目の前で崩れ落ちるマスター

ボクは血濡れのハサミを捨て、マスターを抱きしめる

「そんな・・マスター!?」

涙が止まらない
なんで・・なんでこんなことに!?

激痛にマスターが顔をゆがませる

「ガッ・・ゴホッ・・カッ・・やっぱ・・こりゃ痛いわ・・ハハ・・」

それでも無理して笑ってみせる

「やだ!嫌だよ!ボクが見たいマスターの笑顔は・・そんな笑顔じゃないよ!
そんなのじゃ・・無いよっ!」

泣きじゃくってマスターの首にすがりつく

「ごっ・・めんな・・迷惑かけてばっかだったろ・・?俺・・っえほっ、げほ」

見る見るマスターの腹部に血が滲んでいく
手当て・・早くここから抜け出して手当てしなきゃ!!

「そんなこと無いよ!マスターはボクに色んな物をくれたよ!温もりも・・幸せも全部もらったよ!
でもまだお返し出来てないんだよ!マスターにもらった色んな物・・お返し出来て無いのに!
嫌だよ!ボク・・こんな形でお別れなんて、絶対やだぁ!」

もう体裁なんて気にしない
ダダっ子の様に首を横に振りながら涙を撒き散らす

するとマスターの温かい手が頬に触れた

「いや、もらったよ・・たく、さん、蒼・・からっ・・もらった・・もう・・充分すぎ、るくらい・・に・・
そのお返し、に・・ピクニック行こう、と思ったのに・・ご、ごめ、、ごふっ!がっ!かはっ!」

マスターの咳き込みがより酷くなる

「マスター・・ボクは・・ボクは彼女を赦せそうに無い。」

ボクは血濡れのハサミを拾って水銀燈に向き直る
水銀燈はしりもちをついたまま呆然とコチラを見ていた
よほど予想外だったのだろうか

「ダメだ・・蒼・・っ・・その娘を・・壊しちゃ・・いけな・・いっ・・」

マスターはそう言うと電池が切れたかのように倒れる

ー水銀燈は俺の嫁!?ー

耳を疑った

どうして?

こんなことまでされて、まだあなたあの娘を想うの?
なんで?どうして?

わからない・・ぼくはっ・・ぼくはどうすればいいのっ?

教えてよ・・そんなとこで眠ってないで・・マスター?

ボクは・・ボクは・・

あなたの・・言いつけを

ーLast Stageー

初めて 守れないかも しれない

「水銀燈おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「くっ!何よ何よ!その男が勝手にそのハサミで刺されたんでしょぉ!?」

水銀燈が座ったまま後ずさりしながら必死に叫んでいる
でも何も聞こえない

ボクの目の前に居るのはもう姉なんかではない
ボクから全てを奪った罪人だ

その言葉なんて、毒にしかならない。

「こ・・来ないでよ!イヤ・・来ないで!くっ来るなああああああああ!」

巨大な黒翼が全力でボクめがけて放たれる

「邪魔だァアアアアアアアッ!」

邪魔

邪魔邪魔邪魔

邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔

「ひっ」

ボクはすぐに水銀燈の目の前までたどりつき、ハサミを振り上げた
慈悲なんか無い、こいつは敵だ

こいつはっ・・

「おやめなさい蒼星石!」

薔薇の尻尾がボクのカラダに直撃し、吹き飛ばされる

「あっぐ!?」

「大丈夫ですか蒼星石!?」

翠星石が駆け出してくる

「ひでぇですよ真紅!何もこんな暴力的な方法でとめなくても良かったです!」

「あら、あの状態じゃ声だけで止めろといった方が無茶だわ。」

真紅も遅れてボクの元にやってくる

ボクも水銀燈も呆気にとられていた

「え・・えっと・・一体何を?」

「あなたはそのマスターの『壊すな』という命令を忘れたのかしら?」

真紅が諭すように言った
何故君がそれを知って・・?

