鞄の中、揺られながら僕たちの旅行が始まる。
こんな風にみんなで出かける事自体も珍しいし、マスターと一緒に遠出、それも泊りがけでというのなんて初めてだ。
暗闇の中、どんな事が待ってるのだろうと胸を膨らませていた。
すると鞄がそっと開けられて、なにやら知らない男の人に見せられた。
ちょっと恥ずかしいがどうやら人形を持っているかの確認が要るらしかった。
マ「あ、運転手さんこんにち・・・わっ!?」
白「おや、その人形?・・・って、あなた・・・」
運転席に座っていたのはラプラスだった。
マ「しーっ、しーっ!!」
白「何やら面白い事をやってるみたいッスね。」
蒼「まさか、今回の旅行も君が一枚噛んでるのかい?」
だとしたら、参加者が6名というのにも意味があるのかもしれない。
・・・もしも持ち寄られる人形というのがすべてローゼンメイデンならば・・・7体揃う。
白「違いますよ、メインのバイト先が臨時休業中で暇なんで他のバイトしてるだけッスよ。」
蒼「とにかく、僕らの事は黙っていてもらうよ。」
もしも狙いがローゼンメイデンを集合させる事なら何の意味もないが。
白「いいですよ。黙ってた方が面白くなりそうですから。」
こいつの言う面白そう・・・ロクでもない事に決まっている。
一抹の不安を覚える中、マスターが座る席を選ぶ。
マ「景色が良い所を通るって言ってたよね。じゃあ窓際の席にしよっか。」
蒼「うん。」
前よりの右側の席、ちょうど運転席の後ろ辺りに座った。
ここならあいつが怪しげな素振りを見せれば間髪入れずに攻撃することも可能だろう、さすがはマスターだ。
他のみんなも乗り込んでくる。やはり不審に感じているようだった。
結局、僕たちの後ろにはみっちゃんさんと金糸雀、その反対側にジュン君とのりちゃん及び真紅たちが座った。
車内にはまだ僕たちの一行しかいなかったので、しばらくマスターとお話ししていた。
しかし楽しいのもつかの間、どうやら誰かが来たようで、外から話し声が聞こえてきた。
マ「どうやら一般の参加者が来たみたいだからしばらくただのお人形さんのふりをしててね。」
蒼「分かった。」
言われた通りに真面目な表情を作ってそのままでいる。
しかし来たのはローゼンメイデンとは無関係の人のようだ。
ひとまずは不安が消えてほっとする。
安心したところでマスターが僕の頭を撫でてくる。
マスターっていじわるだ。
ただの人形のふりをしていろと言ったくせに、こんなことされたら顔が笑ってしまいそうになるじゃないか。
「あの、ここって空いてますか?」
浸っていると眼鏡をかけた長い髪の女性がマスターに声をかける。
ハンドバッグと金髪でロングヘアーの人形を持っていた。
マ「ええ、空いていますよ。」
「そう、じゃあ失礼しますね。」
マ「はい、どうぞ。」
余分な席が無いから仕方がないのだが、隣に知らない女の人が座ったために落ち着かない。
このモヤモヤが人見知りなのか、それとも別の感情なのかはよく分からないが。
そして最後の一人もやって来た。やはり持っていたのはごく普通の人形だった。
僕と同じで短い髪の女の人だった。
彼女はみっちゃんさんの隣に座る。
全員が集まり発車する。
隣の席の女の人がマスターに話しかけた。
「あの、私は梅桃桜花って言います。桜花って呼んでくださいね。あなたは?」
マ「あ、私ですか。青木瑠璃です。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。楽しい旅にしましょうね。」
マ「ええ、そうですね・・・。」
「景色が楽しみよね。でも、私ってド近眼で・・・」
・・・なんだか馴れ馴れしい人だ。
また少しモヤモヤとしてきた気がする。
車が二時間程走った頃の事だった。
後ろの席のみっちゃんさんと山田花子さんは着せ替えの話で盛り上がっていた。
人形に情熱を注ぎ、大切にするのはいい事だと思う。
しかし、あまりにも行き過ぎな事はやめて頂きたい、と話を聞いていてなんとなく思った。
マスターはさっきからおしゃべりなんかせずに窓の外を見ている。
ばれないようにその横顔を下から見上げる。
木々が次第に色づいてきた山々や眼下を流れる川を見ながらも僕の事を気遣ってくれているのが伝わってくる。
言葉を交わす事は出来ないが、それでも十分に幸せだった。
梅「そのお人形さんをすごく大事そうに抱いてますね。とってもお気に入りなのね。」
隣の席の桜花さんがまたマスターに話しかける。
マスターが物思いにふけりつつ景色を見ているんだから配慮してもらいたいものだ。
・・・僕だって我慢しているのに。
マ「あ・・・はい、この子はお気に入りっていうか、自分にとって大事な子で・・・。」
自分がマスターにとって大事な存在だと赤の他人にまで言ってもらえるのがなんだかとても嬉しい。
梅「分かるわ~、私もこの子、エリザベスって言うんだけどね、いつも一緒なの。
・・・でもその子も可愛いわね。ちょっとキスしちゃお。そのお人形さん貸して♪」
マ「だ、駄目ですっ!この子だけは他の人に渡せません。」
梅「あらあら、おでこでいいから。ねっ、ねっ?」
マ「ほ、本当にこの子だけは特別な存在なんです!!」
ぎゅっと抱きしめられ、そのままマスターの体で包み込まれた。
なんだかとても暖かくて満たされる。
梅「ふふふ、そんな涙目になっちゃって、本当に大事なのね。分かったわよ。」
ちゅっ・・・
マ「へ?」
桜花さんがマスターのおでこにキスをした・・・。
梅「あはは、あなたの方は駄目って言われてないわよね♪ちょっとからかっただけよ、あなたって可愛いんだもの。」
マ「は、はは・・・ありがとうございます。」
梅「ごめんなさい。なんかね、あなたと私って気が合いそうって言うか、似てるような気がしちゃって。」
マ「え、そうですか?」
・・・何でこの人はマスターのうわべしか知らないくせにそんな事が言えるのだろうか。
そういう事はもっと付き合いが深くなってから言うべきで・・・
梅「だから・・・もっと親しくなりたいなあって・・・。」
かと言って性急に関係を深めようとするのもいかがなものかと思う。
あくまでも個人的な意見だが。
マ「あ、あはは・・・旅の間はよろしくお願いしますね。」
マスターもよろしくだなんて甘い顔をせずにぴしゃりと言うべきだ。
・・・あくまでも彼女のためを考えてだが。
黒「あのー・・・すみません・・・。ここで30分ほど休憩を取ります。昼食もできればこちらで済ませてください。」
どこかに到着したようで車が止まった。
なんだか分からないけれど、一刻も早くマスターに席を離れて欲しくてたまらなかった。
最終更新:2006年10月25日 04:04