翠の彼氏がJUMじゃないのはJUMだと許せなかったから(勝手ですいません)

タイトル「惚気」


「お前最近妙に元気だよな」

サークルの後、友人と行ったレストランでそう言われた。アイスコーヒーを啜りながら得意げな顔をすると、友人が不思議そうな顔をした。
それにしても、何も話していないのに感づくとは。確かに最近自分でも気分が晴れ晴れしていると感じていた。
友人が深く探ろうと質問を続ける。しかしどの質問にも俺は曖昧な返事しか返さなかった。
その内友人も飽きてきたようで、漸く尋問に似た質問は終わった。コーヒーに入っていた溶けかけた氷がコトリと音を鳴らす。
さて、と流れを真面目な雰囲気にするため背筋を正すと、丁度注文したハンバーグが運ばれてきた。

運ばれてきたハンバーグを食べながら再来週に控えた試合の事を話し合う。この試合の後は就職活動などでサークル所ではない。
実質これが最後の試合だろう。スタメンの構成やフォーメーションなど、細かく話し合う・・・と行けば良いのだが、そうは行かない。
お調子者の友人と真面目な話をしても、必ずどこかでふざけた話にすり替わってしまうのだ。そして今回もそうだった。
まあ、「ちゃんとやれ」と流れを戻せればいいのだが、それにズルズルと引きずられて行ってしまう俺も俺なのだ。
明日早朝のキーパー練習に付き合ってくれと言おうとした時、友人が例によって流れを変えた。

「そういやさ、お前からのろけ話って聞いたこと無いよな」

「何だよいきなり」

前見たく講義の話かかと思えばいきなり恋愛の話を持ち出す友人に、俺は何と答えればいいか分からずつい無愛想な返事になってしまった。
この手の話題は嫌いだ。

「てかお前の好きなヤツだけ知らないんだよな、俺」

友人ながら何だコイツは、と思った。全く、変なところで情報通な友人に呆れたような笑いで対応する。再び友人の尋問が始まってしまった。
学部は、サークルは、背丈は、と繰り返される質問にまいった俺は、とうとう答えてしまった。答えた所でわかるはずも無いが。
質問の回答を頼りに姿を組み立てて頭を抱えている友人を半分ほど残っていたハンバーグを食べながら見ていた。
頭の中で自然と見慣れた正解の姿が形成されていく。コイツはどんな姿を想像しているのだろうか。
ニコリと微笑む蒼星石が頭に浮かび、恥ずかしくなった。

「えー、心理学部で、サークルは空手、身長は165・・・」

「次にお前は「ウチには心理学部ねーだろ」と言う」

「お前、ウチには心理学部ねーだろ・・・はっ!?」

「つまり他の学校って事だな」

「ませた奴め」と言う友人に突っ込みを入れ、ハンバーグを全て食べ終えると友人はまた話題を変えた。コーラを二つ注文したと言う事は、
長期戦を覚悟しろと言う事か。運ばれてきたコーラを一口飲むと、友人が話を始めた。

「いやさ、彼女っていいぜ、マジで」

脈絡の無い話し方から友人ののろけ話が始まった。最も興味が無いので殆ど耳には入らないが。時折同意を求められると適当に「ああ」と頷いた。
しかしコイツには声のトーンを下げるという事が出来ない物なのか。均一の声で彼女と帰った、出掛けた、ヤッたなどと話す友人に周囲の視線が
集まる。しかしお構い無しに話し続けて、コーラを全て飲み干して氷も全て解けた後、やっと友人流のろけ話は終わりを迎えた。

「とまあ、ともかく彼女はいい。だからお前も作れ」

言われなくても作ろうとしてる、とは言わず代金を払うと店を出た。コーラ代だけ奢る、という変な親切に例を言った。
明日の講義の予定を確認した後途中まで一緒に帰る。明日は天気予報だと雨らしい。
サークル活動が出来ないことが悔やまれるまま交差点で友人と別れた。



友人と別れた俺は家に帰るため一人地獄坂を登っていた。名前の通り急な坂を棒になりかけた足で登っていく。
空を見ると既に雨が降りそうな愚図ついた灰色になっていた。どうやら明日は天気予報の通りになりそうだ。
坂の頂点はまだまだ遠くに見える。自転車の子供がスピードを出して横を通り過ぎる。事故をしないか心配だ。
辛さを紛らわす為先程の友人ののろけ話を思い出してみる。が、余計に辛くなるのでやめた。

