の先、テーブルの下には竹製の洗濯カゴがぶら下がっている。
  密に編みこまれていて大きさの割りに軽く、しかも頑丈というナイスな奴だ。
  恐らくは羽根を辿っていたら落ちるという仕掛けなんだろうが・・・。

 マ「いくらテーブルの下を這ってもさ、流石に大の男は入らないよね。」
 蒼「仮にかかってもどかせばいいだけだしね。」
 翠「二人ともそれだけですか?」
 マ「それだけ、ってのは?」
 翠「ふっ、二人ともまだまだですね。」
 蒼「と言うと?」
 翠「この罠を作動させるにはタイミングが命です。そしてこれを見やがれです!」
 マ「紐・・・。」
 翠「そうです、こいつを辿れば・・・」

  翠星石が紐伝いに移動する。
  どうやらその紐はカーテンのところから生えているようだ。

 蒼「しかし、このカゴもあからさまだよね。」
 マ「うん。水銀燈が本当に紐の先に居るのか・・・」

  突然目の前のカゴがぶらぶら揺れた。
  翠星石の方に目を戻すと紐をくいくいと引っ張っていた。

 翠「居ますよ。紐を反対側で持ってるみたいじゃないですか。」

  紐の反対側はしっかりと持たれているからか今以上の長さは姿を現さない。

 蒼「あのさ、もうちょっと慎重に動こうよ。」

  まったくだ、目の前で激しく揺れているカゴを見ながらそう思った。

 翠「そんな面倒な事してたら時間も無くなっちゃいますよ。
   ほら、出てきやがれです水銀燈!!」

  そう言ってぐっと紐を引っ張る翠星石。
  やはり紐の先は現れない。
  蒼星石と二人、固唾を飲んで次の展開を見守る。
  まさかとは思うが、辺りが静まり返っているためかなんだか緊張感がある。

 翠「えーい、無駄な抵抗をするなです!!」

  業を煮やした翠星石が全体重をかけて引っ張った。

    ぱっこん

 翠「ほげ!!」

  軽い音がして何かが翠星石のおでこにぶつかった。
  そのまま翠星石の体が後ろに倒れた。
  翠星石に命中した何かが床に落ちるとまた無音。
  しーんとする中で二人とも黙って見守っていると翠星石が頭を撫で撫で身を起こした。

 翠「あたた、なんですかぁ?」
 蒼「板だ。」
 マ「まな板だね。紙が貼ってある。」
 翠「何やら書いてありますね。」

  翠星石が板を手繰り寄せる。

  『おばかさぁん♪』

 蒼「・・・水銀燈が書いたみたいだね。」
 翠「きぃーー、バカにしくさってぇー!!」
 マ「どうやら板を窓に挟んでおいたらしいね。」

  板が飛んで来た方のサッシが僅かに開いていた。
  蒼星石達も見に来て頷く。

 翠「あ、あれを見て下さい!」
 蒼「黒い羽根だ。」
 翠「きっとこの上ですよ!」
 蒼「それって場外じゃないの?」
 マ「うーん、正直想定してなかったし微妙だな。」
 翠「グレーゾーンですし屋根の上で文字通り高みの見物してるかもしれませんよ?」

  言うなり翠星石が駆け足で鞄を持って来た。

 翠「翠星石がちょっくら見てきます!」

  止める間も無く窓から飛び出す。

 蒼「行ってらっしゃい。」
 マ「外は寒いだろうに元気だなあ。」
 蒼「罠・・・じゃないよね?まさか水銀燈に襲われたり・・・。」
 マ「ルールを文字通りに解釈すればそれもあり得るかもしれないのか。
   翠星石には能力で攻撃を仕掛けてもいいんだろうけど・・・大丈夫だと思うよ?」
 蒼「僕も一緒に行けば良かったかな・・・。」
 マ「気持ちは分かるけれど落ち着いて。多分、翠星石は水銀燈には会えないから。」
 蒼「えっ?」

  蒼星石が不安げに待っていると、はたして翠星石はすぐに戻って来た。

 翠「ダメです。影も形も見えません。」
 マ「やっぱ居なかったんだ。」
 翠「ひょっとしたらどこか他のところから家の中に逃げ込んだのかも・・・。」
 蒼「そっか、でも無事で良かったよ。」
 翠「このまま舐められたままじゃ我慢なりません!
   ほれ、グズ人間!手伝ってやるから早く次の場所へ探しに行きましょう。」

  翠星石がすごい顔をして急かす。
  どうやらさっきのに引っかかったのが屈辱らしい。

 マ「んー、ちょっと待った。」
 蒼「どうしたの?」
 マ「ちょっとした余興ですよ。はい、何も入っていませんね?」

  先程の騒ぎで床に落ちていたカゴを引き寄せると持ち上げる。
  もちろん床には何も無い。

 蒼「うん・・・無いけど。」
 翠「えーい、何を手品ごっこしてるんですか。さっさと移動です!」
 マ「まあまあ、ここで一旦カゴを下ろして呪文を唱えます。」
 蒼「呪文?」
 マ「うーん・・・ねあんでるたーる、ねあんでるたーる・・・くろまによーんくろまによーん・・・」
 翠「そんな原始的な呪文で何が出来るんですか?」
 蒼「その呪文、今考えなかった?」
 マ「まあまあ。で、そっとカゴを持ち上げると・・・」
 翠「ええっ!?」
 蒼「あっ!?」

  驚愕する二人の眼前には床に腰を下ろし、憮然として膝を抱いている水銀燈の姿があった。

 マ「ご協力に感謝♪」
 銀「あなた、気づいてたんでしょ?」
 マ「そりゃあね。」
 銀「ふん、カゴの中に居るのがばれた以上、中にへばりついた無様なところを見つかるよりマシよぉ。」
 マ「かもね。」
 蒼「そうか・・・最初からカゴの中に潜んでいたのか。」
 銀「そう。それで見え見えの馬鹿げた悪戯に見せかけて調べる気も起こさせない・・・はずだった。
   異様に食いついてきた誰かさんの所為か見つかっちゃったけどね。」
 翠「そういや、何で気が付いたんですか?」
 マ「翠星石が紐を揺すぶってカゴもあれだけ激しく揺れてたよね?
   それが直後に床に落ちて綺麗に立つのはまああり得るけど、あんな静かにってのは不自然だからね。」
 蒼「そう言えば・・・カゴが着地したはずなのに何も音がしなかったね。」
 マ「本来なら落ちた後もしばらくカタついて音も出るんだろうけどね。
   揺れが激しくってカゴが倒れかねないから水銀燈が飛んで支えながら降りた、ってところかな。
   カゴが倒れて注意が向いたら片付けられたり、調べられたりで見つかる恐れがある。」
 銀「・・・ご明察。ガサツな翠星石の所為で見つかったようなものね。」
 翠「なんですってぇ!?」
 銀「あらぁ、事実じゃない。」

  水銀燈が小ばかにしたように言う。

 マ「ケンカはしないでね。」

  流石にそんな理由で無駄な時間を食いたくない。

 翠「ふっ・・・つまり、翠星石が居なきゃ見つからなかったなら翠星石がMVPって事ですね♪」

  何故か翠星石の顔に勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。

 マ「機嫌・・・直っちゃったね。」
 蒼「なんという前向きな・・・。」
 銀「あんたには負けたわぁ。」
 翠「まあ当然ですがね、もっと褒めてもいいですよ。」

  三人からの疑問のまなざしを受けつつ、翠星石は得意気にしていた。


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