何時だって迷わないように

タイトル「導くから」


此処は何処だろう。暗くて、寒くて、広い場所。僕はこの場所を知らない。
nのフィールドか、それとも誰かの夢の中だろうか。分からない。
気付いたら僕は当てもなくこの不思議な空間を彷徨っていた。
皆は何処にいるのだろうか。皆の名前を呼んでみる。

「翠星石、真紅、雛苺・・・」

返事が無い、居ないのだろうか。何度呼んでも返ってくるのは静寂だけだった。
僕はだんだん怖くなってきた。そして不安になってきた。
この暗くて広い場所に居るのは自分一人のような気がしたからだ。
僕は居ても立ってもいられなくなり、誰か居ないか探し始めた。

「誰か、誰かいないの?いたら返事をしてよ!」

返事は一向に返ってこない。僕はますます不安になった。
本当に僕しかいないのだろうか。そうは思いたくなかったが、徐々にその考えが強くなってきた。
少し疲れたので、止まって休む事にした。皆は一体どこにいるのだろう。
寂しさを紛らわせる為に、レンピカと話をしようとレンピカを呼び出す。

「レンピカ!」

しかしレンピカは出なかった。僕の声が虚しく響き渡るだけだった。
何度呼んでもいつものように蒼い小さな輝きが出る事は無かった。

「そんな・・・レンピカまで・・・」

レンピカまでもが僕から遠ざかっていってしまったらしい。
僕は悲しくなってその場に座り込んでしまった。
何故誰も返事をしてくれないんだろう、レンピカは何処へ行ったのだろう。

何時間経っただろう、僕はまだ一人で孤独に耐えていた。
見渡す限り真っ暗なこの空間で一人膝を抱えて座り込んでいた。
そして気を紛らわせる為考え事をした。
僕は色々考えている内に考えたくない結論に辿り着いてしまった。
だがそれを認めたくなかったので忘れる事にした。
ふと何処からかすすり泣くような声が聞こえた。

「誰かいるのかい!」


僕はスッと立ち上がると泣き声のする方へ藁をも掴む気持ちで一心不乱に走り出した。
声を聞き失わないように意識を耳に向けて、闇の中を進む。
ようやく孤独から開放されると思うと自然と笑みがこぼれてくる。
徐々に声が大きくなってくる。いた、どうやら女の子のようだ。
彼女もきっと僕のように気付いたら此処に居て、どうしたら良いか分からずに泣いてしまったのだろう。
まず慰めてあげて、話をしながら一緒に此処を出よう。

「クスン・・・クスン・・・」

「大丈夫だよ、もう泣かないで」

「・・・だぁれ・・・?」

近寄ってみると、少女は雛苺と同じぐらいの背丈だった。

「もう大丈夫、お姉さんと一緒に行こう」

「何処へ?」

「君のもといた所へさ。何処から来たの?」

「思い出せない・・・それに、もう無理よ、帰れないのよ」

「何でそんな事が分かるんだい?」

「だって私達、死んじゃったんだもの」

「・・・」

認めたくなかった事をこの少女はアッサリと言ってのけた。
そして同時に、自分が「遠く」へ来てしまった事を改めて認識した。
自分はあの時、水銀燈と戦い、敗れたのだ、そしてここへ来た。
最期に見たのは姉の泣き顔だった。全部思い出した。

「お姉ちゃん、どうして泣いているの?」

今まで我慢していた涙が一気に溢れてきた。自分はもう、帰る事が出来ないのだ。
この暗闇の中で永遠の時を過ごすのだ。この少女と共に。
その場でへたり込み、先程の少女のように泣きじゃくった。

「泣かないで、お姉ちゃん」

「・・・そうだね、有難う。情けないや、自分より小さな女の子に慰められるなんて・・・」

蒼星石は立ち上がると、考えるのを止めた、そしてこれからはこの世界の住人として生きようと決めた。
その時だった。幻聴だろうか。何処からかまた声が聞こえた。

セキ・・・イセキ・・・・ソウセイセキ・・・

僕はこの声に聞き覚えがある。聞きなれた男の人の声。
いつも僕の傍にいて、僕を守ってくれる人の声。
温かくて、優しい声。


僕はもう一度だけ、声の方へ歩いてみようと決めた。女の子を連れて、声のする方へと歩き出した。
歩いていく内に、声が段々大きくなってきた。僅かだが、僕は希望が持てた。
そして更に歩いていく内に、その希望は確信へと変わった。

