中で食べちゃ駄目なのかな…
僕達は、『登別マリンパークニクス』という名前の水族館でお弁当を食べていた。
いや、正確にはその駐車場で。
中で食べないのは一般の人達の迷惑になるかららしいんだけど…
駐車場で食べる方が迷惑になるような…
何と言っても、6クラス――約240人全員が駐車場で食べるのだから。
でも、天気はいいし、家の近所にくらべてずっと涼しいので、とても快適だった。
真紅、翠星石、雛苺、ジュン君、巴さんはのりさんの、金糸雀はみっちゃんさんの、そしてマスターは僕の作ったお弁当を食べている。
まあ、取り替えあったりはしてるけど。
マスターが僕の作ったから揚げを口に入れる。マスターのお口に合うかな?
「うん、やっぱり蒼星石の料理は絶品!」
マスターは美味しいと言ってくれた。よかった…
「あたり前ですぅ、蒼星石の料理はのりの料理とともに天下一品と呼ばれる品ですから!」
「す、翠星石、それは大げさすぎるよ…」
「本当、蒼星石の料理の前では俺の料理など保湿ティッシュにも劣る」
「…保湿ティッシュ?」
「知らないのか?保湿ティッシュって甘いんだぞ」
「し、知ってるけどさ…でもマスター、マスターの料理もおいしいと思うよ?前にクレープ作ってくれたじゃない」
「お菓子はな…でも、お菓子じゃないので作れるのなんて醤油かけご飯ぐらいだし」
「しょ、醤油かけご飯…」
そんなかんじで昼食が進んで行く。
すると、あるときマスターが妙な事を言った。
「蒼星石、悪いんだけどそっちのザンギ取ってくれないかな?」
「ザ…?」
その瞬間僕の脳裏に浮かんだのは――
――サイボーグのドイツ軍大佐に似た髪型のアメリカ空軍少佐にサマーソルトキックを食らっている、ソビエト出身のレスラーの姿だった。
「ザ、ザン…?ごめんマスターもう一回言って」
「え、いや、から揚げだよ、うん、鳥のから揚げ」
「…ザンギって何ですか」
みんなの訝し気な視線がマスターに集まる。
「…ザンギってのは北海道の方言で、鳥のから揚げのことなんだよ」(本当)
知らなかった…
…でも、頭に浮かぶのは、レスリングとコサックダンスが好きで飛び道具と妙齢の美しい女性が嫌いな赤きサイクロンの姿だけだ。
鳥のから揚げの方のザンギは北海道では歌にもなっているらしい…(これも本当)
…し、知らなくても普通だよね?
そのうちお弁当を食べ終えた僕達は、先生に引率されて水族館の門をくぐった。

△§▼

ちょwwwせっかく水族館に来たのにそれかよwwww
マリンパークに入り、俺達修学旅行生は自由行動を言い渡された。
そして、俺達――ここではドールズ&ミーディアムズのことだ――はある場所にむかっていた。
その場所とは、『ニクス城』という水族館本館ではなく、イルカショープールだった。
と言っても、イルカを見に行くわけではない。
そこで行われる『名探偵くんくん・海底王国の罠~Submarin Konigreich Schlinge~』という名探偵くんくんを題材にした着ぐるみショーを見に行くのだ。
最初はニクス城に行くつもりだったのだが、真紅が看板を見つけてしまい、ドールズ満場一致で見に行くことになった。
俺を含め、ミーディアムズも特に反論はしなかった。多分、みんな付き合いで見てるうちにハマったのだろう。

《…着ぐるみショーの時点で、先人のSSとかぶってるよな…ごめんなさい。》(作者の声)

…今何か聞こえたような…気のせいか?
どうでもいいけど、なんか『海底王国の罠』って昔の洋画の邦題っぽいな。どうでもいいけど。
「ごめんねマスター、水族館後回しにしちゃって…でも、僕も見に行きたかったんだ」
蒼星石が申しわけなさそうな顔で謝ってきた。他の4人は謝る気もないというのに、蒼星石の優しさは異常。
「なに、いいってことよ。どうせ後2時間半もあるしな。それにくんくん面白いし」
なぜか登別の帯在時間は3時間もあるのだ。
「うん、ありがとうマスター」
嬉しそうに笑う蒼星石。その笑顔だけで全てのことを許してしまえる。
イルカショープールにたどり着いた俺達は、空いている席で一番前の席に座った。睨むなよ真紅、これ以上前の席は空いてないんだ。

俺達が席に座って開幕を待っている時、俺がふと舞台脇に目をやると、俺は妙な物を見つけた。
いや、正しくは妙な『者』か。
はっきりとは思い出せないが、確実にどこかで見た顔だった。
どうも気になったので、俺はそいつがいた方に行ってみることにした。
「マスター?どうしたの?」
「いや、ちょっと飲み物でも買ってこようかと思って」
「そう、早く帰ってきてね」
俺は立ち上がって、舞台裏にむかった。


《ちょっと三人称になります》

マスターが舞台裏にむかって少し後、突然翠星石が蒼星石に話しかけた。
「始まらないですねぇ…蒼星石、悪いけど看板に書いてあったプログラム見てきてくれませんか?」
「うん、わかった。看板が遠いからちょっと遅くなるかも知れないけど」
そう言って蒼星石が会場を後にすると、怪訝そうな顔でジュンが呟いた。
「珍しいな、いつもだったら僕に見てこいとか言うくせに。蒼星石が外にいる間に始まったらどうすんだよ」
それを聞いた翠星石が、苦しげな表情で返す。
「…わかってます、でもこれは蒼星石とくんくんを見るために必要なことなのです。そのために、この翠星石は心を鬼にしてあんなことを言ったのですよ」
「…?」
その言葉の意味がわからないジュンは、ただ首を傾げるばかりだった。

《以上、三人称終わり》