「わ・・忘れたわけじゃない!でも・・彼女は!彼女は!」

「あのマスターがあなたに『壊すな』と命令したのはきっと水銀燈のためじゃないわ」

真紅の表情が柔らかになっていく
家出したボクを諭した時と同じだ

「え・・?」

「あなたに・・姉を壊したという辛い錘を背負ってもらいたくなかったからでしょうね。」

「馬鹿な・・ボクらはローゼンメイデンだ!戦いに勝ったことが錘になるはずがないッ!」

「私達はそう思うわね、でもあの子は違うでしょう?」

真紅がマスターの方を見る

「私が今してるのはあなたの話じゃないわ、あの子がどう思ってるかということ。」

あ・・・

「どう?それでもあなたは水銀燈を壊すの?あの子の想いを無視してまで?」

あ・・あ・・

気付けば枯れたはずの涙がまたボロボロ流れていた

「それに、あの子は早く手当てしてあげなくちゃいけないんじゃなくて?」


「あなたなら一番に考えそうな事を無視してあなたは仇に向かっていった
でもそれはあの子の為にはならないわ、所詮は・・自分のために戦っていたにすぎないわね。」

「ボクは・・ボクはっ!マスター!」

「落ち着きなさい、あの子はもうジュンと雛苺が連れて行ったわ、今頃は病院でしょう。
そして安心して、ジュンが色々診ていたけど脈もあるしまだ大丈夫そうよ。」

涙が止まらない
マスターの想いを・・捨ててまでたかが自分のために・・敵討ちだと粋がって!
ボクは何をしてるんだ・・っ!

「でも・・真紅・・何故ここに・・?それにマスターの事も。」

「未だに釈然としないけど・・あのイタズラ兎の仕業なのだわ。」

「ブラボゥ!」

突然高らかな拍手が耳に響く
そしてその拍手の主がカサを使って小高い塔からゆっくりと下りてきた

「いやぁ姉妹の絆に主従の絆、実にブラボゥ!素晴らしいものですね!」

ニヤニヤと笑いながら兎頭の紳士が近づいてくる

「ラプラス・・っ!?」

「ね、釈然としないでしょう?」

あからさまな敵意をこめた表情で真紅が言った

「いえいえ、私はあくまで物語の行く末を見守る一匹のウサギ。悪魔の甘言は申しません。」

「一体どういうことだい・・?」

このウサギ頭は前から気に入らない
何かといつも騒動の原因はこのイタズラ兎にあるからだ

「お父様はもう争いをやめて欲しい、と彼に言ったそうなの。」

「!?」

「ブラボゥ!その通りです!貴方達姉妹が傷つく姿にお父様はこれ以上耐えられなくなったのです!
アリスになる方法は何も戦いだけでは無い!お父様はそうおっしゃっていました。だから貴女方をこと
最後の戦いのフィールドにご案内を・・フフ。」

