マ:「じゃあ、俺が捕虜役やるよ」
   そう無茶はしまい。
翠:「そうこなくちゃですぅ!」
   こうして俺は翠星石チーム(なぜか自然に翠星石がリーダーになってた)に捕虜として引き入れられた。
   かわりにジュン君が蒼星石チーム(こっちもいつの間にか蒼星石がリーダーになってた)に出向する。
蒼:「ぜったい助け出すからね! マスター」   
マ:「ああ、はやいとこ頼むぞ」
翠:「ふっふっふ、そう簡単にはいかねぇですぅ…」


   雪合戦ルール

   ただっ広い敷地内の東西の端にそれぞれのチームが陣取り、
   自チームにいる捕虜をガードしつつ敵チームにいる自チームの捕虜を解放すれば勝利。
   なお、相手チームに雪玉を三回当てられたらリタイア。全員リタイアすると負け。


   ザッザッザッ……
マ:「………」
   俺は翠星石チームの陣地まで連行されてる最中、あることを考えていた。
   あの執拗なまでの、俺を捕虜役に仕立て上げるための翠星石、雛苺、金糸雀の小芝居……
   いつ結託したのか知らんが、もうこの三人はグルとみて間違い無いだろう。
   そうなると蒼星石チーム入りした雛苺の動向が気になるな。
   まぁ、それはとりあえず置いておいて、問題はこっちだ。
   俺が捕虜なのをいいことに、翠星石が何かしら虐待を加えてくることは目に見えている。
   だがな、そう易々と好き勝手される俺じゃあない。
   それはもう毅然とした態度で臨んでだな…
翠:「アホ人間」
   なぜか足元からでなく、俺の頭一つ下ぐらいの高さから翠星石の呼ぶ声がした。
マ:「ん?」
   振り返ると……
   俺の視界に入ったのは……、ハリセン?

   バシィイ!

マ:「おげ!」






?:「…す!」
    ・
    ・
    ・
   むにゃむにゃ……
    ・
    ・
    ・
?:「るです!」
    ・
    ・
    ・
   うーん…
    ・
    ・
    ・
?:「起きるです! アホ人間!」
   バシッ!
   冷て!
   ハッ!
   顔面に雪球を受け、俺は目を覚ました。
マ:「な、なんだあ、こりゃ!?」
   目覚めてビックリ、俺は今、木の根元にロープでガッチリ縛り付けられている状況だった。
マ:「???」
翠:「ひっひっひ、飛んで火に入る夏の虫とはこのことですぅ」
マ:「冬だぞ、今は」
翠:「うるさいです!」
   ビシィ!
マ:「ぶげ!」
   意識がまた飛びそうになる。
翠:「まったく、このアホ人間はまーだ自分の立場をわかってないようですねぇ……」
   ペシペシとハリセンで俺の頬をはたきながら、翠星石は不敵な笑みを浮かべた。
   なんだなんだ?
   とりあえず状況確認のため周りを見回すと、みっちゃんと金糸雀がニコニコと俺を眺めていた。
み:「……」
金:「……」
   状況が状況だけに不気味だ。   
マ:「ちょ、ちょっと、みっちゃん黙って見てないで縄解いてくれよっ。金糸雀も」
翠:「無駄ですぅ……。なんたってアホ人間を縛りつけたのは金糸雀のミーディアムですからねぇ……」
   ハリセンの先をグリグリと俺の頬を押し付けながら、翠星石は言った。
マ:「ふ、ふごご。な、なぜに?」
み:「ごめんなさいねぇ~」
   ちっとも申し訳など無さそうにみっちゃんは謝罪した。
み:「『協力してくれたら好きなように写真を撮らせてやる』って翠星石ちゃんに言われて、ね?」
翠:「そ、そうです。何でも着てやるです。好きなように撮るですよ」
み:「うわああ~、た、楽しみ~。メイド服でしょ、チャイナ服でしょ、ナース服に、巫女装束にボンテージに……褌に…」
   う、うわぁ…大丈夫か、翠星石。
金:「みっちゃんが喜んでくれるなら金糸雀だってなんだってするかしら~」
み:「ああ、カナ~!」
金:「みっちゃ~ん!」
   すりすりすりすりすりすりすりすりすり~~~
金:「あ、熱、熱いかしら!」
マ:「………」
   もう絶句。
み:「蒼星石ちゃんも撮らせてくれるのよね、ね?」
翠:「も、もちろんです。姉である翠星石が言えば蒼星石も断れないのです」
   な、なんだとぅ?
マ:「こら。蒼星石を巻き込むんじゃない」
翠:「ジタバタ暴れるなです。金糸雀のミーディアム、こいつの口を塞ぐです」
み:「はいはーい」
マ:「こ、こら、やめんか。む、ムグ」
   タオルで猿轡されてしまった。なんたる屈辱。
翠:「前にもこんなことがあったですねぇ。懐かしいです。
   あの時は結局ウヤムヤになってしまったですが、今回はキッチリとオトシマエを付けるですよ」
   翠星石が圧倒的優位に立った者が見せる余裕の笑みを浮かべた。
金:「翠星石、こんなものが落ちてたかしら!」
翠:「ほっほーう、これはこれは……」
   それは一本の、鋭く先の尖ったツララだった。
   翠星石は金糸雀から手渡されたツララを満足げに見やり、そして俺に向き直った。
翠:「よくも今朝は、翠星石の目の前で、蒼星石と……! あんな……!」
み:「え、なに!? 何かあったの!?」
   みっちゃんが興味津々に喰い付いてきた。
翠:「よりにもよって翠星石の目の前で……! あんなの見せ付けて……!」
   翠星石がツララを構えて近づいてくる。
翠:「ただじゃあおかないですぅ……! 覚悟してもらうですぅ……! はぁはぁ……」
   はぁはぁ言ってる!
マ:「う、ウグムム~~~ウウ~~」
   ジタバタジタバタ
翠:「ヒッヒッヒ……!」
   こ、これは殺られるっ。
翠:「そぉ~れ♪」
   ツララの切先が、俺の首筋へ……



