「いやぁ快晴だ。」

「良い天気だね。」

「雲ひとつ無いな。」

「そうだね。」

「というか何のイベントも無いな。」

「・・・・。」

「なんで銀様はさっぱり現れないんだよぉおおおおおおおおおお!」

(マスターが居るからじゃ・・)


ー水銀燈は俺の嫁!? 4th stage ー


なんだかんだで俺と蒼は出会ってから一ヶ月以上・・二ヶ月になるかな?ぐらい経った気がする
そりゃもう一人だった頃より楽しく幸せな生活を送れている

仕事から帰ってきて、玄関をあけるとぱたぱたと可愛い足音を立て
待ち侘びた様に満面の笑みを浮かべて「おかえり」とこんなに可愛い娘が声をかけてくれて

食卓には美味しいご飯の数々、「美味しいよ」と言うとテレながらも喜んでくれる
きっと現代成人男性の8割はこんな幸せを経験して無いと言えよう

でも!

でもでも!

俺はこういう生活を銀様としたかったのよぉおおおお!

仕事から帰ってきて、玄関を開けても誰もおらず!ため息をついてリビングに行くとそっぽ向いた銀様が居て!
「・・遅い。いつまで待たせるのよ。」と寂しそうに背中を向いたまま言われて!

だが悪態をつきながらもしっかりご飯は作ってあり!「美味しいよ」というと「ばっかじゃなぁい・・ふん」とか言ってまだスネてて!
「食べさせてあげるよ、あーん」というと顔を真っ赤にしてそっぽ向いて「ほ・・ほんとにほんとにおばかさぁん!!
人間如きとそんなことするわけ無いじゃないの!」

「あーん」

「だっ・・だからしないって・・」

銀様は背を向けたまま言う

「そっか・・」

とちょっと寂しそうに俺が言うと

「あ・・」みたいな顔をして振り向いたところに
すかさずスプーンをさしこんで!

「も・・もう!知らないんだからぁ!」

って言ってそっぽ向いちゃって
後ろ向いてるから見えないんだけど実は嬉しそうな顔をしてたりなんかして!

「あ・・あの・・マスター大丈夫?」

はっと我に返る
いつの間にか妄想を口に出してしまってたみたいだ

「あっ・・ごめんごめんついつい盛り上がって・・」

罪滅ぼしの様に俺は蒼を持ち上げて撫でてあげる

もちろん俺だって蒼が一人の女の子だという事も自覚してる
自惚れかも知れないが一緒に暮らしているのに、他の娘と一緒に暮らしたいというのは失礼だろう

「マスターはさ・・やっぱりまだ水銀燈のマスターに・・なりたいの?」

ちょっとしゅんとした感じで蒼が呟く

「ああ、もちろんその上でお前も蔑ろにしないよ、約束だしな。」

より強くその頭をわしゃわしゃと撫でてあげる
いつもはそうすると嬉しそうにはにかむのだが今日は違った
どんどん寂しそうにするばかりだ

思えば蒼も良く耐えてきたと思う
俺は蒼に水銀燈ほ話ばかりしてきてしまった

あまり好きではないだろうに思い出話も聞かせてもらったり、どういう娘かとか聞いたり
正直気持ちの良いものじゃなかったと思う

それでもずっとついてきてくれたんだもんなぁ・・
なんか償いとかできないかな・・・そうだ。

「なぁ、蒼?」

「なぁに?」

「明日ちょっとピクニックでも行かないか?」

暗かった蒼の表情が少し緩む

「あ・・う・・嬉しいんだけどさ、でもボクの姿が曝されちゃうと・・」

またしゅんとした表情になってしまう

「大丈夫、とっておきの場所があるから・・ね?」

その頭を三度撫でてやるといつものように嬉しそうにはにかんだ

「う・・うん!ありがと、マスター・・。」

蒼は眼を瞑って喜びを隠す様に静かに言った


  •    ・   ・   ・   ・   ・   ・   ・   ・   ・   ・   ・   ・


おっおっおでかけ!ますたーと二人っきりでピクニック!
考えただけで何故だか胸が躍ってしまう

うう・・この偏愛もマスターの影響なのかな・・

ボクのマスターへの想いは月日を重ねるうちに誤魔化しようの無いモノになっていた

だからこそ水銀燈が、水銀燈にばかり眼を奪われるマスターが憎い

ボクはこんなにもあなたを思っているのに・・

ってああ!何を言ってるんだボクは!
自分の感情なんかでマスターに迷惑かけちゃダメだ!ボクは・・ドールなんだから・・っ!

    • 今、マスターはお風呂に入ってる

今のうちに明日の準備しなきゃ!

