「あの子」の番外編だと思ってください。では投下

ブルーハワイが至高

タイトル「マナツノヒーロー」

8月12日、日曜日。炎天下真っ直中の狭い部屋でうなだれ続ける。横を向く事すら渋る首を鞭打って携帯に目をやる。

―ただいまの時刻、12時36分、現在のワタクシ

暑い。この一言に尽きる。取れかけたカーテンは、しきりに貧相な姿のグウタラ王に対面しようとする活発な眩しい子供の侵入を許す。
「遊ぼうよ」と言わんばかりに顔を照らしたそれに背を向けると、背中がヒヤリとした。
ヒートアイランド+温暖化のコンビは、着実に俺の体力を奪って行く。これはたまらんと、眠ってしまおうと目をつぶったが、けたたましい蝉の鳴き声がそれすらも妨げる。
扇ぐと熱風を運ぶ団扇を放り投げると、グッタリと腕を下ろした。

東京の今日の気温、34°。額から流れ落ちる汗も拭う気力もない。蒸し焼きにされる魚の気持ちが分かるような気がした。
そんな時、携帯がメールを受信した。無気力な体が着メロに浸透され、動いた。

件名 なし 本文 今部屋にいるかな?

返信 今天然のサウナにいるよ

程なくしてドアを小さく叩く音がした。なれた音に消え入りそうな返事を返す。開かれた先には見慣れた彼女がいた。

「生きてる?」

ドアを開けるなり蒼星石は言った。言葉を発するのを拒んだ体が、反射的に右手を動かした。
「一安心、していいのかな?」

「いや、それより俺の格好を見てくれ、コイツをどう思う?」

「別に、普通じゃない」

「いや、俺オトコノコ、君オンナノコ。オーケー?」
「ボクも部屋だとそんな感じだし、いいと思うよ」
「そうじゃなくて」

下着一枚。所謂パンツ一丁の俺の姿を、蒼星石は気にも止めていないようだった。前から思っていたが、やはりどこか抜けていると再認識した。

「ところで、今日は何の用なんだ?」

「そうそう、見てよコレ。今日買ったんだ」
ジャン、という口から発された効果音と共に蒼星石が取り出したのは、近ごろ発売された携帯だった。何でも余分な機能が多くて、値が張ると話題のあれだった。

「この携帯さ、ナビが付いてるんだ。ボクが選んだ理由がそれなんだけどね」

「わざわざ最新にしなくても、既存のでもナビなんかあるだろ」

「だって、新しいのっていいじゃない」

「どっかのボンボンの子供かっつの」

「一言多いよ」と言うと、手慣れた手付きで操作を疲労した。全く対応が早い。

「それでさ、早速このナビを使ってみようと思うんだけど」

玄関前でパンツ一丁で会話しているこの状況。かなりマズイような気がする。早めに話を切り上げようと手っ取り早い返事を返した。
「俺について来い、と」

「正解。来てくれるかな?かな?」
「何処に行くかによる」
「んー、差し当たり「夏のヒーロー探し」って所かな」

「と言いますと」
「かき氷でしょう」

美味くて安上がりで手軽に涼める、夏のヒーローかき氷。実の所自分も食べたいと思っていた所だった。同意の返事を返すとニコリとほほ笑んで見せた。

「んじゃ支度してくる。暑いから中で待ってろよ」
「アラ、貴方たち」
「あっ大家さん。今日は」

部屋に戻ろうとした時、大家さんに声を掛けられた。事もあろうに蒼星石を部屋に入れようとしている時に・・・
大家さんは俺をジロジロと見つめると、蒼星石に言った。

「あなたたち、これから?」

「はい、これから「」君と一緒に(かき氷を食べに)イクんです」

「若いわねぇ。それに貴女以外と大胆なのねぇ。アパート壊さないようにね」

「はい?」
キョトンとしている蒼星石、本当に理解していないようだ

適当にあった服を引っ張り出すと、ワックスで髪を整えて出かけた。日差しがガンガンに照り付ける

「ねぇ、何でかき氷でアパートが壊れるのかな」

「あまりに美味しいからじゃないか、うん」
無垢、と表現しても足りないような気がした。「無垢で純粋」と形容してやっと表せた。誰かが打ち水で撒いた水が湯と化し道路に湯船を張っていた。地球も汗をかいているのだ。
「結構歩くね」

「疲れた?」

暑さの為か始めははしゃいでいた蒼星石も口数か少なくなって来た。あちこちから蝉の泣き声がする。森で鳴きたい、そんな悲鳴が込められているように聞こえた。
1時を回ると、太陽はより自己をアピールしようサンサンと輝く。広いとは言えない道を歩いているのは自分達だけだった。たった二人で46億年の息吹を独占するのは、なんだかズルイ気がした。

「後どのくらい?」

「えっと、次の角を曲がって・・・そこだ」
「俺、ブルーハワイ」
「ボクは・・・ボクも」

まだ着いていないのに逸る気持ちを抑え切れず、何にするか決めた。
そしてついに到着した。

着いた先は昔懐かしい駄菓子屋、という感じのどこか親しみやすい雰囲気を放つ店だった。

「すいません、ブルーハワイ二つ下さい」

店の前のベンチに腰掛けると、出来上がるのを待った。子供たちが立ちながら色々な色のかき氷を頬張る様子が微笑ましく映る。蒼星石はというと、氷がかかれて行く過程をしげしげと見つめていた。
「はい、「」君の分」
「ん、サンキュ」
「あの子」の番外編だと思ってください。

ブルーハワイが至高

タイトル「マナツノヒーロー」

透明にかかる青が視覚から涼しさを与えてくれる。そして食べてくれと言わんばかりに盛られた山頂をスプーンで削り口へと運ぶ。口の中が一気に冷やされ、何とも清涼な気分になった。

「冷たくて美味しいね」

「ああ、ナビ様様って感じだな」

あっという間に食べ終えたかき氷の容器を置くと、涼しげな風が頬を撫でた。それはチリンと風鈴を鳴らすと去って行った。

「そろそろ行こうか」

店を出て帰路へと着く。元来た道を戻る。
幾分か暑さの引いた道を、会話しながら進んで行く。
あっと言う間に、アパートへと着いた。行く時は随分かかったと思ったが。

「付き合ってくれてありがとね。」

「またあったら呼んでくれな。毎日暇じゃないけど暇だからな」

「どっちなのさ。まあいいや、じゃね」

「んー」
蒼星石がドアを閉めた後、自室へと戻った。

その時、100円で買った風鈴がチリンと揺れた。

fin