場面は「ロシアにはロシアンティーなんてものは存在しない」の直後から。


   うう、まだ舌、ヒリヒリするや・・・
マ:「俺の味見の時はジャムちゃんと冷ましたのに、なんで自分の番だと冷ますの忘れるんだ?」
   マスターは呆れ顔と笑い顔が半々の顔で僕を見ながらジャムパンを食べてる・・・。
蒼:「うう・・・、マスターが朝から変なことしてくるから・・・その、調子狂っちゃって・・・。」
マ:「俺のせいかよ。」
   マスターはより一層顔をニヤニヤさせた・・・。なんだか悔しい。
蒼:「むう。」
   マスターが悪いんだよ。朝からあんなことされたら、誰だって調子狂っちゃうよ。
   あんなこと・・・・。
蒼:「・・・・・。」
   冷静に思い出してみたら、なんだか無性に恥ずかしくなってきた・・・。

   ぴちゃぴちゃ・・・

   なるべく思い出さないよう、僕は黙ってコップの冷水で舌先を冷やすことに専念した。

   ぴちゃぴちゃ・・・

蒼:「・・・・。」
マ:「まだ、痛むのか?」
蒼:「・・・うん、ちょっと・・。」
マ:「どれ、診せてごらん。」
   マスターはイスから立つと僕の方へ寄ってきた。
   そして座ってる僕の目線に合わせるように屈んで顔を近づける。
マ:「ほら、舌、べぇーって出して。」
蒼:「・・・・。」
マ:「なぜそっぽ向く?」
   こんな顔を近づかれたら、またさっきのキスのこと思い出しちゃうじゃないか・・・。ああ、もう。
   恥ずかしさを悟られないよう、僕はマスターと目を合わせないようにした。
マ:「・・機嫌直せよ。」
蒼:「・・・・。」
マ:「 悪かったよ、笑って。ごめんな。謝る。だから舌診させてくれ。」
   なんで急に、そんな心配そうな顔になるのさ・・・。
   僕がヤケドした瞬間もあんなに慌てて・・・・。
   そんな、たいしたことじゃないのに・・・、まったく、このマスターは・・・・
   僕は努めて平静を装い、マスターの方を向くと黙って舌を出した。
マ:「・・・・。」
   マスターも黙ったまま、真剣な眼差しで僕の舌を診る。
マ:「・・・・・・・・・・・。」
   うう、そんなに長いこと見つめないでよ。
マ:「もう、腫れも引いてるから、大丈夫だとは思うが・・・。」
蒼:「・・うん。だいじょうぶだよ・・・。もう痛くなくなったよ。」
   僕は恥ずかしくて、自分の顔が赤くなってはいやしないかと内心気が気でなかった。
マ:「・・・・。」
蒼:「大丈夫っ、だからもう気にしないでっ。」
マ:「・・・そう、か。」
   マスターは硬い表情のまま僕から顔を離した。
蒼:「あの、本当に大丈夫だからね? 全然もう平気だから。」
マ:「本当にか?」
蒼:「だから本当だってっ、もう!」
   僕はつい強い口調で言ってしまった。
マ:「・・・そうか、良かった・・。」
   マスターはホッと一安心といった感じに息をついた。
   舌先をちょっとヤケドしただけなのに・・・大袈裟だなぁ・・。でも
蒼:「・・・・。」
   僕はじぃっとマスターの顔を見上げた。
マ:「どうした?」
   マスターが僕に見つめられたままなのに気付いて訊いてきた。
蒼:「気遣ってくれて、ありがと・・。」
   こんなドジな僕に・・・人形に・・・。
   マスターは一瞬キョトンとした顔になった。
マ:「あ・・、べ、別に・・・。好きな人を思い遣るのは・・、当然のことだ。どんな些細なことでも。」
蒼:「・・マスター・・・。」
マ:「・・・・。」
   マスターは途端に顔を真っ赤にして、リビングの方に行ってしまった。
   あんなキスを平然としといて、なんで今ので顔を真っ赤に・・・?
   マスターの恥ずかしさの基準がわからない。
   でも・・・。
   僕は胸の奥に湧き上がる熱い何かを感じた・・。


