マ「じゃあお休みなさい。なんだか大変な事になっちゃったね。」
 蒼「その事でちょっといいかな?」

  マスターが布団に入ったところで蒼星石から話しかけた。
  蒼星石はなにやら深刻な面持ちだ。

 マ「どうかしたの?」
 蒼「真紅はともかく・・・水銀燈には少し配慮して欲しいんだ。」
 マ「なんで?こう言ったら悪いけれど水銀燈のも結局はわがままじゃない。」
 蒼「実はね、それにも事情があると思うんだ。」
 マ「え?」
 蒼「本当はあまり言いたくはないけれど、知っておいた方がいいと思うから話しておくよ。」
 マ「・・・お願い。」

  神妙な顔つきのまま蒼星石が話し始めた。。

 蒼「じゃあ僕が見聞きした限りの事をお話しするね。そう、あれはまだ僕らが目覚め、巡り合ったばかりの頃・・・」




 蒼「・・・といった事があったんだ。」

  話を聞き終わったマスターがため息をつく。

 マ「全くの別物とはいえ、ブローチに関しては根の深い問題があったわけだ。」
 蒼「多分ね。以前真紅にも同じ様な反応があったんだ。」
 マ「そうか、二人ともトラウマみたいになって残っちゃってるのかもね。」
 蒼「うん。だけど真紅の方はジュン君にそれを伝えて気をつけてもらってからは荒れてないみたい。
   だから取りあえずは水銀燈に注意しておけば大丈夫だと思う。」
 マ「へえ、ジュン君にはとっくに話してたんだ。なんかショックだなあ。」
 蒼「だってその時は下手したら大喧嘩になっちゃったし・・・」
 マ「ふふっ、まだまだ信頼されて無いって事か。」
 蒼「違うよ!だって・・・マスターに僕なんてひどい奴だって思われちゃうんじゃって・・・。」
 マ「なんでさ?」

  蒼星石が一瞬ためらってから口を開く。

 蒼「さっきも言ったけど僕は会ったばかりの水銀燈を有無を言わさずに斬り捨てた。
   彼女がまだローザミスティカすら持っていなかった無力な時にね。」
 マ「真紅がその事を黙ってたって時のか。」
 蒼「だけど手を下したのは僕だ。きっと水銀燈も僕を恨んでいる。」
 マ「彼女もプライド高そうだもんね。」

  マスターが大げさに笑いながら言った。

 蒼「いいんだよ、そんな風に気を遣わないでも。・・・ひどい奴だよね。」
 マ「で、蒼星石はその事を後悔しているの?」
 蒼「・・・していない。ローゼンメイデンが戦うのは宿命なんだ。
   遅かれ早かれ彼女だって戦う事になる、そう判断した上の行動だよ。」
 マ「でもローザミスティカを持ってないって知っていたら襲わなかったんでしょ?」
 蒼「ただのドールを倒しても意味が無いからね。でもだからと言って真紅のせいには出来ない。」
 マ「じゃあ質問を変えるよ。『今』の蒼星石だったらどうしてたと思う?」
 蒼「今?」
 マ「今の時点で何も知らない水銀燈みたいな、ひょっとしたらローゼンメイデンかもってドールが現れたらどうする?」

  蒼星石がしばらく考え込む。

 蒼「今なら・・・はっきりしないうちからいきなり攻撃はしない気がする。
   少なくともいろいろ確認したり、アリスゲームとかの事情は話したりすると思う。」
 マ「へえ変わったんだね。」
 蒼「みんなや、マスターのおかげでちょっとだけ丸くなったのかな?」

  そう言って自嘲気味に笑った。

 マ「視野は広がったんじゃないかな?でも安心したよ。」
 蒼「何が?いくらなんでも誰彼構わずにいきなり斬りかかる程にまで荒れてはないよ?」
 マ「そんなんじゃないさ。その時の蒼星石はさ、きっと戦いの宿命に囚われてたんだろうなって。」
 蒼「え、どういうこと?」
 マ「姉妹同士で戦わなくてはいけない事に苦悩して、とにかく早く戦いを終わらせたかったんじゃないのか。
   それこそいっそ何も知らぬまま倒れる方が幸福とすら思えてしまうくらいに辛かったのかな、って。
   ・・・そんな風に勝手に心配しちゃった。」
 蒼「だけどそれがお父様の望みなんだから・・・。」
 マ「そう、だからこそ翠星石のように戦いを止める事は、お父様を裏切る事は出来なかった。
   それでがむしゃらに戦って、水銀燈も宿命に翻弄される前に倒そうとした。
   真紅が『嘘』をつかなかったらそんな事をする気はなかったみたいだけどね。」
 蒼「違うと思うよ?僕はそんなに繊細なやつじゃないさ。
   単に自分勝手なだけ・・・買いかぶられても困るよ。」

  蒼星石は否定するがマスターは一歩も退かない。

 マ「でも僕は信じる、蒼星石なら信じられる。
   そして、きっと何か戦い以外の道を見つけ出す希望を持ってくれたんだとも。
   『今』の蒼星石ならもう戦いの宿命になんて負けやしないと。」
 蒼「気持ちはありがたいけれどそんな期待をしても裏切られるだけだと思うよ。」
 マ「そんなの全然構わないさ。重い宿命と戦い続ける蒼星石を助ける力が僕には無い。
   だったらせめて、自分にも出来る蒼星石を信じるという事だけは最後まで貫きたい。」
 蒼「マスター・・・。」
 マ「やった事は取り消せないし、完全に忘れたりも出来ないだろうけど、きっとそれを乗り越えられるさ。
   蒼星石と水銀燈も、真紅だってきっといつかはそんな事もあったと笑って言い合える日が来るよ。
   そう信じてるし、出来る範囲でならいくらでも協力するよ。」
 蒼「そうなれるように、頑張るよ。」
 マ「よしよし、僕も出来る限り応援するからさ。一緒に頑張ろうね。
   さて、そのためにも我が家に滞在中に喧嘩したりしないように丁重に扱わなきゃね。」
 蒼「うん。」
 マ「じゃあちゃんと早起きしてご飯作らなきゃだ。今度こそお休み。」

  マスターの手が蒼星石の頭を撫でる。

 蒼「あのさ、お願いしてもいい?」
 マ「ん、何?」
 蒼「今夜は一緒に寝ちゃ・・・だめ?」
 マ「別に構いませんよ。じゃあ善は急げだ。」

  マスターが蒼星石を抱き上げて布団にもぐりこむ。
  マスターの胸の中で蒼星石が言った。

 蒼「こうしてるとさ、なんだか勇気をもらえる気がするんだ。
   さっきはあの事を話すだけでも怖かったのに、今は真正面から向き合えそうだよ。
   宿命の事にも、過去の事にも、もう負けたり逃げたりしないように出来る気がする。」
 マ「早速お役に立てて光栄です。だけど一人でムチャしちゃやーよ?
   足りない分はお互いに補い合えばいいんだからさ。」
 蒼「うん、ありがとう。」
 マ「こちらこそ今後ともお世話になりますよ。じゃあ寝ますか。」
 蒼「うん。」

  二人とも安らいだ表情で眠りに就く。
  こうして蒼星石にとっての一つの始まりがようやく終わりを告げた。