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 蒼「あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど・・・いい?」

  蒼星石が言いにくそうに尋ねてくる。
  もう一人の自分と言っても過言でない彼女の頼みを何故断れようか。
  二つ返事で快諾する。

 翠「いいですよ。なんでも言ってください。」
 蒼「本当に?」
 翠「もちろん!翠星石は蒼星石の双子の姉ですよ?
   なんならローザミスティカだってくれてやります。」
 蒼「それはいいけど・・・あのね?」
 翠「うん。うん。」

  あくまでも遠慮する可愛らしい蒼星石に先を促す。

 蒼「実はさ、今度マスターの誕生日なんだけど・・・」
 翠「ひぇっ!?」

  素っ頓狂な声を出してしまった。

 蒼「・・・どうしたの?」
 翠「あ、気にせず先を続けてください。」

  正直言ってあの人間絡みだと素直に受け入れられない。
  確かに人間にしては蒼星石を大事にしてよくやっている方だと思う。
  だがしかし、『自分が一番よく蒼星石を理解しているんだ!』とも思う。
  やはり蒼星石の一番は自分でありたい。
  自分ですら蒼星石に誕生日を祝ってもらった事はないというのに・・・まあ当然だが。

 蒼「・・・という訳なんだ。」
 翠「そうですか。」
 蒼「やっぱりダメ?だけど他にこんな事を頼める人もいないし。」

  不安げな蒼星石。
  あの人間への対抗心で蒼星石を悲しませたら本末転倒というものだ。
  悔しいがあの人間が自分に関する事で蒼星石の意思をないがしろにした事は無い。

 翠「当然構いませんよ。大船に乗ったつもりでいやがれですっ!」

  自分の胸をドンと叩きながらそう言う外に無かった。

 蒼「ありがとう。やっぱり翠星石に相談して良かったよ。」

  嬉しそうに微笑む蒼星石。
  しかしその笑顔は本当に自分に対してだけ向けられたものなのだろうか?
  あの人間を喜ばせられるという嬉しさもあるのではないだろうか?
  そう考えると、ちょっとだけ複雑だった。


 ○そして当日○

 マ「もうすぐおやつの時間だー。今日は何にしようかな♪」
 翠「やいそこの意地汚そうな人間。」
 マ「今日はまた出会い頭からひどい言われ様だね。」
 翠「ちょっとこっちゃ来いです。」

  どんくさく固まっている人間の手を引っ張って鏡の前に連れてく。

 マ「あれ、蒼星石はいいの?」
 翠「いいから来いです。」

  そのままnのフィールドを経由してジュンの家へ。
  そして例の場所へと手を引いて誘導する。

 マ「一体どうしたの・・・」

  『おめでとーう!!』

  パーンとクラッカーが鳴る。

 マ「これは?」
 真「翠星石が今日はあなたの誕生日だって言うから。」
 金「日頃の感謝を込めてかしら!」
 雛「いつもありがとなのー!」
 ジ「いつもこいつらがすみません。」
 の「さ、簡単にですが料理用意してあるから食べてください。」
 翠「翠星石はケーキを焼いてやったです。」
 マ「おお・・・ありがとう、ありがとう。」
 翠「こら!湿っぽい雰囲気に変えるなです。さあさあ、ガンガン貪りやがれです!」

  いい年してこのぐらいの事で涙ぐまないで欲しい。
  そんなに素直に感動されたら罪悪感でやりにくくなってしまう。
  そう、他の連中が知らない自分だけの特別なプランがあるのだ。


  席について皆が料理を分ける。
  いただきますをしたが誰も手を付けない。
  こういう場合は主賓が最初に手を付けるのを待つのがマナーというものだ。
  あのチビ苺とバカナリアでさえも理解していると言うのにコイツと来たら気の利かない・・・。

 の「あのー、召し上がらないんですか?」
 マ「いや・・・でも蒼星石に悪いかなって。」

  蒼星石がこの場にいない事に気を揉んでいたらしい。
  はた迷惑ではあるがその姿勢はちょっとだけ評価してやってもいい。
  真紅がはぁとため息をつく。

 真「いいこと?何故こんな時間にわざわざこっそりとしてると思う?」
 マ「え?」
 真「気を利かせてあげてるのよ。あの子とは今夜ゆっくりお祝いしなさい。」
 金「今夜はお楽しみかしら!」
 マ「お楽しみって・・・。」
 雛「蒼星石がマスターさんと、んーなの!」
 金「二人でんーってしちゃうかしら!」