   それから数分後・・・


   僕はジャムの瓶を鞄に詰めるとマスターのところへ行った。
蒼:「マスター、準備できたよ。行こう。」
マ:「ああ。」
   出来立てのジャムをお裾分けに、ジュン君のところへ。
   今日は休日だからマスターも一緒に来てくれる。
   僕は車に乗り込むためにマスターと玄関から出た。
マ:「・・・ん。」
   マスターはポケットから携帯電話を取り出した。
マ:「すまん、電話だ。ちょっとそこで待っててくれ。」
蒼:「うん。」
   誰かから掛かってきたみたい。
   マスターは一人、家の中に戻っていった。
蒼:「・・・・。」
   やがて、マスターが家から出てきた。
マ:「すまん、今から仕事の用事ができた。」



   桜田宅前にて。   

マ:「昼には戻れると思う。じゃあな。」
蒼:「うん、マスターもいってらっしゃい。お仕事頑張ってね。」
マ:「ああ・・。」
   僕は車から降りて扉を閉め、ジュン君の家の前に立った。
蒼:「じゃあね・・。」
   マスターの車の方に手を振る。
   マスターはそのまま、仕事先へ向かった・・。   
蒼:「せっかくの休日なのにな・・・。」
   一瞬だけ、ちょっと寂しくなっちゃったけど、僕は気を取り直してジュン君の家の玄関に向かった。


   チャイムを鳴らすと、のりさんが出迎えてくれた。
の:「いらっしゃーい。あら、マスターさんは、一緒じゃないの?」
蒼:「マスター、急にお仕事が入っちゃって。」
の:「そう、忙しいのねぇ。さ、どうぞ上がって。」
蒼:「おじゃまします。」


