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ささやかな幸せが欲しい今日この頃

タイトル「蒼の幸せ論」


「はぁ・・・」

「どうしたんです。急に溜息なんかついて」

日曜の朝、朝食のテーブルに頬杖をつきながら新聞を見て溜息をついた主に蒼星石が尋ねる。

「ここ読んでごらん」

主は新聞をテーブルの上に広げると大きな見出しの所を指差した。

「何々、「貧乏学生からIT企業社長へ大変身、年収100億越えの青年実業家・・・」へぇ、すごいなあ」

記事と共に大きく笑顔で写っているその青年の写真が載せられている。
隣の青年のインタビューには「忙しい毎日ですが、とても楽しい毎日です」と書いてあった。


「羨ましいよなあ、こういう人生ってさ」

自分より2歳年下のこの青年は自分よりも遥かに面白味のある人生を送っている。
今の自分と青年を比べると、また自然と溜息が出た。

「多分彼みたく充実した毎日を送れるのが幸せって事なんだろうな」

「マスターはどうなんですか。毎日幸せですか?」

「俺の人生なんて、お世辞にも幸せとは言えないさ」

「それは何故です?」

「誰だって送れる人生だからさ。決められたレールの上を進むだけのつまらない人生だよ。
普通に勉強して、就職して毎日会社で扱き使われて。」

ふと今までの23年間の人生を振り返ってみる。今まで何か幸せと思えることがあっただろうか。
覚えている事を一つ一つ思い出してみるが、一つもない。
強いて言うならば、6歳のとき父からテレビゲームを買ってもらった事があるが、そんなものは小さすぎて幸せとは呼べなかった。
他に何か無いかと思い出しているうちに蒼星石が話し出した。

「マスター、僕は幸せというのはその人の価値観で左右されるのだと思います」

「どういう事だ?」

「例えば、新聞の彼は今の自分を幸せと思っているのでしょうか。IT企業の社長とはいえ、彼はまだ若いです。
表面上では幸せと思っていても、心の奥底では友人と遊んだり、何処かへ出掛けたいなどと考えているのかもしれません」

「ほう」

「毎日忙しいIT企業の社長になるよりも、自分の時間を自由につかえる貧乏学生のほうが幸せと考えているかもしれません」

「要するに自分が本当に幸せと思っている物が幸せと、そういう事か」

「はい」

「一つ質問」

「何でしょう」

「蒼星石にとっての幸せとは何だ」

そう言うと蒼星石は少しも考える事無く、容易いことだといった感じで答えた。

「僕の幸せは、他のドールズや僕の螺子を巻いてくれた人と一緒に居る事です。毎日こうして平和に暮らせる事が
僕は幸せだと考えています」

「ははは・・・」

「な、何が可笑しいんですか!?」

「いや、凄く平凡だなと思ってな」

「その平凡な事が僕にとっては幸せなんですよ!」

意地悪、と言った感じで蒼星石が言った。何も大きな事だけが幸せなのではない。
宝くじの一等に当たったり、社長になる事だけが幸せではない。
些細な幸せのほうがそれより価値があることだってある。
平凡な人生でも、それを幸せと思えば幸せなのだ。
そう思うとさっきまで新聞の彼を羨んでいた自分が妙に可笑しく思えた。
どうじに一つ意地悪な質問を考え付いた。

「さっき螺子を巻いてくれた人と一緒に居るのが幸せって言ったよな?」

「ええ」

「じゃあ、俺といて幸せっていう事になるよな」

「は、はい、そういう事になりますね・・・」

蒼星石は少し頬を赤く染めながら答えた。新聞を折りたたむと、蒼星石に言った。

「お茶、淹れてきてやるよ」

「あ、僕がやりますよ」

「たまには俺がやるからさ、座ってろよ」

キッチンへ向かい、急須に茶葉をいれお湯を注ぐと、湯飲みに二人分注ぐと、
蒼星石の待つテーブルへ運び、二人でお茶を飲んだ。
よく考えたら、とても幸せな事が一つあった。

それは蒼星石に出会えた事だ。数多くの人間の中から選ばれた自分はきっととても幸せ者なのだろう。

fin