マ「いやー、今年は良いお年始だったよ。みんなで集まって飲み食いして大騒ぎして、とっても楽しかった。」
  桜田家から帰って来たマスターと蒼星石の二人がコタツでくつろぐ。
 蒼「マスターったら大はしゃぎっだったよね。それにずいぶんと暴飲暴食しちゃって、胃腸のほうは大丈夫?」
 マ「みんなで持ち寄ったおせち料理が美味しかったからね。ついつい食べ過ぎちゃったよ。」
 蒼「でもお酒が入ったのもあってかすごく上機嫌だったよね。」
 マ「お歳暮でもらった物らしいけどあれはいいお酒だった。やはりお酒では日本酒が一番好きだねえ。」
 蒼「そんなに好きならお正月用に一本くらい買っておけば良かったね。」
 マ「うーん、お酒自体は嫌いじゃないけれどみんなで集まった時くらいにしか飲もうと思わないからなあ。
   今日のはやっぱりみんなでわいわいとやれたのが一番大きかったな。」
 蒼「去年の年の瀬は忙しかったりでみんなで集まる時もマスターは参加できなかったしね。
   本当にお疲れ様でした、いつもお世話になってます。」
  蒼星石が温かいねぎらいの言葉をかける。
 マ「いや、確かに忙しかったのはあるけれど、そもそも僕はあまり社交的じゃないからね。
   暇な友達がいたとしてもお正月に集まるだなんてきっとしなかったと思うよ。
   そういうところも含めてさ、こちらこそ生活にいろいろと潤いを与えてくれる蒼星石には常々感謝しているんだ。」
 蒼「そんな・・・。僕の方こそマスターにはいろいろと感謝してるんだ、ありがとう。」
 マ「そんなもったいないお言葉、なんだか恥ずかしくなっちゃうよ。
   ところでさ、今日はもう食事も済んだし特に家事もしなくていいんだよね?
   しばらくまったりと蒼星石とお話したいな。」
 蒼「いいの?別に面白い話も出来ないし、テレビでも見たほうが良いんじゃない?」
 マ「話題なんて何でも良いよ。僕だって話し上手じゃないしさ。
   だけど他愛の無いことでも蒼星石と一緒に過ごせたらきっと楽しいと思うんだ。
   こうしてのんびりと過ごせるのはお正月くらいだしさ、わざわざテレビなんて見たくもないよ。」
 蒼「そう、それじゃあそうさせていただこうかな。」



 マ「zzz・・・・・・あれ、もしかしなくても今寝てた?」
 蒼「うん、結構しっかり寝てた。」
 マ「げ!こんな時間になってる。ごめんね、お話しようと持ちかけておいて途中で寝ちゃって。
   遠慮せずに叩き起こしてくれればよかったのに。」
 蒼「マスターがあまりにもぐっすりと寝てるから起こせなくなっちゃった。それになんだか可愛くってさ。」
 マ「な、何を馬鹿な事を・・・!そ、それはさておき今のうたた寝で夢を見なくて良かった。
   せっかくの初夢が超短編になってしまうところであった。」
 蒼「じゃあ昨日も遅くまで起きていたし、いつもより早いけど今日はもう寝ちゃったら?初夢もちゃんと見なきゃだしね。」
 マ「そうだね、あまり寝てないから流石にもう眠いや。今夜は良い初夢が見られそうだよ。」
 蒼「マスターはどんな初夢が見たいの?」
 マ「うーん、やっぱ縁起が良さそうなやつかね。一富士二鷹三茄子、それに四扇五煙草六座頭。」
 蒼「何それ。」
 マ「ふふん、かつてはベストシックスまで続きがあったのさ・・・といい夢見たくて調べたら書いてあった。
   まあとにかくハッピーな夢がみたいなあ。」
 蒼「そうだね、幸せな夢が見られたらそれが叶うとも言うしね。」
 マ「見たことが実現するそうだよね。なんとしてもいい夢を見なくちゃね。」
 蒼「じゃあさ、役に立つかは分からないけれどこれ使ってよ。」
  蒼星石が鞄から何かを取り出した。
 マ「これは七福神の絵だね。ありがとう枕の下に敷いて寝るよ。」