   家に上がると、みんな食卓の席について朝食が出るのを待っているところだった。
蒼:「今日はみんな朝食摂るの遅いんだね。」
   僕は食卓の空いてる席に腰掛けた。
翠:「はぁ、のりが炊飯器のスイッチを押し忘れてたですよ・・。」
   翠星石がやれやれといった感じで言った。
蒼:「はは、僕もたまに忘れちゃう時があるよ。」
真:「笑い事じゃないのだわ。規則正しいリズムで食事を摂るのが大切だというのに。のり、ご飯はまだなの?」
雛:「ヒナ、おなかすいたの~!」
の:「ごめんねぇ~、ご飯今から炊いたらだいぶ掛かっちゃうから・・。」
   そう言ってのりさんが食卓に持ってきたのは・・・トーストだった。
ジ:「焼き魚にトーストかよ。」
   食卓にはすでに、ご飯用のおかずに用意されてた焼き魚が配膳されていた。
真:「あまり見ない食事の組み合わせね。」
   どう手を付けたらいいのか、真紅達がトーストと焼き魚を前に固まってる。
   あ、そうだ。
蒼:「丁度良かったかな。僕、今日はお裾分けに苺ジャムを作って持ってきたんだよ。」
   僕は鞄からジャムを取り出した。
の:「あらあ、助かるわぁ。丁度切らしてたところだったから。」
翠:「さっすが蒼星石ですぅっ、グッドタイミングですぅ。」
雛:「うわぁー、いっちごジャムー♪」
   僕が鞄からジャムの瓶を取り出すのを、雛苺が目を輝かせながら見つめる。
   ふふ、作ってきてよかった。
蒼:「はい、これです。」
   僕は苺ジャムが入った瓶をのりさんに手渡した。
の:「じゃあさっそくトーストに塗りましょうね~・・・・・・・あら・・?」
   のりさんが瓶の蓋を捻ろうとして、眉根を寄せてる。どうしたんだろ?
の:「うーん・・! うーん・・!」
ジ:「なにやってんだ?」
の:「ちょっと・・これ、きつくて・・・うーん・・うーん!」
   どうやら瓶の蓋がきついみたいだ。
の:「だめ、開かないわ~。」
   一旦瓶を食卓に置き、のりさんはフゥ~と息を吐いた。
雛:「うゆ~~!」
   雛苺が不満そうな声を上げる。
真:「まったく・・非力なことね・・、ジュン開けてあげなさい。」
ジ:「しょうがないなぁ。」
雛:「ジュンッ、あいとー!あいとなのよー!」
   ジュン君は瓶を取ると、先程ののりさんと同じように蓋に力を込めた。
ジ:「・・・・ん?」
   予想以上にきつかったのか、ジュン君は一旦力を抜いて一呼吸置き、
   再び力を入れ直した。
雛:「あいとー!あいとー!ジューン!」
ジ:「くっ! くぬぬぬぬぅううう!」
   ジュン君の本気だ・・・!
蒼:「・・・・。」
真:「・・・・。」
翠:「・・・・。」
雛:「・・・・。」
の:「・・・・。」
   僕をはじめ、真紅達も固唾を呑んで見守る。
ジ:「ぬぬぬぬぬ・・・・・・・・~~~、はぁはぁっ、駄目だ。開かないぞ、これ。」
   ジュン君は諦めて瓶を食卓に置いた。
翠:「まったく、だらしないですねぇ~。」
   翠星石がバカにしたようにジュン君を鼻で笑った。もう、そんなことだから・・・。
ジ:「じゃあ、お前が開けてみろよ。」
翠:「翠星石には蓋が大きくて掴めないですよ。ああー、残念ですぅ。
   もうちょっと小さければ開けてみせたですのに。」
ジ:「たく・・・。」
   確かに、この苺ジャムの蓋は大きすぎて、僕達ローゼンメイデンには開けるのは難しそうだ。
真:「蒼星石、あなたがこの瓶閉めたの?」
蒼:「あ・・と、マスターが・・・閉めたんだ・・。」
   その時、僕は舌をヤケドしてて、
   マスターの瓶にジャムを詰めて蓋を閉める作業を舌を冷やしながら見ていた。
翠:「アホ人間の仕業ですかっ。」
雛:「うゆ~~~! イチゴジャム~~~!」
   雛苺が癇癪声を上げてる・・・。
の:「困ったわねぇ・・・。」
蒼:「ちょっと貸して下さい。」
   僕は瓶を取ると、手の平をめいっぱいひらいてなんとか蓋を掴み、力を込めた。
蒼:「~~~~~。・・・駄目だ。開かないや。」
   ちゃんとに蓋を掴めれば、開けれると思うんだけど・・・。この小さい手じゃ力が存分に込めれない。
翠:「まったく、あんのアホ人間は加減を知らんですねぇ。きっと力任せに蓋を閉めたにちげえねぇです。」
蒼:「・・・・。」
雛:「イチゴジャムぅ~~!!」
の:「ちょっと待っててね~。」
   のりさんはそう言うと奥のほうに引っ込んでいった。
   そしてすぐに戻ってくる。
の:「これならきっとすぐ開くわよ。滑らないから。」
   のりさんはゴム手袋をしてきた。なるほど、あれならがっちり蓋を掴めて手が滑らない。
の:「雛ちゃん、もうちょっと待っててね。」
雛:「うゆ。」
ジ:「なんでもいいから、はやくしてくれよな。」
   のりさんは瓶の蓋を掴み、力を込めた。
の:「・・うぅ~~~~~!」
蒼:「・・・・。」
真:「・・・・。」
翠:「・・・・。」
雛:「・・・・。」
ジ:「・・・・。」
の:「だめ、開かないわぁ~。」
   のりさんは泣きそうな声を出して蓋を開けるのを諦めた。
の:「瓶が開かない時は、いつもこのゴム手袋で開くのに・・・。」