「ははっ、何とも胡散臭いね。」

というかウソにしか聞こえない

「私たちも罠かと思ったわ・・でも・・」

真紅が俯きがちで言った

「ええ、ウサギ如きの戯言は皆さん信じてもらえないでしょうから、扉を用意させてもらったのですよ
こちらに・・ね?」

ラプラスがそう言い、中空に手をかざすと古びた重たげな扉が現れる
そしてラプラスが指をはじくとその扉がギギギ・・という音を奏で開かれた

「お・・お父様!?」

ボクと水銀燈が同時に叫ぶ

そう、扉の中には背の高い金髪の男性がこちらに背を向けて座っていた
かすかに見える横顔から取れる表情は・・朗らかな笑顔

「お父様!お父様あぁぁああああ!」

水銀燈が羽を広げ飛んでいくとその扉は閉ざされた

「残念無念・・彼が手を差し伸べるのはアリスになった者だけ・・フフ・・」

「お父様は・・笑っていた?」

ボクは呆然と立ち尽くしたままそう呟いた

「ええ、姉妹を戦いというしがらみから開放できた・・と喜んでおられますよ。」

正直あんなものを見せられたら信じざるをえない
もしあのような感じで『戦わずにいつまでもアリスが現れない』と言っていたら
ボクは戦いに身を捧げてしまうだろう

「さ、水銀燈?あなたはどうするの?これでもまだ戦うつもり?」

「・・ふん!お父様が言うなら私は引くけど・・真紅?あなたへの私怨が尽きたつもりはないわ
いつか必ず・・あなたはジャンクにするから。」

邪悪な表情を見せ付けると水銀燈は羽を広げ宙へ舞った

「それと」

水銀燈は背を向けたまま呟く

「あの男に『ざまぁ見ろ』と言っておいて」

それだけ言い残すと水銀燈は空の彼方へ消えていった

「ちょ・・待つですぅ!あんなことしておいて・・それだけですかぁ!?」

「やめなよ、翠星石。」

ボクは翠星石の肩を掴んでなだめた

「なっ・・どうしたですか蒼星石!?マスターのことを悪く言われてるのにどうしてそんな落ち着いてるんです!?」

ふふっ・・翠星石にはわかんないよね
大丈夫、君の気持ち・・ボクにはわかったから

「翠星石と水銀燈って似てるよね?」

ボクがニコニコしながらそう言うと
翠星石は不快感をあらわにして叫んだ

「きーっ!何をふざけた事いうですか!あの性悪人形とどこが似ているっていうですか!?
酷いですぅ!」

「やれやれ・・さぁ帰りましょう。あの子の容態も心配なのだわ。」

真紅が現実世界への扉を開いた

「あっ・・そうだ!マスターっ!」

急にマスターが心配になり、一番にその扉を抜けて出た
マスター・・無事でいて!お願いっ!

「まったく・・さっき無事だと言ったのにあの子は・・よほど心配なのね。」

「むっ!そんなことないですぅ!きっと別の用事があるですよ!!」

二人も遅れて扉に入って行く


  •   ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・

「ふぅ・・あんな三文芝居でよろしかったでしょうか?」

決して綺麗とはいえない埃塗れの小部屋にラプラスは立ち
金髪の男に声をかけた

「問題ないさ・・あれで彼女達は力を失う。」

声をかけられた金髪の男が不適に笑った

「しかし逆に姉妹同士が結託し厄介になるのでは?」

ラプラスがそう忠告するが金髪の男は逆に不適な笑みを浮かばせて見せた

「ふふっ・・戦いを忘れたドール如きに遅れをとるほど私の娘は脆弱では無いよ。」

男はそう言いながら胸に抱いた人形の紫の綺麗な髪を撫でる

「ローゼン・・私が貴方を超えるのはもうすぐだ・・どこかも解らぬ世界で何も出来ずに・・
貴方の作品が朽ち、消えていくのを待ってるんだな・・くく・・ははは・・」

男が声をあげて笑うのと同時に
ラプラスの口も上に吊り上がり怪し気に笑った

それは金髪の男、『槐』の笑みの意味とはまた違うモノであったが・・


  •   ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・

「マスターっ!!」

手術後の俺の胸に蒼は容赦無く飛び掛ってきた

「ごふっ!手術直後なんだから・・もうちょっと加減してくれると・・嬉しい・・かな?」

俺は震えた声で訴えたが蒼は聞く耳もたず俺の首に抱きついた

「嫌だよ・・あんなに心配させて・・これは、お仕置きだから。」

うう・・周りでジュンくんや真紅たちが見てるのに・・
翠星石さんなんかはあからさまな敵意・・いや殺意をこっちに向けてるじゃないか!

