皆何処まで耐え切れるかな

タイトル「脱ぎ脱ぎ蒼星石」



「暑いよ、蒼星石」

「暑いですね、マスター」

今は夏。暑い日差しがガンガン差し込み部屋の温度を上げていく。
近くに留まっているのか、蝉の声がいつもより喧しい。

「今何度?」

「えーっと・・・34度です・・・」

くそぅ、忌々しい太陽め。馬鹿な太陽・・・おバカSUN。
思いついた下らない駄洒落に一人で笑いを堪える。横で蒼星石が不思議そうな顔で見つめてきた。
大して面白くも無い駄洒落にも笑えるのはきっと暑さのせいだろう。
室内の温度は34℃。無理も無い。6畳一部屋で窓一つのアパートに二人もいるのだ。

「蒼星石、すまないな。お前にまで暑い思いさせちゃって」

学生なので贅沢な暮らしはできない。クーラーなど夢のまた夢、扇風機ぐらいなら買えそうだがスペースが無い。
つまりは団扇で我慢しろという事なのだが、扇ぐとその分の反動で余計に暑くなる。
残る手段は昔から言われている「心頭滅却すれば火もまた涼し」だが、そんな事できればクーラーなど発明されず
今深刻な地球温暖化などで世界中の偉い人達が頭を抱えたりはしないのだ。

以前ならこの時期はパンツ一丁が当たり前なのだが、蒼星石がいるためそれは控えている。
仮にも女の子な為、どんな反応されるか大体予想はつくしな・・・。

時刻は丁度正午。ここを乗り切れば幾分か楽になる。ここが正念場だ。蝉の声が一段と五月蝿くなる。
二人とも狭い部屋で一言も話さずにじっとしている。ふと蒼星石の方を見る。
汗はかいていないが、暑さのせいだろうか頬が紅潮している。
「ふぅ」と少し艶っぽいような蒼星石の溜め息が聞こえる度、俺はナニかを必死に抑えていた。

「蒼星石。お前は女の子だからこう暑くちゃたまらんだろう。どこか涼しいところへ行って来いよ」

「いえ、マスターが我慢しているのに、僕だけそんな事はできません」

「行水」という言葉が頭に浮かんだが、今月は水道代がピンチな事に気付き、その言葉は悲しく崩れ去った。
暑さを紛らわす為に、蒼星石と話をしようとしたが、どうにも話のネタが浮かばない。
そうこうしている内に、蒼星石がスッと立ち上がると、少し恥ずかしそうに言った。

「マスター、少しお見苦しい姿を見せてよろしいでしょうか?」

「何だ?まぁ構わないが・・・」

そう言うと蒼星石は靴を脱ぎ、白いニーソックスに手を掛けた。

「蒼星石?何してるの?」

「あまりに暑いんで、ソックスを脱ごうと思いまして」

そう言うと俺の見ている前でソックスを少しづつ脱ぎだした。突然の行動に俺は言葉が出なかった。
一気に、ではなく少しづつというのが何と言うか・・・色っぽかった。

「(落ち着け!これは孔明の罠だ!!)」

「ふぅ、これで少し涼しくなったよ」

心の中で必死に言い聞かせている内に、両足とも脱ぎ終えたらしく再び視線をやったときには既に蒼星石の素足が露になっていた。
普段は見ることの出来ない蒼星石の素足を凝視してしまった。

「さっきから僕の脚ばかり見てるけど、そんなに球体関節が珍しいの?」

「えっ?あ、まあそうだな。普通じゃ見られないしな」

気になってるのはその素足な訳で。幸い蒼星石はまだ気付いていないらしいが、もし気付かれたら何をされるか分かったものではない。
目を逸らそうと努力するが、やはり体は正直な訳で、気付くと脚に視線が行ってしまっていた。

「ふふ、まさかそんな事言って、実は脚を見てるんじゃないのかな?」

「そんな事あるかよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」

思いっきり当たってます。

「でも恥ずかしくないのか?俺男なんだぜ」

「別に僕は人形だから、人間の男の人に見られても恥ずかしいとは思わないよ」

「そうなのか」

思いの他大胆な蒼星石に少し驚いた。蒼星石は何とも思っていなくても俺には何とも無くないから困る。
時刻は正午半。俺は寝転がりながら素足のまま昼食を作る蒼星石の後姿を見つめていた。
火を使っているためかさっきより気温が上昇している。

「ふぅ、暑いなあ」

昼食を作りながら蒼星石が呟く。温度計に目をやると、35℃を指していた。
蝉の声が遠くから聞こえるようになった頃、昼食が出来上がった。
蒼星石と昼食を取っているが、こう暑くては喉を通らない。

「ご馳走様」

「あんまり減ってないね。美味しくなかった?」

「暑いからラップしといて、後で食べるよ」

時刻は一時。先程よりほんの少し楽になったが、それでもまだ暑い。
蒼星石が団扇でパタパタと扇いでいる、蒼星石に当たり損ねた風が
蒼星石の匂いと共に俺に当たった。
暫くすると扇ぐのを止めてまたスッと立ち上がると、今度は胸元のリボンに手を掛けた。

「蒼星石、どうした?」

「ケープを脱ごうと思うんだ」

「なんと!!」

リボンをスルスルと解くと、ケープとリボンを丁寧に折りたたみ鞄に仕舞った。
ケープを脱いだ為、白いシャツとお洒落な黒いコルセット、それに蒼星石の綺麗な撫で肩が見えるようになった。

「はあ、やっぱりケープがないと楽だなあ」

「そ、そうなのか」

「肩が自由になるからね」

ソックスだけでなくケープまで脱いだだと!!落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ。
まだ慌てるような時期じゃないって仙道さんもいってるじゃないか。
蒼星石は何も考えていない!暑いから脱ぐんだからな!

「はあ、大分涼しくなったよ」

「それはようがす、ははは・・・」

落ち着け、言動がおかしくなってきている。それに視線が脚から腰に行っている。

腰!腰!腰!

足を崩して座っているから余計に腰が強調されている。それにケープとソックスは脱いでも
帽子を脱がないというのがまた何とも言えない。

「ちょっとマスター、何処見てるのさ」

「え?」

「さ、さっきから変なところに視線を感じるんだけど」

「いや、綺麗だなと思ってさ」

「ふふ、褒めても何も出ないよ」

ふう。これ以上ここにいると本当に蒼星石に何かしてしまうかもしれん。
暑いけど外に出て頭冷やすか・・・

「でもこの格好中途半端だなあ」

「?」

「いっその事服も脱いじゃおうかな・・・ふふ」

ここで俺の意識は途絶えた。



「ちょっとマスター!起きてよ!」

「ん・・・ああ」

目を覚ますと心配そうな顔で見つめる蒼星石の姿があった。

「大丈夫?急に倒れるから心配しちゃったよ」

「服、全部着たのか」

「何言ってるの。僕は始めから服なんか脱いでないよ」

「でもさっきソックスとケープ脱いでて・・・」

「嫌だなあ。夢だよ、きっと」

そう言うと蒼星石は台所へ夕食の準備をしに行った。俺はというと、あれは夢だったのかと
疑っているうちに眠くなりそのまま眠りについた。

「ふふ、少し刺激が強すぎたかな・・・」

台所で人参を切りながら呟いた蒼星石の言葉は、深い眠りの途中の俺には聞こえなかった。

fin