「貴方も結構苦労してるんですねぇ」
マスターに写真を渡しながら、ブーメランパンツ一枚のラプラスが僕に向かって呟いた。…なんでブーメランパンツなんだ…
「どうでもいいけどさあ、お前のそれは何なの?」
マスターも僕と同じことを思っていたらしい。
「趣味です」
さらりと返すラプラス。
「…えぇ?」
マスターが呆れたような声を出すと、ラプラスが続ける。
「ですから、趣味なんですよ。どうですこの肉体美」
「………………死ねばいいのに……………………………」
ポーズをとるラプラスに、蔑むような目でマスターが吐き捨てた。
「ちょっ…それは酷くないですか」
「悪かった悪かった。死ななくてもいいや。…死ぬ価値もないや」
二度目の暴言にうなだれるラプラス。…マスターって結構毒舌家なんだなあ…
「で、頼みなんですが」
雪華綺晶が突然切り出した。ちなみに、彼女も下着姿だ。
「え?勝ったのに?」
「もちろん。脅迫するのは諦めましたが、頼むのは諦めていませんので」
嘯く雪華綺晶。それを聞いたマスターが雪華綺晶に問う。
「…今度は泣き落としとかか?」
「ええ、ここで私が涙ながらに哀願すれば、優しそうな貴方のことです、断れるはずが…」
「…そういうのは秘密にしておいた方がいいぞ」
…金糸雀?いよいよ雪華綺晶のキャラが分からなくなってきた…
「…はっ!?い、今のは忘れてくださいぃ!」
雪華綺晶はあせって、マスターに頼み込む。
「えぇ~」
「忘れてくださいってぇ!」
「ったくもう…で?頼みって何?」
渋りつつも話を聞くことにしたらしいマスター。そんなマスターに、おずおずと話し始める雪華綺晶。
「あの~…できたら私たちも修学旅行に連れてってくれたら嬉しいな~って…」
「蒼、ちょっと待っててくれな。服買ってくるから」
マスターはそういって雪華綺晶の頼みなどなかったかのように外に出ようとする。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!連れてってくださいって!」
外に出ようとするマスターにすがりついて哀願する雪華綺晶。…もしかしてこれが『泣き落とし』?
「あれ、なんか歩きにくいなあ」
…マスターは相手にしようともしない…
「お、お願いです!連れてってくれるだけでいいですから!迷惑はかけませんからぁ!」
「無理だな。バスはもう定員オーバーだ」
「じゃ、じゃあバスじゃなくていいですから!バスの屋根でもかまいませんからぁぁ!」
「バスの屋根はバスじゃないのか。はじめて知った」
「あうぅぅぅぅ………」
あくまでけんもほろろなマスター。雪華綺晶はついに俯いてしまった。目に涙がたまっている…
「マスター、雪華綺晶がかわいそうだよ…連れてってあげようよ……」
…つい弁護しちゃった…仕方ないよね、なんだかんだ言って妹だもの…
「ぬぅ…蒼星石がそう言うなら」
なぜか、マスターはわりとすんなりと受け入れた。…受け入れるタイミングを失ってたのかな?