今は水銀燈の事は考えるのはやめよう

ただ明日のピクニックのことを考えてよう

ああ本当に楽しみだ・・

早起きしてお弁当作って

レジャーシートの上でお弁当を広げて一緒に食べさせあって

マスターはきっと笑顔で「美味しいよ」って言ってくれる

で・・できたら・・あ・・「あーん」なんかも・・できたら・・っ!

う・・うああ・・は・・恥ずかしくて・・かっ・・顔がっ・・ぁうう・・



ガッシャーン!!!!



「!?」

お風呂場から大きな音が聞こえた

まさか・・?

「マスター!?だいじょ・・・?」

そこに既にマスターの姿はなく、代わりに眼前の巨大な鏡が光に包めれていた

「誘ってるつもりか水銀燈・・っ!」

マスターの純粋(?)な想いを利用してまで君は・・っ!
赦せない・・絶対赦せない!!

「水銀燈おおおおおおおおおおお!」

ボクは意を決して鏡の中に飛び込んでいく



「あらぁ?早かったじゃないのぉ、よっぽどこの子が心配ィ?」

廃墟の様な町のフィールド、そこの中央にそびえる小高い塔の上に水銀燈は居た
隣ではマスターが翼につかまれ助けを・・いやあれは興奮してるだけか・・

心配してきたけど思ったとおりで少し気が抜けてしまう

「さて蒼星石ぃ・・?取引とまいりましょ?」

くすくす笑いながら水銀燈が言った

「どうせボクのローザミスティカを渡せとかふざけたことを言うんだろう!」

「あら、渡さないのぉ?なら良いわ、このまま少し翼に力をこめるだけんなだからぁ・・」

マスターの表情が少しゆがむ
流石に苦しいみたいだ

「ま、待て!くそっ・・卑怯だぞ水銀燈ぉぉぉ!」

「吠えないの・・レディらしくないわよぉ?まぁあんたがこの変態を想ってるのは誰でも一目見ればわかるからねぇ・・
ただの力の媒介に・・はっ、ちゃんちゃらおかしいわね」

こいつだけは・・この女だけはっ

「そんな小細工をしないとボク一人ごときを倒す自信も無いっていうのかい。」

彼女はそこまで挑発に強くない
あからさまにムッとしたのがわかった

「最強のドールが聞いてあきれるね!人質を取らないとボク一人すら仕留められないのかって言ってるんだよ!
そんなだから・・ジャンクなんだよっ!行くよレンピカ!」

ボクはハサミを構えて一歩前へ・・出るっ

「小物風情がナメてんじゃないわよぉぉぉぉぉっ!」

それと同時に水銀燈が片翼で攻撃してくる
先手はこちらだ、そのままステップで左へ避ける

あのお風呂場の時とは違うっ

先手を取って行動に出れば・・勝つことも夢じゃないっ!

更に言うと今の水銀燈は激昂している!
このまま挑発し続ければいつかマスターを離す!

「ちっ・・接近されたら困るのよっ!」

片翼を自在に操る水銀燈
ぼくはそれを左に右によけて水銀燈に接近する

正直、遠距離では勝てる気がしない。攻撃の術が無いのだから。

だが接近すれば逆だ!あの小回りの効かない翼ではボクのハサミには敵わないし
彼女の剣術如きなら、軽くあしらえる!

「前から君が邪魔だったんだ、水銀燈ォォッ!」

「この男が私を想うから!?求めるから!?ずいぶん甘ちゃんになったじゃないのぉ!つまんなぁい!
つまんなぁいつまんなぁい!そんなの・・っつまんないわよぉぉぉっ!」

水銀燈の羽の嵐と翼の攻撃が激しさを増す
だが問題ない、怖いのは翼の直撃だけだ

羽の嵐なんて視界を遮る霧にすらならないっ!

ここら辺まで来たら水銀燈はしびれを切らしてマスターを離し
両翼でボクを攻撃するハズだ

チャンスは・・その一瞬!

「さぁもう後が無いぞ!どうする水銀燈!」

「生意気になったものね・・甘ちゃんのクセにぃぃっ!」

来た!両翼が容赦なくボクに向かって放たれ
マスターが中空に放り出される

「マスターっ!」

ボクは放たれた黒翼を踏み台にして思いっきり跳躍した
そして中空に投げ出されたマスターを・・キャッチする!

「うおお、王子様みたいでカッコイイぞ蒼星石!」

マスターが拍手をする
それ褒めてるのかけなしてるかわかんないし・・
つうかこんな時までこの人は・・

いや、こんな時だからこそ・・か。

マスターの笑顔はボクに勇気をくれる
今のボクは絶好調だ

今ならあの水銀燈にも・・勝てる!!

