マ:「うし、遊ぶぜぇ…!」
雛:「遊ぶの~!」
金:「かしら~!」
蒼:「ふふ」
翠:「ひっひっひっ」
雛苺と金糸雀が我先にと雪原に駆けていった。
蒼星石はそんな無邪気な二人を眩しそうに見つめている。
蒼:「あ、マスター」
俺はひょいっと蒼星石を持ち上げて肩車した。
マ:「いくぜ」
有無を言わさずそのまま走り出す。
が、
ズボッ
足が雪に埋まる。
ズボッ ズボッ
マ:「おお?」
思うように走れない。
なんてことだ。さすが豪雪地帯。
一方体重の軽い雛苺と金糸雀は足が埋まることもなく走り回っている。
ズボッ ズボッ
歩を進めるたびにどんどん脚が雪に埋まっていく。
マ:「う、動けん……」
そしてついに腰まで埋まってしまった。
まさかこんなに積もっていたとは。
蒼:「マスター、大丈夫?」
マ:「動けねぇ」
俺は一旦蒼星石を雪面に降ろした。
カンジキでも履いてないと駄目だな、こりゃ
後ろを見ると、遠くのほうで他の連中も雪に足が埋まって悪戦苦闘しているようだった。
金糸雀と雛苺はすでに遠くまで進んでいる。
マ:「ちょっと引っ張っり出してくれないか、蒼星石」
蒼:「うん」
俺の手を掴み、一生懸命引っ張る蒼星石。
蒼:「う~んしょ、う~んしょっ」
翠:「フフフフ、無様ですねぇ、アホ人間」
うす笑いを浮かべながら翠星石がスタスタと近づいてきた。
マ:「翠星石も手伝ってくれよ」
翠:「なーんで翠星石がアホ人間の手助けなどせにゃならないですか。
蒼星石~、こんなの放っておいて、あっちで二人楽しく遊ぶですよ~」
しかし蒼星石はにべも無く、
蒼:「駄目だよ、翠星石。手伝ってよ」
この返事に翠星石の頬がみるみる膨らんでいく。
翠:「もう、知らんです!」
翠星石は踵を返し、ズカズカと雛苺達のところへ行ってしまった。
蒼:「何怒ってるんだろ。マスター、翠星石に何かした?」
マ:「いんや、何もしてないよ」
翠星石にはね。
マ:「もう少しだ。さ、引っ張ってくれ」
蒼:「うん。…う~んしょ、う~んしょっ、う~ん……わぁ!」
いきなり埋まった雪からすっぽ抜けるように俺は倒れこんだ。
その拍子に蒼星石も背中から倒れてしまう。
雪原に二人並んで寝そべる形となった。
俺はうつ伏せ。
蒼星石は仰向けで。
ひんやりと、雪の冷たさが全身に伝わってくる。
蒼:「………」
マ:「………」
蒼:「…マスター」
倒れたままの状態で、蒼星石が口を開いた。
マ:「なんだい」
蒼:「わざと、倒れこんだでしょ?」
マ:「バレたか」
蒼:「もう、なんでそんなことするのさ」
そう非難する蒼星石だったが、表情に険の色は全く無かった。
マ:「いやー、ついついはしゃいじゃってな」
俺はポリポリこめかみ辺りを掻いた。
今自分は照れ臭そうな表情を浮かべていることだろう。
蒼:「クス、子供みたいだよ」
やれやれといった表情で蒼星石は微笑んだ。
雪のキラキラとした反射光と相まって、蒼星石の笑顔が眩しい。
マ:「なにおう」
俺は身を捩じらせ、真横にいる蒼星石に覆いかぶさった。
蒼:「あ……!」
蒼星石の顔がすぐ真下にくる。
組み伏せられたかのような格好になった蒼星石は、少し怯えたように身を縮め、
まるでハンターに捕まった小動物のような目になってしまった。
ちょっとだけ驚かすつもりだったのだが、これには俺もちょっとたじろいでしまった。
だが、雪を背に無防備に横たわる蒼星石はとても悩ましげだった。
蒼:「………」
マ:「………」
このまま互いを見つめあい、数秒が過ぎた。
蒼:「マスター」
マ:「あ、す、すまん」
慌てて退こうとしたが、蒼星石が俺の腕を掴んで引き止めた。
マ:「?」
蒼星石が再び俺の顔を覗きこむように見つめる。
こころなしか瞳が潤んでいるような……
マ:「蒼星石……」
もしかして、今、俺と蒼星石の考えていることは一緒なのか……?
つまりは、その唇を、奪ってしまいたい……
蒼:「マスター……」
マ:「蒼星石……」
俺は蒼星石に身を寄せ…
蒼星石と口付けを交わすまであと少しというところで…
ん…?