   蒼星石、ヘェ~~ルプ!! マジで!



   一方その頃、蒼星石チームの陣地では

の:「はい、ジュン君。お茶よ~。熱いから気をつけてね~」
   水筒から注がれたお茶をジュンは無言で受け取った。
ジ:「ずず…」
蒼:「!」
巴:「どうしたの?」
蒼:「今、マスターの助けを呼ぶ声が、聞こえたような……」
ジ:「? 何も聞こえないぞ」



翠:「そぉ~ら、どうですかぁ?」
   翠星石が猿轡を剥ぎ取った。
マ:「ぶはぁ! ぐあぁあ、やめてぇ~、ちべたぁ~いっ!」
   冷たいツララで首筋を撫でられ、俺は身悶えした。
翠:「ほ~れほ~れ」
   容赦なくツララを首筋に擦りつける翠星石。
マ:「やめてくれぇ」
   くすぐったがりな俺にこの拷問は酷過ぎる。
   堪らず身を捩じらせてしまう。
   この反応を翠星石が見逃すはずが無かった。
翠:「うえ~、大の男がクネクネして気持ち悪いですぅ~」
   パシャパシャ!
み:「人形に苛まれる青年の図、これは…!」
   みっちゃんはみっちゃんで新たな境地を開拓しようとしていた。
マ:「殺せ! いっそ殺せーー! うひゃっ!」   



蒼:「なんだか凄い胸騒ぎがする……、行かなきゃ!」
   陣地から駆け出そうとする蒼星石を雛苺が引き止めた。
雛:「ダメよ~、まずはみんなで様子をみるの~!」
蒼:「でも全然攻めてこないじゃないか」
   実は雛苺、マスターが危惧した通り、翠星石チームのスパイである。
   しかしスパイといってもそんな大した任務を任されているわけではなく、
   ただ単に、時間を稼いでおけと言われただけだったが。
雛:「うゆ~」
   蒼星石はマスターが囚われている翠星石の陣地へと駆け出した。



   皆で雪合戦を楽しむ為に捕虜役として参加する俺。
   だが、それは翠星石の巧妙な罠だった。
翠:「アホ人間と蒼星石との絆は 翠星石達に崩される為に築いてきたんですものね」
   いつもの力が出せれば…こんな小娘どもなんかに…!
翠:「よかったじゃないですか。 蒼星石に骨抜きにされたせいにできて」
マ:「ンンンンンンッ!」
翠:「ひっひっひ さぁ雪球を用意するです。みんなで楽にしてやるです」
   シュッ バシッ!
マ:「んげ!」
   シュッ バシッ!
マ:「おご!」
   耐えなきゃ…!!今は耐えるしかない…!!
   パシャパシャ!
み:「マスターさんの雪まみれ写真ゲ~ット」
   いけない…! 溶けた雪が下半身をぐっしょり濡らしているのを悟られたら…!
金:「マスターさんの無残な姿を拝見してもよろしいかしら~?」
   こんな奴らに…くやしい…! でも…蒼星石とはイチャイチャしちゃう!(チュッチュ
   シュッ バシィ!
マ:「ぐへ!」
翠:「おっと、顔面に当たってしまったですか。冷たい痛みがいつまでもとれねぇでしょう?」
   は、はやく助けにきて蒼星石……!



   徐々に膨れ上がる蒼星石の不安。
   いつしかその不安は確信的なものへと変わっていた。                           
蒼:「マスター…マスター……!」
   雪原を一人走る蒼星石。
蒼:「!」
   だがそこに一人のドールが立ちはだかった。
蒼:「真紅……!」
真:「申し訳ないけれど、ここを通すわけにはいかないわ」



                                    「スノーレジャー その5」に続く

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最終更新:2007年04月19日 02:10