涼しい~。
飛行機から降りた僕達は、北海道の空港のロビーで先生の話が後るのを待っていた。
この空港は『ちとせ』という名前だとマスターに教えてもらった。…あれ?『しんちとせ』だっけ?
マスターは「どうせなら『はこだて』から降りればいいのに」と言っていたけど、
北海道の地理がよくわからない僕には返事ができなかった。
それ以前に、そもそも僕はこの先どこへ行くのかわからないのだけれど。
実は僕達ドールズ(+ミーディアムズ)は、『北海道に行く』という事以外マスターから教えてもらっていない。
マスターに言わせると「行ってからのお楽み」ということらしい。
それにしても…
涼しい~~…
「はぁ~、涼しいですぅ~。どっかのクーラーが壊れてる家とは大違いですぅ~…」
「本当ね、どこかのクーラーが壊れてる家を地獄としたら、ここはまるで天国なのだわ」
心地よさ気な翠星石と真紅。それを聞いて『どっかのクーラーが壊れてる家』の主(?)が反論する。
「お前らが壊したんだろうが…」
どうもジュン君の家では、この猛暑の中クーラーが壊れてしまったらしい。気の毒に…
二人の感想ももっともで、近くの電光掲示板には『只今の気温、25度』との表示。
羽田より13度も低い。僕達の家ではクーラーの設定温度は28度なので、それよりも3度低い。
ましてクーラーが壊れてるらしいジュン君の家とは、それこそ天国と地獄に違いない。
「ごめんね~、でも多分ここから帰ってくる頃には、修理終わってると思うから安心してね」
「のり、クーラー直ったら、扇風機しまっちゃうの?」
「そうなるわね~、電気代かかっちゃうから」
「え~、せっかくがんばって物置のおくから出したのに、もったいないの~」
「…がんばったのは僕なんだけどな」
「奇遇かしら、みっちゃんちのクーラーも見事に壊れてるかしら!」
「二つの家のクーラーが同じ時期に壊れるってすごくない?シンクロシニティ?」
(…私の家のは壊れてないな…)
みんなは羽田のときと同じように騒いでいる。
違うところと言えば、誰も止めようとしないところだろう。僕も、マスターでさえも。
飛行機から降りた直後に、青い顔のマスターから「騒いでもいいから、目立たないでくれ」と言われたからだ。
それが飛行機で気力・体力をともに消耗したからなのか、みんなを静かにするのを諦めたからなのかわからないけど、
とにかくマスターは「騒いでもいい」と言っていた。僕もみんなの話の輪に入ることができて楽しい。
…でも、みんなが「涼しい」と言うたびに、通りすがりの人達から白い目で見られているような…何でだろう?
そうこうしているうちに先生の話が終わったらしく、まだ若干顔色が悪いマスターが僕達の方に歩いてきた。

△§▼

頭痛ぇなチクショウ。
飛行機から降りたにもかかわらずいまだに気分が悪い俺は、先生の話が終わり次第蒼星石達のところに歩いていった。
「マスター、大丈夫?まだ顔色悪いみたいだけど…」
蒼星石が心配してくれる。この一言で頭痛も眩暈も動悸もどこかヘ消えてしまう俺は正常だろう。蒼星石の可愛いさは異常だが。
「ああ、その一言でもう完全復活よ」
「もう、マスターったらごまかさないでよ。」
ごまかしてないぜ。本当のことだ。
「はは、大丈夫だって」
「ならいいけど…あんまり無理しないでよ?」
「わかっていますとも」
わかってないけどな。蒼星石(達)がこの旅行を楽しむためなら、俺はいくらでも無理をするつもりだ。
「人間、もう出発するですか?」
翠星石が話しかけてくる。人間ってのはやめてくれねぇかな、バレたらどうする。
「おう。…みんな、駐車場まで行くからな、はぐれないようにしろよ」
「「「「「「「「「は~い!」!」!」!」!」」」」」
5人だけ元気がいいな。誰なのか見当つくけど。

駐車場に着くと、クラスと同じ数のバスが並んでいた。
疲労困憊の俺は、自分のクラスのバスを見つけて乗り込んだ。
俺に続いて、ドールズ&ミーディアムズも乗り込む。そのうち4人は俺と同じく疲労困憊の態だ。
なぜか。
現在、いかにも楽しそうにしている残りの5人が土産物店に惹かれてはぐれるのを、全力で防いでいたからに他ならない。
頼む、お土産は帰りにしてくれ。置いて行かれたらどうしようもない。
だいたいドールの蒼星石が止める側にいるのに、人間の草笛さんがはぐれる側に回っているってどうよ?
可愛い着ぐるみがあったからといっても、ちょっと勘弁してくれ。
ちなみに、のりちゃんが疲れているのは5人がはぐれるのを止めていたからではなく、自分がはぐれないように頑張っていたからだったりする。
俺が奥から三番目の自分の席に座ると、みんなも俺の近くに座る。
当然、俺の隣には蒼星石。蒼 星 石 !
これは素晴らしいGood・Travelになりそうだ。
「アホ人間、もし蒼星石に何かしたら…わかってるですね?」
…後ろに義姉上がおられるのが玉に瑕だが。
「ねぇマスター、そろそろこの後どこに行くのか教えてくれないかな?」
蒼星石はどこに行くのか気になっているようだ。そりゃそうか。
「まったくですぅ、修学旅行に行くとか言っといてバトルロワイヤルさせられたらたまんねーですから」
「翠星石、あれは中学生なのだわ」
読んだのか?バトルロワイヤル…
「ね、マスター、いいでしょ?」
蒼星石にそんなふうに頼まれたら断れる奴はいない。桐山和雄でも断れないだろう。
俺はしおりの日程と地図が書いてあるページを開き、蒼星石達にわたした。
「「「…」」」
見てる見てる…
「…ま、マスター、どこに行くかはわかったけど…」
「行った先で何をするかわからないのだわ…」
それもそのはず、その日程と地図には行き先の市町村しか書いていないのだ。
「それに関しては、行ってからのお楽みってこtぐぇっ」
「そ・れ・じゃ・あ・何も変わってねーですぅ!」
翠星石に首を絞められる俺。あ、やばい意識が…
「だ、だめだよ翠星石!マスター死んじゃう!」
俺の魂がむこう岸のお花畑に逝くすんでのところで蒼星石が助けてくれれた。こんなことしたのに、蒼星石の思いやりは異常。