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前回


  大急ぎでマスターのところへと向かう。
  ここの浴場は露天風呂だそうだから他に人が居なければ話くらい出来るはずだ。
  宿泊客の数から言っても今の時間にそうそう利用者が居るとは思えない。
  とにかく今は一刻も早くマスターのもとへと行かなくては。



  やっと浴場に着いた。
  誰かに見つからないように注意しつつ上空から様子を窺う。
  湯煙のせいであまり視界が利かないのが厄介だ。
 蒼「洗い場の方は誰もいないみたいだな・・・。」
  次に湯船の方へと目を移す。
  思ったとおりほとんど誰もいない。
 蒼「おかしいな、誰もいないみたいだ。うーん・・・ひょっとしたらもう上がっちゃったのかな?」
  もう一度だけ一通り確認して帰ろうと思っていたら端っこの方に人影を見つけた。
 蒼「あんな隅の方で・・・そんなに滅入ってるのかな。」
  だが人目を忍べるという点ではああいった場所の方がドールの自分には都合がいいだろう。
  なんとかマスターを説得して元気になってもらわなくては。
 蒼「マス・・・」
  そちらに近づいていると妙な事に気付いた。
  人影の髪が長いのである。
 蒼「あれ?ウィッグはさっき外してたはずだ・・・。」
  後姿しか見えないし、ひょっとしたら人違いかもしれないと改めて慎重に接近する。
  ・・・確かにマスターはそこに居た。
  間違いない、正面から見て他ならぬマスターの顔を自分が間違えようはずが無い。
 蒼「じゃあ・・・あれは誰?」
  マスターは先程の長髪の人物を抱き締めていた。
  なんであんな事を?それもこんな人目につかないような所で?
  マスターはしきりにその人物に語りかけているようだ。
 蒼「もしかして・・・桜花さん?」
  そうかもしれない。この旅行のメンバーでは他にあんな髪の長さの人はみっちゃんさんくらいだ。
  しかしどう考えてもさっきまで部屋に居たみっちゃんさんのはずがない。
  それにあのマスターに行きずりの人とあんな風に出来る甲斐性があるともとも思えない。
  じゃあ・・・やっぱり・・・。
 蒼「・・・マスターの・・・ばかぁ!!」
  見ていられなくなって方向を変える。
  このまま部屋に戻る気にもなれず、誰も来なさそうな露天風呂そばの森へと移動した。



 蒼「ひどいよ・・・僕が・・・どんな気持ちで・・・」
  胸のうちにとめどなくこみ上げて来る感情を一人きりで吐き出していた。
 蒼「・・・・・・?」
  しかし何かが接近する気配を感じて無理やり平静を取り戻す。
  間違いない、何故ここに現れたのかは分からないが間違えようが無い。
 蒼「隠れてないで出て来い!」
  そう叫んだ瞬間、すぐそばの藪で誰かが慌てて駆け出す。
  どさり、と何かを落としたような音もした。
  真上からひらひらと何かが降ってくる。
  これは雪などではない、羽根だ。漆黒の、闇に彩られた羽根。
 蒼「君とこんなところで出くわすとは驚きだね。君もストーカーってやつかい?」
 銀「あらやだぁ、人聞きの悪い。偶然よ、偶然。ふふふ・・・」
  目の前に降り立った水銀燈はあくまでも不敵な笑みを絶やさなかった。