真「それにしても・・・」

  真紅と水銀燈の無言のにらみ合いの後、真紅が先に口を開いた。

 真「あなたったらあちこちに迷惑をかけてるようね。蒼星石のところにまで出没するなんて。」
 銀「やぁっと見つけたわ、真紅ぅ。」
 真「・・・・・・。」
 蒼「僕に用じゃないみたいだね。」
 マ「真紅が狙いなら、やっぱ泊めるメリットないじゃん。」
 真「うるさいわね。今はそれどころじゃないでしょ。」

  真紅のツインテールが鞭のようにしなる。

 マ「あいたぁ!!」
 蒼「マスター!!」
 銀「そんなお遊びはもうやめなさいよ。」
 真「そうね、ウォーミングアップにもならないしね。」
 銀「あなたも私と同じ様に・・・苦しめてあげるわぁ!!」

  水銀燈が怒りを帯びた声を上げる。
  それを受け、真紅がステッキを構えて戦闘体勢に入る。
  その瞬間、水銀燈は早くも真紅に襲い掛かっていた。

 蒼「・・・レンピカ。」

  真紅に加勢するつもりか蒼星石も庭師の鋏を取り出す。
  そこに後ろから抱きついてソファに腰を降ろす。

 蒼「マスター?」
 マ「ううっ・・・ほっぺが痛いよぉ。」
 蒼「髪を武器にするのは真紅の特技だからね。」
 マ「それで蒼星石に頼みがあるんだけどいい?」
 蒼「いったい何?」
 マ「もう痛い目に遭いたくないから守って♪」
 蒼「分かってるよ。巻き込まれないうちに水銀燈を・・・」
 マ「お願いしたいのはそうじゃないんだ。」
 蒼「え?」
 マ「蒼星石に命令なんてしたくないけど・・・今回はマスターとして命令させてもらう。」
 蒼「・・・はい、なんでしょうか?」

  蒼星石も何かを察してくれたらしく言葉遣いが変わる。

 マ「本意じゃないと思うけど、蒼星石は戦いには加わらないで欲しい。
   ここで待機してあの二人のとばっちりから僕を・・・そして何よりも自分自身の身を守ってて。
   あと、万が一どちらかが倒れそうなら助けに入って欲しい。それが真紅でも、水銀燈でも。
   誰にも戦いで傷ついて欲しくないんだ。」

  あの二人の戦力は拮抗しているはずだから蒼星石が止めに入るのは難しくはないだろう。
  むしろ最初から真紅に味方することでパワーバランスが偏った方が不慮の悲劇が起きかねない。
  あとは蒼星石が『マスター』を守るという建前で戦いを傍観することを納得してくれるかどうか・・・。

 蒼「分かりました、お任せ下さい。決してあなたにかすり傷一つ負わせませんから。」

  どうやら思いを汲んでくれたようだ。

 マ「ありがとう。だけど最優先は蒼星石自身、それだけは絶対だよ!」
 蒼「はい。」


 マ「お茶入れたよ、戦況は?」
 蒼「やっぱり二人とも互角だよ。」
 マ「すごいね。」
 蒼「オールレンジで渡り合ってるね。」

  二人は間合いを取って羽根と花弁を撃ち合っている。

 マ「今日も羽根がいっぱいだね。」
 蒼「後片付けが大変なんだよね。」
 マ「真紅の花びらは消えるのにね。」
 蒼「水銀燈の羽根は実体だから。」
 マ「まあ燃えられても困るけど。」
 蒼「あんまり散らかさないで欲しいね。」
 マ「仕方ないさ。終わるのをのんびりと待とうよ。」

  蒼星石を抱き上げて膝に乗せ、その頭に頬をすり寄せる。

 蒼「だめだよ、何かあったら割って入れって言ったのはマスターじゃない。」
 マ「だって見てるだけってのも寂しいんだもん。あの二人なら実力が伯仲してるし平気だよ。」
 蒼「まあちょっとくらいなら・・・いいか。」

  蒼星石が寄り掛かってくれるのが分かる。

 マ「ああ、こうしてると和むなあ。」
 蒼「僕も。こんな風にのんきにしてちゃいけないのに。」
 マ「ふふふ、しあわせだなー。」


 銀「あの連中見てると腹立たしいような、どうでもよくなってくるような・・・。」
 真「気にしたら負けよ?」
 銀「なんか・・・どんどん戦意が削られてく気がするわぁ。」
 真「たしかにこんな事してるのが馬鹿らしくなってくるわね。」