  二人が目をつぶって唇を突き出した格好で冷やかす。

 マ「ないない、そんなのないってば!!」

  真っ赤な顔で両手を振って否定する。
  要するにそんな不埒な感情を抱いた事があるということだ。
  いや、ひょっとしたらもう既に実行済みなのかもしれない。
  二人の様子から察するに蒼星石も求めに応えそうだ・・・本当に小憎らしい人間だ。

 翠「ほれ、話ばっかしてないでとっととモリモリ食えです。
   この場ではお前が主役なんですよ?」

  そんな穏やかならぬ内心を悟られないように注意しつつ食事を勧める。
  このままではせっかくの計画が台無しだ。

 マ「いや皆も食べなよ。もう残り少ないしさ。」
 翠「大丈夫です。まだまだ沢山ありますから。」
 金「プレゼントを買うお金は無いから、代わりにお料理を作ったの。」
 真「さあみんなで食べましょう。」

  一同が自分の作った物を出す。

 マ「みんなで用意してくれたんだ。本当にありがとう。」

  また感極まった感じになる。
  純粋というか、素直というか、いちいちやりにくい。

 金「まずはカナ謹製の卵焼きかしら。」
 マ「どれどれ、いただきまーす。・・・うぐぅ!」
 翠「これは・・・」
 雛「あまーーい!」
 金「通常の3倍のお砂糖を入れちゃったかしら。」
 真「食べなければどうという事はないのだわ。」
 雛「とってもおいしいのー。カナすごいのー!」
 翠「しゃあないから翠星石の分もくれてやります。感謝しろです。」

  とりあえず自分の残りをチビ苺に押し付ける。

 マ「甘い卵焼きも美味しいよね、うん。」

  甘さにも限度があろうに、コイツはそう言いながら自分の分をあっさり平らげた。

 雛「お次はヒナ!」
 マ「これは何?」
 雛「シュークリームよ♪」
 マ「じゃあいただきます。」
 翠「今度は真紅も食えです。」
 真「分かったわよ。」

  一同がシュークリームを口に入れる。

 雛「どう?」
 マ「・・・・・・ごふっ!」
 金「お、お茶を頂戴かしらーー!!」
 の「はーい。」
 翠「ありがとです。」
 真「この際・・・緑茶でもいいから早く渡しなさい。」

  全員が受け取ったお茶を飲み干す。

 雛「美味しかった?」
 真「あなた、シュークリームって言ったわよね?」
 雛「うん。」
 金「どこがかしら!」
 翠「あれじゃあシュー『ジャム』です!」
 雛「うー・・・味見したらうまく出来たと思ったのー・・・。」

  雛苺の舌は苺ジャムなら何でもいいのだろうか。謎だ。
  そう言えばさっきの卵焼きにも満足していたから単に甘い物が好きなだけかもしれない。
  まったくお子様達はこれだから困る。

 マ「独創的だし面白かったよ。ありがとう。」
 雛「美味しかった?」
 マ「こんな物を作ってもらえる自分は特別な存在だと思いました。」
 雛「えへへ、どういたしましてなの。」

  オリジナリティの無い台詞を言いつつデカイお子様がそう言った。

 真「じゃあ次は私の番ね。」

  真紅が砂利の詰まったビニール袋、にでも見えかねない物を置く。

 真「私からはクッキ・・・」
 金「あっ!そういえば、みっちゃん達からもプレゼントがあったかしら。
   あやうく渡すのを忘れちゃうところだったかしら!!」

  わざとらしく叫んで金糸雀が紙袋を渡す。

 マ「ありがとう。これは何?」
 金「服よ。」
 マ「服?」
 金「みっちゃんがプロデュースしたかしら。」
 雛「ジュンとトモエも協力して作ったのよ。」
 マ「へえありがとう。僕の服?それとも蒼星石用?」
 金「ペアルックよ。」
 マ「・・・ペア?」
 金「今度着たところを写真に撮らせてって言ってたかしら。」
 マ「はは・・・着たらね。」

