マ「もう四月か、この時期になるとまた一つ年をとったなー、って実感しちゃうんだよね。」
 蒼「やだなあマスターったら、まだそんな事を言い出す年でもないじゃない。」
 マ「そうなんだけどさ、蒼星石と過ごせる時間がこうしてどんどん減ってくのかと思うとさあ。」
 蒼「それは・・・仕方ないよ。」
 マ「あーあ、それこそ時間を巻き戻して若返ったり出来ないのかなあ。」
 真「やめた方がいいと思うわよ。」
  気付かなかったが真紅が訪ねて来ていたようだ。
 蒼「あ、真紅いらっしゃい。」
 マ「いらっしゃい。」
 真「こんにちは。蒼星石、このDVDを返すから次の巻を貸して頂戴。」
 蒼「うん、ちょっと待ってて。」
  蒼星石がDVDを持って出て行った。
 マ「真紅はなんでやめた方がいいと思うの?やっぱりそんなの無理なのかな。」
 真「出来るとは思うわ。だけどそれが本当に幸福に繋がるのかしら?」
 マ「なんとなくだけど・・・長い時間を過ごせるし、いろいろと望ましい状態を維持できそうじゃない?」
 真「そうね・・・例えば誰かが病を患ったとして、その人間の時間を巻き戻せば病気は治るかもしれない。
   だけど、肉体が過去の状態にまで戻ってしまうということは、たぶん記憶もそこまで戻ってしまうということのはずよ。」
 マ「脳も一緒に戻ってしまうから?」
 真「やった事はないし、おそらくはだけどね。全体で一つとして成り立っているものの一部分だけを戻すのには無理があるの。
   あなたの胴体だけが赤ん坊になったりしたら大変でしょ?」
 マ「そりゃ困りそうだね。」
 真「だから仮に赤ん坊に戻すなら全てを赤子にまで戻さなくてはならない、肉体も、精神も・・・。
   そしてその人間はそれまでの時間が持っていた全ての意味を失ってしまうことになるのだわ。
   経験も、思い出も、全て。何もかもを放棄しなくてはいけないの。」
 マ「いろいろとやり直ししなきゃいけない訳だ。」
 真「それ以上かもしれない。誰かと過ごした思い出とか二度とは手に入らないものだってたくさんあるはずよ。
   それに完璧を求めるあまりにやり直すことばかりに気を取られ、時間を進められなくなるかもしれないわね。
   きっとそれに手を染めたが最後、その人間は失敗を恐れ自分の時間を戻し続け、止めてしまう事になるでしょうね。
   そうして周囲の存在から切り離され、取り残されていってしまうのだわ。」
 マ「・・・・・・。」
 真「どう?それでも時間を巻き戻して長生きしたい?」
 マ「楽しい時間も辛い時間もみんな・・・忘れちゃうのか。」
 真「そうよ。もっとも本人はその事すら分からないから案外平気かもしれないわね。」
 マ「御免だね。たとえガンで余命数日でもそれまでの蒼星石や真紅達との思い出が消えちゃうだなんてお断りだ。
   それに忘れてしまったら忘れられた側に悲しんでくれる人だっているかもしれない。」
 真「私もそれでいいと思うわ。生きて、失敗もして、時には辛い事にも直面して、それでも前へ前へと進んでいく。
   そのために与えられた時間の尺度は違えど、それはあなたたち人間も私たちローゼンメイデンも同じなのだわ。」
 マ「そっか・・・悔やんでも仕方ない事もあるし、失敗は教訓にして前向きに頑張るね。」
 真「そうね、時間というものは貴重よね。私もそうやって有意義に過ごしていこうと思うのだわ。」
  そこに蒼星石が戻ってきた。
 蒼「真紅、お待たせー。はい最新巻。」
 真「ありがとう。じゃあ借りていくわね。」
  真紅はもう用は済んだとばかりに帰っていった。
 蒼「二人で真面目な顔して一体何を話してたの?」
 マ「んー、残された時間はもっともっと蒼星石を大事にして過ごしなさいって。」
 蒼「そんな事を真紅と?」
 マ「まあ直接の話題じゃないけど自分の出した結論はそうなってさ。」
 蒼「変なの。でももう悩むのはやめてくれたみたいで良かった。」
  安心して笑った蒼星石をマスターが抱き上げる。
 蒼「どうしたの?」
 マ「いやー、今までを省みてもっと濃密なお付き合いをしておこうかとね・・・すーりすーり。」
 蒼「あはは、なんかくすぐったいよ。」
 マ「あ、ごめんね。ちょっとはしゃぎすぎたかも。」
 蒼「ちょっと驚いたけど・・・嫌じゃあないかな。」
 マ「ああ・・・蒼星石は本当に可愛いな・・・ずうっとこうしてたいよ。」
 蒼「マスターったら・・・でもそうしてもらっちょうかな。ふふ・・・。」



 翠「・・・で、そのまま夜までひっついてたみたいですよ。」
 真「それはそれは随分と有意義な過ごし方ね。」