   信じられないといった風に、のりさんは瓶を見つめる。
   僕らも苺ジャムの瓶を見つめた。
雛:「苺ジャム~~!! はやく食べたいの~~~!!」
   雛苺が両手を振り回してイヤイヤした。
翠:「チビ苺、うるさいです。静かにするですぅ。
   蒼星石の作ったジャムを食べれなくて悔しいのはわかるですが・・・・
   そう、悪いのは蒼星石のマスターのアホ人間ですよ! アホ人間に怒りをぶつけるですぅ!」
雛:「うにゅう~~~~!!」
   なんか翠星石が雛苺を焚き付けてる・・・。
ジ:「はぁ、しょうがないな・・・。」
   ジュン君がイスから立ち上がった。
真:「ジュン、どこへ行くの?」
ジ:「きつく閉まった瓶の開け方だろ。上行ってパソコンで調べてくるよ。」
蒼:「そんな・・わざわざそこまでしなくても・・・。」
ジ:「でも何とかしないと雛苺、大人しくならないだろ。苺ジャム大好物だからな。
   すぐ調べられるからちょっと待ってろ。」
   そう言ってジュン君は一人パソコンがある二階に上がっていった。
蒼:「・・・・。」
   なんだか、僕の持ってきた苺ジャムのせいで・・・ジュン君やのりさんの手を煩わせちゃって申し訳なくなってきた。
の:「ああ~、ジュン君はこういうとき頼りになるわねぇ~。・・じゃああたしは紅茶淹れてくるわね。」
   のりさんがキッチンの方へ消えていくと、翠星石がジャムの瓶を手に取り、
   中身を残念そうに見つめながらひとり喋り始めた。
翠:「ああ~、こんなに美味しそうなジャムが目の前にあるのに、どこかの力加減ができないアホ人間のせいで
   食べられずじまいかもですねぇ~。」
雛:「うゆ~~~!」
   雛苺が「そんなのいやだっ」と言いたげに不満の声をあげた。
蒼:「・・・・。」
翠:「あのアホ人間も、もうちょっと開ける人のことを考えて閉めれば、こんなことにならなかったですのにね~。」
雛:「うゆゆ~~~!」
蒼:「・・・・。」
   マスターが蓋閉めたこと、言わなければよかったな・・・。
   翠星石は瓶を雛苺の眼前に持っていって中身を指差しながら、
翠:「ああ、蒼星石の作った美味しい美味しいジャム、『はやく出して~、はやく食べて~、
   アホ人間に閉じ込められて苦しい~!』って呻いてるですよぉ。」
雛:「うゆゆゆ~~~!!」
蒼:「・・・・。」
翠:「まったく、あのアホに・・・。」
真:「翠星石、いい加減にするのだわ。
   この場にいない人間の悪口を重ねるなんて、とても誉められたことじゃないわよ。」
   真紅が咎めてくれた。
翠:「悪口って・・翠星石は、ただ事実を述べてただけですぅ・・。」
   翠星石は口を尖らせて俯いてしまった。
雛:「うゆ~、ヒナ早くイチゴジャム食べたいの~、おなかペコペコなの~。」
   開かないジャムの蓋が恨めしい・・・。こんなことなら・・・。
   ジュン君まだかな・・。
   僕は気遣わしげに天井を見上げた。
の:「おまたせ~。」
   のりさんが茶器と紅茶のポットを載せたおぼんを持ってきた。
蒼:「僕が淹れます。」
   僕はイスから腰を浮かして茶器に手を伸ばした。
の:「あ、そんないいのよ。」
   のりさんはやんわりと断ったけど僕は構わず茶器を手に取って紅茶を淹れ始めた。
の:「・・・蒼星石ちゃん・・・?」
   なんか落ち着いていられない。
   やがて、ジュン君が戻ってきた。
ジ:「きつい瓶を開ける方法、いろいろ載ってたからメモしてきてやったぞ。」
翠:「ふ~ん、パソコンってやつは物知りですねぇ~。」
   と、ジュン君が席に着きつつ食卓に置いたメモ紙を、翠星石は手にとって眺めながら言った。
雛:「それにふたのあけ方かいてあるの?」
真:「そうよ、ジュンさっそく試してみなさい。」
ジ:「人使い荒いなぁ。」
蒼:「あ、僕がやるよ。翠星石、メモ貸して。」
   丁度僕はみんなの分の紅茶を淹れ終わったところだった。
翠:「なにか、蒼星石さっきからせわしないですねぇ。なにをソワソワしてるですか。」
蒼:「そ、そうかな?」
真:「蒼星石、もしかしてあなた、責任感じてるの? この開かない瓶に。」
蒼:「え、責任って・・、べ、別にそんなことないけど・・・。」
   僕がまごまごしてると、
ジ:「しょうがないな。僕がやればいいんだろ。」
   ジュン君は渋々といった表情で瓶を手に取った。
蒼:「あ・・。」
ジ:「えーっと、蓋を温めると開け易くなるなんだっけな。のり、お湯。」
の:「はいはーい。」
   のりさんがポットからお湯を器に汲んでジュン君に渡した。
ジ:「こうして・・・。」
   瓶を逆さまにして、蓋の部分をお湯に浸すジュン君。
ジ:「そろそろいいかな。」
   そのまま数十秒ほど温め、瓶をお湯から引き揚げる。
蒼:「蓋、熱くなってるから気をつけて。」
   朝、舌をヤケドしたときのことが思い起こされる。
ジ:「言われなくてもわかってるよ。」
   ジュン君は布巾を瓶の蓋に被せると再び蓋開けに挑戦した。
ジ:「ふぬぬぬぬぬ・・・。」
雛:「あいとー!あいとー!」
ジ:「ぬぬぬぬ・・・・駄目だ、ビクともしない。」