  流石に他人に見せるのは気が進まないのだろう、そう流して紙袋をテーブルの下にそっと置く。

 マ「でもサイズは合うのかな?」
 金「大丈夫よ、みっちゃんは私達のも、あなたのも、みーんなの身長やスリーサイズを知ってるかしら!」
 マ「なぜ本人も知らない個人情報をみっちゃんさんが・・・。」
 金「見ただけでスリーサイズやらの寸法を当てるのがみっちゃんの隠された特技かしら。」

  恐るべき人間だ。まるで伝説の餓狼のようだ。

 真「あなた達、いつまでくだらない話をしているの。」
 金「みっちゃんのプレゼントにケチつけないで欲しいかしら。」
 真「プレゼントはもう渡したでしょ!だから私のプレゼントのクッキーを・・・」
 雛「これってクッキーだったの?」

  ジャム娘の雛苺が残酷な事を尋ねた。

 真「・・・クッキーよ。」
 雛「カチカチで石みたいなのー。」

  勝手に袋を開けた雛苺が率直過ぎる感想を述べる。

 マ「チョコクッキーか、チョコ味は大好きだよ。」
 真「チョコもココアパウダーも入れてないわ。」

  一同が『うわぁ・・・』といった表情で沈黙する。

 真「・・・・・・もういいわよ!これは捨てるから。」

  その空気を察してか真紅がヒステリックに袋を奪い返す。

 マ「捨てちゃうんなら独り占めしちゃおっかな。」

  そう言って袋をひょいと取り上げた。
  クッキーと呼ばれた物体を口に放り込む。
  真紅も含めた一同が固唾を呑んで次の反応を待つ。

 マ「・・・硬い、ゴリゴリする。」
 真「だから捨てればいいって言ったでしょ!」
 マ「でも歯ごたえがあっていいと思うよ。」
 翠「どれ、じゃあ翠星石にも一枚・・・。」

  脇から袋に手を突っ込むと一枚頂戴して口に入れる。

  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
  くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」

  ・・・ありえない!
  砂糖が入っているはずなのに甘みは無く、焦げた苦味だけが口に広がる。
  さっきまで甘い物のオンパレードだったのもあって落差がひどい。

 翠「ひ、一人でこれだけの物を作り上げるとは驚きましたよ。
   し、真紅もだいぶ腕を上げましたよね、あっぱれですぅ。」

  なんとかそれだけ口にした。
  そこに袋が差し出される。

 マ「もう一枚食べる?」
 翠「いや、お前へのプレゼントだからお前が食べろです。」
 マ「そうだね、そうするよ。」

  ニコニコしたままでそう言った。
  こいつは食べられればなんでも良いのだろうか?
  やはりこんな貧乏舌の人間には蒼星石の手料理はもったいない。

 マ「じゃあ・・・せっかくだから貰っちゃおうかな。」

  クッキーとも呼べない物にさらに手を伸ばす。
  よく見ると額に脂汗がにじんでいた。
  どうやら本心から美味しいと思っているわけでもないようだ。
  恐らくは真紅を傷つけまいという優しさからムチャしているのだろう。
  そう言えばさっきから貰った物にはケチをつけず、残らないようにしている。
  こいつも他人の想いを蔑ろに出来ないタイプなのだ。
  そういうところは誰かに似ている。

 真「無理しないでもいいのよ。」
 マ「無理してないよ。真紅が作ってくれたんだって感じがしてありがたいよ。
   それに・・・やさしい・・・味がす・・・る・・・。」

  次第に限界が近づいてきているようにも見える。
  同情に値する悲惨な状態ではあるが、ある意味好都合でもある。

 真「・・・そう。」

  そんな様子に気付いてか気付かなくてか、真紅が嬉しそうに笑った。


 マ「・・・ご馳走様。」

  大分時間をかけてようやく『クッキー』が消費された。

 金「すごいかしら!」
 マ「おいし・・・かったよ。」
 雛「・・・やさしいのね。」
 真「どういう意味よ!でも・・・ありがとう。」
 マ「こちらこそクッキーを作ってくれてありがとう。大変だったでしょ?」
 真「悪戦苦闘はしたわね。感謝なさい。」
 マ「はいはい。」
 翠「さーて、じゃあ真打の登場ですかね。」