 蒼「それじゃあマスター、僕ももう寝るから。お休みなさい。」
 マ「うん、お休みなさい。蒼星石も新年からいろいろとお疲れ様でした。」
  電気が消され暗闇の中、静寂が訪れる。
 マ(楽しみだなー、どんな初夢かなあ。いい夢だといいなあー。
   蒼星石から七福神の絵を貰ったんだし絶対にいい夢だよなー。わっくわく・・・)
  数分毎にもぞもぞと動いたり寝返りを打ったりしている。
 マ(・・・・・・・・うおおぉおーー楽しみで目が冴えて眠れない!)
  一旦寝るのを諦めて上体を起こす。
 マ(そうだ、眠れないついでにあれも枕の下に入れておこうか。皺にならないように何か挟むものもいるな・・・)
  布団から出ると何やら持って戻ってきた。それらを枕の下に入れて再び眠ろうと努める。
  しばらくはさっきまで同様にごろごろとしていたが、そのうちにようやく寝入ったようだった。




 蒼「ほら、起きて。早く朝ご飯にしないとお昼ご飯がしっかりと食べられなくなっちゃうよ。」
 マ「うーーん、もうこんな時間?・・・昨日は調子に乗って飲みすぎたかな。」
 蒼「それもあるだろうけど早く寝ないからだよ。」
 マ「面目ない。なんだか気持ちが高揚しちゃって寝付けなくってさ。」
 蒼「今朝はお雑煮でいいよね。お餅何個食べる?」
 マ「え、お餅?・・・じゃあ4個もらおうかな。」
 蒼「4個って、いくらなんでも食べすぎだよ。」
 マ「そうかな?蒼星石はいくつ食べるの?」
 蒼「僕は一つで十分だよ。お餅は胃がもたれるし、昨日はいろいろとたくさん食べたんだからせめて3個にしなよ、ね?」
 マ「・・・了解しました。」
 蒼「じゃあすぐに煮えるとは思うから着替えたりして待っててね。」
  マスターの返答を聞くと蒼星石はそう言いつけてお雑煮の支度をしに行った。


 蒼「そろそろ出来るよ。」
 マ「・・・うん。」
 蒼「どうしたの、さっきから元気がないみたいだけど。
   二日酔い?それとも胃の調子が悪いとか?まさかお餅が足りないからへそを曲げたわけじゃないよね?」
 マ「いや、ちょっと初夢が・・・。夢見が悪くってさ・・・。」
 蒼「そんなにひどい内容だったの?」
 マ「ひどいというか、なんというか、思い出すとへこむ。」
 蒼「じゃあ良かったらさ、どんな夢だったのか聞かせてよ。
   そうすれば少しは気が紛れるかもしれないし、たしか人に話した初夢って実現しないはずだったよね。」
 マ「そう?じゃあ聞いてもらおうかな。」
 蒼「うん聞くよ。どんな夢だったの?」
 マ「えっとね、気付いたら綺麗なお姉さんと食卓で向かい合っててさ、談笑してたんだ。」
 蒼「へえ、その人は奥さんとか?」
 マ「そうだったみたい。それで子供なんかも生まれてさ、男の子と女の子なんだけどすくすくと育って立派になって、
   最後はおじいさんになった自分とおばあさんになったさっきの女の人が縁側で日向ぼっこしつつお茶飲んでた。
   それでさっき目が覚めたんだ。とてもほんわかとした夢だったよ。」
 蒼「別に聞いてるとすごく幸せそうな夢じゃない。僕はマスターにそういう人生を過ごせてもらえれば嬉しいんだけどな。」
 マ「うん、すっごく幸せな気分だった。」
 蒼「じゃあ話さなきゃ良かったのに。なんでわざわざしゃべっちゃったのさ。」
 マ「・・・本当に目が覚めるまでは本当に幸せだったんだよ。相手は蒼星石じゃなかったのに!僕は裏切り者だぁ!!」
  言うやいなや両手で顔を覆っておいおいと悲嘆に暮れてしまう。
 蒼「そんな事でそんなに大騒ぎしなくても。」
 マ「だって相手が誰かが一番大切じゃないか!せっかく昨日は枕の下に蒼星石の写真も忍ばせておいたのに!」
 蒼「ふうん、そんな事までしてたんだ。悪いけどお雑煮を火にかけたままだったから失礼するね。」
  蒼星石は付き合いきれないといった感じで台所へ行ってしまった。



