もしもシリーズ「あのキャラがマスターだったら?」
脳内にドラえもん画で漫画が浮かぶ貴方はきっとドラ好き
脳内再生は昔のほうがシックリくるかも

「もしマスターがノビタだったら 前編 」

1「日常」

「待てー!今日こそ1000本ノック受けろー!」

「嫌だよぉー!!」

バットを持った大柄の少年に追われている少年が一人。
彼はやっとの事で家まで逃げ帰るとドアをバタンと閉めた。そしてドタドタと階段を駆け上がると
自分の部屋に入ってホッと一息ついた。今日も野球でヘマをしたらしい。

「ふぅ、逃げ切れた。全く、たかがトンネルぐらいであんな剣幕で怒らなくてもいいのに!」

「今日は何回トンネルしたのさ?」

「たったの30回だよ」

「それは僕でも怒っちゃうよ」

そう言って呆れたような顔をしている蒼星石。そしていつもの説教が始まる。

「マスターは毎日こんな風で自分が情けなくらないのかい?」

「別に」

「僕だったら必死で練習して、皆を見返すけどね」

「僕は蒼星石とは違うんだ・・ふあぁ・・」

そう言うと彼はゴロンと横になった。

「もう。また昼寝?宿題はないの?マスター」

「グー、グー・・・」

「やれやれ、本当に寝るのだけは早いなぁ・・」

呆れながらも蒼星石は彼に毛布をかけてやった。毎日がこんな感じで過ぎていく。
全く、マスターは毎日怒られて、追われて、昼寝して、一体何が他楽しいのだろう・・
蒼星石はマスターが彼になってから、なるべく力を使う事を控えている。
まだ子供の為、あまり沢山の力は使えない。それに使いすぎて学業の方に支障を来たしては困る。
だがそういった細かな配慮に彼は気付いていない。蒼星石は彼の顔をチラッと見ると、ハァ・・っと溜息をついた。

「クスクス・・また寝てるのぉ?貴女のミーディアムはぁ」

「水銀燈・・!!」

「そんな怖い顔しちゃ嫌ぁよ。ただ貴女のお馬鹿さぁんなミーディアムを見に来ただけよ」

「マスターのことを悪く言うな・・・!」

庭師の鋏を取り出し構える蒼星石。だが戦うつもりは無いと言った様子を見て、構えを解いた。

「それにしても、真紅たちも貴女も子供なんかと契約しちゃって良かったのぉ?
アリスゲームでは莫大な量の力を使うのよぉ。ましてや、いつも寝てばかりいるようなこんな子供に耐え切れるのかしらねぇ?」

「くっ・・!」

「まぁいいわぁ。アリスゲームが始まったら真っ先に貴女から倒して、ローザミスティカを頂くからぁ!!」

そう言うと水銀燈は笑いながら黒い羽を羽ばたかせて飛んでいった。其処に残った黒い羽を見て、蒼星石は
小さく「クッ」と声を漏らした。悔しいが水銀燈の言う通りである。
子供の小さな器では、引き出せる力はかなり制限される。

「ふぁ・・ウルサイなぁ蒼星石、何かあったの?」

「マスター、何でも無いんだ・・起こしちゃってごめんね」

「ノビちゃーん、蒼ちゃーん、ご飯ですよー!」

母親の声で彼と蒼星石は下へ降りていった。食事を取った後、蒼星石は昼間の事を話した。

2「夢」

「ねぇ、マスター。昼間にね、水銀燈が来たんだ」

「水銀燈って、前にも来たあの黒い人形の事?」

「うん。でね、もしかしたら、近いうちにアリスゲームが始まるかもしれないんだ」

「何だって!?」

彼は物覚えが悪い。だがこれだけは一度で覚えてくれた。ゲームと呼ぶにはあまりに重過ぎるペナルティを
課せられているからだろうか。敗者は自身のローザミスティカを奪われ、ただの人形になってしまう。
逃げたくても逃げられない彼女たちの運命。それが強烈に頭にこびりついているからだろうか。

「やっぱり蒼星石も、アリスゲームに行ってしまうの?」

「僕もローゼンメイデンの一人だから、そういう事になるね」

「駄目だよ!!また前みたいに戦うつもりなの!?」

彼が叫んだ。彼は勉強もスポーツも人並み以下だったが、人一倍優しかった。
以前彼は蒼星石に連れられnのフィールドに言った事があった。そこで彼女たちの戦いを見た。
所詮人形の御飯事、だがそんな考えは一気に覆された。そこで繰り広げられていたのは命懸けの戦いであった。
地を走り、宙を舞い、激しく華麗に戦う彼女達の姿があった。それは見方を変えれば、抗えぬ運命に必死で抗っているように見えた。