「さ、そろそろ私たちはお邪魔のようね、出ましょう。」

空気を読んで真紅たちが退室した
翠星石さんは最後までゴネていたが最終的には納得して出てってくれた

「本当、ごめんな?蒼・・」

静かになった病室で俺は抱きつき泣く蒼に呟いた
所詮はドールのハサミだったからか俺の傷はそこまで深くなく
すぐ退院できるレベルらしい。

「んーん・・良いんだ、今こうやってマスターの温もりを感じれるんだから・・
でもどうしてあんなこと・・したの?ただ剣を捨てるだけでよかったじゃない。」

「ああ、そうだ。その事でさ・・気付いたんだよ。」

俺は首に抱きつく蒼を剥がして真っ直ぐ眼を見る

「こっからの話、マジメに聞いてな?」

「う、うん・・」

見つめあうのが恥ずかしいのか頬を染める蒼

「俺ずっとウソついてたんだと思う。」

「・・?」

そう、あの時気付いたんだ。

きっと

「俺、・・お前の事が好きだ。」

蒼がポカーンとした顔をする

「もちろん銀様も好きだよ?でもいつしかお前ばっかり気にするようになってた。
いやもう最初からお前の虜だったのかもな・・ああやって雨の中駆けていったり。

でも、それでも俺は銀様が好きだったわけよ。だからお前へのこの気持ちを吹っ切ろうとしちまった
だからお前に銀様の話ばっかりしたり・・ああやって酷い言葉を言って家出させちゃったり

それであの剣さ、正直どうして良いか迷った。
お前も銀様も俺は大好きで・・剣を捨てて放棄すれば銀様は悲しむだろうし
けどお前の胸に剣を突き立てるなんて絶対出来ない。

だからああやってハサミを自分に突き刺したんだ、ああすれば全員納得すると思ったんだけど・・
結果的には一番2人を傷つけちゃう行動だったな・・

でもさ、あの朦朧とした意識の中で必死にすがりつくお前を見て思ったんだ

俺にはこの娘が・・お前が必要だって。

だから・・大好きだよ。銀様より・・誰よりお前を」

「愛してる」

気付けば俺も蒼も涙を流していた

「ずっと・・待ってたんだよ・・」

蒼が俯いて嗚咽を漏らしながら言った

「夢の中で何度も何度も待ってた・・その言葉・・」

蒼がまた俺に飛びついてくる

「マスター・・ボクも・・マスターのことが大好きです。
これからは・・ドールとしてじゃなくて一人の女の子として・・見てくれ、ますか?
ずっと一緒に・・居てくれますか?」

真っ赤な顔で照れながらも眼を背けず言った

「ああ、ずっと一緒だよ。」

そう言うと蒼は眼を強く瞑って唇を突き出すような仕草をした
こ、これは・・ま、まさか・・

おっけーってことですか!?

俺は理性なぞ完全に吹き飛ばしてその唇を奪った

やわらかい感触が脳を支配する

キスするのはこれで2回目だけど・・

あの時とは全然違う、甘く長いキス

その心地良さに浸っていると突然扉がガラッと開かれた

「ゆ・・ゆ・・赦さんです!告白までは多めに見ましたがく・・唇を奪うなんて・・っ!
赦せるハズがねぇです!殺してやる!殺してやるですぅぅぅうううう!」

俺と蒼星石は余韻をかみ締めるヒマもなく咄嗟に離れる

開いた扉の向こうには物騒なことを言って騒ぐ翠星石と
必死にそれを止めるジュンくん達の姿があった

「おい!静かにしろって!ここは病院だぞ!」

「知らんですぅ!その男だけは殺す!絶対殺してやるですぅ!」

「落ち着いて翠星石ちゃん!手術した後なんだから本当に死んじゃうわ!」

「キーッ!あのままハサミで貫かれて死ねばよかったですよぉ!
いいですか変態人間!翠星石はお前が蒼星石の恋人・・いえ!マスターだなんて!
ぜえええええええええええったい認めないですからねええええええええええ!!!!」

翠星石はそう捨て台詞を吐くとジュンくん達に引きずられて消えていった

「なんか物凄いこと言ってたんですけど・・」

「ふふ、これから大変だね。」

蒼星石は楽しそうに言った

「おいおい、なんでそんな微笑んでられるんですか・・・」

「だって・・」

「大変だけど、その分幸せな生活がこれから待ってるからね♪」

今まで見たこと無いほど明るい笑顔で蒼星石が言った。


To be continued ... →→→