蒼星石から貰った分を完食したマスターがもう一度お替わりに立とうとする。
  そこに薔薇水晶が声をかけてきた。
 薔「あの・・・よそいました・・・食べて下さい。」
 マ「え?ああ、ありがとう。」
 薔「今日は・・・とても・・・楽しかったです。」
 マ「そうだよね、料理っていざ本格的にやってみると楽しいよね。」
 薔「いえ・・・あなたと作ったから・・・。」
 マ「分かる分かる。誰かと一緒に作るって滅多に無いから面白いよね。」
 槐「ばらしー、僕の存在は?」
 薔「・・・ふぅ・・・味は・・・どうですか?・・・だんな様。」
 マ「だんな様ぁ?」
 薔「すみません・・・お父様に言わされていたせいで・・・つい・・・。」
 槐「自業自得だけど心がキリキリするよー!」
 マ「さっきも言った気がしますが、ばらしーに一体何を教えてるんですか。」
 薔「とんだそそうを・・・気分を害してすみません・・・。」
 マ「そんなの気にしないで。ばらしーみたいな可愛い子に言ってもらえるんならむしろ大歓迎かもね。
   あと手伝ってもらったおかげでうちのお鍋もとっても美味しく出来たと思うよ。ありがとう。」
 薔「でも・・・蒼星石・・・彼女にはおよばない・・・。」
 マ「確かにそうだけど十分に美味しいさ。ひょっとしたら僕がばらしーの足を引っ張っちゃったのかもね。」
 薔「違います・・・あなたのせいではありません・・・・・・お父様のせいです。」
 槐「ええっ!?」
 薔「・・・冗談です。」
 マ(案外お茶目だ・・・)
  そんな風に歓談していると、ことりという音とともに不意に卓上に小鉢が置かれた。
  二人が話を中断してそちらを見ると蒼星石が立っていた。
 蒼「やあマスター、随分と楽しそうで結構だね。僕も改めて味見させてもらっていい?」
 マ「食べてくれるの?うれしいなあ。さっきのお返しに僕がよそ・・・」
 薔「蒼星石・・・さんにも・・・よそいました・・・どうぞ・・・。」
  薔薇水晶がにこりと微笑みながら小鉢を手渡す。
 蒼「これはこれはご丁寧にどうも。君はゲストみたいなものなんだから、わざわざそんな事してくれなくてもいいのに。」
  蒼星石も笑顔で受け取った。
 薔「ゲスト・・・ですか。」
  薔薇水晶の笑みが少し寂しさを帯びたものに変わる。
 蒼「じゃあ・・・いただきます。」
  一転し蒼星石が真剣な面持ちで口をつける。
  そしてわずかに唇の端を吊り上げて笑うと勝ちを確信したように言った。
 蒼「さっき君の料理するところを見ていた・・・確かに見事な包丁捌きだった。だが、詰めが甘いよ!」
 薔「なんで・・・しょうか。」
 蒼「君は切ったお野菜をレンジを使って下ごしらえした。
   だからお米のとぎ汁で下茹でした僕と違い、もっとしっかりと煮込まないと味が染み込まないんだ。
   つゆで味付け自体はなかなかの出来だと分かるけど、この鍋料理はそれが致命的な弱点だ・・・煮込みが甘いんだ!」
 薔「すごい・・・エリート兵のような・・・見事な指摘。」
 マ「ごめんなさい、最終的な煮込みをやったの僕です・・・。」
 蒼「え、あれ?そう言えばそうだっけ!?」
 マ「ごめんね、ばらしー。やっぱ足を引っ張っちゃってたみたい。」
  マスターはすっかり意気消沈してうな垂れている。
 薔「気を・・・落とさないで下さい・・・・・・蒼星石さんの・・・勘違いかも。」
  薔薇水晶がマスターの頭を撫でて慰める。
 マ「いや、蒼星石はしっかりしてるし評価も信じてるよ。ほんとにすまないね、ばらしー。」
 薔「いえ・・・時間もありませんでしたし・・・。
   レンジで下ごしらえするなら・・・私が飾り包丁なり隠し包丁でも入れておけば・・・。」
 蒼「えーと・・・いや・・・その・・・。」
 マ「まあいいや、せっかく作ったんだし余らないようにもっと食べるかな。」
 薔「じゃあ・・・おかわり・・・よそいますね。」
 マ「ありがとう。」
 薔「ついでに・・・食べさせてあげますね。」
 マ「いや、ばらしーがそこまで気を遣わなくてもいいよ。慰めるなら槐さんの方にしてあげなよ。」
  マスターの指差すほうには泣き崩れる槐がいた。
 槐「ばらしー・・・寂しいよ。もっと構っておくれよ。」
 薔「分かりました・・・やっぱり・・・全てはお父様のせいでした。」
 槐「わーい、ばらしーが構ってくれたぞー!」
  槐が元気を取り戻す。
 マ「あの二人って・・・。」
 蒼「理解できない世界もあるんだね。」
 マ「まあ理解の必要は無さそうだけどね。」
 槐「さあばらしー、君の作った料理を食べさせてくれ!くれただけ全て僕の胃袋に納めてしまうぞ!!」
 マ「じゃあ、ばらしーに今よそってもらったこれはいただきますけど後の分はどうぞ。」
 槐「ああ任せたまえ。完食して見せよう。さあばらしー、食べさせ合おうじゃないか。」
 マ「さてと、出来のいい蒼星石のお鍋の方を貰うかな。」
 蒼「あの・・・ごめんなさい、あんなこと言って。」
 マ「別にいいよ。正当な評価をしてくれる存在ってのはありがたいもんさ。それなりの信頼関係じゃなきゃ出来ないからね。」
 蒼「・・・ありがとう。」
 マ「しかしあっちの二人もある意味すごい信頼関係だな。」
 蒼「僕らも・・・食べさせっこしてみる?」
 マ「いいの?だったら是非したいんだけど。」
 蒼「ちょっとだけね。」