  そう言って自分の計画のために作った物を持ってくる。

 マ「すごいっ!」
 金「お見事かしら!」
 真「くっ・・・。」
 雛「おいしそー!」

  そびえるばかりの特大ケーキ。
  人間のサイズにしてもかなりの量のはずだ。
  味の方には自信がある。
  何しろ食べてもらわねば困るのだから手は抜いていない。

 ジ「お前ってすごいな。」
 の「とってもお上手よー。」
 翠「ふふん、もっと誉めてもいいですよ?」
 ジ「いやー、お前がこんな風に頑張るとはね。よほど大事な存在なんだな。」

  いきなり変なことを言い出すジュンに動揺する。

 翠「な、何をおバカな!」
 ジ「隠すなよ、蒼星石のことでいろいろと感謝してるんだろ?
   お前って本当に素直に好意を表せないよな。」
 マ「・・・・・・。」
 翠「勝手に決めるなですっ!」

  やはり同意はしかねるもののちょっとだけホッとした。
  同情するかのような微妙な表情でこちらを見る人間が腹立たしい。

 雛「翠星石お話が長いのー。」
 金「早く食べたいかしら!」
 翠「分かりましたよ、今切ってやりますから待てです。」

  ケーキを切って一同に取り分ける。

 翠「ほれ、お前の分ですよ。」
 マ「こんなに?皆の分は?」
 翠「ちゃんと残してありますよ。お前の誕生日なんだから気にするなです。」
 ジ「僕はちょっとでいいや。お腹にたまってきたし味見だけさせてもらえれば。」
 の「私も。甘い物を食べ過ぎると怖いしちょっと控えておこうかな。」

  計算通りに他のメンバーは少しずつ脱落していく。

 真「おいしかったわ、私もご馳走様。」
 雛「ヒナももう一回だけ貰ったら終わりにするわ。おっきな苺ちょうだいなの!」
 金「カナは・・・もうリタイアかしら。」

  まだケーキは結構な量が残っている。
  そうなるように作ったのだ。

 翠「お前はまだ食べますよね?」

  言わなくても全部食べるであろうが念を押す。

 マ「うーん・・・。」
 翠「せっかく翠星石が作ってやった自信作ですよ?」

  どうやらあまり気が進まないようだ。
  それはそうだろう、さっきまであれだけ甘い物やら胃に悪そうな物やらを食べていたのだ。
  それでいい、これが望んでいた展開なのだから。
  このままこいつにたらふく食べさせておけば夕食はまともに食べられない。
  当然ながら頑張って料理を用意していた蒼星石はショックを受ける。
  そこを自分が慰めつつ一緒に美味しい手料理もいただく。
  これでこいつの株を下げつつ自分の株を上げられる訳である。
  楽しい夕食の時間も過ごせて一石三鳥な訳だ。
  我ながら恐ろしい策士ぶりだ。

 翠「まさか翠星石のだけ食べられないと言うんじゃないですよね?」
 マ「いや、それは平気だけどさ、蒼星石にお土産に持って帰ろうかと思ってさ。」
 翠「え?」

  その言葉にぎくりとする。

 マ「自分ばかり悪い気もするし、それにせっかく美味しく出来てるんだからね。
   翠星石のお手製なら蒼星石にも食べさせてあげたら喜ぶんじゃないかな。」
 翠「い、い、いや、それはやめておけです。」

  蒼星石が自分にこいつを連れ出せと頼んできたのはこっそり料理の支度をするためだ。
  それなのに翠星石がやった事のせいでその手料理を美味しく味わってもらえなかったと分かったら信頼を損ねてしまう。
  場合によっては先程のジュンのように邪推して出し抜かれたと誤解するかもしれない。
  とにかくこの集まりの事を蒼星石に知られてはならない。

 マ「なんで?すっごく美味しくできてるじゃない。」
 翠「いいですか、考えてもみろです。お前は蒼星石にとって特別な存在ですよね?」
 マ「まあ・・・そうだったら嬉しいな。」
 翠「で、そんなお前を喜ばせたい一心で蒼星石は今頃一所懸命準備しているはずです。
   きっと自分が一番乗りで、自分だけがお祝いしてあげたと思ったほうが喜ぶはずです。」