「光だ!!」

目の前に大きな穴が見えた。そしてその中からは温かな光が差し込んでいる。
僕は少女を連れて、一目散に穴へと走り出した。
声はその穴の先から聞こえてきた。

「さあ、君も早くおいで、一緒に帰ろう」

「私は、いけない・・・お姉ちゃんだけで行って」

「どうして?早くおいでよ」

「早く行って!穴が閉じちゃう!」

振り返り穴のほうを見ると、穴が小さくなってきているのが見えた。
見る見る内に穴は僕の体がギリギリで通れるくらいの大きさに縮んでいった。

「ゴメン!!」

僕はそう言うと、穴へ向かって飛び込んだ。そして飛び込んだと同時に穴は閉じたようだった。

「うわあーっ!!」

穴に飛び込んだ僕の体は、光に包まれながら落ちていった。
そこで僕の意識は途絶えた。


「石・・・星石・・・蒼星石!!」

「んん・・・ここは・・・?」

「目を覚ましやがったですぅ!!蒼星石!!」

「信じられないわ。「遠く」から蒼星石の魂を呼び戻したのだわ!!」

辺りを見回すと、ここはどうやらマスターの部屋らしい。僕はハッと起き上がると、そこには涙を流しながら僕に抱きついてくる翠星石がいた。
翠星石は何度も「良かった」と呟くと、僕の胸で泣き続けた。

「蒼星石、おかえり・・・ですぅ・・・」

「うん、ただいま・・・有難う」

「例ならこの人間に言いやがれですぅ・・・私はただ泣いていただけなのですから・・・」

「え?」

「おかえり、蒼星石・・・」

声のする方に振り向くと、そこには僕を導いてくれた声の持ち主が居た。

「マスター・・・」

じっとマスターを見つめたままの僕に真紅が言った。

「貴女のミーディアムは、今までずっと貴女の横で貴女の名前を呼び続けていたのだわ。「もしかしたら帰ってこれるかも」と
何度も何度も、呼び続けていたのだわ」

「人間、今日だけ特別ですぅ。蒼星石に抱きつかれる権利を与えてやるですぅ。さ、蒼星石・・・」

翠星石は僕から身を離すといつもの調子でそう言った。そして皆部屋から出て行き、残ったのは僕とマスターだけになった。

「もう一度言うぞ。蒼星石、おかえり・・・」

「マスター!!」

僕はマスターに抱きつくと、そのまま泣いた。マスターは小さな子供をあやすように、僕の頭を撫でてくれた。

「ただいま、マスター・・・」

「「遠く」は怖かったろう。でももう安心だからな・・・」

「マスター、僕を導いてくれてありがとう。あの時、マスターの声が無かったら、僕は今も「遠く」の闇の中にいたと思う。
導いてくれてありがとう」

「俺はお前のマスターだ。困ったときは何時だって支えるさ。迷った時は何時だって、導くさ・・・」

「マスター、これからも、優しく支えて、導く存在でいて下さい、お願いします・・・」

「ああ、約束するよ・・・」

僕はマスターの胸で泣いた後、そのまま泣きつかれて眠ってしまった。
でも大丈夫。目覚めても、そこにはマスターと皆がいる何時もの世界だから。


「やれやれ、芝居とはいえ、泣き続けるのは楽ではありませんな・・・」

「私はまだまだ貴女達の演じる素敵な人形劇を楽しんでいたい・・・」

「まだフィナーレには、早すぎます・・・」

「これからも、素晴らしい劇を期待していますよ。お嬢さん方・・・」

そういうと暗闇から一匹の兎が何処かへと飛び去って行った。

fin

おまけ

ピンポーン

「桜田ー先生だぞー。留守なのかー?」

fin