「アリス「ゲーム」なんてのは名前だけで本当はただの殺し合いじゃないか!蒼星石はまた誰かを殺しに行くつもりなの!?
そんなの無意義だよ!もう止めなよ!」

「・・・」

「大体君だって、誰かに殺されちゃうかもしれないんだぞ!?死んだらもうご飯も食べられないし、昼寝も出来ないんだぞ!」

彼らしい意見に蒼星石はふっと笑みをこぼした。

「・・ドールに死はないよ。ただ遠くに行くだけだから。僕は怖くない」

「それに皆だって悲しむぞ!パパとママだって君を家族として受け入れてるんだ。君がいなくなったら、家族を失った事になるんだ!」

「有難う。マスターは優しいね。だけど僕も負けられないんだよ。お父様に会いたいから」

「・・・」

「心配してくれてありがとう。今日はもう寝るよ。お休み、マスター」

そう言うと蒼星石は鞄の中に入り眠りについてしまった。彼だって蒼星石が自分の父に会いたいという気持ちは分かる。
だがその為には戦って勝たなければならない。痛みを伴わなければならない。奪わなければならない。
それは野球の試合でもないし、自分がやられるような痛みではないし、漫画やオモチャを奪うのとは違う。もっと大きな者を奪う。
何とか止めさせる方法を考えるがいつも途中で寝てしまう。その日も同じだった。

不気味に輝く月の下で、二人の少女が戦っている。お互い一歩も譲らずに戦っていたが、間もなく決着がついた。

「アハハハハッ!もう終わりなのぉ?」

「うぅ・・ぁ」

蒼星石の足元に折られた鋏が転がっている。そして水銀燈に首を絞められ、苦しんでいる蒼星石の姿があった。

「残念ねぇ。貴女決して弱くないのよぉ?ただ、契約を結ぶ人間を間違えたようねぇ」

「・・」

「まぁそうよねぇ。あんな子供が契約者じゃあろくに力を使えないのも当然よねぇ」

「ゃ・・め・・ろ」

「何だって庭師の貴女があんな心の弱い人間をマスターにしたのかしらねぇ。笑っちゃうわぁ」

「僕の事は何とでも言えよ・・だがマスターの事を悪く言うな・・!!」

「何にせよ貴女は庭師も薔薇乙女も失格~ぅ!キャハハハハッ!」」

「ぁ・・」

「さぁて、そろそろ貴女のローザミスティカを頂かこうかしら!!」

―やめろ!!―

そう叫んだ所で目が覚めた。・・夢か。嫌な夢だった。

3「回顧」

彼は夢の中の水銀燈が言っていた「心」と言うのが気にかかっていた。
心はドール達の力の源、ドール達が存分に力を発揮出来るかどうかは契約者の心の強さにより決まる。
人間の強さもまた、心の強さによって決まる。心の強い人間は生き生きして輝いている。
自分は・・言うまでもなく弱い人間だろう。認めたくないが。
ぼーっとしながら考えていると、母親の声が聞こえた。

「ノビちゃーん、学校に遅れるわよー」

「はーい!」

急いで学校の支度をし学校へ向かう。時計は既に8時を回っていた。
悲しきかな、時間に縛られるのが学生の性である。布団から飛び起きて洋服に着替える。
朝食を慌てて掻き込むと、ごちそうさまも言わずに家を飛び出す。

「急がなきゃ!いってきまーす!」

「マスター!カバン忘れてるよ!」

「危なかった!また先生に叱られる所だったよ!ありがとう蒼星石」

「マスター、慌てなくていいから。ゆっくり行ってね」

「ありがとう!行って来るね!」

「いってらっしゃい」

彼は蒼星石の返事を聞く前に走っていってしまった。
通学路に生徒は一人もいなかった。通学路は彼の独り舞台だった。
走るのは苦手だが走った。ようやく学校が見えて来た所でチャイムが鳴る。
ラストスパートを全力で駆け抜ける。教室の前に着いたとき、既に出席を取り始めていた。

