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 蒼「!!」

  足元で成長した植物に蒼星石の体が天高く持ち上げられた。
  同時に数多の植物が壁を成し、雛苺を包み込む。

 蒼「もうさっきまでのようにはいかない。一気に距離を詰めさせてもらう!!」

  蒼星石は水銀燈譲りの翼を広げ大きく飛び上がった。
  そして荒れ狂う植物を次々と切断し、囲いの中に隠れた雛苺を狙う。
  少しずつ、植物の壁の中の様子が見えてきた。

 マ「!?蒼星石、向かっては駄目だ!!」

  開かれた視界で目にしたもの、それは巨大な竜巻の中に身を置いてバイオリンを奏でる雛苺の姿だった。
  植物を盾にする事で時間を稼いで竜巻を成長させ、蒼星石が現れたところにぶつけるつもりなのだ。

 蒼「忘れたのかい?僕の中には水銀燈も居る。彼女がやられた手は通用しない!」

  どうやらこれが水銀燈に深手を負わせた戦法らしい。
  恐らくは、水銀燈も金糸雀の能力が既に雛苺に渡っていたとは思っていなかったのだろう。
  そして、彼女には斬り飛ばせない植物で誘導されて、まともに竜巻を喰らったのだろう。

 蒼「そして、僕にはこの庭師の鋏がある!」

  その声と共に上空から迫ってくるのは切断された植物の一部。
  それを逆に盾にして雛苺に接近するつもりのようだ。

 蒼「迂闊だったね。これだけ成長した竜巻じゃ自分自身の逃げ場も無いよ。」

  竜巻にわずかに吹き上げられながら、雛苺の居る中心に吸い込まれるようにゆっくりと植物が落下していく。
  このまま潰されたくなければ雛苺は能力を解除して逃げるより外には無い。
  蒼星石はその時に生じる隙を狙っているのだろう。

 雛「あなたこそ迂闊よ。ヒナの能力は見えない所には使えないとでも思ったの?」
 蒼「何っ!?こ、これは・・・!」

  動揺する蒼星石の声。恐らくは伸び来る苺轍に襲われているのだろう。

 雛「あなたを捕まえちゃえば竜巻を解除して悠々と逃げるだけなの。」

  雛苺がバイオリンの調べをゆっくりにすると、竜巻の勢いが弱まった。

 蒼「くそう!!」

  落下していた植物が真っ二つに斬られ、その間から蒼星石が雛苺に特攻を図る。
  が、飛び出したところでがくんと止まる。

 雛「今度の鬼ごっこはヒナの勝ちね。」

  雛苺が嬉しそうに笑う。
  植物から伸びた苺轍が蒼星石の右腕をがっしりと捕まえていた。

 蒼「まずい・・・このままじゃ!」

  蒼星石は植物に繋ぎ止められ、右腕だけでぶら下がった状態になってしまった。
  それを見た雛苺がバイオリンの手を休め、成長させた竜巻を完全に消す。
  風の壁が消え、普通の速さで落下する植物の真下から雛苺が逃げ延びる。
  もがいていた蒼星石の右手から鋏が離れた。

 雛「オゥ・ルヴォワール(さようなら)、蒼星石。これでトドメなの。
   この曲で安らかに眠ってね、『失われし時へのレクイエム』!!」

  それを見届けた雛苺が悠然とバイオリンに手をかける。
  雛苺の集中がそちらに向いた瞬間、蒼星石が何かを覚悟した表情に変わった。
  蒼星石が水銀燈の翼を広げ宙吊りの状態から体勢を立て直す。
  そして左手に剣を取り出して振るった。

 雛「無理よ。その剣、まして左手じゃあ斬れない・・・は・・・ず!?」

  余裕の表情でその様子を見ていた雛苺が急に目を見開き狼狽した。
  蒼星石はその一瞬で植物を蹴って一直線に雛苺の方へと飛び込んでいく。
  水銀燈の羽根を目一杯まで広げて加速していく進路上には庭師の鋏。
  真紅の花弁が支えるそれをキャッチして、そのままの勢いで雛苺にぶつかっていく。

