ビジュアルが豊富なmp3プレイヤーのが好きです
いわずもがな「」の所は自分の名前で

タイトル「秋葉原の冒険」


今俺は駅前の広場で蒼星石の到着を待っている。沢山の人が忙しなく通り過ぎていく中で俺はベンチに腰掛けて首から提げたmp3プレイヤーで
音楽を聴いていた。音楽とは全ての人に共通する娯楽文化であろう。俺のような今時の若者にはロックとか激しい音楽、
働き盛りのサラリーマンなんかはクラシック、年配の方には演歌と世代に関係なく馴染める優れものだ。最も演歌の好きな若者もいるし、
簡単には言い切れないが。音楽を聴いている間は外の世界とは隔絶された独自の世界に浸る事ができる。それは何とも素敵な事である。
同じカテゴリの音楽に興味のある者とはその世界観を共有する事が出来る。言わば人間関係を築く架け橋とも言えるだろう。
などと、評論家チックな事を考えているうちに蒼星石が歩いてくるのが遠くから見えた。俺は立ち上がり蒼星石の方に歩いていった。

「ごめん、待ったかな」

「いや別に」

蒼星石と合流した俺は、二人分の電車の切符を買うと都心へ向かう中央線に乗った。車内は休日という事もあり、いつもよりほんの少し空いていた。
なぜ二人で出掛ける事になったのかというと、事の発端は蒼星石からの一通のメールであった。

件名 お供してくれない? 本文 i-podが欲しいんだけどよく分からないんだ(?_?) 付き合ってくれないかな?

友人に聞いてもよく分からない、との返事ばかりで巡り巡って最後に俺にたどり着いたそうだ。かく言う俺も余りそういった知識がある訳でもないが、
「頼れるのは君だけ」という蒼星石のメールに断る訳にもいかず、蒼星石のi-pod探しの旅に動向する事にしたのである。
そろそろ新しいプレイヤーが欲しかった頃だったので、丁度都合よかったと言えばそうなのだが。
蒼星石は「どんな所なのかな」と始めていくあの街がかなり気になるらしく、さっきから質問攻めである。やがて目的の駅に着き、俺は降りる前に
「迷子になるなよ」と蒼星石に忠告した。蒼星石は「うん」と頷くと俺の横にピタリと寄り添った。改札を出ると、大きな建物の群れが目に入った。
かくして、蒼星石と二人で広大なコンクリート・ジャングルのフィールドを巡るちょっとした冒険の旅が始まった。

「うわあ、凄い人だね。ここが秋葉原かあ」

「見失わないようについて来いよな」

この街は、世間一般の風潮では所謂「オタク文化発祥の地」としての認識が強いようであるが、それはほんの一面に過ぎない。
元は日本有数の電気街としての面の方が強かったのだが、マスコミの相次ぐ特集ですっかり「オタクの街」という認識を植えつけられてしまった。
マスコミとは厄介なもので、自らのオマンマの為ならば歪んだ情報だろうと躊躇い無く報道する。それによって聴衆は歪んだ知識を得る事になる。
これは一種のウイルスであると言っても過言ではないと思う。実際蒼星石も「あそこはオタクの街でしょ」と来る前に抵抗を持っていた。
そう言った偏見じみた考えを持たれるのは何とも悲しいことだ。哀れでもある。マスコミの掌の上で踊り続けるのは。
それでも情報を手にする為には、下らない偏見を生み出すマスコミを頼らなくてはならないのは何とも皮肉な事だと思う。

蒼星石と高いビルに囲まれた街の中を歩いていく。俺たちの住んでいる立川も東京だが、比べ物にならない建物の多さに蒼星石は
驚きを隠せないようだった。そして中には一生縁の無い人が多いであろう少し変わった店もちらほら見える。
少しおかしな店を見つけては「ほらほら「」君見てよあれ」と子供のように騒いでいた。

「「」君、ここは・・・「とらのあな」?」

「あ、そこ違う。そこはあれだ。」

「あれって何なのさ?」と執拗に聞いてくる蒼星石に何とか別の話題をふって「あれ」の説明を回避した。上手く誤魔化せたようだ。
まさか「同人誌ショップだよ」などとは口が裂けても言える訳が無い。何の店なのか知っている俺もあれだが。濁った空気の歩道を歩いていく。
都心に近づくほど緑が少なくなる。その為殆ど空気の入れ替えが出来ない。そのくせ車が多いので、漫画のように灰色に濁った空気が見えそうだ。
この町にいる人間は大きく二つに分けることが出来る。スーツを着たサラリーマンと所謂アキバ系という人種だ。
若い女の間ではアキバ系というだけで差別的な扱いを彼らは受けるが、彼らにも思うところがあってそうしているのだろう。
別に俺は敬遠する気などはない。それに意外と話が合うと楽しいものなのかもしれない。
ふと蒼星石の方を見ると、とても不思議なものを見るような顔をしていた。