  互いに動きが止まったところで真紅が懐中時計に目をやる。

 真「時間切れね、あなたの相手もここまでよ。」
 銀「はぁ?」
 真「もうここでこの戦いはお終い。私はもうやめにするわ。」
 銀「ふざけんじゃないわよぉ!」
 真「何をいつも以上にカリカリしているのかしら。乳酸菌の禁断症状?」
 銀「そんなものある訳ないでしょ!」
 蒼「じゃあ何があったんだい?」
 銀「それは・・・」

  水銀燈はなにやら言いにくそうにしている。

 真「自分の方から人に絡んでおいてそれは無いでしょ。」
 銀「めぐと・・・喧嘩したのよ。」
 真「あらあら、契約までした相手と喧嘩した八つ当たり?」
 銀「違うわよ!」
 マ「何があったのさ。乗りかかった船だし話してよ。」
 銀「・・・めぐが今日プレゼントをくれたのよ。」
 マ「ふんふん、それは結構じゃない。」
 蒼「仲の良いことだね。」
 真「それをあなた達が言うのもかえってね。」
 銀「だけどそれは・・・ブローチで・・・気に入らなかったら窓から放り投げてやったのよ。」
 マ「そりゃひどい。水銀燈が全面的に悪いじゃん。」
 銀「あなたに何が分かる訳!?」
 マ「あ・・・ごめん。」

  水銀燈に怒鳴られてとっさに謝ってしまった。
  なぜだろう、恐怖したというよりも何か悲しさのようなものが感じられたからだ。

 蒼「ブローチ・・・。」
 真「あらあら、それで何故私が責められなくちゃいけないのかしら。
   むしろ私の方があなたに物申したいくらいなのだわ。」
 銀「あの時の事も含め、それもこれもみんな・・・そもそもはあんたのせいよぉ!」

  それを聞いた真紅が何か反論しかけたが、言葉を飲み込んでため息を吐いた。

 真「ふぅ・・・でもこれ以上あなたと揉めていたら寝る前にくんくんの勇姿を堪能できないのだわ。」
 銀「くんくん・・・まさか今日発売のDVD!?」
 真「ええそうよ。せっかく発売日に入手しながら見ないままだなんてもったいないでしょ?」
 銀「そう、なら仕方が無いわね。戦いは一旦中止でいいわぁ。」

  急に水銀燈の態度が変わる。

 銀「ただし、あなたが逃げないように私も同席して見張るわよ。」
 マ「要するに水銀燈も見たいんでしょ?」
 銀「そうよ、めぐのお小遣いじゃ買えなかったのよ!文句あるのかしら。」

  開き直ったのか水銀燈が意外にもあっさりと認めた。

 マ「いえ別に。仲良く見てくれる分には文句ありません。」
 銀「分かればいいのよ。」
 マ「水銀燈。」
 銀「何よ、まだ何かある訳?」
 マ「きっとさ、めぐちゃんはお小遣いをはたいてブローチを買ったんだよ。
   だからさ、ちゃんと受け取っておやりよ。じゃないと自分を責めちゃうかもしれないから。」
 銀「だったら最初からDVDの方を買ってくれれば良かったのよ。」
 マ「貰った事自体は本当は嬉しかったんじゃないの?
   だから困惑して乱暴な態度を取ってしまったんじゃ・・・。」
 銀「うるさいわね!あんたには関係ないわ。それより飲み物でもないの?」
 マ「素直になればいいのに。あと飲み物は緑茶しかないんだ。」
 銀「だったらいらないわ。」
 真「明日にでも紅茶を買ってきなさい。」
 マ「葉っぱを?パックとかじゃ駄目?」
 真「まがい物は飲まない主義なの。パックとかティーバッグのはやっぱりね。」
 マ「随分と味にうるさいんだね。」
 真「味もあるけれど気分の問題ね。あなたもカップラーメンって不味くはなくても微妙でしょう?」
 マ「それはなんとなく分かる気もする。まあ可能な範囲で探してはみるよ。」
 真「じゃあ早く見ましょう。」

  真紅がDVDをセットし、再生を始めた。
  自分も座って見ようかと思っていると携帯に着信があった。
  三人の様子を確認すると、始まったばかりのオープニングに早くもかじりついているようだ。
  この分なら目を離しても大丈夫だろうとこっそり席を外す。