  蒼星石に嫌われないためとは言えこんな事を言わねばならないとは・・・。
  しかし今は気乗りしないコイツに食べる気を起こさせるのが最優先だ。

 マ「そうかなあ?」
 翠「そうですとも!蒼星石の双子の姉が言うんだから間違いないです。
   私達も世話になってるから一応お祝いさせてもらいましたがこの事は秘密にしておけですよ?」
 マ「・・・うん、分かった。」
 翠「じゃあ翠星石も半分食べてやりますから片付けますよ、決定ですっ!」
 マ「了解です。」

  成り行きで自分も食べる事になってしまったがどうやら丸め込めたようだ。


 マ「あー美味しかった。」
 翠「やっと・・・片付きましたね。」

  先程の言葉通りに二人掛かりで残ったケーキを片付けた。
  ちょっと作りすぎたかと後悔を覚えた。
  時計を見る。
  ケーキを食べるのに時間も食ってしまいもう蒼星石との約束の時間だ。

 翠「さあ行きますよ。」
 マ「どこへ?」
 翠「おまえんちです。」
 マ「じゃあ皆にさよならしなきゃ。」
 翠「全員事情は知ってるから必要ないです。急げですっ!」

  ねむっちまいそうなのろい動きの人間の手を来た時と同じ様に引っ張る。

 翠「いいですか、蒼星石がいろいろと用意してくれてるはずですがお前はそれを知らない。」
 マ「うん。」
 翠「それとちょっとばかし大袈裟に喜んでやれです。」
 マ「そうするよ。」
 翠「あとさっきの飲み食いのことは秘密。約束ですよ、いいですね?」
 マ「うん、約束する。」

  そんな事を言い含めていたら到着した。

 蒼「あ、お帰りなさい。」

  もう準備は終わっていたのだろう、鏡の前で待っていた蒼星石が満面の笑みで出迎えた。

 マ「ただいま。ごめんね、何も言わずに遅くなって。」
 蒼「別にいいんだよ。何してたの?」
 マ「翠星石に引っ張り出されて雛苺や金糸雀達と遊んでたんだ。」
 翠「そんな感じですね。子守のお手伝いをさせてました。」
 蒼「ふうん。じゃあお夕飯にしようか。」

  ウキウキした感じの蒼星石は疑いも持たずに食卓へと向かう。

 マ「うわ!!!!」
 蒼「驚いた?」
 マ「すごいご馳走だね。」

  テーブルの上にいろいろな料理が並ぶ。

 蒼「今日はマスターの誕生日だからね、頑張っちゃったよ。」
 マ「ありがとう!とっても嬉しいよ!!」

  お礼を言いながら蒼星石に抱きついた。
  蒼星石もまんざらではなさそうで喜んでいる。
  普段ならぶっ飛ばしてやりたいところだが、さっき大袈裟に喜べといった手前そうもいかない。
  それにコイツはこの後で料理を食べられずにリタイアするのだ。
  今は平常心でじっと我慢の子だ。

 蒼「うふふ、マスターをビックリさせたくってさ、翠星石に頼んだんだよ。」
 マ「なるほどね。」
 翠「どういたしましてです。」

  屈託なく喜ぶ蒼星石を見ていると後ろめたさを覚えてしまう。

 蒼「それでさ、お礼になるかは分からないけど翠星石の分も用意したんだ。
   お夕飯を一緒に食べていかないかい?」
 翠「えっ?」
 蒼「やっぱりさ、マスターも大事だけど翠星石も大事だし。
   二人で過ごしたい気もするけれど、大切な人たち皆で過ごせたらなって。」
 マ「そうだね、せっかくだから賑やかな方がいいよ。
   なんなら今から電話して遅くなるって言えば大丈夫でしょ。」

  促されて食卓に着く。
  目の前には美味しそうな料理。
  蒼星石が心を込めて作ったのだから当然だ。

  だがしかし・・・

 蒼「翠星石、ほとんど食べてないね。あまりうまく出来てなかった?」

  しばらくして蒼星石が不安そうに聞いてくる。
  無論、味が悪いのではない。
  あいにく食欲があまり無いのだ。
  さっきあれだけ甘い物を食べたので流石にもたれる感じがある。
  ドールの自分でもこうなのだから人間はもっと・・・

 マ「美味しいよ、ありがとう!」
 蒼「どれが一番美味しい?マスターの好きな物を作ったつもりだけど。」
 マ「どれも美味しくって一番なんて決められないよ。」
 蒼「やだなあ。」