「お帰りなさいませ!ご主人様!!」

「ぶふぅ~!」

蒼星石の視線の先にあったものは偶にテレビで報道されているメイドカフェという物であった。数人の女性に囲まれた男性が店に入っていく。
それを蒼星石は好奇の目で見ていた。下劣な笑みを浮かべて男性は店の中に消えていった。何を思って彼はあの店に寄ったのだろうか。
時折他人の行動に凄く興味をそそられる事があるのだが、今がまさにそれだ。

「ねえ、「」君もああいうの好きなの?」

「バカ言え。あれは流石にマズイだろ」

「・・・僕もあんな風にしてあげようか?」

冗談ぽく言った蒼星石に少し間を置いて返事をした。

「無駄無駄無駄無駄ァ!!それより早く電気街に行こう」

5月の下旬だというのに真夏のような暑さのコンクリート・ジャングルを更に進んでいく。この暑さは人口の多さもあるが、
コンクリートが熱を吸収しているというのもある。昨日大学で地球温暖化についての討論をしたが、大いに盛り上がった。
白熱した意見の飛び交う中、俺は碌な意見も言えずにいたが。だがヒートアイランド現象を今まさに体験している今の俺ならば、
周りの皆が驚くような素晴らしい意見が言えるだろう。「皆さん、黒のジャケットを着てアキバに行くのは止めましょう」と。
汗をかきながら歩く俺の横を半袖半ズボンのラフな格好で歩く蒼星石をみて羨ましくなった。
ルンルンと楽しそうに、時折俺に笑顔で語りかけてくる蒼星石を見る度に難しい願望に苛まれる。

君が俺の彼女だったらいいのに。俺なら君をもっと楽しませてあげるのに。もっと俺に笑いかけてくれたらいいのに。

心の中で呟いた言葉は蒼星石には聞こえるはずも無く、蒼星石は笑顔で俺の横を歩くだけだ。俺はその願望を胸の奥に仕舞うと、
何事も無かったように蒼星石と話し出した。と言っても短い会話の連続だったが。「疲れない?」と声を掛けると「大丈夫だよ」と
気丈に振舞って見せた。おかしな事に、随分歩いたのだが一向に行きつけの店が見えてこない。いつもは10分程でつくのだが。
もう30分ぐらい歩いている。流石に蒼星石も疲れてきたのか、歩くペースが遅くなってきた。

「おかしいな。もしかして何らかのスタンドの攻撃を受けてるのかな」

「「」君。あのね、凄く言い辛いことなんだけど言っていいかな」

「どうぞ」

「僕達、迷ってない?」

暫しの間顔を見合ったまま沈黙が続いた。そして疲れたから休憩しようと近くのカフェに入った。
そこは先程のカフェとは違い普通のカフェであった。モダンな雰囲気が気に入ったらしく、蒼星石は「いいお店だね」と言っていた。
ウェイトレスの運んできたコーヒーを飲みながら外の様子を見る。見たことのある漫画のキャラクターと同じ服装をした人が目に留まる。
あれがインターネット上でみかけるコスプレなのだろうか。蒼星石と雑談をした後、店を出た。再び歩き出し、店を探す。
道なりに歩いていると、何やらコスプレの撮影会をやっているようだった。



「「」君!!何かやってるよ。「ローゼンメイデンコスプレ撮影会」だってさ!!」

ローゼンメイデン。聞いたことがある。確か人形が何かになるために戦う漫画だったような。
撮影の様子を見ていると、紅い派手なドレスを来た女性が笑顔で写真を撮られていた。

「すいません!貴女もコスプレしてみませんか?フヒ」

突然太った男が蒼星石に話しかけてきた。蒼星石はいきなりの事で驚いているようだった。

「何をするだァー!!蒼星石に話しかけるなーッ!」

「うおッ!貴方もジョジョ好きですか!?それに貴方DIO様に似てる!コスプレしませんか?」

そう言うと俺に話しかけてきた細い男は漫画で見たことのある敵キャラの服を持って来た。
俺は「ふざけるな、そんな暇はない」と断っていた。が、蒼星石に声を掛けられて振り向いた瞬間、蒼星石の姿を見てビックリした。
そこにはシルクハットに青いケープ、白のYシャツに白のフリル、胸元の黒いリボンにコルセット、青いズボンのいかにも漫画のキャラクター
といった格好をした蒼星石がいた。