遠くの方でキラっと光るものが目に入った。
マ:「うお!」
反射的に蒼星石から飛び退る俺。
蒼:「?」
遠くからみっちゃんがこちらにカメラを向けて構えていたのだ。
光っていたのはカメラレンズの反射光だ。
マ:「ぐっ…」
こんな光景を写真に収められてはまずい。
蒼:「どうしたの、マスター?」
俺は溜め息をつき、みっちゃんの方を指差した。
蒼:「え…? あ!」
マ:「蒼星石、立って」
俺は蒼星石に手を差し出して立たせた。
体に付着した雪を掃ってやる。
蒼:「もしかして、みっちゃんさんに見られちゃった……?」
マ:「見られたね」
蒼:「~~~!」
みっちゃんが足を雪に埋もれさせながらも近づいてきた。
やけにニヤニヤしてる。
み:「ちょっと、二人とも駄目よ~。昼間からそんなことしてちゃ~」
蒼:「はうぅ~」
蒼星石はよほど恥ずかしいのか俺の後ろに隠れてしまった。
パシャパシャッ
そんな蒼星石を容赦なく撮影するみっちゃん。
み:「うふふふ、蒼星石ちゃんか~わいい~!」
マ:「みっちゃん、あんまり冷やかさんといて」
耐え切れなくなったのか、蒼星石はみっちゃんから逃げるように駆け足で行ってしまった。
マ:「ありゃりゃ」
み:「あんなに恥ずかしがることないのに」
少しも悪びれた様子がない。
マ:「まったく……」
み:「ねね」
蒼星石を追いかけようとしたところ、呼び止められた。
マ:「なんだ?」
み:「かまくら作らない?」
マ:「あぁ? かまくらぁ?」
この時、俺の脳裏にある光景が浮かんだ。
かまくらの中、蒼星石と二人っきりで……
『はい、マスター』
トクトクと熱燗を注いでくれる蒼星石。
『お、ありがとう。ほら、蒼星石も』
蒼星石には、甘酒なんかを。
そして、しばし雪見酒を楽しみ……、やがて辺りに夕闇が忍び寄ってきた頃……
『ますたぁ、僕、なんだか酔っちゃったみたい。寄りかかってもいい?』
『ああ、いいよ』
かまくら内を照らすのは数本の蝋燭だけで、蒼星石の顔に浮かぶ陰影が妙に艶かしく……
『ますたぁ……、もっと、くっついてもいい……?』
『まったく…、しょうがない子だな、どれ』
しょうがないのはお前の頭の方だ、とツッコミがきそうな妄想だが、
俺のかまくら作りのやる気を刺激するには充分だった。
マ:「いいねぇ~」
み:「じゃ決まりね! 頼んだわよ」
マ:「えぁ、みっちゃんは?」
み:「あたしは写真撮影で忙しいから。じゃ」
そう言うや、みっちゃんはカメラを構えなおし、ずかずかと行ってしまった。
マ:「ううーむ」
かくしてかまくら作りをすることになった俺。
ここは、でっかい出来上がりを見せて連中を驚かせてやろうじゃないか。
となると、製作途中を見られてはつまらん。
そこで、ログハウス裏でコッソリと作ることにした。
マ:「えっほ、えっほ。蒼星石のためならエンヤコーラ」
スコップを持ち、雪を堆く積んでいく。
しばし時間経過
積んでは踏み均しを繰り返し、形が整ったところで内部を繰り抜いていく。
マ:「喉乾いたな」
たしかのりちゃんが水筒にあっついお茶を入れてたはずだ。
俺はみんなのいる広場の方へ戻ることにした。
み:「あ、ちょうどきたわよ」
広場に行くとみんな集まっていた。
マ:「なんかあったのか?」
蒼:「みんなで雪合戦やることになったんだ」
マ:「雪合戦? いいねぇ~」
翠:「これが対戦表ですぅ」
マ:「わざわざ紙に書いたのか。どれどれ」
翠星石
金糸雀
雛苺
蒼星石
ジュン VS アホ人間
真紅
のり
巴
みっちゃん
翠:「じゃあさっそく始めるですよ~!」
マ:「待たれよ」
翠:「なんですぅ?」
マ:「なんか俺がイジメられっ子みたいなことになってるんだが」
蒼:「僕にも見せて……、ちょっと翠星石、これは無いよ」
蒼星石にさえ『これは無い』と言わしめた対戦表は当然却下となり
改めてチーム分けがなされた。
ジュン アホ人間
翠星石 蒼星石
真紅 VS のり
みっちゃん 巴
金糸雀 雛苺
表記が『アホ人間』のままだ…。
金:「ルールはどうするかしら?」
翠:「翠星石に案があるですよ」
マ:「……」
翠:「互いのチームから捕虜役を出し合って、先に救出した方が勝ちってのはどうですぅ?」
金:「それは面白そうかしら~!」
雛:「なの~!」
翠:「じゃ、このルールで決まりですぅ~」
マ:「………」
うーむ。
金:「捕虜役はどうやって決めるかしら~?」
翠:「そうですねぇ~、捕虜は忍耐と耐久力が要求される大変な役柄ですぅ。ということで~」
翠星石がジュン君を指差した。
翠:「ジュンが適任ですぅ。まさか、か弱い乙女に捕虜なんかさせないですよねぇ~?」
ジ:「……まぁ、別にいいけど」
寒そうにポケットに手を突っ込みながらジュン君は答えた。
翠:「じゃ、そっちは誰が捕虜になるですぅ~?」
なんかトントン拍子に話が進められてるな。
マ:「誰、捕虜役しようか」
蒼星石、雛苺、のりちゃん、巴ちゃんに問いかける。
翠:「ちょっと、話を聞いてなかったですか!?」
翠星石が突っかかってきた。
マ:「ん?」
翠:「お前はか弱い乙女に捕虜役をやらす気ですか!?」
雛:「あ、そ、そうなのー、マスターさんがほりょをするのよー!」
雛苺まで。
もしかしてグルか? 俺がかまくら作ってる間に談合でもしてたんだろか。
嫌な予感が色濃くなっていく。
だが話の成り行き上、拒否するわけにもいかなくなっていた。
マ:「じゃあ、俺が捕虜役やるよ」
そう無茶はしまい。
翠:「そうこなくちゃですぅ!」
「スノレジャー その4」に続く
最終更新:2007年03月26日 10:52