それにしても、彼女、か。今まで考えた事など無かった。好きなサッカーや勉強の事で一杯一杯だったから。
いつも隣にいて、今日起こった事などを笑いあいながら話せる異性の存在は素晴らしい物だとは思う。
「今日転んだ」と擦りむいた膝を見せると「馬鹿ね」と笑いながら言って消毒してくれる優しい人。
寂しい時には「私がいるじゃない」と言ってくれる孤独の救世主。
悲しい時には「泣かないで」と言ってくれる自分だけのマザー・テレサ。素晴らしい存在だ。

そして時に思う。あの子はもう誰かの聖母になってしまっているのだろうか。それに縋る民がいるのだろうか。
肩を寄せればそれを優しく抱き止める存在がいるのか。そんな考えが頭をよぎる。

嫌だ。

1秒も間を置かず出た答えだった。黒と白の感情が交差する。必死に中和させたそれは灰色の感情となり思考を支配した。
そうする事で何とか気持ちを抑える。しかしやはり黒は絶対的なもので、徐々に元の黒へと戻っていく。
同時にオモチャを独占したがる幼稚な子供じみた考えが滲み出てくる。
胸が痛い。痛くて苦しい。この気持ちはなんだろう。未知の感覚に気持ちが支配されかけた時、携帯が鳴った。

♪~

この着メロは・・・蒼星石だ。携帯を持つ手が震える。ボタンを一回押すという簡単な動作が出来ない。
押した先のメッセージには一体何が書かれているのか。ドクンドクンと鼓動が高まる。
軽く、ちょんとボタンを押すだけで何時もの蒼星石からのメールが見れるのに、体が命令を聞かない。
立ちすくんだままこうしていても仕方がない。俺は覚悟を決めて動かない左の親指を右の親指で押した。

件名 部屋に来てよ 内容 ゴメン。今からボクの部屋に来てくれないかな?

震える指で返信を打つ。

Re:何で?

何時もと同じく早めの返信が来た。今ほど遅い返信を期待した事は無い。

Re:合わせたい人がいるんだ

頭が真っ白になった。悪いことを考えると本当にそうなると言うが、まさか本当に・・・
俺は地獄坂を駆け上るとダッシュで蒼星石の部屋へと向かった。部屋では何が待っているのだろうか。
そんな事を考える余裕も無いほどに、がむしゃらに蒼星石の部屋を目指した。



人間夢中になると周りが見えなくなるというのは本当で、気付いたら蒼星石の部屋の前にいた。
握り慣れている自分の部屋と同じ構造のドアノブを捻ればそこには蒼星石がいる。見知らぬ誰かと共に。
冷たい鉄の感覚が掌を伝わり脳まで突き抜けるようだった。俺は一思いにガチャリとドアを開けた。

「うぉふゅん・・・」

毎日のように馴れ馴れしく「ウオッス」と言おうとしたのに緊張の余り空気の抜けた風船のような声になってしまった。
それほど動揺していた。顔を上げた視線の先には3人の姿が確認できた。一人は見慣れた蒼星石。
後は・・・男と女が一人づつだった。女の方は長い栗色のロングヘアーに蒼星石とは左右逆のオッドアイで、
白いブラウスに裾に黒いフリルのついたロングスカートを穿いていた。

「な、何ですか!?このチャラチャラした男は!お前の彼氏ですか」

彼女は俺をギンと睨みつけると俺を指差しながら開口一番に蒼星石にそう言った。
「友達だよ」と蒼星石は彼女の問いに否定の返事をすると「待ってたよ」と俺を招き入れた。

「やあ「」君。よく来てくれたね。早速紹介するよ。こちら、ボクの双子姉の翠星石と、彼氏の露伴さん」

どさくさに紛れて、さり気なく聞いてみた。

「蒼星石の彼氏は」

「嫌だな。そんなのいないよ。独り身ですよ」

「お前なんかに可愛い妹はやらねーです!!この浮気男!!」

「やぁ、よろしく」

何を怒っているのか分からないまま俺は蒼星石の姉の翠星石に罵られ続けた。双子とはいえ蒼星石とは偉い違いだ。
「姉は人見知りが激しいんだ」とのフォローが入り成る程と納得した。同時にホッと胸を撫で下ろした。
そしてその横で露伴が愛想よく笑う。「いけ好かない奴。」俺が露伴を見て思った第一印象だ。
先の笑顔も作り笑いっぽい。万人に見せるよくある笑顔だ。髪型や服装も何か特異な物を感じた。そして耳のペン先を形取ったピアスが目を引いた。

