前回


  買い物から帰ってくると部屋にいたのはジュン君、真紅、翠星石だけだった。
 蒼「他の皆は?」
 翠「金糸雀と雛苺はちょろちょろして邪魔になりますから追っ払ってやりました。」
 真「みっちゃんさんとのりが二人を連れて出かけたのよ。近くの山に行くとか言ってたのだわ。」
 マ「はいこれ注文の品。首尾はどう?」
 ジ「多分こっちのビスクドールは何とかできると思います。」
 真「手や顔の小さなヒビは私が直しておいたわ。あとは体の部分だけだからジュンなら大丈夫よ。」
 マ「それは良かった。」
 ジ「ただこっちの布製の人形・・・これはきついかも。」
 翠「弱音を吐くなですよ。」
 蒼「そうだよ。ジュン君だけが頼りなんだから頑張って!」
 ジ「ああ、やれるだけやってやるさ。」
 マ「ジュン君は本当にすごいな。僕なんかでも何か手伝える事があればいいんだけどね。」
 ジ「もう大丈夫ですから出かけてもらって構いませんよ。」
 マ「うん、でも・・・」
 ジ「せっかくの旅行なんですから気を遣わないでください。どうせ一人でやる作業なんですから。」
 マ「分かった。邪魔になってもいけないし、僕達も山の方にでも行ってみるよ。」
 翠「蒼星石は残ったらどうですか?ここなら安全ですよ。」
 蒼「心配性だなあ。せっかくの遠出なんだから僕も山を見に行くよ。翠星石も来たらどうだい?」
 翠「そんな頼りない奴についていきたかねえです。」
 マ「ははは、こいつは手厳しいな。じゃあ二人で行ってきます。」
 翠「もしも蒼星石に何かあったらお前が命に代えても守るですよ!」
 蒼「何を馬鹿なこと言うんだよ。」
 マ「翠星石、分かったよ。そのつもりで頑張るよ。」
  マスターが何気なく言ったその言葉に、僕はなぜか嫌な予感を覚えていた。




 マ「よーし、じゃあ最初に腹ごしらえもかねてお店をはしごするか。」
  そう行ってさっきの買い物中に通りがかったお店を中心に回ってみる。
 マ「面白そうなものを見つけたら気軽に声かけてね。」
 蒼「うん、分かった。」
  ブラブラしているうちにマスターが興味を持った雑貨屋に入る。
  どうやらお目当ては調理器具だったようだ。なかなか充実している。
 マ「あ、この包丁よく切れそう。この中華鍋もいいなあ。こんなので蒼星石になんか作ってあげたいなあ♪」
  なんだろう、明るく振舞ってはいるけれどわざと陽気にしているような危うさを覚える。
 マ「よーし、お次はさっきのお店で服でも見よっか。」
  さっき上着を見た洋品店に行く。
 マ「あれ?」
  例の入り口付近に設置されたマネキンは何も着ていなかった。
 蒼「売れちゃったのかな。」
 マ「まあ間が悪い事もあるもんだ。」
  「おや、やっぱり彼氏へのプレゼントかい?」
 マ「うわ!」
  いつの間にかさっきのおばあさんが背後に立っていた。
  「若い女性さんに人気があるのかねえ。さっき売れちゃったよ。」
 マ「ああ、そうなんですか。」
  「いやー今の若い女性は積極的でいいわねえ。私達の頃は女から服を贈るだなんて・・・」
 マ「はあ・・・。」
  「・・・それでね、このお店を始める時に・・・」
 マ「へえ、そうなんですね。」
  「・・・でね、あたしゃ言ってやったのさ・・・」
 マ「そりゃそうですよね。」
  「・・・それでね、このお店を始める時に・・・」
 マ「それは大変でしたね。」
  「・・・でも女ももっと頑張らなきゃいけないのよ・・・」
 マ「なるほどなるほど。」
  「・・・それでね、このお店を始める時に・・・」
 マ「なんとそんな事があったんですか!」

   ・・・・・・・・・

 マ「疲れたーー!」
  幾度と無いループすらする長話からようやく解放された。
 蒼「マスターが話をさえぎらないからだよ。」
 マ「前もこういう事があったんだよなあ。同じ話を繰り返してるって指摘するのも気が引けるし。
   それに話し相手が欲しいのかな、と思うと無下にも出来ないしさあ。」
 蒼「まあその気持ちも分かるけどね。たぶん言っても分かってもらえないし。」
 マ「予想外の事で時間を食っちゃったね。とりあえず何か食べて山の方へと行こうか。」
  手近なお店でこの辺りの名産らしきものを買い、それを二人で食べながら山へと向かった。




  しばらく登山道を徘徊するもみっちゃんさんにものりさんにも会わない。
  と、いうか時期のせいなのか時間帯のせいなのか人っ子一人見当たらない。
 マ「ひょっとしてもう帰っちゃったのかな。」
 蒼「かもね。なんだかんだで結構前に来ていたみたいだし。」
 マ「まあ誰もいない山で蒼星石と二人っきりってのもいいかもね。」
 蒼「そうだね、しばらく二人でお散歩ってのもいいかもね。」
  そうして人気の無い山中を歩いていると不意にマスターがこちらを見つめてきた。
 マ「蒼星石・・・」
  マスターの真剣な顔が近づいてくる。
 蒼「な、何?」
  僕の問いかけを無視するかのように顔と顔の接近は止まらない。
  そしてその唇がかすかに動き・・・
 マ「・・・なんかさ、後ろに誰か居ない?」
 蒼「え?」
 マ「さっきからなんか歩調を合わせられてるみたいなんだ。気付かれないようにこっそり見てもらえる?」
 蒼「う、うん。分かった。」
  ちらりと目線だけをかすかに動かしてマスターの背後の方を見る。
 マ「どう?」
 蒼「うん、確かにいるよ。」
 マ「どんな感じ?」
 蒼「えっとね、マスターの体で隠れて顔の辺しか見えないや。」
 マ「知っている顔?」
 蒼「わかんない。サングラスかけてマスクまでしてるんだもの。」
 マ「・・・それってさ。」
 蒼「あ、手に何か持ってる。・・・ナイフだ!」
 マ「やっぱ明らかにヤバイ人種みたいね。」
 蒼「早く逃げて!!」
 マ「了解!!」
  僕の声にはじかれた様にマスターが走り出す。
  しばらくして自分の存在に気付かれた事を知った背後の人物も駆け出した。