「佐藤、鈴木・・・野比、野比・・野比はまた遅刻か?」

「はいはいはーい!」

息を切らしながら勢い良くドアを開けて教室に入り込むが、教師の点呼のほうが早かった。
今日も朝から教師の逆鱗に触れてしまった。
教室にドッと笑い声が広がる。

「野比君、また今日も遅刻かね?廊下に立ってなさい!」

「はい・・」

「ノビタはのろまだからなぁ!」

大柄な少年の冷やかしに一段と笑い声が大きくなった。シュンとしながら教室を出て、廊下に立つ。
だがこれが日常なので別に羞恥などは無かった。
いつもは何も考えず、ただ立っているだけなので辛かったが、今日は考える事があるので辛くなかった。

彼と蒼星石の出会いは丁度3ヶ月程前の事になる。
確かあの日はサッカーでヘマをして追いかけられた。家に逃げ帰ると、机の上に一通の手紙が置いてあった。
読めない漢字が多く、殆ど内容は理解できなかったが、最後の「まきますか」「まきませんか」
の所は理解できた。そして誰かの悪戯だろうと何も考えずに「まきます」に丸をつけると、ゴミ箱に捨てた。
その後昼寝から目覚めた時、既に彼の部屋には鞄が置いてあった。
いきなり誰の者か分からない鞄が置いてあった為、理解に苦しんだが、鞄を開けて更に理解に苦しんだ。
中には一体の人形が入っていた。小さな頭に被っているに大きな帽子が印象強かった。
その横には螺子が置いてあった。良く見ると背中にその螺子がぴったりはまる穴があった。
始めは巻くのを拒んでいたが、やはり好奇心には勝てず、螺子を巻いた。
すると、一人で起き上がり、ゆっくり目を開けると、彼の方を向いた。そして静かに話し始めた。

「貴方が僕の螺子を巻いてくれたのですか?」

「そうだけど・・君は?」

平然と動き出し人形の問いに答える。

「始めまして、僕はローゼンメイデンの第四ドール、蒼星石」

「人形が喋ってる!!」

人一倍鈍い彼は、ここで初めて目の前の人形が喋っている事を認識した。
そして改めて驚いた。

「助けてぇっ!呪いの人形だ!!」

「ちょ、落ち着いて下さい。僕は悪意を持っていませんよ」

騒ぐ彼をなんとか宥めようとしたが、無理だった。その為落ち着くのを待った。

「落ち着きましたか?はぁ・・なんだか大変な人に螺子を巻かれてしまったな・・・」

「ご、ごめん・・ふぅ」

ようやく落ち着いた彼に蒼星石は話を続けた。

「・・と言う訳で、貴方は僕と契約を交わさなければいけません」

「けいやく?何それ?」

「何それって・・さっき話したじゃないですか」

「そうなの?途中で眠くなっちゃってよく覚えてないや」

「・・仕方ないなぁ。もう一回話すからよく聞いてて下さいね・・もう・・」

驚かされたのは彼ではなく蒼星石の方であった。同じ説明を二度繰り返させた人間は彼が始めてであった。

「・・と、そう言う訳なので、貴方は僕と契約を・・」

「グー、グー・・・」

「ちょ、ちょっと!一体なんなのさぁ!?何で寝てるのさぁ!!」

蒼星石の怒声で目が覚めた彼は、ハッとした感じで蒼星石の方を見た。

「何!?何があったの!?」

「貴方の事です!二度説明して二度寝る人は貴方が始めてだっ!」

「また寝ちゃったの?ごめん」

「もう・・何時になったら契約できるんだろう・・」

二度も長い説明をして、流石も蒼星石も疲れていた。そして悩んだ。
どうしたらこの人間は契約の事を理解してくれるのかと。
悩んでいる所に、彼が話しかけてきた。

「要するにさ、友達になりたいって事?」

「えっ?」

「だったら友達になろうよ、どうすればいいの?」

「あっ・・この指輪にキスをすれば・・」

いきなりまともになった彼に蒼星石は驚いて、つい彼のいうまま流されてしまった。
彼は少し照れくさそうに小さな指に輝く指輪にキスをすると、言った。

「これでいいのかな?」

「あっ・・はい。どうも」

「これで友達だね。宜しくね、蒼星石」

「あっ、はい・・よろしく」

「こんなのいつもの僕じゃない」と思いながらも、少し奇妙な形で契約は終了した。
そしてその日から、彼との生活が始まったのであった。

「はぁ・・これからどうなるんだろう・・」