  二人とも笑顔で会話が弾んでいる。
  そんな話をしながらむしゃむしゃと食べている。
  あっという間に山盛りだったはずのご飯が空になってしまった。

 蒼「お替わりあるよ?」
 マ「じゃあちょうだい♪」
 蒼「翠星石もどうだい?」
 翠「遠慮しておきますよ。」

  自分はお替わりどころか一杯目がまだ大して減っていない。
  お茶碗を持って蒼星石の姿が消える。

 マ「翠星石小食だね。ダイエット?」
 翠「ドールにゃ健康も肥満も何にも無いですよ。
   それよりもお前もあれだけお菓子を食べておいてよくバクバク食べられますね。
   どんな非常識なお腹をしてるんですか?」

  ドールの自分でさえ食欲が失せているというのにコイツは一体何を考えているのだろう。

 マ「えー、だって甘い物って別腹じゃん。」

  うるさい黙れ。
  おかしいのはお腹ではなく頭だったようだ。
  コイツは何も考えていない。
  きっと頭の中にはプリンかムースでも詰まっているのだろう。

 蒼「はい、お替わりだよ。」
 マ「わー、ありがとう♪」
 蒼「ちょっとよそいすぎたかな?」
 マ「平気平気、美味しいから底無しに食べられるって。」
 蒼「ふふっ、そう?でも食べ過ぎないでね。」
 マ「はーい。」

  そう言って非常識な人間が非常識なペースで食べ始めた。
  そのまま呆れて見ていると出された料理を食べ尽くしてしまった。

 蒼「食後のデザートにケーキもあるよ。翠星石みたいにお菓子作りは得意じゃないけど。」
 翠「ケーキですか?」
 蒼「うん、レアヨーグルトケーキ。最初はベイクドにするつもりだったんだけどね。
   チーズケーキはレアチーズの方が好きだったの思い出して変えたんだ。
   調べたら数時間冷やさなきゃいけないから最初からは用意できなくなっちゃったんだけどさ。」
 マ「楽しみだなー、きっと美味しいんだろうなー。」
 蒼「でもあんなに食べたからきついかな?誕生日ケーキだし先に出せれば良かったんだけどね。」
 マ「平気平気、甘い物は別腹って言うじゃない。」
 蒼「ふふっ、そうかもね。」

  お前は四つの胃を持つ牛人間か。
  その別腹はもう使ったんじゃないのか。
  まず男が別腹別腹と言うな。

 翠「・・・翠星石はもう帰りますよ。」

  幸せそうな二人を見ていたらなんだかアホらしくなってきた。

 蒼「あれ、翠星石もケーキ食べなよ。」
 翠「いいですよ、作ってやった相手にくれてやれです。」

  そのまま席を立って鏡へ向かう。

 蒼「待って、じゃあお土産に・・・。」
 翠「味見はまたの機会でいいです。後は二人でゆっくりやってくれです。」

  鏡の中に入ったあたりで後ろから声を掛けられた。

 マ「翠星石、今日はいろいろとありがとうね。」
 蒼「本当にありがとう。いい姉を持って幸せだよ。」

  いろいろと、か。
  自分はそんな礼を言われるような事はしていない。
  変に嫉妬して邪魔をしようとした自分が恥ずかしくなってそれには応えずに去る。

 マ「わーい、ロウソク、ロウソクー♪」
 蒼「あ、あのさ・・・せっかく翠星石が気を利かせてくれたんだし、この後は・・・」

  終わりの方は聞こえなかったがそんな言葉が聞こえた。
  まあ・・・好きにしてくれればいい。
  蒼星石が望むのなら自分が口を挟む事ではないのだから。







  鞄に入り眠りに就く。
  かつての記憶が紡ぎ出される。
  蒼星石との楽しい日々。
  自分が一番の理解者であり、自分の一番の理解者だったはずの彼女。

  ・・・彼女は変わった。

  少なくともいい方に変わりつつあると思う。
  姉としてはそれが嬉しいと同時に少し寂しい。
  それはあの人間と過ごすようになってから、あの人間の影響を受けてからだろう。
  だとしたら、今一番蒼星石を理解しているのはあの人間かもしれない。

  それならそれでもいい。

  双子の絆に結ばれたのは自分だけ。
  そういう意味ではあの人間、蒼星石のマスターとは違った意味で一番で居られるのだから。