   他にも輪ゴムを使ったり、スポンジを使ったり、色々な方法を試したけどビンは開かずじまいだった。


真:「頑固な蓋ね・・・。」
蒼:「・・・・。」
   まったくだ・・・。もう、マスターったら、きつく閉め過ぎだよ・・・・。
雛:「蒼星石、元気出すのよ。」
蒼:「え?」
翠:「今蒼星石が一番落ち込んでたですぅ。」
の:「次の方法試しましょう、ねっ?」
蒼:「あ、え、別に、僕は・・・。」
ジ:「次は・・・これ試してみるか。」
   ジュン君の調べたメモによると、蓋の溝に隙間を作って、そこから瓶の中の空気を逃してあげるとすぐ開くらしい。
   その隙間を作るため、ジュン君は瓶の溝にスプーンの先をあて、金槌でコンコンとスプーンを打ち込んでみた。
ジ:「空気出たかな、これ?」
翠:「さぁ・・・わからんです。」
   そしてジュン君は今日もう何度目かの蓋開けに挑戦する。
ジ:「ふぬぬぬぬ・・・・!」
雛:「ふゆゆゆゆ・・・・!」
真:「雛苺、あなたが力んでも意味がないのだわ。」
雛:「ふゆ~・・。」
ジ:「・・・はぁ、この方法も駄目だ。もう諦めるしかないぞ、これ・・。」
翠:「キィイイ! こんの瓶は! 無駄に根性出しやがってです!」
   翠星石が瓶に向かって金槌を振り上げた! 僕は慌てて止めに入る。
蒼:「わぁ、ちょっと翠星石駄目だよ!」
雛:「翠星石、あいとー!あいとー!」
蒼:「何言ってるの!雛苺も止めて!」
真:「ふう、ジュンの言うとおり、ここはもう諦めた方がいいわね。
   さ、だいぶ遅くなってしまったけれど朝食を頂きましょう。」
   そう言って真紅は何も付けてないトーストを口にした。
   ジュン君もトーストに噛り付く。
雛:「うゆ~~~。うー・・もぐもぐ・・・」
   雛苺も。
翠:「でもこのジャムどうするですかぁ?」
の:「マスターさんに開けてもらうしかないわねぇ~。マスターさんが閉めたんだし。」
翠:「まったく、とんだ迷惑アホ人間です。」
   憮然とした表情で翠星石もトーストに噛り付いた。
蒼:「・・・ごめんね・・、みんな。」
翠:「はぁ? なんで蒼星石が謝るですか?」
蒼:「だって僕がこのジャム持ってきたんだし・・。」
の:「別に気にすることないのよ? あたしがご飯を炊き損ねたのが悪いんだし・・・。」
翠:「いいや、真の悪はアホ人間ですぅ! アホ人間がバカ力で蓋を閉めたのが悪いのですぅ!」
蒼:「マスターは悪くないよ。別に悪気があったわけじゃないし・・。」
雛:「うゆ~、蒼星石の作ってくれたジャム食べたかったのに・・・。」
蒼:「・・・。」
   ごめんね、雛苺。
ジ:「でもちょっときつく閉め過ぎだよな。この瓶の蓋。」
蒼:「ジュ、ジュン君・・・。」
真:「ほんと、あの蒼星石のミーディアム、いったどんな力を込めて蓋を閉めたのかしらね。」
   し、真紅・・・!
の:「そうね~、ちょっときつく閉め過ぎよね~。」
   の、のりさんまで・・・!
翠:「一番のアホ人間の問題はですねぇ、蒼星石が困っているのにこの場にいないことですよ。
   まったく、どこほっつき歩いてやがるんだか!」
蒼:「そ、そんな・・・、みんなして酷いよ!マスターは悪くないのに!
   マスターは、マスターはお休みの日なのにお仕事行ってるのに・・・。」
真:「落ち着きなさい、蒼星石。別にあなたのミーディアムを非難してるわけじゃ・・・」
翠:「蒼星石のマスターはダメダメですぅ! はやく目を覚ますですよ蒼星石!」
真:「ちょっと翠星石。」
ジ:「はぁ、たかが瓶の蓋が開かないぐらいで・・・。」
蒼:「う・・う・・・。」
   その時、


