雛苺がお昼過ぎに現れた。

 蒼「どうしたんだい?こんな時間に。」
 マ「遊びに来たの?僕らはこれからお昼だから今は無理だよ。」
 雛「違うの、しばらくここに置いて欲しいの。」
 マ「なんで?」
 雛「ハンストなのよ。」
 マ「ハンスト?なんでまた。」
 雛「さっき翠星石がね、雛のおかず取ったの。なのにヒナが悪いって言うの。ヒナ抗議するの!」
 蒼「それはまた・・・現場は見てないけどたぶん君は悪くないね。」
 マ「だったらうちでご飯食べてけば?」
 雛「それじゃハンストにならないの。」
 マ「だって何も食べてない雛苺を放って自分達だけ食べられないよ。
   ここで食べても黙ってれば分からないって。」
 蒼「そうだね、翠星石については申し訳ないと思うし、お詫びって事で食べてってよ。」
 雛「うゆ・・・秘密なのよ?」
 マ「うん、秘密ね。」
 蒼「口外しないよ、約束する。」
 雛「じゃあいただきますなの!」


  そして三人で食事をする。

 蒼「味はどうだい?」
 雛「おいしいの!ノリもビックリなの!」
 マ「ふふん、まあそうだろうね。」

  自分が作ったのでもないのに得意気にするマスターを見ているとなんだか嬉しくなった。

 蒼「そりゃどうも。」
 雛「あのね、ヒナおかわりー!」
 蒼「はいはい、食べるのはいいけどもうちょっと落ち着きなよ。」
 雛「うゆ?」
 マ「がっつき過ぎかもね。口のところご飯粒ついてるよ。」
 蒼「本当だ。それじゃ隠してもバレちゃうよ?」
 雛「え、どこどこ?」

  雛苺が手探りでご飯粒を探す。

 蒼「右側だよ。」
 雛「・・・無いわよ?」
 蒼「えーとね、向かって右側じゃなくって君にとっての右で・・・」
 雛「無いの、無いの!」

  雛苺は勘が鈍いのか唇についたご飯粒を見つけられない。

 マ「ふふっ、ここだよ。」
 雛「ありがとなの。」
 蒼「あっ!」
 雛「うゆ?」
 マ「どうしたの?」
 蒼「いやその、マスターがご飯粒を・・・」

  取ったのをそのまま自分で食べてしまったのだ。
  唇についたのを食べてしまうだなんて・・・

 マ「・・・どうしたの?」
 雛「あのね、ヒナゆっくり食べるからおかわり欲しいの。」
 蒼「あ、ああごめんね。ちょっと待ってて。」
 マ「なんかさ、こうしてると親子みたいだ。雛苺が子供でさ。」

  その言葉にドキッとする。
  雛苺が子供で、僕は・・・

 マ「まあ蒼星石みたいにしっかりしたお姉ちゃんが居れば安心だけどね。」
 蒼「・・・ご飯よそってくる。」

  確かにそれでも親子だ。
  どこか拍子抜けしながら席を立つのだった。



  その日の夕食。
  とりあえずは雛苺も帰って二人きりだ。
  しかし・・・マスターにとっては僕は子供みたいな存在なのかな。
  そういう意味では自分も雛苺と一緒なんだろうか。
  ・・・・・・待てよ。
  じゃあ逆に考えれば・・・。
  ふと思いついた事を実行に移す。

 マ「あれ?蒼星石ご飯粒ついてる。」
 蒼「え、本当?どこかな?」
 マ「んーと、右側かな。」
 蒼「・・・どこ?」
 マ「えーと、そっちじゃなくって反対の・・・もう少し下。あ、惜しい!」

  なかなかご飯粒は取れない、というか敢えて取らない。

 マ「ふふっ、蒼星石にもまだ子供みたいなところもあるんだね。」

  マスターが笑いながらご飯粒を取ってくれた。
  ここまでは考えていた通りの展開だ。
  が、ここで予想外の事が起こった。
  何気なくこちらを見たマスターと視線がぶつかってしまった。
  どうやら自分でも気付かぬ間に注視していたらしい。