「つ、連れてってくれるんですか!?」
「ああ、蒼星石に感謝しろよ?」
「あ、ありがとうございますぅっ!!」
い、いや、そんなに感謝されても困るんだけど……
「これからは貴方のことをお姉様とy」
「さーくんくん見に行くぞー」
雪華綺晶の不穏な提案を断ち切って、マスターは外へと向かっていく。
「あっ、ラプラスを連れて行かないと…」
「ん?ああ」
マスターはさっきからずっと落ち込んでいるラプラスに声をかけた。
「おい、早く立ち直れよ。さっきのは本気じゃないから」
「え?」
「きらきーがお前も連れてってやれっていうからよ。…し、仕方なくなんだからねっ!勘違いしないでよっ!?」
「…はいっ!」
「ちょwwwそういうイノセンスな目で見るなァァァ!」
…そんな二人の珍妙なやりとりを見て、雪華綺晶が僕に聞いて来た。
「…あの人っていつもあんな感じなんですか?」
「いや…いつもはもっとまともなんだけど……多分、久しぶりの帰郷でハイになってるんじゃないかな」
「…最高に『ハイ!』ってやつなんですね?」
「うん…北海道の気候がよくなじむんじゃないかな」
「…5年前引っ越してからこれほどまでに絶好調のハレバレとした気分はなかったりするんですかねぇ」
「かもね…」
こっちはこっちで妙な会話を繰り広げているような…
「おーい。行かないのかー?」
僕たちが妙な会話を繰り広げていると、既に外に出たマスターが声をかけてきた。
「マスター、僕たちはまだ行けないんだよ?」
「へ?何で?」
…この人は自分がやった事を覚えていないんだろうか…
「「「…服がないからに決まってるでしょ」」」
「サーセンwwwすぐ買ってきますwwwww」
そう言うとマスターは走って行き、本当にすぐに三人分の服を買ってきた。
「サイズ合ってるか分からないけど、まあ大丈夫だろ」
僕たちに買ってきた服を渡しながらマスターは言う。
「わ、すごい!マスター、サイズぴったりだよ!」
「あったりまえだろ、いつも蒼の事ばかり見てるんだから」
「もう…マスターったら…」
ああ、幸せだなあ…
そんなことを考えていると、雪華綺晶が困惑顔でマスターに訊ねた。
「あの…じゃあ何で私のは…」
「ん?いや、多分蒼と同じぐらいだろうと思ってさ」
「ああ、そうでしたか…安心しましたよ、私のこともいつも見てるのかと思いました」
さらりと返したマスターに、さき無視された恨みだろうか、とげとげしい言葉をかける雪華綺晶。
しかしマスターも負けてはいない。
「はは、安心しろ。頼まれても見ねぇからよ」
「…ひどいですね…女性にそんなこと言って楽しいんですか?」
「まあ、相手によっては」
「…その相手っていうのは私ですか?」
「ふふ、何言ってんだよ。他に誰もいないだろ?」
「………」
度重なるマスターの毒舌に、雪華綺晶は俯いてしまった…マスター、女の子にはもっと優しくしてあげなよ…
「ところで、何で私の服はこんなに小さいんでしょうかね?
そんなことを思っていると、突然、さっきまで黙っていたラプラスが言った。
「あ?ああ、別に何も考えないで買ったからだ。悪いな。…ってか早く『白崎』になれよ」
「はいはい。…これでいいっすかね?」
そう言うと、ラプラスの顔が『白崎さん』の顔になった。…何でこんなに突然言葉遣いが変わるんだろう…
「ん?ああ、いいんじゃねーの」
「…何でそんな適当なの?」
「正直君の事なんてどうでもいいから」
「………」
…どうもさっきからマスターの様子がおかしいので、僕は思い切ってマスターに聞いてみた。
「…マスター、なんかいらいらしてない?どうしたの?」
「いや、いらいらしてなんかいないさ。…ちょっと欲求不満を解消してるだけだ」
…欲求不満?
「さ、さー早くくんくん見に行こーぜー。早く行かないと始まっちゃうぞー」
何の話なのか聞こうと思ったけど、マスターにうまくごまかされてしまった。すると、立ち直ったらしい雪華綺晶が叫ぶ。
「ま、待ってください!私達も行きます!」
「おう、早く来いよ。…二人とも、さっきはごめんな。俺Sだからつい楽しくなっちゃって」
…え?
え、S?マスターが?
…じゃあやっぱり、僕もそれなりの…あの…『役』をやらないとだめなのかな…
「い、いや、そういうのを蒼に求めてるわけじゃないぞ?さっきはちょっと魔がさしただけであって…」
僕の視線に気づいたらしいマスターは、まずいことを言ったとばかりにあわてて弁明した。