 蒼「ごめんなさい、ちょっと煮過ぎてお餅がドロドロになっちゃった。多分味の方は大丈夫だと思うけど。」
 マ「おお、鰹節がお餅の上で踊ってる!これを見るとなんか幸せな気分になるんだよね。」
 蒼「そういうところはなんかマスターらしいね。」
  はしゃぐマスターの様子を見て蒼星石がくすりと笑う。
 マ「いやー、紅白のお餅が2個ずつ入って見た目もめでたい・・・ってあれれ?4個入ってる?」
 蒼「さっきはああ言ったけれどお正月だから特別だよ。ただ食べすぎには気をつけてよね。」
 マ「おおー!ありがたや、ありがたや。」
 蒼「そうやって喜んでもらえると嬉しいよ。」
 マ「・・・・・・・・・。」
 蒼「・・・・・・・・・どうしたの?早く食べないと冷めちゃうよ。」
 マ「え、でも蒼星石の分がまだじゃない。」
 蒼「ああ、僕は後で食べるから。マスターは先に食べてて。」
 マ「え、なんで!?」
 蒼「ちょっとうっかりしてね、お餅を4個しか入れてなかったみたいなんだ。」
 マ「え、じゃあこんなにいらないよ。ちょっと待って、口をつける前に取り分けるから。」
  蒼星石の椀を持ってくるとお餅をつまんで移そうとする。
 マ「だめだ、お餅が柔らかくなりすぎて持ち上げようとするとちぎれちゃう。」
 蒼「いいよ、先に食べててよ。マスターは僕のことなんて気にせず食べたいように食べてくれればいいんだよ。」
 マ「新年早々わがままばかりでごめんね、でも一緒に食べたいんだ。いくらでも待つからさ。」
 蒼「だめだよ。せっかくだからやっぱり温かいうちに食べて欲しいし。」
 マ「じゃあさ、折衷案ということで二人で分けて食べようよ。」
  とろけてやわらかくなったお餅をつまむと蒼星石の方に差し出す。
  しばしの逡巡の後に蒼星石がおずおずと口をつける。
 蒼「・・・おいしい。」
 マ「そりゃあ蒼星石の手作りだもん、当然じゃない。」
 蒼「ううん、その・・・マスターが食べさせてくれたからすごく美味しく感じる・・・。」
 マ「まったく可愛いことを言ってくれるんだから。」
  二人が目を合わせて笑みを交わす。
 マ「新年早々幸せだな。まるで夢みたいだよ。あーあ、こんな初夢だったら誰にも言わないでいたのにな。」
 蒼「そっか、ごめんねマスター。」
 マ「なんで蒼星石が謝るのさ。それに現実にはこうして蒼星石がそばにいてくれる、最高じゃないか。」
 蒼「僕も現実で良かったよ。現実だからこそ、こうして僕も幸せな気分で一杯になれたんだから。」
 マ「そうかもね。・・・初夢なんかじゃなくてもこれからもずっとこうしていられるよね。」
 蒼「ずっと・・・こうしていたいね。」
  そう言って二人は再度笑みを交わした。