「…というわけで明日から北海道だからなー。寝坊するなよー」
帰りのHRでクラス担任が黒板の前で俺たちに呼びかける。
皆それなりに楽しみにしてるようだが、最愛の蒼星石を置いていかなければならない俺の心は重い。
実を言うとこの『修学旅行』は本物ではない。
本物の修学旅行は5月中旬に既に実施されており、俺は蒼星石と一緒にいるために仮病を使ってそれを休んだ。
しかし、修学旅行生を乗せた飛行機がハイジャックされるという事件が起こって台無しになってしまい、
その代わりとして今回の『修学旅行』が行なわれるということになったのだ。
しかも今回の『修学旅行』は本来のものよりも何日か長い。
二学期に行われるはずだった宿泊学習となぜか併合されたのが原因だが、
だいたいにおいて何でこの学校は全学年が宿泊学習をやるんだ?おかしくないか?一年生だけd
ドガッ!
「ぬおっ!!」
「○○(マスターの本名)、話聞けよー」
…あの先生、三角定規投げてきやがった…
そういえばこの前、蝿を投げチョークで仕留めてたっけな…
三重出身とか言ってたけど、もしかして伊賀忍者なんじゃないのか?
もしそうだった場合、俺の好きな人No.4である織田信長に倣って討ち滅ぼさなきゃならねぇな。絶対に。
ちなみに好きな人No.1はもちろん蒼星s
ズガッ!
「ぐおっ!!」
「○○、話聞いてないと明日困るぞー」
今度は先生用のでかいコンパスだよ、畜生。
その後、俺は痛む額をおさえつつ帰途についた。

「ただいまー」
「あっ、マスターおかえり!早かったね!」
俺が家のドアを開けると、二階から蒼星石が嬉しそうに駆けおりてきた。あぁ、可愛いなコノヤ口ウ。
「ああ、今日は部活なかったからな」
「え?何で?」
「何でって…えーっと…あの…」
蒼星石の顔から笑みが消えるのが怖くて言い淀んでしまう。
「あ…」
どうやら思い出したようだ。恐れていた通り、顔から笑みが消える。
「そうだったね…マスターは明日北海道に行っちゃうんだ…」
「ああ…ごめんな…」
「ううん、いいんだよ。ちゃんと留守番してるから、マスターは楽しんできてね」
ああ、休みてぇな。
でも蒼の性格からして俺が休んだら自分を責めるだろうしな…
それに休んでまた事件起きたら俺がやってるみたいだしな。ここは心を鬼にs
「…マスターは空いてる時間をいつも僕と一緒にすごしてくれてる…
 でも、きっと僕なんかと一緒にいるより、友達といたほうがずっと楽しいよ。だから…行ってきて。
 少しさびしいけど、ちゃんと我慢するから。ね?」
無理\(^o^)/
そんな健気なことそんな悲しそうな顔で言われたら休むしかない。休まずにはいられない。むしろ休まなくてはならない。休まなかったら死ぬ。
心を鬼にしてって言ったって、こんな状況に置かれたらたら鬼だって休むって。範馬勇次郎でも休むって。ってか休まなかったら俺が殺す。愛で。
――学校の行事だから留守番もするだらうが、
  蒼の目は俺ばかり見ているぢやないか。
  行かないでほしいと濡れてゐるぢやないか。――高村蒼太郎
よし、休もう。
蒼に止められないように、俺は電話に走った。

▲§▽

突然、マスターが走り出した。
「ちょ、マスター、どこへ――」
言いかけて、ふと気付いた。あっちにあるのは――
電話。
マスターは電話する気だ。どこへ?
「休む!俺は絶対休むからな!休んで蒼と一緒にいるんだァー!!」
マスターは走りながら大声で叫ぶ。
「まっ、マスターまた休む気なの!?」
「あったり前よ!一週間も蒼と一緒にいなかったら死ぬ!絶対死ぬ!」
「だめだよ!前回行かなかったんだから今回は行かないとだめ!」
僕も走ってマスターを追いかける。でも、歩幅が違いすぎて追いつけない。
駄目だ。これ以上マスターの枷にはなりたくない。なっちゃいけない。
僕が電話のあるリビングに着くと、マスターはもう学校へ電話をかけていた。
「…あ、服部先生ですか?…はい、ちょっと今従妹ををあずかってまして…ええ、それに俺、両親外国じゃないですか。
 ちょっと行けないなー、って思いまして…はい、修学旅行に」
「だめ!休まないでちゃんと――んむっ!?」
電話をやめさせようとマスターにつかみかかると、マスターは僕を左手で抱きしめ、右手で僕の口をふさいだ。
「いやーこっちとしても残念なんですが…はい?…え?そういうのってありなんすか?…ああ、そういうね。そういうことね。…
 あ、じゃあ、いいんですよね?…ええ、それはちゃんとこっち側で…はい、はーい。なんかすみません、こんな…
 はい、それじゃあ。サーセンシター」ガチャ
僕がマスターに押さえられているうちに、マスターは電話を終えてしまった。
「…マスター、行事を休んでまで僕と一緒にいてくれるのは嬉しいんだ。…でも、こんなの間違ってるよ。
 マスターは人間なんだから、ちゃんと人間の――」
「まあ、ちょっと落ちつけ。…大丈夫だ、一番いい方法が見つかったからな」
マスターはそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。
「へ?」
僕はその意味がわからず、立ちつくしてしまう。
一番いい方法?
どういうことだろう…