「そ、蒼星石?その格好は」

「「」君、似合う、かなぁ・・・」

オタ「蒼星石は自分の主を「マスター」って呼ぶんですよ。彼氏の事をマスターって呼んでくださいよ」

「そ、そうなの?じゃあ・・・ま、マスター?」

オタ「萌えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

突然の事で俺はどう反応したらいいか分からなかった。蒼星石は恥ずかしそうにもじもじしている。
俺も男達に連れられて細い男の持っていた黄色い布地に膝に緑のハートがついた服に着替えさせられた。

オタ「じゃーんッ!!DIO様ッでーすッ!!」

「「」君・・・その格好は、何?」

異様な服装に金髪の長いカツラまでつけた俺を見て蒼星石はかなり驚いているようだった。

「フフフ蒼星石・・・お前の欲しい物は何だ?」

彼らに言われる前に俺はキャラの真似をしていた。何と言うか、結構楽しい。カフェの外から見た彼の気持ちが分かる気がした。

ジョジョオタ「なんだー、嫌がってたのにやる気満々じゃないすか!!さすが兄貴!!」

オタ「フヒーッ!ジョジョとローゼンのコラボ!!」

俺達は周りを囲まれてひたすら写真を撮られ続けた。始めは恥ずかしがっていた蒼星石も徐々に慣れてきたらしく、
「楽しいね「」君」と最後の方になると自らポーズを作っていた。俺も俺で楽しんでいた。
結局日が暮れるまで彼らに写真を撮られ続け、終わった頃には夜の9時を過ぎていた。

オタ「ありがとうございました!!いい写真が撮れました!!何かお礼がしたいのですが・・・」

「あ、じゃあ○○って店知ってる?迷っちゃってさ」

「俺ァおせっかい焼きのキモヲタ!!甘ちゃんのアンタが好きだから店まで案内するぜ!!まかせときな!!」

彼らに案内されて目的地の電気街に着いた。どの店も活気に満ちており、通るたびに「いらっしゃいませ」と
声を掛けられる。パソコンやら携帯やら、世界中の電化製品がここに集中しているのではという程の商品が並んでいた。
何より凄まじい人の数だ。ちょいと目を離したらすぐ蒼星石と離れ離れになってしまいそうだ。
店内に入り店の見取り図を見る。i-podはどうやら三階のようだ。
エスカレーターに乗り三階に行くと、今流行の大型液晶テレビが展示されていて、i-podはその奥にあった。
五色綺麗に並べられたi-podを見て目的のやっと目的の物を見つけた俺はやれやれとため息をついた。
青いi-podを買うと店を出て駅まで向かった。

「嵐みたいな人達だったね、マスター」

「え?」

「じゃなかった。「」君。癖がついちゃったよ。」

蒼星石がぎゅっと俺の手を握ってきた。「どうした」と聞くと「暗いから迷子にならないように」と照れ臭そうに言った。
少し肌寒そうにしていた蒼星石にジャケットを羽織らせてやると、「ありがとう、マスター」と恥ずかしそうに言った。
その後で、また間違えたことを指摘すると更に顔を赤らめた。電車は思ったより空いていたので隅の席に腰掛けた。

「いや、疲れたな蒼星石。パッパと帰るはずだったんだがな」

「クー、クー・・・」

どうやら疲れて眠ってしまったようだ。スースーと寝息を立てながらも、i-podの入った袋を大事そうに抱えている。
「僕のだよ、「」君」と寝言を呟いた蒼星石に「大丈夫だよ、誰も取らないから」と心の中で言い聞かせる。
まだ歩ける、と強気で振舞っていたのに、遊園地で遊びつかれた子供のように眠る蒼星石を見てクスリと笑う。
ガタリと電車が揺れ、蒼星石の体が俺の体にもたれ掛かった。柔らかな蒼星石の体が俺の体に触れる。
俺は気付かれないようにそっと首の後ろから蒼星石の肩に手を回すと、しっかりと肩を抱きしめた。電車が揺れて逆方向に倒れないように。
そしてまだ眠ってていいよ、俺が起こしてあげるからと優しく囁いた。ふと周りを見ると遠くに居るお婆さんが笑っている。
そう言えば店員にも駅員にも笑われていたが、向かいの窓に映った俺の姿を見て理由が分かった。

まだDIOのカツラを被ったままだった。ついでに蒼星石もシルクハットを被ったままだった。

後日、蒼星石がパソコンを持っていないことが分かり、パソコンを買いに行ったのはまた別のお話だ。


fin