「漫画家なんですか」

「ああ。「ピンクダークの少年」って知ってるかい」

ピンクダークの少年・・・聞いたことがある。確か少年誌で連載中の大人気漫画だ。作者は岸部露伴。まさかこの人だったとは。
コアな漫画らしく、賛否の意見がハッキリと分かれているらしいが、今の露伴のわざとらしい笑みでその理由が分かるような気がした。
蒼星石の隣に座ると、俺ははあはあと息を切らした。今頃になって疲れてきた。

「「」君も来た事だし、改めておめでとう。姉さん、露伴さん」

息を切らしたまま何の事だと蒼星石に聞いてみる。

「姉さんと露伴さんはね、来週結婚するんだ」

「ちげーですぅ。露伴の野郎が地面に頭擦りつけやがるから、仕方なくですよ」

「違うだろ。君が「露伴が側にいないと死んじゃうですぅ」とか言うからだろ」

俺達の見る前で二人は言い合いを始めた。どちらも一歩も引かないところを見ると、かなりの負けず嫌いと見える。
これから夫婦になる二人を、蒼星石は笑顔で見つめていた。しかしどこか寂しげであった。
俺の切れた息が元通りになった頃、ようやく幸せ者の口げんかは終互いにゴメンと言い合って幕を閉じた。
こんな事で一生続く二人三脚は大丈夫なのかと他人事ながら不安になってしまう。

「ところで、二人はどうやって出会ったんですか」

「よく聞いてくれたですぅ。チンピラ。あれは大学での事でした・・・」

長い髪を撫でながら翠星石がふたりののろけ話を始めた。隣で露伴が時折頷く。ぺらぺらとよく喋る人で、一向に止まる気配が無い。
一日で二回友人ののろけ話を聞いた気分になりながら聞いていると、蒼星石が席を立った。

「ちょっと、外の風に当たってくるね」

何となく理由を察した俺は、敢えて蒼星石の元へは行かなかった。今の蒼星石は、先の俺に良く似ていたから。
用意されていた菓子が無くなると同時に、翠星石の話は終わった。まるで菓子が話の石炭のようだ。
大きな声で翠星石が蒼星石を呼ぶ。

「蒼星石。終わったですよー」

「ごめんね、姉さん。話を聞いて上げられなくて」

笑顔で戻ってきた蒼星石の両の目は赤く潤んでいた。ゴールできるのは二人だけ。俺は辛かった、何故かって。
他人を蹴落としてゴールするレースの勝者と敗者が目の前にいるのだから。
外はすっかり涼しくなり、鈴虫の鳴き声が響き渡る。二人は手を振ると蒼星石の部屋を後にした。
遠ざかる二人を独りの二人は見えなくなるまで見つめていた。そして俺も部屋に戻ろうとした時、蒼星石に呼び止められた。



「ちょっと待ってよ。キミは女の子が困ってるのに無視して帰っちゃうのかい」

何時もの調子になった俺は馴れ馴れしい口調で答える

「俺にどうしろと」

俺の目の前にコンビニの袋を差し出す。中には缶ビール数本とつまみが入っていた。

「飲もうよ。泣きながら買いに行ったから、恥ずかしかったよ」

再びドアを開けると、中に入るように促した。「酒飲めるんだ」などと他愛ない会話をしながら、独り身同士の宴会は始まった。
酒を飲むのは大学の新入生歓迎会以来だったが、すんなりと飲む事が出来た。それどころか安物のビールが極上物のように思えた。
蒼星石は思いの他いい飲みっぷりをした。ちまちま飲んでる俺なんかよりずっと男らしかった。言ったら怒られるだろうが。
そして早くも酔いが回ってきたのか、蒼星石は俺に絡んできた。

「「」くぅん・・・いつもいつもキミは無愛想すぎるんだよ・・・もっと愛想よく笑ってみなよ!!ほら」

「いででで!!たったちゅけてー!!」

グイグイと俺の頬を抓る蒼星石に俺はされるがままであった。次の瞬間。俺は蒼星石に押し倒された。
そしてそのまま蒼星石の顔が近づいてくる。これは、まさか・・・

「「」くぅん・・・」

「は、はい・・・」

蒼星石の唇は、俺の唇に触れる寸前の所で俺の耳へと移動した。そして悲しげな声でポツリと呟いた。

「ボクも露伴さんの事が好きだったって事・・・姉さんには内緒だよ・・・」

そう言うと蒼星石はガクリとうなだれてしまった。俺は寝息を立てている蒼星石に押し潰されてしまった。
起こさないようにそっと抜け出し、押入れにあった毛布を掛けてやると、部屋を出た。
そして外で酔いの勢いに任せて叫んだ。

「露伴のバカヤロー!!羨ましいぞこの野郎!!」

下からの大家さんの怒鳴り声を聞いた後、俺は部屋に戻って眠りに着いた。

fin