   ピンポーン


の:「あら、誰かきたみたい。」
   のりさんはいそいそと玄関に向かった。
翠:「元気出すですぅ、蒼星石。あんなミーディアムなんかさっさと見切りをつけて姉の元に戻ってくるですぅ。」
マ:「なんだと?」
   マスター!?
の:「マスターさん、お仕事早く終わったんですって。」
   のりさんに続いてマスターが姿を現した。
蒼:「マスター!」
   僕はたまらずマスターのほうへ駆け寄った。




マ:「?」
   蒼星石が食卓の席から飛び降り、こちらに駆け寄ってきた。
蒼:「マスター、みんな酷いんだ。みんなマスターのこと・・。」
マ:「みんな?」
   俺は食卓に座る真紅達を見やった。
真:「・・・・。」
翠:「・・・・。」
雛:「・・・・。」
ジ:「・・・・。」
の:「・・・・。」
   何か、みんなそれぞれ複雑な表情を浮かべて俺を見てる。
   俺は蒼星石に視線を戻した。
蒼:「ますたぁ・・。」
   目にうっすらと涙が・・・
   俺は何も言わず蒼星石を抱き上げた。
   蒼星石は俺にギュッとしがみつく。
マ:「なんかあったのか?」
   ジュン君とのりちゃんが顔を逸らした。
   俺は相当険しい顔をしてたに違いない。
真:「あなたは・・この状況を打開できる可能性を秘めた唯一の希望。
   そしてこの状況を作り出した元凶でもあるのだわ・・・。」
マ:「言ってる意味がよくわからんのだが。」
翠:「つべこべ言わずこの瓶の蓋を開けるですぅ!」
   翠星石が俺の傍らまできてイチゴジャムの瓶を差し出した。
   今朝蒼星石が作ったやつだ。
マ:「・・・・。」
   俺は抱っこしてた蒼星石を屈んで床に立たせ、翠星石から瓶を受け取った。
   うーむ。
   未だによくわからんがこの瓶の蓋を開ければいいらしい。
   俺は瓶の蓋を掴んでねじった。

   パカッ

マ:「ほい。」
   蓋を開け、翠星石に渡す。
翠:「・・・・。」
真:「・・・・。」
雛:「・・・・。」
ジ:「・・・・。」
の:「・・・・。」
   みんな唖然とした表情で俺を見てる。いったいなんなんだ?
蒼:「・・・・。」
   蒼星石までもが唖然とした表情でこちらを見てる。
マ:「どしたんだ?」

   ドゴッ

マ:「いっ・・つぅ~~!」
   いきなり翠星石に向こう脛を思いっきり蹴られた。
マ:「なにすんだよ!」
翠:「こうでもしないと翠星石の胸のモヤモヤが収まらないですぅ。」
   そう言って翠星石は食卓へ戻っていった。
雛:「わーい、やっとジャム食べれるの~!」
の:「今塗ってあげるからね~。」
ジ:「やれやれ・・。」
真:「ジュン、塗って頂戴。」
ジ:「それぐらい自分でやれよ。」
マ:「・・・・。」
   誰も今の翠星石の暴挙を咎めるような気配は無かった。
翠:「やい、アホ人間!」
マ:「な、なんだ?」
翠:「蒼星石は、くれぐれも優しく扱うですよ?」
マ:「へ? あ、ああ。」
   なんか、皆もウンウンと頷いている・・・。
蒼:「マスター・・。」
マ:「蒼星石。」
   俺は蒼星石を優しく抱き上げた。


                                    終わり