 マ「もしもし。」
 の『あ、こんばんは。あのー、真紅ちゃんそちらにお伺いしてません?』
 マ「あー、来てますよ。」
 の『すみません。実は・・・』
 マ「大体の事情は聞きました。今回は真紅が悪いみたいですし説得してお帰ししますから。」

  場合によっては寝たところを鞄ごと強制送還してもいいだろう。

 の『それなんですがね、できればしばらくお預かりしていただけませんか?』
 マ「え?」
 の『その、確かに真紅ちゃんのした事は問題だとも思うんですが、ちょっと気持ちも分かるし・・・
   何よりさっき喧嘩したばかりじゃないですか。
   だから今ジュン君と真紅ちゃんが顔を合わせてもこじれるだけだと思うんですよ。』
 マ「確かに・・・二人とも頑固そうなところもありますからね。」
 の『だから私の方でジュン君をなだめてからの方がスムーズに仲直りできるんじゃないかなと思うんです。』
 マ「まあそれなら・・・少しくらいなら構いませんよ。」
 の『すいません。じゃあまた連絡しますから。』
 マ「はい。ではまた。」

  電話を切る。とりあえず真紅はしばらく滞在する事になった。
  さてと、今から戻っても途中からしか見られない。
  ちょっと差し入れでも買いに行ってくるか。


  買い物を済ませて戻ってきた。
  三人とも大人しくDVDを見ていたようでほっとする。
  ちょうど切れ目になったのですかさず話しかける。

 マ「はい、乳酸菌飲料。あと真紅と蒼星石には緑茶。」
 銀「あらぁ、ありがと。」
 蒼「あ、ごめんなさい。DVDに夢中で・・・いただきます。」
 真「・・・紅茶じゃないの?」
 マ「無いって言ったじゃない。」
 真「水銀燈には用意したのに?」
 マ「だってパックの紅茶じゃ嫌だって言うしさ。
   軽く探したけどティーバッグ以外じゃ缶かペットボトルのくらいしか売ってなかったよ。」
 真「私が怒ってるのは私に対してだけ扱いに誠意が見られな・・・」
 銀「しっ、始まるわよ!」
 真「・・・分かったわ。」

  それを聞き真紅も口に出しかけた不満を飲み込んだ。


  DVDを見終わった。
  真紅が大事そうにDVDをしまう。

 マ「で、もうおねむの時間なんだよね。場所はどうするの。」
 真「この部屋の隅に鞄を置かせてもらえば十分よ。構わないわよね?」
 マ「別にいいよ。」
 銀「私もお邪魔するわね。」
 蒼「君も?」

  水銀燈はいつの間にか自分の鞄を手にしていた。

 銀「いつもの礼拝堂には戻りたくないの。めぐと顔を合わせかねないから。」
 マ「仲直りすればいいのに。」
 銀「うるさいわね。真紅は良くって私は駄目って言うの?」
 マ「駄目とまでも言わないけど・・・早いところ素直に謝ったほうがいいよ。」
 銀「・・・・・・。」
 蒼「ねえ、マスター。とりあえず今夜は泊めてあげたら?」
 マ「まあ蒼星石がそう言うならいいけどさ。」
 銀「ふん、やっぱり私は外で寝るわ。まあ屋根ぐらいなら借りるかもしれないわね。
   でもとりあえずあんた達とも顔を合わせずに済む屋外に決まりね。」
 マ「なんでまたわざわざ。」
 銀「慣れよ。それに仲良しごっこをしたくもないしね。」

  真紅の方を軽く睨みながら言った。
  僕が逆なでしてしまったのもありそうだが、まだしこりは残っているらしい。

 蒼「・・・・・・。」
 マ「分かった。じゃあ朝食は用意しておくから。リクエストは?」
 真「特にないけど、美味しい物。」
 銀「ゲロみたいなものじゃなきゃなんだっていいわよ。」
 マ「乙女の発言じゃないなそりゃ。まあいいや、二人ともお休み。」
 真「ええお休みなさい。」

  真紅の姿が鞄に消える。

 銀「じゃあね。」

  水銀燈が窓から外に出た。

 マ「さてと、じゃあ寝ますか。」
 蒼「うん。でもその前に羽根を片付けないと。」
 マ「うわぁ、忘れてた。見事に部屋中に散らばってるね。」
 蒼「急いでやっちゃおう。」

  戸締りと掃除を済ませて蒼星石と寝室に入った。
  真紅と水銀燈がいつまで居座るかは分からないが、しばらくは大変な事になりそうだ。