「決着をつけよう!水銀燈!」

「もうハンデは捨てたわぁっ!闇に埋もれて眠りなさぁい!!!おばかさぁん!!」

またも容赦ない翼がボクを襲うも、きれいなタイミングでよけて見せる
無駄だよ、無駄。今のボクにあたるはずが無い!

そして・・今ここで!君はボクの射程圏内だっ!

とっさに水銀燈が剣を持ち出す

「そんな付け焼刃の剣術でっ!」

ボクは反撃する隙をも与えないほどの連撃を加える
この猛攻に流石の水銀燈もたじろいだ

水銀燈の顔にはあきらかに焦りが浮かんでいる
「この娘・・こんなに強かったっけ?」という顔をしている

知らないのかな・・

想う人のためなら女の子はいつだって強くなれるんだよっ!

心の中でそう思い、ガラじゃないなと微笑する。

その他愛ない笑みさえ!

今の水銀燈には!

不適に笑う策士に見えるのだろう!

動揺したせいかどんどん剣術に粗が出始める

そして柄の部分を狙い・・

「くらえェッ!」

剣をはじき落とした!振動が手に伝わり不快な顔をする水銀燈
そして咄嗟に彼女に飛び掛り、首筋にハサミを押し付けた

「はぁっ・・はぁっ・・ボクの、勝ちだ。」

正直運が良かったとしか言いようが無い
マスターがそこにいたからきっと・・強くなれた

「なんなのよ・・なんなのよなんなのよ!真紅も言っていたわ!絆がどうのこうのなんて!
下らない下らない下らない本当に下らなァイ!あなた達はアリスゲームを侮辱しているわッ!
誇り高きローゼンメイデンがそんな不完全なモノにうつつを抜かして良いと思ってるの!?本当にオバカさぁん!!」

「ボクとマスターの絆は不完全なんかじゃないよ。」

そう言った瞬間水銀燈が何か思いついたかの様に不気味な笑みを浮かべる
嫌な予感がして一歩後ろに下がる

「あぁら、どうかしらぁ?確かに普通なら言葉にするのも吐き気がするけど貴方達の絆はきっと強固でしょうねぇ、
でもねぇ!アタシというイレギュラーが居る限り!そうとも限らなくなるの!ねぇ男ォ!?」

「あっ!?はい!?なんでしょう!?」

戦いに見とれていたのかぼーっとしていたマスターがびくっとして答えた

「そこの剣を拾って、その子を刺しなさぁい」

「!?」

そんな馬鹿な!なんて事を思いつくんだ君は!

「あっ・・で・・でも・・」

「もしそうしたらあなたのドールになってあげるわぁ・・いくらでも貴方の好きなこと・・してあげる。」

マスターの顔がみるみる高潮し、興奮しているのがわかる
そんな・・マ・・マスター・・?

「この剣で・・よろしいでしょうか・・・?」

マスターは人間には小さすぎるその剣を拾っていた
その瞳は虚ろで・・いつものマスターの優しい瞳とは違った

「そうよぉ、その剣でグサッと・・胸を貫いておやりなさぁい!」

座ったままの格好で水銀燈は叫んだ

「そ・・そんな・・マス・・ター?」

目の前には剣を構えるマスターが立っていた

嘘だっ・・こんなのって!
いや・・やだよっ・・惨すぎるよ・・っ!

「あははははははははっ!どう!?絆なんてこんなに脆いものなのよぉ!
まぁローザミスティカはちゃんと私が奪ってあげるから安心なさぁい!あははははははははは!」

笑い声が耳に障る。
マスターは既にボクに陰がかかるところまで来てしまっていた

「ます・・た・・?」

水銀燈に言われた通り、ボクの胸に剣を突き刺そうとしゃがむマスター
やだ・・やだやだやだ!やめてよ!元の優しいマスターに戻って?
あのお日様みたいな優しい笑顔で陽射しの様に気持ちの良い言葉をかけて?
抱きしめて持ち上げてだっこして?その暖かい掌で頭を撫でて!?

強くそう思うけど、言葉に出ない


「蒼・・・・ゴメン、な。」

















グサリ
















「ピクニック・・一緒に・・行けな、く、て・・・」








カラン








いつの間にかマスターは水銀燈の剣を捨て
そして、ボクのハサミに手をかざし、自分で自分の胸に深く突き刺していた


















目の前でいつもと何も変わらない子供のように笑うマスターの顔が


ボクの目にいつまでも焼きついていた










To be continued ... →→→