前回


 マ「ただいま。」
  マスターを先頭に皆が帰ってきた。
 翠「一体どういうことですか!誰がこんな事をしでかしやがったですか?」
 真「昨夜の時点で既に事件は起こっていたのよね。なんで黙っていたのかしら?」
 雛「これからどうなるのー?」
  それを姉妹達が質問攻めにする。
  簡単に事情を聞かされ、僕らは部屋に待機していることになった。
  皆その話題には触れずにいたがやはり気になっていたのだろう。
  それらの質問を受け、マスターが代表で説明をする。
  簡単に言うとこんな感じだった。


  昨夜、何者かによって桜花さんの人形であるエリザベスがズタズタにされた事

  そして今朝、山田さんの人形のキャサリンも同様の被害に遭った事

  桜花さんは最近ストーカーに悩まされており、昨日の件は置き引きも含めそれと関係があるかもしれない事

  そして、対策としては部屋に大事にしまっておくにせよ、肌身離さず持ち歩くにせよ、各人の判断に委ねるとの事


 真「・・・ひどい事をする人間もいるものね。」
 雛「そうなの!くんくんに助けてもらうのー。」
 翠「そうですよ!探偵はともかくサツを呼べです!」
 み「それは・・・無理なのよ。」
 翠「なんでですか!?」
 マ「一つは今回の旅行は旅館側に料金等でかなり無理を言っているそうだから変な騒ぎになるような事はできないから。」
 の「そんな物騒な噂が広まったら客足が遠のきかねないでしょ?」
 翠「そんなの・・・被害が連続しているんですよ!」
 マ「そしてもう一つ・・・仮に通報してもまともに相手はしてもらえないだろうから。」
 雛「なんでなの?」
 マ「それは・・・」
  マスターがそこで言いよどむ。
  僕らに気を遣ってか口に出しづらいようだ。
 蒼「・・・殺人ならともかく、人形が壊された程度じゃただのイタズラ程度で片付けられてしまうって事だね。」
 金「そんなの・・・あんまりよ。」
 マ「悲しいけれど事実だよ。大方の人間にとってはあくまでも物が壊されたに過ぎないんだ。・・・残念だけどね。」
 真「誰か目撃者は居ないの?」
 マ「あの辺はお客もいないし、人の少ない時間だったから誰か通れば気付くだろうけど・・・山田さんは見ていないそうだよ。」
 金「そんな、透明人間じゃあるまいし。」
 マ「もちろん、現場が袋小路だったわけじゃないから別の廊下を通っただけかもしれない。」
 蒼「皆目見当がつかないわけだね。」
 マ「うん、手がかりなんて何も無い。」
 翠「じゃあこのまま泣き寝入りしてろって言うですか!!」
 マ「・・・・・・。」
  マスターは何も答えない。どう言ってよいのか分からないのだろう。
 ジ「とりあえず・・・こいつらは何とかできたらと思っている。」
  ジュン君が持っていた袋から何かを取り出した。
  目の当たりにした一同が息を呑む。
  それは無残な姿にされた人形達だった。
 雛「ひどい・・・。」
  そのむごたらしさに誰も直視できなかった。
 ジ「どこまでやれるかは分からないけれど直してみる。そのために借りてきたんだ。」
 の「ジュン君がんばって!お姉ちゃんも応援してるから。」
 真「ジュン、あなたならきっと出来るのだわ。」
 ジ「ああ・・・。」
 マ「あのさ、何か用意したほうがいい物があれば言ってもらえる?その位ならお手伝いできると思うし。」
 ジ「それじゃあ、布と綿を買ってきてもらえますか。」
 マ「うん、分かった。」
  マスターがこっちを向く。
 マ「という事なんだけどさ、蒼星石についてきてもらいたいんだけど・・・いいかな?」
 蒼「僕に?」
 翠「お前、何考えてるですか。そんな蒼星石をわざわざ危ない目に遭わせかねない真似を認めるわけにはいかないです!」
 蒼「それ位なら大丈夫だよ。それに僕はマスターのことを信じてるしね。」
 マ「ありがとう、それじゃあお願い。何かあったら頑張って守るからさ。」



  マスターに抱えられて辺りをうろつく。
  この辺りで温泉めぐりをする人も結構いるそうで、浴衣姿で出歩いても平気だからありがたい。
  やはりお土産物屋さんが多いが、意外にもいろんな種類のお店が揃っていた。
 蒼「あんまり人が居なくて良かったね。」
 マ「なんで?」
 蒼「だってひょっとしたら変に注目されちゃったかもしれないし。」
 マ「浴衣姿なら遠目じゃそうそう分からないよ。それに旅の恥はかき捨てって言うしね。」
  そこでマスターの表情がちょっとだけ真剣なものに変わる。
 マ「それに何より、そんなのどうでもいい位に不安なんだ。こうしていないと離れ離れになっちゃうんじゃないかって。」
 蒼「・・・大丈夫だよ。きっと大丈夫さ。」



  ぶらついているうちに洋品店を発見できた。
  店内にはいろんな服が陳列されている。
 マ「こんな上着の一着くらいあってもいいかもな。」
  入り口近くのマネキンが着ている革ジャンを何気なく眺める。
 蒼「結構似合うんじゃないかな。」
  それを聞いたマスターが値札を見た。
 マ「げ!高い。」
  「あらあら、彼氏さんへのプレゼントですか?」
  気付くといつの間にやら店員さんがそばに立っていた。
  人の良さそうなおばあさんだ。
 マ「あ、いえ。買いに来たのは布と綿なんですけど。どちらにありますか?」
  「ああ、あっちの棚にありますよ。ゆっくりと見ていってください。」
 マ「ありがとうございます。」
  マスターと二人であの子達に使われていたのとなるべく近い布と綿を探した。



 マ「ジュン君はすごいよね。ああやって彼女達を救いうる能力があって。いつかは真紅も直したとか・・・。」
  無事に買い物を終えた帰り道、マスターの口からそんな言葉が漏れた。
  なぜだろう、その口ぶりに普段とは違う陰りのようなものを感じた。
 蒼「どうしたの?」
 マ「・・・僕は何も出来ない。みんなの不安を解消する事も、ジュン君みたいな事も。」
  そこでぎゅっと抱き締められる。
  そのためにマスターの顔が視界から外れてしまったが、なんとなくどんな表情をしているのかは分かるような気がした。
  きっと出来る事ならば見たくはない表情だ。
 蒼「そんな事無いよ。マスターにだって・・・」
  その言葉をさえぎりマスターが続ける。
 マ「お使い程度のお手伝いは出来るけどね。逆に言うとそれ位しか役に立たない。・・・無力なんだよ。」
  あんな現場に二度も立ち会ってしまったからショックが大きかったんだろう。
  時間が経てば落ち着いてくれるに違いない、そう思ってあえてそれ以上は触れない事にした。
  それが本当に正しい選択なのかは分からなかったが、少なくとも僕はそうしてしまった。