 雛「ま、ま・・・さ・・・か・・・」

  雛苺の体が後ろに倒れる。
  胸の真ん中に突き立った鋏が痛々しい。

 マ「蒼星石!」

  庭師の鋏を墓標にした雛苺の傍で小さくなってうずくまったままの蒼星石を背後から抱き締める。

 蒼「マスター・・・僕、僕・・・」
 マ「今は何も考えないで。大変だったよね、とりあえず休もう。」

  蒼星石もショックが大きかったのかどこか様子がおかしい気がした。
  しばらくして雛苺の体から3つのローザミスティカが飛び出てきた。

     ぽとり

  そちらを何気なく見ていると何かが傍に落ちた。

 マ「なん・・・ひっ!」

  思わず息を呑む。
  それは小さな腕。
  よく見慣れた人物の右肘から先だった。

 蒼「ははっ、最後の最後にこんな事になるなんてね。でも、これがみんなを倒した報いなのかな。
   みんながそうだったように、僕も大事なものを失わなきゃいけなかったのかな・・・。」
 マ「・・・・・・。」

  自嘲気味に言う様子があまりに悲痛で何も言う事が出来ない。

 蒼「僕・・・ジャンクになっちゃった。」

  右腕を失った蒼星石が淡々とそう言った。
  さっき剣を振るった時、蒼星石は咄嗟の判断で自分の腕の方を切断していたのだ。
  先程のように苺轍が斬れず、万が一にも後れを取る事を避けるために。
  雛苺が倒れ、苺轍が消滅したためにそれが戒めを解かれて落ちてきたのだ。

 蒼「でも、一旦鋏を捨てて腕を犠牲にしなければ、ああしなければ倒されていたかもしれない。
   だけど・・・僕はもう・・・もう・・・。」

  ショックで我を忘れかけた蒼星石をぎゅっと抱き締める。

 マ「大丈夫だよ、もう一つのローザミスティカを手に入れれば、それでお父様に会えば直してもらえるさ。
   だから今は落ち着いて。蒼星石がアリスになって・・・お別れになっちゃうまでは傍に居るからさ。」
 蒼「マスター・・・。」
 マ「蒼星石はジャンクなんかじゃないよ。でもごめんね、何もしてあげられなくって。
   こんな気休めにもならない言葉なんかじゃなく、僕も直してあげられれば良かったのにね。」
 蒼「ううん、いいんだ。そう言って傍に居てくれるのなら。それが一番うれしい・・・ありがとう。」

  蒼星石の元にローザミスティカが集まってきた。

 マ「ローザミスティカが・・・。」
 蒼「後でいいよ。」
 マ「えっ?」
 蒼「今は必要ないよ。むしろ、二人だけで居たいんだ。」

  蒼星石の胸からローザミスティカが二つ飛び出てきた。

 マ「そ、蒼星石!?」
 蒼「大丈夫、自分の意思で真紅と水銀燈のローザミスティカを出しただけだから。
   流石にちょっとだけしんどいけど、僕は平気だよ。
   マスター、僕、ちょっとだけ疲れちゃったんだ。ここでちょっとだけ寝かせて。」

  蒼星石が胸に寄りかかってきた。

 蒼「お願い、こんな姿になった僕でもそばに居てくれると言うのなら・・・そうさせて。」
 マ「そうだね、今はちょっと休もう。ひとまず戦いは終わったんだから。」
 蒼「うん・・・僕さ、マスターと一緒なら、アリスになんてなれなくたって・・・」

  戦い続きで消耗がひどかったのだろう、言いながら眠りについてしまった。
  かくいう自分も落ち着いてみると結構な疲労感がある。

 マ「どこか『みんな』の居ないところで一休みしようか。」

  戦いで身も心もあまりにも傷ついた蒼星石を胸に抱きながら、意を汲んで近くの木陰でしばしの休息を過ごす事にした。
  木に寄りかかると自分も気が緩んだためか一気に眠りへと引き込まれていった。
  どうせなら夢の中で・・・蒼星石と過ごしたり・・・・・・出来たらいいな・・・。
  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・
  ・・・




    ずぶ・・・


 マ「・・・!?」

  まどろんでいたら突然それが襲ってきた。
  胸が熱い。痛みもあるはずだがそれを全く知覚できない。

 マ「な・・・ぜ・・・・・・?」

  目の前にはあまりにも意外な顔。
  口から噴き出る血がそれ以上の言葉を妨げ、ごぼごぼという意味の無い音にしてしまう。

  「ジャンクでは、アリスにはなれない・・・それは不要な存在・・・」

  まるでつまらないモノでも見ているかのような、感情を読み取らせない視線が突き刺さる。
  ノイズでも入ったかのように途切れがちな声が続く。

  「・・・そして・・・もうあなたも不・・・今までありがと・・・・・・さ・・・なら・・・」

    ぐしゃ

  視界が一面真っ紅に染まる。
  痛いはずなのに不思議と胸のところだけがやけに温かくて心地よい。
  このまま僕は眠りに就くのだろう。
  蒼星石と夢で会う事も叶わぬ、永遠の眠りへと・・・