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前回


 マ「お待たせ。」
  脱衣所の隅の方に隠れていた蒼星石のところに浴衣を着たマスターがやって来た。
  マスターが屈み込んで蒼星石と目線の高さを合わせる。
 マ「それでさっきの話だけど・・・。」
 蒼「マスターは自分がそばに居ても迷惑なだけだなんて、本気で言ったの?」
  蒼星石が三度目の質問をする。
 マ「・・・ああ、そうだよ。」
 蒼「なぜ?」
 マ「だってこんな事が起きているのに僕は皆のために何も出来ない・・・。
   ジュン君のように被害に遭った人形を治す事も、皆の不安を軽減する事も、犯人を捕まえる事も出来なかった!
   僕には・・・何一つ出来やしないんだ。」
 蒼「どうしてそんなになんでもかんでもしょいこんじゃうのさ、マスターは別に完璧な存在ではないのに。」
 マ「確かに・・・僕じゃあ完璧とは程遠いね。」
 蒼「ううん、完璧な存在なんて居ない。僕も、翠星石達姉妹も、世の中の人全てでもそうだと思う。」
 マ「そうかもね。でも自分だってせめて何か一つくらいは役に立ちたかったんだ。」
 蒼「・・・ジュン君の事ならあれは彼の才能が特別なんだと思う。
   確かに技量にもセンスにも目を見張るものがあるし、潜在的なもので言えば世界中探しても匹敵する人はそうそう居ないと思う。」
 マ「ああ、同感だよ。」
 蒼「でもね、マスターがジュン君と同じ事を出来る必要は無いし、マスターはマスターで自分の出来る事をやればいいんだよ。
   だってジュン君が出来る事はジュン君がやればいいんだし、マスターにはマスターにしか出来ない事があるんだから。」
 マ「僕にしか・・・出来ない事?」
 蒼「うん。マスターは誰にもやさしく気配りが出来るし、知らず知らずみんなの中心に居て、ムードメーカーになれる人だと思う。
   先日だって皆を引っ張って宴会を開いてくれたし、今も・・・皆マスターのことで我が事のように心を痛めてくれている。」
 マ「そんなの何も特別な事じゃないじゃないか。やろうとしてやった事でもないし。」
  それを聞いた蒼星石がここに来てちょっと笑った。
 蒼「だからすごいんじゃない、意識せずに他人を惹きつけてしまうんだから。間違いなく一種の才能だよ。僕にはとてもできない。」
 マ「そう・・・なのかな?」
 蒼「それにね、マスターにしか出来ない事ってまだあるんだよ。」
 マ「え?」
  蒼星石がマスターの胸にしなだれかかる。
 蒼「こうしてね、マスターのそばにいるだけでなんだか心があたたかくって・・・満たされた気分になるんだ。
   他の誰からも得られない感覚だよ?マスターだけの・・・特別な・・・ね。」
 マ「本気でそう言ってもらえるのなら・・・それが本当なら・・・それだけでもう満足だよ。他には何も望まないよ。」
  ようやくマスターも笑った。
 蒼「僕の方こそ何も出来なくってごめんね。」
  しかし今度は蒼星石の表情が曇る。
 マ「なんのこと?」
 蒼「僕は・・・マスターと並んで歩いてお買い物を楽しんだり、野山を気兼ねなく散歩したり出来ない。
   そう言った『普通』の事すら出来ずに、マスターに迷惑をかけてしまう・・・。」
 マ「こっちの方はちっとも迷惑なんかじゃないよ!」
 蒼「それにマスターが怪我をしても肩を貸すことも、すぐそばに居ても傷の手当をしてあげられもしなかった。」
  蒼星石がマスターの顔についた傷にそっと触れた。
 蒼「僕のせいでこんなひどい傷を負ったのに、何もしてあげられなかったんだ。」
 マ「そんなの平気だよ!そもそもこれは自分のせいなんだしさ。」
 蒼「だから僕も、僕にしか出来ない手当てをしてあげるね。」
 マ「え?」
  蒼星石の唇が傷に優しく押し付けられた。
 蒼「・・・・どうかな?」
 マ「すごく・・・楽になった。」
 蒼「それは良かった。」
  蒼星石がうれしそうに笑う。
 マ「痛みもだけど・・・何より心が軽くなったよ。本当にありがとう。」
 蒼「それは僕にお礼を言う事じゃないよ。」
 マ「なんで?」
 蒼「さっきのはね、マスターが僕に教えてくれた事なんだから。それこそマスター本人は気づかない内にかもしれないけどね。」
 マ「・・・そっか。」
 蒼「マスター、こちらこそ本当にありがとう。」
  しばらく無言で見つめ合う。
 マ「・・・あのさ、もう一回さっきの手当てをしていただけない?」
 蒼「ふふふ、マスターったらすぐ調子に乗っちゃうんだから。駄目だよ、もう戻らないと皆が心配してるんだからね。」
 マ「あ、そっか。・・・さっきの事も謝らなくっちゃな。皆をいたずらに困らせちゃった。」
 蒼「そうだね、僕も部屋を飛び出してきちゃったし一緒に謝るからさ、急いで戻ろうか。」
 マ「善は急げと言うしそうしようか。」
  マスターが蒼星石を抱き上げた。
 蒼「このままでいいの?誰かに見られちゃうかもよ。」
 マ「いいんだ、今は蒼星石にそばに居て欲しい。今度はもう失敗しないから。」
 蒼「じゃあ・・・お言葉に甘えちゃうね。」
  蒼星石が手から蒼い光の球を飛ばす。
 蒼「レンピカに見張ってもらってるしさ、ちょっとお話しながら戻ろうか。」
 マ「あ、その手があったか。」
 蒼「今度あんな事があったら僕がマスターを助けるからね。」
 マ「もしもピンチになったらお願いね。」
 蒼「はいはい、任せておいてよ。」
  そんな他愛も無い事に始まり、いろいろ話しながら二人で部屋に帰って行った。