□Sな蒼星石との幸せな日常


【4.雨の月曜】

さて…仕事に行かねばな。俺の朝は早い。
通勤には二時間近くかかるものの、乗り換えが一度なのが大きい。
ほぼ確実に座れ、寝ていくことが出来るわけだ。
今日は昨日の夜のせい、いやお陰で調子が良い。
かといって毎晩は遠慮したいところである。
…断り切れればの話だが。はっきり言って自信を喪失しかけている。
しかし、月曜日から雨が降っていると何ともやる気が出ないものだ…

俺「それじゃあ行ってくる、戸締りだけは気をつけてな。」
何かと物騒なので電話等には出なくても良いと言ってあるし、
俺も帰りが遅いので桜田家に遊びに行く許可も勿論してある。
蒼星石が迷惑をかける事など恐らく無いだろう。
蒼「行ってらっしゃい、マスター。大変だと思うけど早く帰ってきてね…」
俺「うん、なるべくな…」
名残惜しい気持ちで家を出る。
一日中蒼星石と居られたらどれだけ幸せか。
そう思いながら宝くじを買うも当たる筈も無い。
そして、駅に着き電車に乗った俺はしばしの眠りについた。

自宅では蒼星石がパソコンの前に座っている。
慣れない手つきでキーボードを操作しているようだ。
蒼「さぁ、出来た…これを押して…と。」

『マスターへ
 ちゃんと届いているかな?
 僕はこれから朝御飯の片付けとお掃除だよ。
 洗濯もしなければね。こう天気が悪いと乾燥機が欲しくなるなあ…
 もし良ければ今度電気屋さんに行きたいな。
 マスターにはいつも気持ちの良い服を着ていて欲しいから…

 一日お仕事頑張ってね、夕飯作って待っているよ。

 あと…お昼に迷惑じゃなければ電話しても良いかい?
 やっぱり…独りでは寂しいんだ。』

蒼「マスター、ちゃんと読んでくれるかな。電車だから今頃寝ているかもしれないね、フフ。」
パソコンから離れ家事を始める蒼星石。
パソコンが使える事が判明した後、俺は蒼星石用のメールアドレスを用意した。
フリーメールとは言え、彼女がメールを送るには十分だろう。
お互い、会えない時間は寂しいもので空いた時間を使って少しでもコミュニケーションが取れれば…と思ったからだ。
一時期留守電が日に20回入っていたときは流石に申し訳無くなったと共に、
少しの恐怖感を覚えたものだ。
それだけ愛されていると言う事なのかも知れないが。

そして一方、俺はまだ寝ていた。
もう3年も通勤中に寝ているわけだ、パブロフの犬状態で次の駅に付く前に寝てしまうし、
熟睡もお手の物だ。
なので終点で起きる事ができるように、目覚ましを掛けている。
例え蒼星石からであってもメール1通届いた程度の振動では目を覚ますはずも無い。
新宿に着く少し手前で携帯電話が振動を始める…そして俺は目が覚めた。
蒼星石からのメールを読み、思わず笑みがこぼれる。
桜田さんへお菓子を買いに行くついでだ、電気屋も悪くないな。
無駄遣いもしていないので洗濯機を買い換えるお金くらいはある。
なんせ家にあるのは貰った洗濯機でだいぶガタが来ていた所なので調度良いだろう。

乗り換えた電車の中で返事を打つ。

 『蒼星石へ
  メール、もう打てるようになったんだな。
  いつも家事ありがとう、乾燥機か…
  今度桜田さんへお菓子を買いに行くついでに見てみようか。
  蒼星石好みのデザインがあるといいな。
  夕飯は楽しみにしておくよ、何を作っても美味しいからな。
  むしろ蒼星石を食べちゃおうかな?(笑
  また、お昼に時間取れたら電話するよ。
  それじゃあ、また後で。』

会社に着き、いつも通り仕事をこなす。
相変わらずの忙しさだが、早く帰る為には仕方が無い。

一方自宅では蒼星石が家事を終えていた。
蒼「ん、マスターから返事が来ているみたいだ…
  買い物…楽しみだな、手を繋いだら恋人同士に見えるだろうか。
  マスター、恥ずかしがるだろうけどその表情もたまらないんだよね。
  フフ…いつも食べられちゃうのはマスターの方なのに。
  勘違いしているようだから今夜もまた教えてあげようかな…」
楽しそうな蒼星石。
会えない時間の寂しさを紛らわせるのにメールは役に立つようだ。


……
………
やっと昼休みになった。
相変わらずの雨で外にでるのも億劫だったが、昼食を買って職場に戻る。
そうだ、蒼星石に電話しなきゃな。

(プルルルル プルルルル)
俺「もしもし蒼星石、俺だけど」
必ず俺から電話をする時は蒼星石の名前を呼ぶようにしている。
蒼星石が間違わないようにするためだ。
蒼「あ、マスター♪電話待っていたよ。今日は早く帰って来れそう?」
俺「んー、そうだな…特に何も無ければ9時半には帰れると思うぞ。」
蒼「うん…じゃあお風呂も沸かして待っているね。」
俺「ありがと、まだ午前中でわからないけどな。
  蒼星石は覚えるのが早いなぁ、もうメール打てるようになってるんだもんな。」
蒼「そんな事ないよ、マスターと少しでもお話をしたかったからね。」
突然同僚が俺に話しかける。
男「おい、誰と話してるんだ?」
電話中に話しかけるとはデリカシーの無い奴である。
一応先輩なので、蒼星石には悪いが答えることにした。
俺「親戚の子が家に来てるんですよ、昼ご飯とか心配だったんで電話してたんすよ。」
どうやら納得したようだ。全く以って面倒だ。蒼星石との電話に戻る。。
蒼「へぇ…僕は親戚の子なんだね。そうなんだ。」
まずい…聞こえてしまったようだ。
俺「いやな、先輩とかに聞かれると色々面倒なんだよ…ごめんな。」
蒼「いいよ、どうせ僕は親戚の子だもの。昼ご飯はちゃんと食べたよ。」
完璧に怒ってる。女心という奴は難しい。
俺「そんな怒るなって、な?」
蒼「謝る気があるなら早く帰ってきてね。8時半までは待ってあげる。
  それ以降は夕飯抜きだからね!」
俺「んな殺生な…頑張るよ。んじゃ、まだ昼休みだけど仕事するな。」
蒼「うん、じゃあ、待ってるから。僕は本気だよ?」
俺「うん…それじゃあ、またな…(ピッ)」
なんて言えば良かったんだろう。
俺は職場では女にも男にも興味が無いと言うことになっているから恋人とは言えない。
ノンケなのは当然として、実際女に興味が無いのも間違い無い。
痴漢の冤罪で人生をダメにした人、離婚して慰謝料を払うだけの人生になった人、
インターネットで見つけた情報を鵜呑みにするのも問題だが、俺は女性不信なのだ。
蒼星石が家に来た時も興味は湧かず、何となく契約したものだ。
しばらくはドライな関係も続いていたのだが…

そんな事を考えながら俺は仕事を進めた。
何とか約束の時間までには家に帰れそうだ…


……
………
6時半、仕事を押し付けられそうになったが『親戚の子がお腹を減らしている』という理由で帰ることに成功した。物は言い様である。

最寄駅に着いた後も、俺はひたすらに蒼星石のご機嫌を取る台詞を考えた。
とりあえずぎゅっと抱きしめてキスでもしようか。
そして、蒼星石は俺の恋人以上の存在だと言うことを伝えよう。
考えも纏まったので俺の足取りは心なしか…軽かった。