これは蒼星石が現在のマスターと出会う遥か昔のお話。

時は遡ること一千と数百年。
形骸化した朝廷の権威は最早地に堕ち、それに伴い大規模な農民の反乱が起こった。
その反乱は黄巾の乱と呼ばれる。
そして、その乱を鎮圧するために立ち上がった将の中にその男は居た。

「マスター達はこれからどうされるんですか?」
「ふむ……まずは各地の平定と共に軍備の拡大になるだろうな」

男の名は夏侯元譲。黄巾の鎮圧に乗り出した曹孟徳の配下で筆頭の将である。

「たくさん人が傷ついてしまうんですね……」
「そうだな……だが今手を打たなければ現状は刻一刻と悪くなる。そうなる前に止めねばならん」
「止まるのでしょうか……」
「止まる止まらないではない……止めなければならぬのだ。全ては未来の為に……だから俺は孟徳の下にいる」

そう言って彼は蒼星石の頭を撫でた。
それは蒼星石にとって心の底から安らげるものだった。
だがその穏やかな時も束の間、伝令が幕舎へと入って来た。

「将軍!間も無く出陣の時刻です!」
「あぁわかった」

そう言って椅子から立ち上がる。
「おや?将軍、この娘は……?」

そう尋ねられた彼は少しの間の後、彼は笑ってこう答えた。

「俺の……正室だ」
「そうですか、それでは負けられませんな」

兵士も笑いながら答えた。
その時蒼星石は素直にその光景に感心した。
出陣前でも分け隔てなく兵士と話す彼を見て、懐の大きさを感じた。
思えば初めて会ったときもそうだった。
ネジを巻いた後、動き、話すボクを見て驚いていた。
しかし決してボクのことを動く人形としてではなく、一人の対等な人間としてみてくれた。
そう思い返しながら、ボクはマスターを見送った。

「行ってらっしゃい」
「あぁ」

決着は早かった。昼頃に出陣したのだが、日が沈む前には戻ってきていた。
話に聞いたところ、大将首を捕ったのはマスターだそうだ。さすがマスターは強い。
人が死ぬのは辛いことだけど……今はそんなこと言ってる場合ではないみたいだから……。
せめてマスターには無事でいてほしいな……。

その後、結果として各地での反乱は鎮圧され、張角は病に没し、黄巾の乱は終わりを告げた。

「とは言え、厄介なのはこれからなのだがな……」

曹孟徳さん、マスターや夏侯淵さん達を指揮する人だ。
「どういうことですか……?」
「権力を無くした皇室の代わりに、これから誰が一番か決めようって戦いが始まるってことよ」

夏侯妙才さん、マスターの従兄弟にあたる人で、マスターによると弓を取らせれば曹軍随一らしい。

「全てを孟徳の下に納めるために、俺たちはここにいる。そうだろう?」
「ハハッ、違ぇねぇや!」

本当に楽しそうに笑う人だなぁ……。

「それにしても元譲よ……」
「なんだ?」
「彼女……蒼星石とはどこまでいったのだ?」
「どういうことだ?」

曹操さんはニヤリと口の端を持ち上げている。

「男女の仲になったのか……と聞いておるのだ」
「「なっ!?」」

ハモった……絶対にボクの顔、真っ赤になってるんだろうなぁ。顔が熱いよ……。

「……孟徳」
「な、なんだ……?」

マスターの気配を察知したらしい曹操さんは無意識に後ずさった。
当のマスターはいつの間にか薙刀を携えている。
明らかに鬼気迫る表情になってる……。 「「……南無」」

ボクと……夏侯淵さんも心の底から思ったに違いない。
ボクと夏侯淵さんは、目にしたくないので退散した。
次の日、曹操さんがボロボロになってたような気がするのは多分気のせいだよね。うん、そうに違いない。

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最終更新:2007年06月15日 05:55