 マ「あれ?あ、口についてたの食べるのはまずいか。蒼星石が食べる?」
 蒼「え?あ、ああ・・・はい!」

  お互いに動転していたのか変なやり取りになってしまった。

 マ「え!?・・・じゃあ、はい。」

  マスターがご飯粒のついた指を顔の前に突き出した。

 蒼「うんと・・・」
 マ「あ、はは、変な事を言っちゃっ・・・」
 蒼「い、いただきます!」
 マ「ど、どうぞ!」

  動転したまま話を進めて後に戻れなくなってしまった。

 蒼「じゃ、じゃあ・・・失礼して。」

  マスターの指へと向けてそっと舌を向ける。
  その指が緊張のためかふるふると小刻みに震えている。
  自分もなんだか緊張してうまく狙いをつけられない。

 蒼「・・・んぶっ!」

  二人ともそんな状態だったためか、弾みで指を口に含んでしまった。

 蒼「あの、ますひゃぁ、ごめんなはい・・・。」
 マ「んっ!」

  マスターの表情が歪む。
  慌てて口の中に入れたまま喋ろうとして指を舌で撫でてしまった。

 マ「蒼星石・・・」

  マスターがどこかとろんとした目でこちらを見る。
  言葉にせずとも促されているのが分かった。

 蒼「う・・・んっ・・・。」

  期待に応えるように指をねぶる。

 マ「あ・・・うぅっ!!」

  マスターが悦楽の声を漏らす。
  もっともっと喜んでもらいたくて無我夢中で奉仕する。
  そのつど敏感に反応してくれるマスターが愛おしい。

 雛「おじゃましますなのー!」
 蒼「ん、んー!?」
 マ「いぎゃっ!!」

  突然の声に驚いて歯を立ててしまった。
  ガリッとした感触があった。

 マ「あ・・・あ・・・。」
 蒼「あの、ごめんなさい。」

  痛そうにするマスターに謝る。
  指にはくっきりとした跡がついていた。

 マ「なーに、こんなのどうって事ないよ。つばでもつけときゃ平気だって。」

  無理した感じでそう言って指を口に含む。

 蒼「あ!!」
 マ「・・・あ。」

  やはり本当は痛くて頭が回らなかったのだろう。
  さっきまで僕がくわえていた指を、その、マスターは・・・。

 雛「もう!こんばんはなのー!!」

  いつの間にか傍に居た雛苺に声をかけられて二人とも我に返る。

 マ「あ、いらっしゃい。」
 蒼「何の用だい?忘れ物とかかな?」
 雛「あのね、お昼ご馳走になったからお礼を言ってきなさいって、言われたの。
   どうもありがとうございましたなのー♪」

  雛苺が恭しくお辞儀する。

 マ「あれ、食べた事言っちゃったの?」
 雛「あの後ね、翠星石が謝ってきて仲直りしたの。やっぱり正直が一番なの。」
 マ「ははは、そうかもね。どういたしまして。」
 蒼「そのくらい気にしなくても良かったのに。」
 雛「ヒナいい子ー?」
 マ「うん、いい子いい子。」

  マスターが雛苺の頭をなでてあやす。

 雛「二人ともどうしたの?さっきからお顔が真っ赤よ?」
 マ「なんでもないよ。」
 蒼「うん、なんでもないから。」
 雛「でもお指をおしゃぶりするなんて赤ちゃんみたいなの。意外だったの。」
 マ「あ、見られちゃった?恥ずかしいなあ。
   ちょっと指が痛かったからでいつもしてる訳じゃないからね。」
 雛「でもね、マスターさんだけじゃなくって蒼星石もとっても気持ち良さそうだったの。」
 マ「い!?」
 蒼「み、み、見てたの!?」
 雛「蒼星石もヒナみたいにあまえんぼさんだったのー。」

  ニコニコ笑う雛苺と対照的に二人で黙りこくってしまう。

 雛「翠星石と仲直りしたからね、帰ったらいろいろお話しするつもりなの。」
 マ「まさかこの事も話す気じゃ・・・。」
 雛「大丈夫よ、ちゃーんとぼかして話すの。
   マスターさんが自分のを蒼星石にくわえさせて気持ち良さそうにしたり痛そうにしてたって言うの。」
 蒼「余計悪い!!」

  ニコニコと話す雛苺の様子に思わず怒鳴ってしまった。

 マ「二人とも・・・そんな事を・・・。」
 蒼「まあとにかくだ、この事は誰にも言わないでね。」

  雛苺と肩を組むようにして言い含める。

 マ「そう秘密。特に翠星石と、あと真紅とかにもね。」

  反対側からマスターも同じようにした。

 蒼「口外しない、約束だよ?」
 雛「正直が一番だけど分かったのー!
   あのね、なんにも関係はないけど、ヒナうにゅーが食べたいの。」
 マ「OK!大至急買ってくる。」
 雛「あのね、和菓子には緑茶が合うと思うの。」
 蒼「新茶かい?玉露かい?ちょっと待っててね。」
 雛「わーいなのー!二人ともありがとうなのー!!」

  それからしばらくは雛苺がちょくちょくやって来るようになった。